2020年03月18日

第6話「鉄製大砲」⑨

こんばんは。
大隈重信八太郎)は、後に貿易財政で活躍します。そんな「数字に強い大隈は、信保能力を受け継いだのかもしれません。


――佐賀城下の“築地”で、反射炉の建設が進んでいた頃。

鋳造が進めば、大砲の試験の回数も増える。実際に砲弾を扱う部隊も大忙しとなっていた。

砲術の部隊長である大隈信保演習場で作業を仕切る。
倉庫の中身を入れ替えいたすぞ!」

「はっ!」
部下たちが倉庫から荷物を運び出す。

ひと息入れるか…」
信保は、ふと気を抜いた。

――季節は、初夏である。この日は照り付ける陽射しが厳しい。

何気なく、信保日陰に入った。そのとき。

グワァン…グワァン…

一時置きしていた資材が倒れ込んできた。


気づいたときには、強打していた信保
その場に倒れ込んだ。


――大隈さま!しっかりなさいませ!

部下たちが遠く聞こえる。
を開けた大隈信保

「いかん…いかん。まるで一本取られたようじゃな…」
まるで剣術の稽古で負けたような事を言う。

大隈さん!驚かさないでくださいよ!」
ベテランの部下が助け起こす。信保冗談を言う余裕があると見て、苦笑する。

――その日は予定を切り上げ、帰宅した大隈信保。



「いま、戻った。」
信保は、いつものように帰宅を告げる。

「お帰りなさいませ、父上!」
八太郎は、藩校から帰ってきていた。

「少し…疲れているようだ。母上によろしくな。」
信保は、そのまま横になった

そして、二度と目を開けることはなかった。


――佐賀城下・築地に話を戻す。

鋳立方の七人」にも、大隈信保訃報が届いた。

大隈どの…なにゆえだ…」
信保から絶大な評価をされていた、算術家馬場が嘆く。

そして、第一報を聞いた、会計田代うつむいたままだ。
数字”に関わる仕事2人には、信保は数少ない“理解者”だった。

重苦しい空気が“チーム”全体を包む。

リーダー・本島は、振り絞るように言った。
作業を…、進めよう。」


――ほどなく構築中の反射炉では、充分な熱を得られないと判明した。

設計見直しを余儀なくされていた。
まず、高温を出すために、炉の構造など調整が要る。

「いま一度、計算いたす…」
算術家馬場。あまり元気が無いが、再び筆を手にした。



――そして、季節は移ろい、冬となっていた。

刀鍛冶橋本無言で炉を見つめる。

周囲の空気にも高熱が伝播する。真っ赤な銑鉄
「やはり鉄が、溶けきっておらんばい。」

素材の見直しも、手配せねばなりませぬな。」
会計田代は、いつもの冷静さを取り戻していた。

あらためて島根から銑鉄を、肥後(熊本)から良質の木炭を調達する段取りを始めた。

日本初の実用反射炉、何とか「鉄を溶かす」段取りは整い始めた。
しかし、この“プロジェクト”には、さらなる苦難が待ち受けているのである。


(続く)
  


Posted by SR at 21:41 | Comments(0) | 第6話「鉄製大砲」