2020年03月16日
第6話「鉄製大砲」⑦
こんばんは。本日は鍋島直正の嫡子、淳一郎が登場します。
――そわそわする、殿・鍋島直正。
目の前には蘭方医、そして、4歳ぐらいの男の子。
貢姫(みつひめ)の弟で、淳一郎という。
「えすか(怖い)です、おちちうえさま…」
“種痘”とは、“天然痘”の予防接種である。
「淳一郎よ!そなたは、我が後継ぎであるぞ。堂々としておれ。」
直正は“種痘”を受ける、淳一郎に対して「恐れるな」と諭す。
「はい、おちちうえさま。」
若君の淳一郎は、後にイタリア公使となる鍋島直大である。
但し、今は“謎の注射”を怖がる男の子と思ってほしい。
――このワクチンの素は、オランダから長崎を通じて手に入れた。
佐賀の藩医・楢林宗建。入手までの困難に立ち向かった。
「何だ!これは!腐っておったのか…」
もとはウシの“天然痘”の膿から、ワクチン(痘苗)を作る予定だった。しかし、海外から運んでいるうちにダメになってしまう。
「水分があるからいかんのだ…。」
楢林の知恵で、液状の膿ではなく、乾燥した“かさぶた”を取り寄せ、ワクチンを製造したのである。
――その時、日本を救うワクチンは佐賀にあった。いま若君に“種痘”を施す。西洋医学の夜明けである。

「淳一郎よ!先生を信じよ!」
「はい!おちちうえさま!」
鍋島直正、嫡子・淳一郎には、厳しい父親であろうとした。
ただ、心配がまるで隠せていない。
「淳一郎よ!落ち着け。」
むしろ、淳一郎は落ち着いている。担当する藩医・大石良英が直正を諭す。
「殿、お静かに。」
――さて、大砲の話に戻る。佐賀ではドタバタしたが、江戸での直正を見てほしい。
江戸城。直正が強い調子で語っている。
「かねてからのお願いでござる。長崎の台場は、国の存亡に関わる急務でござる。」
話している相手は、老中首座・阿部正弘である。
「肥前守(直正)どの、さすがの見識にござる。」
直正が続ける。
「異国船と相対するには、沖合から守ることが肝要でござる!」
阿部正弘は、そのまま直正の話を聞き続ける。
「恐れ入った。感服いたすばかりじゃ。」
――この阿部正弘。いわゆる“調整型”リーダーである。ほぼ自己主張をしない。
周囲の意見を聴きまくって、その中から“最善手”を選ぶタイプである。
直正の熱弁を聴き続ける、阿部。やや太めで温厚な印象である。
「肥前(直正)どのは、実に頼もしい。」
直正は、ふと不安になった。
「阿部さまは、本当に分かっているのだろうか。」という心の声は封じ込めて、砲台の重要性を説く。
また返事は先延ばしになったが、直正の「佐賀藩の独力でやります!」との宣言は効いていたようだ。ほどなく長崎の沖合にある、伊王島・神ノ島の砲台整備の許可が出たのである。
(続く)
――そわそわする、殿・鍋島直正。
目の前には蘭方医、そして、4歳ぐらいの男の子。
貢姫(みつひめ)の弟で、淳一郎という。
「えすか(怖い)です、おちちうえさま…」
“種痘”とは、“天然痘”の予防接種である。
「淳一郎よ!そなたは、我が後継ぎであるぞ。堂々としておれ。」
直正は“種痘”を受ける、淳一郎に対して「恐れるな」と諭す。
「はい、おちちうえさま。」
若君の淳一郎は、後にイタリア公使となる鍋島直大である。
但し、今は“謎の注射”を怖がる男の子と思ってほしい。
――このワクチンの素は、オランダから長崎を通じて手に入れた。
佐賀の藩医・楢林宗建。入手までの困難に立ち向かった。
「何だ!これは!腐っておったのか…」
もとはウシの“天然痘”の膿から、ワクチン(痘苗)を作る予定だった。しかし、海外から運んでいるうちにダメになってしまう。
「水分があるからいかんのだ…。」
楢林の知恵で、液状の膿ではなく、乾燥した“かさぶた”を取り寄せ、ワクチンを製造したのである。
――その時、日本を救うワクチンは佐賀にあった。いま若君に“種痘”を施す。西洋医学の夜明けである。

「淳一郎よ!先生を信じよ!」
「はい!おちちうえさま!」
鍋島直正、嫡子・淳一郎には、厳しい父親であろうとした。
ただ、心配がまるで隠せていない。
「淳一郎よ!落ち着け。」
むしろ、淳一郎は落ち着いている。担当する藩医・大石良英が直正を諭す。
「殿、お静かに。」
――さて、大砲の話に戻る。佐賀ではドタバタしたが、江戸での直正を見てほしい。
江戸城。直正が強い調子で語っている。
「かねてからのお願いでござる。長崎の台場は、国の存亡に関わる急務でござる。」
話している相手は、老中首座・阿部正弘である。
「肥前守(直正)どの、さすがの見識にござる。」
直正が続ける。
「異国船と相対するには、沖合から守ることが肝要でござる!」
阿部正弘は、そのまま直正の話を聞き続ける。
「恐れ入った。感服いたすばかりじゃ。」
――この阿部正弘。いわゆる“調整型”リーダーである。ほぼ自己主張をしない。
周囲の意見を聴きまくって、その中から“最善手”を選ぶタイプである。
直正の熱弁を聴き続ける、阿部。やや太めで温厚な印象である。
「肥前(直正)どのは、実に頼もしい。」
直正は、ふと不安になった。
「阿部さまは、本当に分かっているのだろうか。」という心の声は封じ込めて、砲台の重要性を説く。
また返事は先延ばしになったが、直正の「佐賀藩の独力でやります!」との宣言は効いていたようだ。ほどなく長崎の沖合にある、伊王島・神ノ島の砲台整備の許可が出たのである。
(続く)