2020年01月15日
第1話「長崎警護」(予告)
こんばんは。
幕末佐賀藩の大河ドラマが見たいあまり、ドラマのシナリオのような投稿を試みることにしました。(※史実に着想を得たフィクションです。)
1.タイトル
第1話「長崎警護」
2.設定
年代:1808年~
主な舞台:長崎
登場七賢人:鍋島直正
◎タイムテーブル:第1回は、75分で放送
…というイメージ(妄想)です。
(~5分)
①長崎近海。イギリス船“フェートン号”の航行
(10分)
②佐賀城下。上役(家老)と若侍
(20分)
③長崎に“フェートン号”が入港
(25分)
④不意をつかれた長崎奉行所
(35分)
⑤“超エリート”長崎奉行の奮闘
(40分)
⑥混乱する佐賀城下。長崎の事件は決着へ
(60分~)
⑦若君は、江戸の藩邸に
3.主要登場人物
〔佐賀藩〕
鍋島斉直…第9代佐賀藩主(直正の父)
幸姫…鳥取藩主の娘(直正の母)
鍋島直正(貞丸)…斉直の第17男※子役
古賀穀堂…佐賀藩の儒学者
〔長崎奉行所〕
松平康英…幕府の長崎奉行
〔肥前大村藩〕
大村純昌…肥前大村藩主
〔その他の主なキャスト(参考)〕
テッド…“フェートン号”乗組員。体格の良い男。
グレッグ…同じく乗組員。細身の男。
佐賀藩士(上役)…佐賀藩の家老の1人。
佐賀藩士(若侍)…蘭学に詳しい若い藩士。
長崎奉行所・役人…入港手続きのため“フェートン号”に近づく。
長崎奉行所・通詞…オランダ語の通訳。英語はわからない。
オランダ商館員A…入港手続きに同行。最初に異変に気付く。
オランダ商館員B…商館員Aとともに事件に巻き込まれる。
オランダ商館員C…対岸におり無事。英語が少しわかる。
④プロローグ
当時、幕府による鎖国体制が完成してから150年以上が経過。
西洋との接点は長崎でオランダと行う交易に限定されていた。
日本の表玄関だった長崎の警備は近隣の有力大名である福岡藩(黒田家)と佐賀藩(鍋島家)が1年交代で担当していた。
時代は19世紀初め、フランスのナポレオンがオランダを征服する。
対抗するイギリスはオランダの植民地を奪うため、東洋にも軍船を展開。オランダ船を求める“フェートン号”は長崎に近づいていた。
――時は、1808年。
その年、長崎の警備は佐賀藩(鍋島家)が担当していた。
幕末佐賀藩の大河ドラマが見たいあまり、ドラマのシナリオのような投稿を試みることにしました。(※史実に着想を得たフィクションです。)
1.タイトル
第1話「長崎警護」
2.設定
年代:1808年~
主な舞台:長崎
登場七賢人:鍋島直正
◎タイムテーブル:第1回は、75分で放送
…というイメージ(妄想)です。
(~5分)
①長崎近海。イギリス船“フェートン号”の航行
(10分)
②佐賀城下。上役(家老)と若侍
(20分)
③長崎に“フェートン号”が入港
(25分)
④不意をつかれた長崎奉行所
(35分)
⑤“超エリート”長崎奉行の奮闘
(40分)
⑥混乱する佐賀城下。長崎の事件は決着へ
(60分~)
⑦若君は、江戸の藩邸に
3.主要登場人物
〔佐賀藩〕
鍋島斉直…第9代佐賀藩主(直正の父)
幸姫…鳥取藩主の娘(直正の母)
鍋島直正(貞丸)…斉直の第17男※子役
古賀穀堂…佐賀藩の儒学者
〔長崎奉行所〕
松平康英…幕府の長崎奉行
〔肥前大村藩〕
大村純昌…肥前大村藩主
〔その他の主なキャスト(参考)〕
テッド…“フェートン号”乗組員。体格の良い男。
グレッグ…同じく乗組員。細身の男。
佐賀藩士(上役)…佐賀藩の家老の1人。
佐賀藩士(若侍)…蘭学に詳しい若い藩士。
長崎奉行所・役人…入港手続きのため“フェートン号”に近づく。
長崎奉行所・通詞…オランダ語の通訳。英語はわからない。
オランダ商館員A…入港手続きに同行。最初に異変に気付く。
オランダ商館員B…商館員Aとともに事件に巻き込まれる。
オランダ商館員C…対岸におり無事。英語が少しわかる。
④プロローグ
当時、幕府による鎖国体制が完成してから150年以上が経過。
西洋との接点は長崎でオランダと行う交易に限定されていた。
日本の表玄関だった長崎の警備は近隣の有力大名である福岡藩(黒田家)と佐賀藩(鍋島家)が1年交代で担当していた。
時代は19世紀初め、フランスのナポレオンがオランダを征服する。
対抗するイギリスはオランダの植民地を奪うため、東洋にも軍船を展開。オランダ船を求める“フェートン号”は長崎に近づいていた。
――時は、1808年。
その年、長崎の警備は佐賀藩(鍋島家)が担当していた。
2020年01月16日
第1話「長崎警護」①
こんばんは。
昨日の予告どおり、本編を始めてみます。
第1回は75分のイメージなので長い(投稿回数が多い)です。
異論は多々あると思いますが、「幕末佐賀藩の大河ドラマ」はこんな始まり方が良いのでは…と思っています。
※当時の時代背景を意識していますので、不適切な表現を使用している可能性があります。ご了承のうえ、ご覧ください。
①“フェートン号”の航行
――1808年、日本近海
1隻の軍船が東に向かって航行していた。
――長崎の沖合である

軍船の甲板には男が2人。休憩中の船員の様子である。
ガタイの良い男、テッドが壁に寄りかかっている船員に声をかける。
「よぉ、グレッグ。ヒマしてるのか。」
「ヒマもなにも、グッタリしてんだよ。水もろくに飲めねぇんじゃ、干上がっちまう。」
強いくせ毛が特徴的。やや細身の船員がグレッグである。
「聞いたか、このたび俺たちはオランダ人になるらしいぞ。」
「テッドよぉ。水が足らねぇからって、イカれちまったか。なんでオランダ野郎になるんだよ。」
グレッグは相当、のどが渇いている様子だ。面倒くさそうに答える。
「いいか、グレッグ。この先に“ナガサキ”という港がある。」
「あぁ“ナガサキ”ね。お付き合いのない国の港だろ。」
「だから、オランダ人になるんだよ。」
「!」
「港に入るまで…だけどな。」
「あぁ、理解した。今後は、水も食料もあるってことか。」
2人の乗る船は、イギリスの軍船「フェートン号」という。
当時のフリゲート艦であるが、この時代はまだ帆船である。
しかし、射程の長い大砲を40門近くも備え、攻撃力の強い艦船だった。
乗組員には、長崎で行われる作戦の詳細が伝達された。
(続く)
昨日の予告どおり、本編を始めてみます。
第1回は75分のイメージなので長い(投稿回数が多い)です。
異論は多々あると思いますが、「幕末佐賀藩の大河ドラマ」はこんな始まり方が良いのでは…と思っています。
※当時の時代背景を意識していますので、不適切な表現を使用している可能性があります。ご了承のうえ、ご覧ください。
①“フェートン号”の航行
――1808年、日本近海
1隻の軍船が東に向かって航行していた。
――長崎の沖合である

軍船の甲板には男が2人。休憩中の船員の様子である。
ガタイの良い男、テッドが壁に寄りかかっている船員に声をかける。
「よぉ、グレッグ。ヒマしてるのか。」
「ヒマもなにも、グッタリしてんだよ。水もろくに飲めねぇんじゃ、干上がっちまう。」
強いくせ毛が特徴的。やや細身の船員がグレッグである。
「聞いたか、このたび俺たちはオランダ人になるらしいぞ。」
「テッドよぉ。水が足らねぇからって、イカれちまったか。なんでオランダ野郎になるんだよ。」
グレッグは相当、のどが渇いている様子だ。面倒くさそうに答える。
「いいか、グレッグ。この先に“ナガサキ”という港がある。」
「あぁ“ナガサキ”ね。お付き合いのない国の港だろ。」
「だから、オランダ人になるんだよ。」
「!」
「港に入るまで…だけどな。」
「あぁ、理解した。今後は、水も食料もあるってことか。」
2人の乗る船は、イギリスの軍船「フェートン号」という。
当時のフリゲート艦であるが、この時代はまだ帆船である。
しかし、射程の長い大砲を40門近くも備え、攻撃力の強い艦船だった。
乗組員には、長崎で行われる作戦の詳細が伝達された。
(続く)
2020年01月17日
第1話「長崎警護」②
こんばんは。
昨日の続き、第1話放送開始から10分経過のイメージ。
第二幕です。
②佐賀城下。上役と若侍
――同じ日の夕刻。佐賀城下。

2人の侍が碁盤を挟んで、向き合う。
年配の上級武士と、若侍である。
「長崎のオランダ船も今年は終わりですね。ごゆっくりなさっていたところですか。」
「儂も野暮用は多いのだ。暇ではないぞ。」
…なぜ、暇でもないのに囲碁の相手に呼び寄せたのだ。若侍は不思議に思った。
「やはり長崎には戻らないのですか。公儀(幕府)の目が気になります。」
「気にはなるぞ。兵は置いておきたいが、家中の懐事情も厳しいのだ。」
「しかし、このまま安穏と日々を過ごしておるのも、いかがなものかと。」
「儂も忙しいのだ。実はな、お主の縁談の相手も探しておる。」
「まことですか!」
「良い娘を探しておくから、期待して待っておれ!」
「ありがとうございます!良い上役を持って、私めは果報者です!」
「…調子のよい奴め。お役目の果たし方は一様ではない。来るべき日に向けて、得意の蘭学でも磨いておけ。」
日本の表玄関である長崎で、警備の任務を行うための財政負担は重い。
隣の福岡藩(黒田家)と1年交代ではあるものの、規定どおりに警備兵を配置すれば、千人もの駐留経費がかかる。
当時、佐賀藩ではオランダ船の入港時期が終わると、長崎を警備する人数を大幅に減らしていた。
わずかな留守番を残して、大半の者を佐賀に帰すのが藩の方針だった。
…良く言えば、経費の節減を図っていた。
…悪く言えば、太平の世に浸っていたのである。
(続く)
昨日の続き、第1話放送開始から10分経過のイメージ。
第二幕です。
②佐賀城下。上役と若侍
――同じ日の夕刻。佐賀城下。

2人の侍が碁盤を挟んで、向き合う。
年配の上級武士と、若侍である。
「長崎のオランダ船も今年は終わりですね。ごゆっくりなさっていたところですか。」
「儂も野暮用は多いのだ。暇ではないぞ。」
…なぜ、暇でもないのに囲碁の相手に呼び寄せたのだ。若侍は不思議に思った。
「やはり長崎には戻らないのですか。公儀(幕府)の目が気になります。」
「気にはなるぞ。兵は置いておきたいが、家中の懐事情も厳しいのだ。」
「しかし、このまま安穏と日々を過ごしておるのも、いかがなものかと。」
「儂も忙しいのだ。実はな、お主の縁談の相手も探しておる。」
「まことですか!」
「良い娘を探しておくから、期待して待っておれ!」
「ありがとうございます!良い上役を持って、私めは果報者です!」
「…調子のよい奴め。お役目の果たし方は一様ではない。来るべき日に向けて、得意の蘭学でも磨いておけ。」
日本の表玄関である長崎で、警備の任務を行うための財政負担は重い。
隣の福岡藩(黒田家)と1年交代ではあるものの、規定どおりに警備兵を配置すれば、千人もの駐留経費がかかる。
当時、佐賀藩ではオランダ船の入港時期が終わると、長崎を警備する人数を大幅に減らしていた。
わずかな留守番を残して、大半の者を佐賀に帰すのが藩の方針だった。
…良く言えば、経費の節減を図っていた。
…悪く言えば、太平の世に浸っていたのである。
(続く)
2020年01月18日
第1話「長崎警護」③
こんにちは。
今週末は新大河ドラマの放送開始。特集番組も多数あるので、チェックしておこうと思っています。
昨日の続き。放送開始後、20分経過のイメージです。
③長崎に“フェートン号”現る
――翌日、長崎では季節外れの入港があった。

「あれっ、オランダ船の来航か。この時期には珍しい。」
見張りの当番が、船の帆影を見つけた。
オランダ国旗を掲げた軍船が近づいてくる。
「来航の受け入れを準備せよ。」
入港手続きの指示が廻り、長崎奉行所は小舟を出した。
通例どおりオランダ商館員2名も同乗している。
――軍船からもボートが出る。
奉行所の役人たちと商館員2名は軍船の出したボートに乗り込んだ。
「季節外れの入港であるな。」
「オカシイ…お役人!気をツケテ!」
先に異変に気付いたのは、オランダ商館員だった。
――しかし、時すでに遅し。
俊敏な動きでグレッグが商館員の横に付けていた。
手には拳銃が握られ、商館員に銃口を突きつけている。
その間にテッドが、もう1人の商館員を後ろから抱え込んでいた。
「おっと、止まれ。お前らはそこまでだ。」
そのまま奉行所の役人に対して、手で“向こうに行け!”と示した。
作戦どおりオランダ商館員2名の確保を完了した“フェートン号”乗組員たち。
奉行所の小舟に対して、一斉に銃撃の構えを取る。
「何事だ!」
奉行所の役人や通詞(通訳)たちが、顔を見合わせる。
一瞬でオランダ商館員2名が人質に取られてしまった。
「まず離れろ、離れないとこいつを撃つぞ!」
グレッグに銃口を向けられた、オランダ商館員の顔は青ざめている。
「…いっ、一旦、引くぞ!」
奉行所の役人も顔面蒼白である。
言葉はよくわからなかったが、引かねば人質の商館員と自分たちの身も危うい。
ひとまずは大慌てで距離を取るしかなかった。
(続く)
今週末は新大河ドラマの放送開始。特集番組も多数あるので、チェックしておこうと思っています。
昨日の続き。放送開始後、20分経過のイメージです。
③長崎に“フェートン号”現る
――翌日、長崎では季節外れの入港があった。

「あれっ、オランダ船の来航か。この時期には珍しい。」
見張りの当番が、船の帆影を見つけた。
オランダ国旗を掲げた軍船が近づいてくる。
「来航の受け入れを準備せよ。」
入港手続きの指示が廻り、長崎奉行所は小舟を出した。
通例どおりオランダ商館員2名も同乗している。
――軍船からもボートが出る。
奉行所の役人たちと商館員2名は軍船の出したボートに乗り込んだ。
「季節外れの入港であるな。」
「オカシイ…お役人!気をツケテ!」
先に異変に気付いたのは、オランダ商館員だった。
――しかし、時すでに遅し。
俊敏な動きでグレッグが商館員の横に付けていた。
手には拳銃が握られ、商館員に銃口を突きつけている。
その間にテッドが、もう1人の商館員を後ろから抱え込んでいた。
「おっと、止まれ。お前らはそこまでだ。」
そのまま奉行所の役人に対して、手で“向こうに行け!”と示した。
作戦どおりオランダ商館員2名の確保を完了した“フェートン号”乗組員たち。
奉行所の小舟に対して、一斉に銃撃の構えを取る。
「何事だ!」
奉行所の役人や通詞(通訳)たちが、顔を見合わせる。
一瞬でオランダ商館員2名が人質に取られてしまった。
「まず離れろ、離れないとこいつを撃つぞ!」
グレッグに銃口を向けられた、オランダ商館員の顔は青ざめている。
「…いっ、一旦、引くぞ!」
奉行所の役人も顔面蒼白である。
言葉はよくわからなかったが、引かねば人質の商館員と自分たちの身も危うい。
ひとまずは大慌てで距離を取るしかなかった。
(続く)
2020年01月19日
第1話「長崎警護」④
おはようございます。
今週末は、大河ドラマの特集番組をチェックしています。
新番組「麒麟(きりん)がくる」。期待して良いのでは、と思いました。
岐阜県も京都府(特に福知山市)も盛り上がっているみたいですね。
さて、近いうちに大河ドラマの放送に沸く佐賀県が見られるかも…と想いながら続けます。幕末佐賀藩の大河ドラマは、長崎県民の皆様にも、きっと喜んでもらえる内容になると思います。
では、昨日の続きです。放送開始から25分ぐらい経過したイメージです。
④不意をつかれた長崎奉行所
――奉行所の小舟は、軍船から出たボートを刺激しないよう距離を取る。
そのとき、軍船の艦上に掲げられたオランダ国旗が下がっていく。
「一体、どうなっておるのだ…」
奉行所の役人たちも、そのまま軍船の艦上を呆然と見つめていた。

すると、今度は悠然とイギリス国旗が上がっていくのである。
「しまった!謀られていたのか!」
役人も通詞たちもようやく事情を理解した。
――小舟からボートまで二十間(約36メートル)の距離。
「まず水持って来い!飲み水を出せ!って言ってんだよ!」
沈黙にしびれを切らしたグレッグがボートから大声を出す。
「静かにしろ、グレッグ!我々の要求は水だけではない!」
いつの間にか手前に出てきた上官が声を張る。
さしものイギリス海軍も長旅で疲弊している。
軍隊としての統制は取れているが、かなり荒れている印象だ。
「そうだ!食料だ!肉をよこせ!」
「テッド!お前もいいかげんにしろ!要求はまとめて行う!」
また上官が怒鳴る。
「作戦どおりに行動しろ!まず人質を連れて、艦まで戻るぞ!」
そして、ボートは正体を現したイギリスの軍船“フェートン号”に向けて引き返していった。
――岸辺に戻り、さらに遠巻きに対峙する長崎奉行所の役人と通詞たち。
奉行所のオランダ通詞が困惑する。
「あれはエゲレス(イギリス)の言葉か…!さっぱり内容がわからぬ。」
そして、同僚を人質に取られたオランダ商館員が傍らに来ていた。
「飲み水がイルゾ!と叫ンダヨウデス。」
「おお、そなたエゲレスの言葉もわかるのか」
「スコシデスガ、話セマス…ソレヨリ仲間ガ心配デス」
「そうだな。とにかく水が要るぞ!お奉行にお伝えせよ!」
役人は長崎奉行のもとに伝令を走らせた。
(続く)
今週末は、大河ドラマの特集番組をチェックしています。
新番組「麒麟(きりん)がくる」。期待して良いのでは、と思いました。
岐阜県も京都府(特に福知山市)も盛り上がっているみたいですね。
さて、近いうちに大河ドラマの放送に沸く佐賀県が見られるかも…と想いながら続けます。幕末佐賀藩の大河ドラマは、長崎県民の皆様にも、きっと喜んでもらえる内容になると思います。
では、昨日の続きです。放送開始から25分ぐらい経過したイメージです。
④不意をつかれた長崎奉行所
――奉行所の小舟は、軍船から出たボートを刺激しないよう距離を取る。
そのとき、軍船の艦上に掲げられたオランダ国旗が下がっていく。
「一体、どうなっておるのだ…」
奉行所の役人たちも、そのまま軍船の艦上を呆然と見つめていた。

すると、今度は悠然とイギリス国旗が上がっていくのである。
「しまった!謀られていたのか!」
役人も通詞たちもようやく事情を理解した。
――小舟からボートまで二十間(約36メートル)の距離。
「まず水持って来い!飲み水を出せ!って言ってんだよ!」
沈黙にしびれを切らしたグレッグがボートから大声を出す。
「静かにしろ、グレッグ!我々の要求は水だけではない!」
いつの間にか手前に出てきた上官が声を張る。
さしものイギリス海軍も長旅で疲弊している。
軍隊としての統制は取れているが、かなり荒れている印象だ。
「そうだ!食料だ!肉をよこせ!」
「テッド!お前もいいかげんにしろ!要求はまとめて行う!」
また上官が怒鳴る。
「作戦どおりに行動しろ!まず人質を連れて、艦まで戻るぞ!」
そして、ボートは正体を現したイギリスの軍船“フェートン号”に向けて引き返していった。
――岸辺に戻り、さらに遠巻きに対峙する長崎奉行所の役人と通詞たち。
奉行所のオランダ通詞が困惑する。
「あれはエゲレス(イギリス)の言葉か…!さっぱり内容がわからぬ。」
そして、同僚を人質に取られたオランダ商館員が傍らに来ていた。
「飲み水がイルゾ!と叫ンダヨウデス。」
「おお、そなたエゲレスの言葉もわかるのか」
「スコシデスガ、話セマス…ソレヨリ仲間ガ心配デス」
「そうだな。とにかく水が要るぞ!お奉行にお伝えせよ!」
役人は長崎奉行のもとに伝令を走らせた。
(続く)
2020年01月20日
第1話「長崎警護」⑤
こんばんは。
大河ドラマ「麒麟がくる」第1話…視聴した方も多かったのではないでしょうか。
月並みですが、長谷川博己の明智光秀がカッコ良かったです!
では、昨日の続きです。放送開始から35分経過のイメージです。
⑤幕府の“超エリート”長崎奉行の奮闘
長崎奉行・松平康英には、既に緊急事態の第一報が届いていた。
――奉行のもとに、先ほどの伝令が駆け込む。
「船員たちは、飲み水を要求しております!」
“遠眼鏡”でイギリス船の様子を伺う、松平康英。
長崎奉行は、いわば江戸幕府の西国支配の責任者である。
「武装の差は歴然だが、敵にもさほどの余裕は無い様子か。」
「はっ、お奉行様。船員はかなり荒れております。衝突の恐れはあるかと…」
「伝令、ご苦労であった。引き続き監視を続けよ。」
奉行は、振りむきざまに部下に伝達する。
「まず、1日分の飲み水を用意せよ。但し、簡単に渡してはならん。」
「はっ!」
続けて補足する。
「つまりは時間を稼ぐのだ。あの船を足止めし、長崎から出してはならんぞ。」
矢継ぎ早に、他の部下にも指示を出す。
「警備の鍋島兵に支度を急がせよ。次第によっては、一戦交えねばならぬ。」
そのとき、別の伝令が駆け込んで来る。
「申し上げます!肥前佐賀、鍋島家。百名足らずの兵しかおりません!」
「なんだと…」
奉行・松平康英は、冷静で頭の回転も早い。しかし、あまりの事態に次の言葉が出ない。
本来ならば、千人ほどの兵力を置いているはずの佐賀藩。
「残りは、どこに待機しておるのだ!」
「国元の佐賀に帰っているようです!」
「佐賀だと…?鍋島は何を考えておるのだ!!」

――それでも長崎奉行は奮闘する。その動きは迅速だった。
「気を引き締めろ。人質もおるのだ。もはや一刻の猶予もないぞ。」
すぐさま心を整えると、鋭い眼光で言い放つ。
海外への表玄関、西洋との唯一の窓口を任されているのだ。
長崎奉行は、凡庸な人物に務まる仕事ではない。
松平康英も“超エリート”の名に恥じない胆力と責任感の持ち主だった。
「ただちに佐賀を呼び戻せ!」
「今年は非番だが、福岡・黒田家も招集せよ!」
「薩摩、熊本、久留米、大村にも、手分けして連絡を取れ!」
奉行は、配下の役人1人ずつと目を合わせ、各藩への指示を伝えた。
「はっ!」
「御意!」
「心得ました!」
「大村には、私が向かいます!」
奉行所の役人たちは、それぞれ持ち場に向かっていった。
「無法な異国船を長崎から無事に出してはならん。生け捕りが望ましいが、焼き討ちもやむを得ん。」
残った部下たちには、今後の方針を共有した。
「これは既に戦である。この国の威信がかかっておるのだ。」
(続く)
大河ドラマ「麒麟がくる」第1話…視聴した方も多かったのではないでしょうか。
月並みですが、長谷川博己の明智光秀がカッコ良かったです!
では、昨日の続きです。放送開始から35分経過のイメージです。
⑤幕府の“超エリート”長崎奉行の奮闘
長崎奉行・松平康英には、既に緊急事態の第一報が届いていた。
――奉行のもとに、先ほどの伝令が駆け込む。
「船員たちは、飲み水を要求しております!」
“遠眼鏡”でイギリス船の様子を伺う、松平康英。
長崎奉行は、いわば江戸幕府の西国支配の責任者である。
「武装の差は歴然だが、敵にもさほどの余裕は無い様子か。」
「はっ、お奉行様。船員はかなり荒れております。衝突の恐れはあるかと…」
「伝令、ご苦労であった。引き続き監視を続けよ。」
奉行は、振りむきざまに部下に伝達する。
「まず、1日分の飲み水を用意せよ。但し、簡単に渡してはならん。」
「はっ!」
続けて補足する。
「つまりは時間を稼ぐのだ。あの船を足止めし、長崎から出してはならんぞ。」
矢継ぎ早に、他の部下にも指示を出す。
「警備の鍋島兵に支度を急がせよ。次第によっては、一戦交えねばならぬ。」
そのとき、別の伝令が駆け込んで来る。
「申し上げます!肥前佐賀、鍋島家。百名足らずの兵しかおりません!」
「なんだと…」
奉行・松平康英は、冷静で頭の回転も早い。しかし、あまりの事態に次の言葉が出ない。
本来ならば、千人ほどの兵力を置いているはずの佐賀藩。
「残りは、どこに待機しておるのだ!」
「国元の佐賀に帰っているようです!」
「佐賀だと…?鍋島は何を考えておるのだ!!」

――それでも長崎奉行は奮闘する。その動きは迅速だった。
「気を引き締めろ。人質もおるのだ。もはや一刻の猶予もないぞ。」
すぐさま心を整えると、鋭い眼光で言い放つ。
海外への表玄関、西洋との唯一の窓口を任されているのだ。
長崎奉行は、凡庸な人物に務まる仕事ではない。
松平康英も“超エリート”の名に恥じない胆力と責任感の持ち主だった。
「ただちに佐賀を呼び戻せ!」
「今年は非番だが、福岡・黒田家も招集せよ!」
「薩摩、熊本、久留米、大村にも、手分けして連絡を取れ!」
奉行は、配下の役人1人ずつと目を合わせ、各藩への指示を伝えた。
「はっ!」
「御意!」
「心得ました!」
「大村には、私が向かいます!」
奉行所の役人たちは、それぞれ持ち場に向かっていった。
「無法な異国船を長崎から無事に出してはならん。生け捕りが望ましいが、焼き討ちもやむを得ん。」
残った部下たちには、今後の方針を共有した。
「これは既に戦である。この国の威信がかかっておるのだ。」
(続く)
2020年01月21日
第1話「長崎警護」⑥-1
こんばんは。
“佐賀の七賢人”では最年長の鍋島直正が誕生する6年前。
1808年のエピソードを続けています。
初回は75分で放送のイメージ。今までで40分ほど経過したとお考えください。
場面の転換が多いため、その⑥は分割してお送りします。
⑥混乱する佐賀城下。長崎の事件は決着へ
――その頃、佐賀城下にも長崎の異変が伝わっていた。
――ゴンゴン!ガタガタ!!
あちこちで非常事態と出動命令の鐘が、響き渡る。
城下を走り回る侍たち。
――カンカンカンカン!ゴンゴンゴン!
土煙が舞い、砂ぼこりが立つ。
大音声は街全体に反響し、町衆たちも眉をひそめている。
――ある武家屋敷でも走る侍たちが…

ドシン!
…若侍が、走り込んできた同僚と出合い頭に激突する。
「痛たた…何だ、お前か。曲がり角は注意しろ!そうじゃ、ご家老がどこにいったか知らぬか!?」
「私も2日前に囲碁のお相手をしたきり、お会いしてない!」
「それで、どこに居られる?心当たりはないか!」
「私もご家老を探しに来たのだ…まだ長崎に向かったとは聞いていない。佐賀に居られると思う!」
――長崎。事件から1日が経過していた。
いずれかの藩が到着するまで、時間稼ぎを続ける奉行所。
「兵力が整わねば、まともな交渉もできぬ…」
長崎奉行・松平康英は、オランダ商館長に対して商館員2名の救出を約束していた。
しかし手持ち戦力の無い状況では、相手を牽制することも難しい。
――その頃、長崎湾内では
イギリス国旗を掲げた“フェートン号”は武装ボートを出し、我が物顔で偵察をしていた。しかし、こちらも内心は焦っていた。
「この国の連中は、要求に応じないというのか!もしや…我々と戦えるとでも?」
フェートン号の艦長も苛立っていた。
艦長の意を受け、上官が乗組員テッドに指示を出した。
「オランダの奴を1人引っ張って来い。取引の材料にする!」
フェートン号はオランダ商館員1名を解放した。
人質1名と引き換えに、まずは飲料水を確保したのである。
――さらに艦長の指示で“フェートン号”は、長崎奉行所を恫喝した。
奉行所に伝達された内容は、概ねこのように挑発的だった。
「飲料水をもっと出せ!充分な食料!肉も必要だ!もし応じなければ、港の船どもを焼き払う!」
冷静な長崎奉行・松平康英もこれには激昂した。
「何たる屈辱!佐賀の…鍋島の兵力さえあれば、数では圧倒できたものを…」
怒りに震える奉行を部下たちは不安げに見つめた。
「商館員の無事の帰還が第一」
オランダ商館長との約束がある。
長崎港内には、多数の和船や唐船もあり、長崎奉行所はそれらも守らねばならなかった。
フェートン号の要求には、応じるほかなかった。
他に手立てもなく、奉行所は飲料水、食料を用意した。
肉については、オランダ商館から家畜を提供してもらった。
本来ならば、無法な異国船の要求を蹴りたかった長崎奉行。
オランダ商館長との約束、長崎港内の船の安全のため、苦渋の決断で要求に応じた。
結果、2人目の商館員も無事に解放された。
(続く)
“佐賀の七賢人”では最年長の鍋島直正が誕生する6年前。
1808年のエピソードを続けています。
初回は75分で放送のイメージ。今までで40分ほど経過したとお考えください。
場面の転換が多いため、その⑥は分割してお送りします。
⑥混乱する佐賀城下。長崎の事件は決着へ
――その頃、佐賀城下にも長崎の異変が伝わっていた。
――ゴンゴン!ガタガタ!!
あちこちで非常事態と出動命令の鐘が、響き渡る。
城下を走り回る侍たち。
――カンカンカンカン!ゴンゴンゴン!
土煙が舞い、砂ぼこりが立つ。
大音声は街全体に反響し、町衆たちも眉をひそめている。
――ある武家屋敷でも走る侍たちが…

ドシン!
…若侍が、走り込んできた同僚と出合い頭に激突する。
「痛たた…何だ、お前か。曲がり角は注意しろ!そうじゃ、ご家老がどこにいったか知らぬか!?」
「私も2日前に囲碁のお相手をしたきり、お会いしてない!」
「それで、どこに居られる?心当たりはないか!」
「私もご家老を探しに来たのだ…まだ長崎に向かったとは聞いていない。佐賀に居られると思う!」
――長崎。事件から1日が経過していた。
いずれかの藩が到着するまで、時間稼ぎを続ける奉行所。
「兵力が整わねば、まともな交渉もできぬ…」
長崎奉行・松平康英は、オランダ商館長に対して商館員2名の救出を約束していた。
しかし手持ち戦力の無い状況では、相手を牽制することも難しい。
――その頃、長崎湾内では
イギリス国旗を掲げた“フェートン号”は武装ボートを出し、我が物顔で偵察をしていた。しかし、こちらも内心は焦っていた。
「この国の連中は、要求に応じないというのか!もしや…我々と戦えるとでも?」
フェートン号の艦長も苛立っていた。
艦長の意を受け、上官が乗組員テッドに指示を出した。
「オランダの奴を1人引っ張って来い。取引の材料にする!」
フェートン号はオランダ商館員1名を解放した。
人質1名と引き換えに、まずは飲料水を確保したのである。
――さらに艦長の指示で“フェートン号”は、長崎奉行所を恫喝した。
奉行所に伝達された内容は、概ねこのように挑発的だった。
「飲料水をもっと出せ!充分な食料!肉も必要だ!もし応じなければ、港の船どもを焼き払う!」
冷静な長崎奉行・松平康英もこれには激昂した。
「何たる屈辱!佐賀の…鍋島の兵力さえあれば、数では圧倒できたものを…」
怒りに震える奉行を部下たちは不安げに見つめた。
「商館員の無事の帰還が第一」
オランダ商館長との約束がある。
長崎港内には、多数の和船や唐船もあり、長崎奉行所はそれらも守らねばならなかった。
フェートン号の要求には、応じるほかなかった。
他に手立てもなく、奉行所は飲料水、食料を用意した。
肉については、オランダ商館から家畜を提供してもらった。
本来ならば、無法な異国船の要求を蹴りたかった長崎奉行。
オランダ商館長との約束、長崎港内の船の安全のため、苦渋の決断で要求に応じた。
結果、2人目の商館員も無事に解放された。
(続く)
2020年01月23日
第1話「長崎警護」⑥-2
こんばんは。
前回の続きです。75分の放送中、45分を回ったイメージです。
――翌朝の未明。

長崎奉行所に、待望の戦力が到着する。
「開門を願う!大村純昌、ただいま参陣した!」
まだ夜も明けきらぬうちに、肥前大村藩が長崎に到着した。
武装した大村藩兵が奉行所の近くに待機していた。
「おおっ!大村どのか!」
長崎奉行・松平康英、待ち望んだ戦力の到着に喜びを隠せない。
「遅くなり申した!」
肥前大村藩の若き藩主、大村純昌が応える。精悍な顔つきである。
大村藩の居城・玖島城は現在の長崎県大村市にある。
船が直接出入りのできる、いわゆる“海城”が本拠地なのである。
――奉行の喜びはそのまま、大村藩への期待でもあった。
若き大村藩主は、よく通る声でこう言った。
「異国船を焼き討つ支度をしております。」
「大村どの!我が意を得たり!」
…松平康英は、大村藩の手回しの良さに感銘を受けた。
「伝令のお役人から、詳しくお聞きしましたゆえ。」
…奉行所の組織も、非常時に適応しつつある。康英は潮目が変わったと判断する。
「不埒な異国船を討つぞ。もはや人質はおらん。不意を突いて近づけば勝機はある。」
「心得ました。大村にも小舟の扱いに長けた者がおります。」
――着々と、フェートン号を焼き討ちする作戦が練られていた…
その時、伝令が走り込む。
「申し上げます!件の軍船が動き出しております!」

「なにっ!」
奉行と大村藩主は、物見台に移動する。
――フェートン号は既に錨を上げ、長崎港外へと向かっていた。
当然、奉行所には追撃できる性能の軍船の持ち合わせはない。
こうして、長崎奉行所と肥前大村藩による“異国船との戦”は幻に終わった。
(続く)
前回の続きです。75分の放送中、45分を回ったイメージです。
――翌朝の未明。

長崎奉行所に、待望の戦力が到着する。
「開門を願う!大村純昌、ただいま参陣した!」
まだ夜も明けきらぬうちに、肥前大村藩が長崎に到着した。
武装した大村藩兵が奉行所の近くに待機していた。
「おおっ!大村どのか!」
長崎奉行・松平康英、待ち望んだ戦力の到着に喜びを隠せない。
「遅くなり申した!」
肥前大村藩の若き藩主、大村純昌が応える。精悍な顔つきである。
大村藩の居城・玖島城は現在の長崎県大村市にある。
船が直接出入りのできる、いわゆる“海城”が本拠地なのである。
――奉行の喜びはそのまま、大村藩への期待でもあった。
若き大村藩主は、よく通る声でこう言った。
「異国船を焼き討つ支度をしております。」
「大村どの!我が意を得たり!」
…松平康英は、大村藩の手回しの良さに感銘を受けた。
「伝令のお役人から、詳しくお聞きしましたゆえ。」
…奉行所の組織も、非常時に適応しつつある。康英は潮目が変わったと判断する。
「不埒な異国船を討つぞ。もはや人質はおらん。不意を突いて近づけば勝機はある。」
「心得ました。大村にも小舟の扱いに長けた者がおります。」
――着々と、フェートン号を焼き討ちする作戦が練られていた…
その時、伝令が走り込む。
「申し上げます!件の軍船が動き出しております!」

「なにっ!」
奉行と大村藩主は、物見台に移動する。
――フェートン号は既に錨を上げ、長崎港外へと向かっていた。
当然、奉行所には追撃できる性能の軍船の持ち合わせはない。
こうして、長崎奉行所と肥前大村藩による“異国船との戦”は幻に終わった。
(続く)
2020年01月24日
第1話「長崎警護」⑥-3
こんばんは。
昨日の続き。75分中、50分ほど経過したイメージです。
ここからは、佐賀藩が中心の話になっていきます。
第1話のエピソードは1808年のフェートン号事件を題材としています。浦賀にペリーの黒船が来航して、日本中が大騒ぎになる45年前の出来事です。
――長崎奉行はフェートン号事件について、幕府への報告を行った。
信頼できる部下に後事を託し、長崎奉行・松平康英は責任を取って切腹した。
オランダ商館員2名を救出し、港の船にも被害が出ないよう奮闘した長崎奉行。しかし、国の表玄関で、幕府が異国船の横暴を止められなかった事実は重かった。
「佐賀の鍋島家、異国抑えのお役目を怠ること、極めて不届き…」
遺書には、長崎警護の人数を大幅に削減していた佐賀藩が名指しで非難されていた。
――幕府から佐賀藩に厳しい処分が行われる。
佐賀藩主・鍋島斉直には百日の閉門が命じられた。
異例の厳しい処分で、一切の外部との交流を絶たれた佐賀藩主。
――そして、長崎警備に関係する家老にはさらなる厳罰が下った。

若侍と上役(家老)が最後の会話をしている。
「おいたわしい…まさか、このような御沙汰が…。」
「致し方ない。儂はお役目を果たせなかったのだからな。」
「長崎から兵を引いたのは、ご家老ではありません!」
「…めったなことを申すな。責を負うべきは儂だ。」
「そうじゃ。この前話していたお主の縁談だが。」
「このようなときに、何をおっしゃいますか…!」
若侍は涙目である。
「うちの娘はどうか、と考えておった。」
「…何をおっしゃいますか!?」
若侍は、非常にわかりやすい困惑を示した。
「お前はとことん鈍いやつじゃな。それでは出世は縁遠いのう。」
「しかし家柄がまったく釣り合いませぬ。」
「近いうちに、身分ばかりを気にする世ではなくなるだろう。」
上役は、未来を見通すかのように少し遠い目をした。
「お主のように蘭学に明るい者は、今後見込みがあると考えておるぞ。いろいろ気にかけてやってくれ。」
「義父上っ!」
「…調子のよい奴め。まぁ一度はそう呼ばれてみたかった。これで満足じゃ。」
上役(家老)は、白装束を身に着けている。
それは今生の別れを意味した。
妻子との最後の別れへと向かう、上役の白い背中を見ていた。
若侍は、得体の知れない怒りを感じ、右拳を握りしめていた…
「おのれ、無法な異国船は、ことごとく私が沈めてやる!」
謹慎の意を示すため、城下では祭事や鳴り物の禁止が厳命された。武士も町衆も息をひそめて暮らす。
佐賀の城下は灯が消えたような有様となり、正月を迎えても静まりかえっていた。
(続く)
昨日の続き。75分中、50分ほど経過したイメージです。
ここからは、佐賀藩が中心の話になっていきます。
第1話のエピソードは1808年のフェートン号事件を題材としています。浦賀にペリーの黒船が来航して、日本中が大騒ぎになる45年前の出来事です。
――長崎奉行はフェートン号事件について、幕府への報告を行った。
信頼できる部下に後事を託し、長崎奉行・松平康英は責任を取って切腹した。
オランダ商館員2名を救出し、港の船にも被害が出ないよう奮闘した長崎奉行。しかし、国の表玄関で、幕府が異国船の横暴を止められなかった事実は重かった。
「佐賀の鍋島家、異国抑えのお役目を怠ること、極めて不届き…」
遺書には、長崎警護の人数を大幅に削減していた佐賀藩が名指しで非難されていた。
――幕府から佐賀藩に厳しい処分が行われる。
佐賀藩主・鍋島斉直には百日の閉門が命じられた。
異例の厳しい処分で、一切の外部との交流を絶たれた佐賀藩主。
――そして、長崎警備に関係する家老にはさらなる厳罰が下った。

若侍と上役(家老)が最後の会話をしている。
「おいたわしい…まさか、このような御沙汰が…。」
「致し方ない。儂はお役目を果たせなかったのだからな。」
「長崎から兵を引いたのは、ご家老ではありません!」
「…めったなことを申すな。責を負うべきは儂だ。」
「そうじゃ。この前話していたお主の縁談だが。」
「このようなときに、何をおっしゃいますか…!」
若侍は涙目である。
「うちの娘はどうか、と考えておった。」
「…何をおっしゃいますか!?」
若侍は、非常にわかりやすい困惑を示した。
「お前はとことん鈍いやつじゃな。それでは出世は縁遠いのう。」
「しかし家柄がまったく釣り合いませぬ。」
「近いうちに、身分ばかりを気にする世ではなくなるだろう。」
上役は、未来を見通すかのように少し遠い目をした。
「お主のように蘭学に明るい者は、今後見込みがあると考えておるぞ。いろいろ気にかけてやってくれ。」
「義父上っ!」
「…調子のよい奴め。まぁ一度はそう呼ばれてみたかった。これで満足じゃ。」
上役(家老)は、白装束を身に着けている。
それは今生の別れを意味した。
妻子との最後の別れへと向かう、上役の白い背中を見ていた。
若侍は、得体の知れない怒りを感じ、右拳を握りしめていた…
「おのれ、無法な異国船は、ことごとく私が沈めてやる!」
謹慎の意を示すため、城下では祭事や鳴り物の禁止が厳命された。武士も町衆も息をひそめて暮らす。
佐賀の城下は灯が消えたような有様となり、正月を迎えても静まりかえっていた。
(続く)
2020年01月25日
第1話「長崎警護」⑦
こんにちは。
第1話「長崎警護」の最終盤になって、ようやく“佐賀の七賢人”鍋島直正が登場します。詳しくいうと、誕生から小学生くらいの年齢に成長します。
この大河ドラマのイメージですが、とくに序盤は1話あたりの年数が長く、登場人物も多いので展開はとても早いです。
長編だった第1話も、もうすぐ終了。75分の放送時間で60分頃のイメージです。
⑦若君は江戸の藩邸に
――あの事件からおよそ6年後。
フェートン号事件の失態で長崎警備には一切、手を抜けなくなったが、佐賀藩は日常を取り戻していた。

――江戸の佐賀藩邸。
藩主・鍋島斉直の正室は、鳥取藩(池田家)より嫁いだ幸姫。
2人の間には世継ぎとなる嫡子・貞丸も誕生した。
「幸!でかした!」
「若君は、強い子に育てとうございます。」
武勇に優れる鳥取藩・池田家。
貞丸にはその血筋も受け継がれていたのである。
この貞丸こそが、後の鍋島直正である。
母の想いが実ったのか、貞丸は武芸の稽古を怠ることはなかった。
――しかし、藩主・鍋島斉直の暮らし向きは贅沢になっていった。
さらに歳月は流れ、フェートン号事件からも十数年が経過した頃。
事件を忘れ去ろうとする者も多かった。
「謹慎の頃は実に窮屈であった…。あのような暮らしは二度と御免じゃ。」
「御意にござります。かって窮屈な思いをされた分、少し羽を伸ばされても良いかと。」
「そうじゃな。」
斉直は都合の良いことを言う側近を重用するようになっていた。
しかし、事件を忘れず、苦言を呈し続ける人物もいた。
「古賀穀堂が、殿にお目通りを願っております。いかがなさいましょうか。」
「何…また穀堂か。気が乗らぬ。忙しいと言って断れ。」
――佐賀藩の儒学者である古賀穀堂。
フェートン号事件に強い衝撃を受けた1人である。
「儂の学んできた儒学では、国は守れぬ。異国船に儒学の理は通じぬのだ…」
「兵を満足に動かせるためには、国が富む必要がある。実践できる学問を大事にせねば!」
古賀穀堂は、藩主・斉直に様々な改革案を提出していた。そして説明にも足を運んでいたのである。
しかし最近では、斉直に会うことができない状況が続いていた。
はっきり言えば藩主にも側近たちにも煙たがられていた。
「お主のような学者は考えることが仕事であろうが、儂らはそうではないのでな。」
側近の1人は、穀堂を嘲笑するかのように言い放った。
「本日は、これにて失礼する!」
今日も斉直に会うことができなかった穀堂。
「あやつのような、学ばない者が殿の傍に居てはならぬ…」
帰り道、穀堂は怒りを抑えるのに必死だった。
――しかし、希望の灯はあった。
藩主・鍋島斉直は妙案を思い付いた。
「正直、穀堂の話を聞くのは気詰まりだ。しかし語る中身は正しいのであろう。」
「では、いかがいたしますか。」
「世継ぎの貞丸に、学問を講ずる栄誉を与えよう。」
「ははは…さすがは殿!それは良き策にございますな。」
斉直の発案に対して、側近はすかさず相槌を打った。
――古賀穀堂は、幼い貞丸(後の鍋島直正)に学問を教え始めた。
「こくどう!お主は余がまなべば、民をしあわせにできると申しておったな。」
「申し上げました。若君。」
貞丸は前回の穀堂の話を良く覚えていた。
「では、余はたくさん学ぶことにするぞ。」
「良い心掛けです。」
「どの国の若君よりも、いちばん学ぶぞ。」
「おおっ!」
若君の力強い宣言に、穀堂は笑みを浮かべた。
――そして、教育係・穀堂の貞丸への期待は高まっていく。

「この若君であれば…貞丸様なれば、佐賀を救えるかもしれぬ。」
「こくどう!ハゼの木を植えて豊かになる話を、いま一度おしえよ!」
「先日、たまたま口走ったことを!何たる利発さ…」
「こくどう!田畑をたがやす者が、土地を失っておるとも聞くぞ。」
「…これは、佐賀だけの話ではないぞ。あるいは、この国の全てを救うお方かも知れぬ…」
習うだけでなく、自身で学問を深めていく貞丸。熱心な若君に穀堂は感嘆した。
「穀堂は一番学ぶ若君の先生ゆえ、師として、もっと学ばねばなりませぬ…」
次第に穀堂の目頭は熱くなっていった。さりげなく若君から視線を外し、藩邸の庭を見やる。
「こくどう?どうしたのだ…?」
「若君は頼もしくなられていきますな。それにしても…今日は陽の光がまばゆい!しばし、お待ちあれ。」
…穀堂は、不意に出てきた感激の涙に慌て、柄にもない照れ隠しをした。
(次回:第2話「算盤大名」に続く)
第1話「長崎警護」の最終盤になって、ようやく“佐賀の七賢人”鍋島直正が登場します。詳しくいうと、誕生から小学生くらいの年齢に成長します。
この大河ドラマのイメージですが、とくに序盤は1話あたりの年数が長く、登場人物も多いので展開はとても早いです。
長編だった第1話も、もうすぐ終了。75分の放送時間で60分頃のイメージです。
⑦若君は江戸の藩邸に
――あの事件からおよそ6年後。
フェートン号事件の失態で長崎警備には一切、手を抜けなくなったが、佐賀藩は日常を取り戻していた。

――江戸の佐賀藩邸。
藩主・鍋島斉直の正室は、鳥取藩(池田家)より嫁いだ幸姫。
2人の間には世継ぎとなる嫡子・貞丸も誕生した。
「幸!でかした!」
「若君は、強い子に育てとうございます。」
武勇に優れる鳥取藩・池田家。
貞丸にはその血筋も受け継がれていたのである。
この貞丸こそが、後の鍋島直正である。
母の想いが実ったのか、貞丸は武芸の稽古を怠ることはなかった。
――しかし、藩主・鍋島斉直の暮らし向きは贅沢になっていった。
さらに歳月は流れ、フェートン号事件からも十数年が経過した頃。
事件を忘れ去ろうとする者も多かった。
「謹慎の頃は実に窮屈であった…。あのような暮らしは二度と御免じゃ。」
「御意にござります。かって窮屈な思いをされた分、少し羽を伸ばされても良いかと。」
「そうじゃな。」
斉直は都合の良いことを言う側近を重用するようになっていた。
しかし、事件を忘れず、苦言を呈し続ける人物もいた。
「古賀穀堂が、殿にお目通りを願っております。いかがなさいましょうか。」
「何…また穀堂か。気が乗らぬ。忙しいと言って断れ。」
――佐賀藩の儒学者である古賀穀堂。
フェートン号事件に強い衝撃を受けた1人である。
「儂の学んできた儒学では、国は守れぬ。異国船に儒学の理は通じぬのだ…」
「兵を満足に動かせるためには、国が富む必要がある。実践できる学問を大事にせねば!」
古賀穀堂は、藩主・斉直に様々な改革案を提出していた。そして説明にも足を運んでいたのである。
しかし最近では、斉直に会うことができない状況が続いていた。
はっきり言えば藩主にも側近たちにも煙たがられていた。
「お主のような学者は考えることが仕事であろうが、儂らはそうではないのでな。」
側近の1人は、穀堂を嘲笑するかのように言い放った。
「本日は、これにて失礼する!」
今日も斉直に会うことができなかった穀堂。
「あやつのような、学ばない者が殿の傍に居てはならぬ…」
帰り道、穀堂は怒りを抑えるのに必死だった。
――しかし、希望の灯はあった。
藩主・鍋島斉直は妙案を思い付いた。
「正直、穀堂の話を聞くのは気詰まりだ。しかし語る中身は正しいのであろう。」
「では、いかがいたしますか。」
「世継ぎの貞丸に、学問を講ずる栄誉を与えよう。」
「ははは…さすがは殿!それは良き策にございますな。」
斉直の発案に対して、側近はすかさず相槌を打った。
――古賀穀堂は、幼い貞丸(後の鍋島直正)に学問を教え始めた。
「こくどう!お主は余がまなべば、民をしあわせにできると申しておったな。」
「申し上げました。若君。」
貞丸は前回の穀堂の話を良く覚えていた。
「では、余はたくさん学ぶことにするぞ。」
「良い心掛けです。」
「どの国の若君よりも、いちばん学ぶぞ。」
「おおっ!」
若君の力強い宣言に、穀堂は笑みを浮かべた。
――そして、教育係・穀堂の貞丸への期待は高まっていく。

「この若君であれば…貞丸様なれば、佐賀を救えるかもしれぬ。」
「こくどう!ハゼの木を植えて豊かになる話を、いま一度おしえよ!」
「先日、たまたま口走ったことを!何たる利発さ…」
「こくどう!田畑をたがやす者が、土地を失っておるとも聞くぞ。」
「…これは、佐賀だけの話ではないぞ。あるいは、この国の全てを救うお方かも知れぬ…」
習うだけでなく、自身で学問を深めていく貞丸。熱心な若君に穀堂は感嘆した。
「穀堂は一番学ぶ若君の先生ゆえ、師として、もっと学ばねばなりませぬ…」
次第に穀堂の目頭は熱くなっていった。さりげなく若君から視線を外し、藩邸の庭を見やる。
「こくどう?どうしたのだ…?」
「若君は頼もしくなられていきますな。それにしても…今日は陽の光がまばゆい!しばし、お待ちあれ。」
…穀堂は、不意に出てきた感激の涙に慌て、柄にもない照れ隠しをした。
(次回:第2話「算盤大名」に続く)