2021年09月30日
第16話「攘夷沸騰」⑳(基山の誇り、田代の想い)
こんばんは。
幕府の外国奉行・小栗忠順が挑んだ、対馬からのロシア船退去交渉は不調に終わりました。
1861年(文久元年)夏。事態は長期化。佐賀藩が蒸気船で警戒を続ける中、幕府は、“禁断の一手”を遣って、事件の解決を狙います。
「佐賀藩の大河ドラマ」ならば、ナレーションや大河ドラマ紀行で語る場面かもしれませんが、あえて“本編”で描きました。
第16話で展開した“特別編”のまとめ。対馬藩側の“もう1つのエンディング”。田代領(現・佐賀県基山町・鳥栖市東部)の物語としてご覧ください。
〔参照①:第16話「攘夷沸騰」⑮(“薬の街”に吹く風)〕
〔参照②:第16話「攘夷沸騰」⑯(露西亜〔ロシア〕の牙)〕
――対馬に居座るロシア船。藩士や領民の我慢は限界に近づく。
「もう、堪忍ならんばい!今度こそ、打払ってやる!」
攘夷を志す“基山の若侍”が、対馬の海に吠える。
とうに季節は春を過ぎ、田代領の侍も初夏には海を渡り、対馬に陣取っている。
「…落ち着け。異人を追い払うにも、その短気では仕損じる。」

――“田代の書生”が謎の丸薬を、若侍の口に放り込む。
「ん…ぐぐっ。」
「田代が誇る“置き薬”の一つだ。気が鎮まるぞ。」
「苦い…っ!」
「“良薬は口に苦し”だ!我慢しろ。」
ロシア側の陣地と睨み合うこと数か月。田代領の藩士を率いて、対馬に渡った代官・平田大江の指揮のもと砲台を敷設し始めていた。
――警備にあたる農民と、ロシア兵が衝突している。
「今度こそ、夷狄(いてき)を斬ってやる。」
死角から奇襲をかける狙い。“基山の若侍”が走り込む構えを見せた。
「待て、先ずこれで撃つ。」
全面衝突は、代官・平田大江から止められている。平田もまた攘夷派ではあったが、冷静さを保っていた。
“田代の書生”は物影へと回り込み、密かに入手していた“新式銃”で、ロシア兵の足元を狙う。
キュン!…
――絶妙の地点にはじける、銃弾。
どこから飛んできたか、弾の出所はわかりづらい。“第三者の影”に、ロシア兵、地元の農民の双方とも、ひとまず退いた。こうして延々と小競り合いが続く。
「…お主、結構やるんだな。」
対馬に来てからの“田代の書生”の思わぬ頑張りに感心する“基山の若侍”。
その時、“若侍”の方が、沖合を見つめた。
「おい、あれを見らんね。」

――そこには、複数の蒸気軍艦の船影。
「今度は、何ね…?」
それらの船影は、イギリスの軍艦だった。
「先行きのわからんな…」
“田代の書生”も、状況が飲み込めていない。
実はイギリスの総領事・オールコックが、幕府に充てて“対馬事件”への介入を提案していた。
――ほどなく、ロシア側が撤収を始める。
幕府はイギリスの力を借りる決断をした。「毒を以て、毒を制す」作戦に賭けたのだが、これはロシア側としては、避けたい筋書きだったようだ。
あれほど居座ったロシア軍艦・ポサドニック号が、あっさり対馬を離れていく。
「ここ数か月は、何だったのか…」
いつになく気抜けする“田代の書生”に、“基山の若侍”が語り始めた。
「おいには、わかった事がある。」
田代領代官・平田大江は、対馬藩の上層部から勝手に兵を出したと叱責されたが、その行動力は若い藩士に存在感を示していた。
――“基山の若侍”が、語った決意。
「平田さまのもとで長州(山口)と結び、今度こそ“攘夷”を進めんばならん。」
「お主に手は貸そう。ただ、命は粗末にするなよ。」
田代の薬は、健やかに生きるためのものだ。しかし、そんな“書生”の想いとは裏腹に、ここから対馬藩は泥沼の内紛へと突入していく。
幕末期。外交危機に直面した対馬藩。2人の若い藩士は、現在で言えば“佐賀の若者”だった。その姿を“佐賀の物語”の1つとして記す。
(第16話 完)
幕府の外国奉行・小栗忠順が挑んだ、対馬からのロシア船退去交渉は不調に終わりました。
1861年(文久元年)夏。事態は長期化。佐賀藩が蒸気船で警戒を続ける中、幕府は、“禁断の一手”を遣って、事件の解決を狙います。
「佐賀藩の大河ドラマ」ならば、ナレーションや大河ドラマ紀行で語る場面かもしれませんが、あえて“本編”で描きました。
第16話で展開した“特別編”のまとめ。対馬藩側の“もう1つのエンディング”。田代領(現・佐賀県基山町・鳥栖市東部)の物語としてご覧ください。
〔参照①:
〔参照②:
――対馬に居座るロシア船。藩士や領民の我慢は限界に近づく。
「もう、堪忍ならんばい!今度こそ、打払ってやる!」
攘夷を志す“基山の若侍”が、対馬の海に吠える。
とうに季節は春を過ぎ、田代領の侍も初夏には海を渡り、対馬に陣取っている。
「…落ち着け。異人を追い払うにも、その短気では仕損じる。」
――“田代の書生”が謎の丸薬を、若侍の口に放り込む。
「ん…ぐぐっ。」
「田代が誇る“置き薬”の一つだ。気が鎮まるぞ。」
「苦い…っ!」
「“良薬は口に苦し”だ!我慢しろ。」
ロシア側の陣地と睨み合うこと数か月。田代領の藩士を率いて、対馬に渡った代官・平田大江の指揮のもと砲台を敷設し始めていた。
――警備にあたる農民と、ロシア兵が衝突している。
「今度こそ、夷狄(いてき)を斬ってやる。」
死角から奇襲をかける狙い。“基山の若侍”が走り込む構えを見せた。
「待て、先ずこれで撃つ。」
全面衝突は、代官・平田大江から止められている。平田もまた攘夷派ではあったが、冷静さを保っていた。
“田代の書生”は物影へと回り込み、密かに入手していた“新式銃”で、ロシア兵の足元を狙う。
キュン!…
――絶妙の地点にはじける、銃弾。
どこから飛んできたか、弾の出所はわかりづらい。“第三者の影”に、ロシア兵、地元の農民の双方とも、ひとまず退いた。こうして延々と小競り合いが続く。
「…お主、結構やるんだな。」
対馬に来てからの“田代の書生”の思わぬ頑張りに感心する“基山の若侍”。
その時、“若侍”の方が、沖合を見つめた。
「おい、あれを見らんね。」
――そこには、複数の蒸気軍艦の船影。
「今度は、何ね…?」
それらの船影は、イギリスの軍艦だった。
「先行きのわからんな…」
“田代の書生”も、状況が飲み込めていない。
実はイギリスの総領事・オールコックが、幕府に充てて“対馬事件”への介入を提案していた。
――ほどなく、ロシア側が撤収を始める。
幕府はイギリスの力を借りる決断をした。「毒を以て、毒を制す」作戦に賭けたのだが、これはロシア側としては、避けたい筋書きだったようだ。
あれほど居座ったロシア軍艦・ポサドニック号が、あっさり対馬を離れていく。
「ここ数か月は、何だったのか…」
いつになく気抜けする“田代の書生”に、“基山の若侍”が語り始めた。
「おいには、わかった事がある。」
田代領代官・平田大江は、対馬藩の上層部から勝手に兵を出したと叱責されたが、その行動力は若い藩士に存在感を示していた。
――“基山の若侍”が、語った決意。
「平田さまのもとで長州(山口)と結び、今度こそ“攘夷”を進めんばならん。」
「お主に手は貸そう。ただ、命は粗末にするなよ。」
田代の薬は、健やかに生きるためのものだ。しかし、そんな“書生”の想いとは裏腹に、ここから対馬藩は泥沼の内紛へと突入していく。
幕末期。外交危機に直面した対馬藩。2人の若い藩士は、現在で言えば“佐賀の若者”だった。その姿を“佐賀の物語”の1つとして記す。
(第16話 完)
2021年09月28日
第16話「攘夷沸騰」⑲(強くなりたいものだ)
こんばんは。
『青天を衝け』での大隈重信の演説に興奮冷めやらぬところですが、“本編”に戻ります。現在の「大河ドラマ」の舞台からは、遡ること8年ばかり…
1861年(文久元年)。対馬から退去しないロシア軍艦に対し、幕府が送り込む交渉役は外国奉行・小栗忠順。
幕府から佐賀藩が預かる蒸気船“観光丸”の艦長は佐野常民(栄寿左衛門)。小栗に同行し、“異国の思惑”と“攘夷の想い”が渦巻く対馬に乗り込みます。
第16話。実は2つのエンディングがあり、佐賀藩側は今回投稿で完結です。

――対馬上陸後に、佐野が見た景色。
「…これは、いかんばい。」
対馬の芋崎では、すでに“兵舎”が建設され、ロシア国旗が翻っている。内部で井戸も掘っていて、その場に居つこうとしているのも明らかだった。
「観光丸艦長、佐野どのであったか。見てきたか、ロシアの陣を。」
声をかけてきたのは、幕府の外国奉行・小栗忠順。
――最近、幕府の重職に抜擢された、小栗。
「はっ、見て参りました。」
秩序を大事にする“さがんもん”らしく、佐野は丁寧に礼をする。
「そう気を遣うな。“三河”より続く家系は誇るが、偉そうなのは性に合わぬ。」
小栗には、古くから“徳川”に仕える誇りはあっても、威張りたくはないらしい。
佐野は思った。儀礼的なものが幅を利かせる幕府にあって、何やら思うままに話す人だと。

――「佐野どのは、佐賀の者だったか。」
外国奉行・小栗からの質問に、佐野が答える。
「はっ、肥前佐賀、鍋島家中の者にございます。」
「そうか、佐賀は蒸気船を自前で補修すると聞くが。誰の仕切りじゃ。」
「はっ、それがし。佐野でございます。」
「そうか。ご公儀(幕府)には“食っては出すだけ”で、無為な者が多過ぎる。」
「はっ…!?」
佐野は、少々困惑した。この外国奉行は、一体、何を語っているのだ。よくよく聞くと、かなり幕府の役人に手厳しいことを言っている。
――これは、行動しない幕府の“同僚”たちへの不満なのか。
「どうやら佐賀の者どもは“無為の者”では無いようだ。期待しておく。」
アメリカからの帰国後、外国奉行に抜擢された小栗。“遣米使節”に同行した、佐賀藩士が現地で調査にあたった熱心さも知るようだ。
小栗は、幕府の守旧派とよく衝突する。“食っては、出すだけ”というのは、やや品の良い表現に寄せていて、ふだん小栗の言い方は、さらに強烈だったという。
幕府で抜きんでた才覚を見せる“切れ者”。小栗忠順には、敵も多いと見える。

――その小栗の交渉でも、ロシア船は居座る構えを崩さない。
「どうせ斬り込んでは来るまい…と甘く見られたか。」
古豪・ロシアには、幕府が武力行使に出ることは無いと見透かされた格好だ。
「小栗さま。」
「佐野どのか。残念だが、一旦引くぞ。観光丸を頼む。」
幕府による交渉は功を奏さず、持久戦の様相となった。ロシア側は「対馬藩主・宗義和への謁見」をより強く求めてくるだろう。
「もはや、対馬を公儀(幕府)の直轄とするほかないか。」
ロシアは幕府を相手にせず、現地の対馬藩に圧力をかけ続けている。
――佐野は気づいた。小栗が右拳を強く握り込む様子に。
小栗にとって外交の折衝を行うには、半端な状態なのだ。対馬藩側にも“領地替え”を望む声がある。幕府の直轄とすれば、ロシアも向き合わざるを得ない。
「それに、この差がもどかしい。」
小栗の掌にはアメリカから“近代工業”の象徴として持ち帰ったネジが光る。
よほど悔しかったのか、握り続けた掌にはネジの螺旋(らせん)の跡が浮かぶ。もっと“工業力”が必要だ。それさえあれば、ここまで侮られることは無い。
「…強くなりたいものだ。」
外国奉行・小栗の“独白”を聞く、佐野。伝わる悔しさに、佐賀の殿・鍋島直正が求め続ける“志”を重ねて見ていた。
(続く)
『青天を衝け』での大隈重信の演説に興奮冷めやらぬところですが、“本編”に戻ります。現在の「大河ドラマ」の舞台からは、遡ること8年ばかり…
1861年(文久元年)。対馬から退去しないロシア軍艦に対し、幕府が送り込む交渉役は外国奉行・小栗忠順。
幕府から佐賀藩が預かる蒸気船“観光丸”の艦長は佐野常民(栄寿左衛門)。小栗に同行し、“異国の思惑”と“攘夷の想い”が渦巻く対馬に乗り込みます。
第16話。実は2つのエンディングがあり、佐賀藩側は今回投稿で完結です。
――対馬上陸後に、佐野が見た景色。
「…これは、いかんばい。」
対馬の芋崎では、すでに“兵舎”が建設され、ロシア国旗が翻っている。内部で井戸も掘っていて、その場に居つこうとしているのも明らかだった。
「観光丸艦長、佐野どのであったか。見てきたか、ロシアの陣を。」
声をかけてきたのは、幕府の外国奉行・小栗忠順。
――最近、幕府の重職に抜擢された、小栗。
「はっ、見て参りました。」
秩序を大事にする“さがんもん”らしく、佐野は丁寧に礼をする。
「そう気を遣うな。“三河”より続く家系は誇るが、偉そうなのは性に合わぬ。」
小栗には、古くから“徳川”に仕える誇りはあっても、威張りたくはないらしい。
佐野は思った。儀礼的なものが幅を利かせる幕府にあって、何やら思うままに話す人だと。
――「佐野どのは、佐賀の者だったか。」
外国奉行・小栗からの質問に、佐野が答える。
「はっ、肥前佐賀、鍋島家中の者にございます。」
「そうか、佐賀は蒸気船を自前で補修すると聞くが。誰の仕切りじゃ。」
「はっ、それがし。佐野でございます。」
「そうか。ご公儀(幕府)には“食っては出すだけ”で、無為な者が多過ぎる。」
「はっ…!?」
佐野は、少々困惑した。この外国奉行は、一体、何を語っているのだ。よくよく聞くと、かなり幕府の役人に手厳しいことを言っている。
――これは、行動しない幕府の“同僚”たちへの不満なのか。
「どうやら佐賀の者どもは“無為の者”では無いようだ。期待しておく。」
アメリカからの帰国後、外国奉行に抜擢された小栗。“遣米使節”に同行した、佐賀藩士が現地で調査にあたった熱心さも知るようだ。
小栗は、幕府の守旧派とよく衝突する。“食っては、出すだけ”というのは、やや品の良い表現に寄せていて、ふだん小栗の言い方は、さらに強烈だったという。
幕府で抜きんでた才覚を見せる“切れ者”。小栗忠順には、敵も多いと見える。
――その小栗の交渉でも、ロシア船は居座る構えを崩さない。
「どうせ斬り込んでは来るまい…と甘く見られたか。」
古豪・ロシアには、幕府が武力行使に出ることは無いと見透かされた格好だ。
「小栗さま。」
「佐野どのか。残念だが、一旦引くぞ。観光丸を頼む。」
幕府による交渉は功を奏さず、持久戦の様相となった。ロシア側は「対馬藩主・宗義和への謁見」をより強く求めてくるだろう。
「もはや、対馬を公儀(幕府)の直轄とするほかないか。」
ロシアは幕府を相手にせず、現地の対馬藩に圧力をかけ続けている。
――佐野は気づいた。小栗が右拳を強く握り込む様子に。
小栗にとって外交の折衝を行うには、半端な状態なのだ。対馬藩側にも“領地替え”を望む声がある。幕府の直轄とすれば、ロシアも向き合わざるを得ない。
「それに、この差がもどかしい。」
小栗の掌にはアメリカから“近代工業”の象徴として持ち帰ったネジが光る。
よほど悔しかったのか、握り続けた掌にはネジの螺旋(らせん)の跡が浮かぶ。もっと“工業力”が必要だ。それさえあれば、ここまで侮られることは無い。
「…強くなりたいものだ。」
外国奉行・小栗の“独白”を聞く、佐野。伝わる悔しさに、佐賀の殿・鍋島直正が求め続ける“志”を重ねて見ていた。
(続く)
2021年09月26日
「【速報】『青天を衝け』が、大隈祭(?)に…」
こんばんは。
ある程度は予測しましたが、本日の大河ドラマ『青天を衝け』での、大隈重信〔演:大倉孝二〕の大演説が、早くも反響を呼んでいるようです。
もっとも、番組終盤で暴れていたのは、渋沢栄一〔演:吉沢亮〕の方でしたが…
※以下、本日の放送内容を記載していますので、未視聴の方はご注意ください。
――放送開始から10分と経たず…
静岡で旧・幕臣たちが明治新政府の実情を批評しています。
「薩長だけで政府が立ちゆくわけがなく…」と話が始まり、越前(福井)なども協力している状況が語られます。
そして「異国に詳しい、佐賀」と説明付きで佐賀藩の名が登場。その後も“佐賀の大隈”の名が繰り返されます。

――そして、20分と経たず…
東京に出て、築地にある大隈の私邸に現れる渋沢栄一。いきなり大蔵省の役職の辞任を申し出ます。
旧・幕臣としての静かな怒りが感じられる場面。表向き、自分の“無知”を理由として辞めるという渋沢。ここから、大隈の“佐賀ことば”が炸裂。
――「おいも、な~んも知らん。」
誰もが“何を為すべきか”判然としない新時代。「皆が、“無知”を理由に逃げてしまったら、この国はどうなるか?」と渋沢に問う、大隈。
大隈は、渋沢の理屈を封じて、「誰かがやらねばならんばい!」と鼓舞します。
――「すべてが新規に種のまき直し…」
“佐賀ことば”に続き、大隈独特の「であ~る」調の弁舌を繰り出します。離れたテーブルで、大隈と渋沢2人のやり取りに苦笑する伊藤博文〔演:山崎育三郎〕。
すかさず演説の間に、水差しを準備する、大隈の妻・綾子〔演:朝倉あき〕。渋沢とのやり取りを通じ、およそ5分以上は続く大倉孝二版・大隈重信の演説。

――途中には、山崎育三郎版・伊藤博文のセリフも入ります。
前回放送では「大隈による軍艦や製鉄所の獲得」の説明をしていた伊藤。今回も「佐賀藩が、上野や会津でアームストロング砲を運用」の情報を入れます。
ここまで、なぜだか2回続けて佐賀藩の活躍を解説する役回り。山崎育三郎さんには、次に佐賀藩士の役でも決まっているのか…と思うほど。
――「…来た!すでに“佐賀の時代”が来ている!」
失礼。これは番組内の言葉ではなく私の感想です。“佐賀”の出て来るセリフが多く、数え切れていません。
ここまでお読みいただいて、視聴したくなった貴方は、ぜひ『青天を衝け』土曜日の再放送をご覧ください。
全体的には、決してカッコ良い姿ばかりではない…ですが、面白い。大隈先生が“国民的人気者”だった理由が伺える描き方だと思います。
ある程度は予測しましたが、本日の大河ドラマ『青天を衝け』での、大隈重信〔演:大倉孝二〕の大演説が、早くも反響を呼んでいるようです。
もっとも、番組終盤で暴れていたのは、渋沢栄一〔演:吉沢亮〕の方でしたが…
※以下、本日の放送内容を記載していますので、未視聴の方はご注意ください。
――放送開始から10分と経たず…
静岡で旧・幕臣たちが明治新政府の実情を批評しています。
「薩長だけで政府が立ちゆくわけがなく…」と話が始まり、越前(福井)なども協力している状況が語られます。
そして「異国に詳しい、佐賀」と説明付きで佐賀藩の名が登場。その後も“佐賀の大隈”の名が繰り返されます。
――そして、20分と経たず…
東京に出て、築地にある大隈の私邸に現れる渋沢栄一。いきなり大蔵省の役職の辞任を申し出ます。
旧・幕臣としての静かな怒りが感じられる場面。表向き、自分の“無知”を理由として辞めるという渋沢。ここから、大隈の“佐賀ことば”が炸裂。
――「おいも、な~んも知らん。」
誰もが“何を為すべきか”判然としない新時代。「皆が、“無知”を理由に逃げてしまったら、この国はどうなるか?」と渋沢に問う、大隈。
大隈は、渋沢の理屈を封じて、「誰かがやらねばならんばい!」と鼓舞します。
――「すべてが新規に種のまき直し…」
“佐賀ことば”に続き、大隈独特の「であ~る」調の弁舌を繰り出します。離れたテーブルで、大隈と渋沢2人のやり取りに苦笑する伊藤博文〔演:山崎育三郎〕。
すかさず演説の間に、水差しを準備する、大隈の妻・綾子〔演:朝倉あき〕。渋沢とのやり取りを通じ、およそ5分以上は続く大倉孝二版・大隈重信の演説。
――途中には、山崎育三郎版・伊藤博文のセリフも入ります。
前回放送では「大隈による軍艦や製鉄所の獲得」の説明をしていた伊藤。今回も「佐賀藩が、上野や会津でアームストロング砲を運用」の情報を入れます。
ここまで、なぜだか2回続けて佐賀藩の活躍を解説する役回り。山崎育三郎さんには、次に佐賀藩士の役でも決まっているのか…と思うほど。
――「…来た!すでに“佐賀の時代”が来ている!」
失礼。これは番組内の言葉ではなく私の感想です。“佐賀”の出て来るセリフが多く、数え切れていません。
ここまでお読みいただいて、視聴したくなった貴方は、ぜひ『青天を衝け』土曜日の再放送をご覧ください。
全体的には、決してカッコ良い姿ばかりではない…ですが、面白い。大隈先生が“国民的人気者”だった理由が伺える描き方だと思います。
2021年09月25日
「“水の呼吸”と聞くたびに…」
こんばんは。
週末になると“本編”から雑談に入りますが、特にとりとめのない話です。
テーマは3項目ですが、あまり詳しくない話題も含んでいるので、ファンの方は「よくわかってないな…!?」と流していただければ幸いです。
〇まず、大河ドラマ『青天を衝け』の感想。
先週から登場した大隈重信〔演:大倉孝二〕。今度は、渋沢栄一〔演:吉沢亮〕を明治新政府に引っ張り込む話のようです。
…これは期待大。前回は「幕府側の“横須賀製鉄所”や、アメリカから購入した軍艦を大隈が獲得した」ことが、新政府側の勝因になったとセリフもありました。
佐賀藩士の“幕末最高の実務能力”の一端も感じられ、大隈の“佐賀藩”出身アピールが加われば、ますます面白い展開になりそう。
その妻・大隈綾子〔演:朝倉あき〕も登場。“横須賀製鉄所”を造った、小栗忠順〔演:武田真治〕の従妹(いとこ)なので、それを作中で語ってくるかどうか。
〔参照:「新キャストを考える⑤」(奥様も出演します)〕
〇そして、アニメ『ゾンビランドサガ』に関するつぶやき。
先日、滑り込みでご紹介した、同作品の声優さんが出演する佐賀県庁の広報動画。1年限定公開との予告通り、ウェブサイトの案内記事は消えました。
〔参照:「“滑り込み”ですが、紹介します!」〕
昨年、連日公開された5本の動画は順次終了するようです。本日9月25日時点では、佐賀県庁のチャンネルに残る、このシリーズの動画は4本でした。
https://www.youtube.com/user/SagaKouhouMovie(YouTube)※外部サイト
佐賀県庁を舞台にした1本目の動画は、8万回程度の再生回数の表示だったと思います。独創性があると聞く“佐賀の広報”。次の企画を期待して待ちます。

〇最近、ふたたび話題になっているアニメ『鬼滅の刃』を見て…
主人公の鬼殺隊剣士・竈門炭治郎を導く先輩の1人で“水の呼吸”を遣う同門の先輩。「冨岡 義勇」というキャラクターを見かけますが、この名を聞くたびに…
私は「何だか“佐賀藩士”っぽい名前…」と感じます。たぶん共感できる方はほとんどいないでしょう。私の場合は、“佐賀の先輩”2人の名前を連想しています。
・江藤新平と小城の剣術道場で親交のあった、富岡 敬明。
・佐賀の七賢人の1人。“札幌”の基礎を創った、島 義勇。
以下の話を書くときにも、幾度か名前を“誤入力”するところでした。
〔参照(富岡):第16話「攘夷沸騰」②(小城の秘剣)〕
〔参照(義勇):第16話「攘夷沸騰」①(砂塵を呼ぶ男)〕
師匠や先輩…年長者の振舞いが“後輩”に影響するのは、自然に思われます。
私は歴史上の先輩たちの姿を追いかけますが、現代を生きる“佐賀の先輩”にも期待します。いま皆様の見せている背中は、いずれ佐賀の時代を作る…かもしれないので。
週末になると“本編”から雑談に入りますが、特にとりとめのない話です。
テーマは3項目ですが、あまり詳しくない話題も含んでいるので、ファンの方は「よくわかってないな…!?」と流していただければ幸いです。
〇まず、大河ドラマ『青天を衝け』の感想。
先週から登場した大隈重信〔演:大倉孝二〕。今度は、渋沢栄一〔演:吉沢亮〕を明治新政府に引っ張り込む話のようです。
…これは期待大。前回は「幕府側の“横須賀製鉄所”や、アメリカから購入した軍艦を大隈が獲得した」ことが、新政府側の勝因になったとセリフもありました。
佐賀藩士の“幕末最高の実務能力”の一端も感じられ、大隈の“佐賀藩”出身アピールが加われば、ますます面白い展開になりそう。
その妻・大隈綾子〔演:朝倉あき〕も登場。“横須賀製鉄所”を造った、小栗忠順〔演:武田真治〕の従妹(いとこ)なので、それを作中で語ってくるかどうか。
〔参照:
〇そして、アニメ『ゾンビランドサガ』に関するつぶやき。
先日、滑り込みでご紹介した、同作品の声優さんが出演する佐賀県庁の広報動画。1年限定公開との予告通り、ウェブサイトの案内記事は消えました。
〔参照:
昨年、連日公開された5本の動画は順次終了するようです。本日9月25日時点では、佐賀県庁のチャンネルに残る、このシリーズの動画は4本でした。
https://www.youtube.com/user/SagaKouhouMovie(YouTube)※外部サイト
佐賀県庁を舞台にした1本目の動画は、8万回程度の再生回数の表示だったと思います。独創性があると聞く“佐賀の広報”。次の企画を期待して待ちます。
〇最近、ふたたび話題になっているアニメ『鬼滅の刃』を見て…
主人公の鬼殺隊剣士・竈門炭治郎を導く先輩の1人で“水の呼吸”を遣う同門の先輩。「冨岡 義勇」というキャラクターを見かけますが、この名を聞くたびに…
私は「何だか“佐賀藩士”っぽい名前…」と感じます。たぶん共感できる方はほとんどいないでしょう。私の場合は、“佐賀の先輩”2人の名前を連想しています。
・江藤新平と小城の剣術道場で親交のあった、富岡 敬明。
・佐賀の七賢人の1人。“札幌”の基礎を創った、島 義勇。
以下の話を書くときにも、幾度か名前を“誤入力”するところでした。
〔参照(富岡):
〔参照(義勇):
師匠や先輩…年長者の振舞いが“後輩”に影響するのは、自然に思われます。
私は歴史上の先輩たちの姿を追いかけますが、現代を生きる“佐賀の先輩”にも期待します。いま皆様の見せている背中は、いずれ佐賀の時代を作る…かもしれないので。
タグ :佐賀
2021年09月23日
第16話「攘夷沸騰」⑱(蒸気船の集まる海域)
こんばんは。
1861年(万延二年・文久元年)春。九州北部に衝撃が走った、“対馬事件”。幕府も対応に苦慮します。
ロシア軍艦ポサドニック号は対馬の浅茅湾に停泊し、芋崎の地に兵舎を建設。対馬藩主に付近の土地を租借(そしゃく)する権利を要求。
前回、佐賀藩の蒸気軍艦・電流丸は周辺海域の警戒に当たるべく、長崎港から伊万里に向けて出航しました。

――“電流丸”は、伊万里沖を航行中。
「中牟田よ。もし、ロシアの軍艦と戦わば、勝ち目はあると思うか。」
石丸虎五郎(安世)が、わざわざ“年少者”に意見を聞く。
「そうたいね。勝つも負けるも有り得る…としか言えんばい。」
中牟田倉之助、ごく普通の事を語っているが、突出して数学を得意とする人物。
この単純な言葉の裏にも、様々な状況の想定をしていることが見て取れる。
――現在の任務としては、海域の見回りだ。
「何も損なわんように、佐賀の平穏ば守ること。今は、そいだけで良かですね。」
まだ若い中牟田だったが、冷静に思考を組み立てて先を読む力がある。すでに優秀な海軍軍人として皆に認められている。
「まったくお主には、いろいろと見えておるようだな。」
石丸虎五郎は、ため息を付いた。年少の中牟田は先を見据えて着実に進んでいる。そう思えたからだ。
「“英語”では、石丸さんには全く追いついてなかですよ。」
中牟田が訥々と言葉を発する。石丸は自身よりも語学を習得する速度に勝り、工夫しても追いつく術が見当たらない…らしい。

――「こいつ、俺の心まで計算したか。」
石丸は苦笑した。これが中牟田なりの“年上”の励まし方なのか。しかし、海軍の仲間としては頼もしい限りだ。
「伊万里が見えました。楠久(くすく)に上陸し、停泊する手筈(てはず)です。」
まずは眼前の任務に集中せねばならない。先への“迷い”は傍に置くことになる。
蒸気機関に用いる石炭など物資の補給を意図し、一旦、佐賀藩内に上陸する。伊万里の楠久にも、古くから佐賀の水軍(御船方)の拠点が所在していた。
――別の蒸気船も、次々とこの海域に集結する。
「気を引き締めて、掛からんば…」
幕府より佐賀藩が預かった外輪蒸気船“観光丸”も航行する。三重津海軍所の責任者でもある佐野常民(栄寿)。艦長の任にあるが、表情に緊張も見える。
佐野は江戸まで受取りに行った観光丸で、幕府側の仕事を手伝う。そのため、幕府の役人とともに“紛争”の只中にある対馬に直接上陸する予定があった。
〔参照(後半):第16話「攘夷沸騰」④(その船を、取りに行け)〕

――そして、幕府の“外国奉行”も現地・対馬へと向かう。
太平洋を往復した幕府の蒸気船“咸臨丸”には、世界一周から戻った小栗忠順が乗船する。遣米使節への抜擢でアメリカに渡り、通貨交渉なども担当した。
〔参照(後半):第16話「攘夷沸騰」⑫(“錬金術”と闘う男)〕
ロシア船に対しては、対馬藩だけでなく、長崎奉行所も退去を呼び掛けるが、応じる気配はない。小栗は幕府よりロシア船との交渉役として派遣されていた。
(続く)
1861年(万延二年・文久元年)春。九州北部に衝撃が走った、“対馬事件”。幕府も対応に苦慮します。
ロシア軍艦ポサドニック号は対馬の浅茅湾に停泊し、芋崎の地に兵舎を建設。対馬藩主に付近の土地を租借(そしゃく)する権利を要求。
前回、佐賀藩の蒸気軍艦・電流丸は周辺海域の警戒に当たるべく、長崎港から伊万里に向けて出航しました。
――“電流丸”は、伊万里沖を航行中。
「中牟田よ。もし、ロシアの軍艦と戦わば、勝ち目はあると思うか。」
石丸虎五郎(安世)が、わざわざ“年少者”に意見を聞く。
「そうたいね。勝つも負けるも有り得る…としか言えんばい。」
中牟田倉之助、ごく普通の事を語っているが、突出して数学を得意とする人物。
この単純な言葉の裏にも、様々な状況の想定をしていることが見て取れる。
――現在の任務としては、海域の見回りだ。
「何も損なわんように、佐賀の平穏ば守ること。今は、そいだけで良かですね。」
まだ若い中牟田だったが、冷静に思考を組み立てて先を読む力がある。すでに優秀な海軍軍人として皆に認められている。
「まったくお主には、いろいろと見えておるようだな。」
石丸虎五郎は、ため息を付いた。年少の中牟田は先を見据えて着実に進んでいる。そう思えたからだ。
「“英語”では、石丸さんには全く追いついてなかですよ。」
中牟田が訥々と言葉を発する。石丸は自身よりも語学を習得する速度に勝り、工夫しても追いつく術が見当たらない…らしい。
――「こいつ、俺の心まで計算したか。」
石丸は苦笑した。これが中牟田なりの“年上”の励まし方なのか。しかし、海軍の仲間としては頼もしい限りだ。
「伊万里が見えました。楠久(くすく)に上陸し、停泊する手筈(てはず)です。」
まずは眼前の任務に集中せねばならない。先への“迷い”は傍に置くことになる。
蒸気機関に用いる石炭など物資の補給を意図し、一旦、佐賀藩内に上陸する。伊万里の楠久にも、古くから佐賀の水軍(御船方)の拠点が所在していた。
――別の蒸気船も、次々とこの海域に集結する。
「気を引き締めて、掛からんば…」
幕府より佐賀藩が預かった外輪蒸気船“観光丸”も航行する。三重津海軍所の責任者でもある佐野常民(栄寿)。艦長の任にあるが、表情に緊張も見える。
佐野は江戸まで受取りに行った観光丸で、幕府側の仕事を手伝う。そのため、幕府の役人とともに“紛争”の只中にある対馬に直接上陸する予定があった。
〔参照(後半):
――そして、幕府の“外国奉行”も現地・対馬へと向かう。
太平洋を往復した幕府の蒸気船“咸臨丸”には、世界一周から戻った小栗忠順が乗船する。遣米使節への抜擢でアメリカに渡り、通貨交渉なども担当した。
〔参照(後半):
ロシア船に対しては、対馬藩だけでなく、長崎奉行所も退去を呼び掛けるが、応じる気配はない。小栗は幕府よりロシア船との交渉役として派遣されていた。
(続く)
2021年09月21日
第16話「攘夷沸騰」⑰(積出港の昼下がり)
こんばんは。
“本編”の第16話は、佐賀県各地の視点でお送りする“特別編”が含まれます。
もし映像化すれば、一瞬の登場になる場面かもしれません。そこを深掘りして、セリフを付けている感じです。
直前の2回は、対馬藩士を描いた佐賀県東部の話。今度は県西部でカメラを回すイメージ。こうして長くなった第16話も、あと4回ほどで完了の予定です。
〔参照:第16話「攘夷沸騰」⑮(“薬の街”に吹く風)〕
1861年(文久元年)春。舞台は伊万里周辺を軸として展開します。

――ある暖かい日。そろそろ陽が西に傾き始める。
川沿いに広がる荷下ろし場。この日も多数の陶磁器が肥前国(佐賀・長崎)の各地から集められていた。
地元・伊万里のみではなく、有田・波佐見・吉田…まるで毎日が陶磁器見本市の様相となっている。
「ようやっと、伊万里に着いたばい。」
街道を進んできた運び手が、肩から背負子(しょいこ)を外して慎重に荷を置く。高価な陶磁器の様子。荷車での運搬を避けて、人が背負って運んだようだ。
賑わう街中。ある伊万里商人が、立派な身なりの商家の若旦那に声をかける。
「壱州屋さん、えすか(怖い)事ば起きましたなぁ。」
「ええ、少し港の騒がしかですね。」
――話題は、対馬に停泊しているロシア船のことだ。
海運で成り立つ商家にとって、航行の安全は一大事。とくに外国への出荷を成り立たせるために、長崎周辺の“海の道”はとても重要だ。
「今のところ、海路に影響は出ていませんよ。」
若旦那は落ち着いている。“壱州屋”は先代・森永太兵衛の才覚もあり、陶磁器と漁業で大きな財を成している。
いまや大商家となった、この家にはあと4年ほどで、のちに凄まじい苦労のすえ、日本の“西洋菓子”の先駆者になる人物が誕生するが、それはまた別の話だ。
〔参照(後半):「あゝ西洋菓子(西)」〕
――同日の晩。春霞のかかる、夜の長崎港にて。
佐賀藩の蒸気軍艦が停泊する。すっかり日は暮れ、“電流丸”の黒い船体も宵闇に溶け込む。大きい船影に向けて、乗船命令を受けた3人が乗り込んでいく。
〔参照(後半):第16話「攘夷沸騰」⑭(多良海道の往還)〕
「石丸、それに中牟田も!懐かしかなぁ。」
長崎で海軍伝習を受けた仲間たちの集結。軍艦を動かす訓練を受けたものだから、やはり再会も船上になってくる。

「秀島さん!アメリカの話ば聞かせてください。」
佐賀藩の電流丸は、幕府の咸臨丸と同型艦だから、それで太平洋を往復した秀島藤之助の体験談は皆が聞きたいところだ。
〔参照:第14話「遣米使節」⑭(太平洋の嵐)〕
「…今は忙しいから、また機を見て語る。」
秀島は淡々と返事をした。やはり新式大砲の設計が頭から離れない様子だ。
仲間との再会で盛り上がる石丸虎五郎(安世)・中牟田倉之助の両名とは違い、いまの秀島には何やら近寄りがたい雰囲気もあった。
――ここで、艦長の声が響く。
「よし、総員揃ったな。これより我々は伊万里に向けて出航する。」
船出の目的は対馬での非常事態が他に飛び火しないよう警戒にあたること。
佐賀藩としては、経済の動線である“海路”を守る必要がある。事と次第によっては、“応戦”する…そのような巡視でもあった。
バシッ!とオランダ仕込みに敬礼する、佐賀藩士たち。武力行使を目的とする出航ではないが、海路を守る中での衝突は想定せねばならない。
「出航用意!総員、配置に付け!」
…ダンダンダッと響く足音。
指揮官の号令のもと、小走りに甲板を行き交う藩士たち。
この頃には、有明海側で三重津海軍所の整備も進み、佐賀藩の近代海軍は本格始動していたのである。
(続く)
“本編”の第16話は、佐賀県各地の視点でお送りする“特別編”が含まれます。
もし映像化すれば、一瞬の登場になる場面かもしれません。そこを深掘りして、セリフを付けている感じです。
直前の2回は、対馬藩士を描いた佐賀県東部の話。今度は県西部でカメラを回すイメージ。こうして長くなった第16話も、あと4回ほどで完了の予定です。
〔参照:
1861年(文久元年)春。舞台は伊万里周辺を軸として展開します。
――ある暖かい日。そろそろ陽が西に傾き始める。
川沿いに広がる荷下ろし場。この日も多数の陶磁器が肥前国(佐賀・長崎)の各地から集められていた。
地元・伊万里のみではなく、有田・波佐見・吉田…まるで毎日が陶磁器見本市の様相となっている。
「ようやっと、伊万里に着いたばい。」
街道を進んできた運び手が、肩から背負子(しょいこ)を外して慎重に荷を置く。高価な陶磁器の様子。荷車での運搬を避けて、人が背負って運んだようだ。
賑わう街中。ある伊万里商人が、立派な身なりの商家の若旦那に声をかける。
「壱州屋さん、えすか(怖い)事ば起きましたなぁ。」
「ええ、少し港の騒がしかですね。」
――話題は、対馬に停泊しているロシア船のことだ。
海運で成り立つ商家にとって、航行の安全は一大事。とくに外国への出荷を成り立たせるために、長崎周辺の“海の道”はとても重要だ。
「今のところ、海路に影響は出ていませんよ。」
若旦那は落ち着いている。“壱州屋”は先代・森永太兵衛の才覚もあり、陶磁器と漁業で大きな財を成している。
いまや大商家となった、この家にはあと4年ほどで、のちに凄まじい苦労のすえ、日本の“西洋菓子”の先駆者になる人物が誕生するが、それはまた別の話だ。
〔参照(後半):
――同日の晩。春霞のかかる、夜の長崎港にて。
佐賀藩の蒸気軍艦が停泊する。すっかり日は暮れ、“電流丸”の黒い船体も宵闇に溶け込む。大きい船影に向けて、乗船命令を受けた3人が乗り込んでいく。
〔参照(後半):
「石丸、それに中牟田も!懐かしかなぁ。」
長崎で海軍伝習を受けた仲間たちの集結。軍艦を動かす訓練を受けたものだから、やはり再会も船上になってくる。
「秀島さん!アメリカの話ば聞かせてください。」
佐賀藩の電流丸は、幕府の咸臨丸と同型艦だから、それで太平洋を往復した秀島藤之助の体験談は皆が聞きたいところだ。
〔参照:
「…今は忙しいから、また機を見て語る。」
秀島は淡々と返事をした。やはり新式大砲の設計が頭から離れない様子だ。
仲間との再会で盛り上がる石丸虎五郎(安世)・中牟田倉之助の両名とは違い、いまの秀島には何やら近寄りがたい雰囲気もあった。
――ここで、艦長の声が響く。
「よし、総員揃ったな。これより我々は伊万里に向けて出航する。」
船出の目的は対馬での非常事態が他に飛び火しないよう警戒にあたること。
佐賀藩としては、経済の動線である“海路”を守る必要がある。事と次第によっては、“応戦”する…そのような巡視でもあった。
バシッ!とオランダ仕込みに敬礼する、佐賀藩士たち。武力行使を目的とする出航ではないが、海路を守る中での衝突は想定せねばならない。
「出航用意!総員、配置に付け!」
…ダンダンダッと響く足音。
指揮官の号令のもと、小走りに甲板を行き交う藩士たち。
この頃には、有明海側で三重津海軍所の整備も進み、佐賀藩の近代海軍は本格始動していたのである。
(続く)
2021年09月19日
「“滑り込み”ですが、紹介します!」
こんばんは。
今夜の大河ドラマ『青天を衝け』で、ついに大隈重信が登場。オープニング画像の中では、“佐賀ことば指導”を担当する方のお名前も見かけました。
「これも、また一歩。佐賀の魅力としても、伝わると良いな。」
“佐賀のへらず口”とか称されていますが、大隈〔演:大倉孝二〕の暴れっぷりに期待は高まるところ。一方、もうすぐ見られなくなる佐賀のPR“動画”があります。
――先週、私は音楽番組の紹介をしていました。
『ゾンビランドサガ』の声優さんが、劇中のグループ名と同じ“フランシュシュ”の名で登場。私は、作品に声を吹き込む方々を映像でお見かけするに至ります。
〔参照:「佐賀の“終わらない”物語…」〕
そして、彼女たちの出演をもって「どのぐらい佐賀が注目された」か、その反響を調べようとしたところ。
――ある動画集を見つけました。
動画の製作者は、佐賀県庁。広報チャンネルという位置づけのようです。
最近、認識したばかりの同作の声優さん2名が、なんと佐賀県をPRするために広報チャンネルで奮闘していたのだと知ります。
1本目・佐賀県庁での指令に始まり、2本目に佐賀市営交通に触れてからの、嬉野温泉への移動で、旅館内でのサテライトオフィスを特集。
3本目は佐賀城で移住者インタビュー、4本目に吉野ヶ里のアドベンチャー、5本目・小城では涼し気な浴衣姿で、鯉料理からの滝見物。

…もはや流れは止まらない、怒涛の佐賀アピール。別のアニメですが、これも“全集中”とか形容すべきか。畳みかけるような、佐賀への集中ぶり。
――いや、それは良いとして
問題は、その動画の公開期間。例えば1本目は2020年9月23日からの1年間とあります。
「何と!このように佐賀の魅力を発信できる映像が、期間限定の公開だとは…」
一応、私は滑り込みで視聴できましたが、この落胆は大きいものがあります。
ちなみに出演は“フランシュシュ”2号(サキ役)と5号(ゆうぎり役)の声優さん。平成のヤンキーと、明治の花魁(おいらん)というキャラの組み合わせですね。
――という事情で。今日のテーマは、
普段から当ブログをお読みで、かつ『ゾンビランドサガ』に好意的、そして動画をご存知なかった貴方に届いてほしい…というかなり対象を絞った記事でした。
以下の佐賀県PR動画のページより、ご案内を試みます。
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00377034/index.html(佐賀県庁)※外部サイト
ご興味を持たれた方。昨年9月23日より連日配信された各動画はそれぞれ1年限りで、見られなくなるようですのでお早目に。
今夜の大河ドラマ『青天を衝け』で、ついに大隈重信が登場。オープニング画像の中では、“佐賀ことば指導”を担当する方のお名前も見かけました。
「これも、また一歩。佐賀の魅力としても、伝わると良いな。」
“佐賀のへらず口”とか称されていますが、大隈〔演:大倉孝二〕の暴れっぷりに期待は高まるところ。一方、もうすぐ見られなくなる佐賀のPR“動画”があります。
――先週、私は音楽番組の紹介をしていました。
『ゾンビランドサガ』の声優さんが、劇中のグループ名と同じ“フランシュシュ”の名で登場。私は、作品に声を吹き込む方々を映像でお見かけするに至ります。
〔参照:
そして、彼女たちの出演をもって「どのぐらい佐賀が注目された」か、その反響を調べようとしたところ。
――ある動画集を見つけました。
動画の製作者は、佐賀県庁。広報チャンネルという位置づけのようです。
最近、認識したばかりの同作の声優さん2名が、なんと佐賀県をPRするために広報チャンネルで奮闘していたのだと知ります。
1本目・佐賀県庁での指令に始まり、2本目に佐賀市営交通に触れてからの、嬉野温泉への移動で、旅館内でのサテライトオフィスを特集。
3本目は佐賀城で移住者インタビュー、4本目に吉野ヶ里のアドベンチャー、5本目・小城では涼し気な浴衣姿で、鯉料理からの滝見物。
…もはや流れは止まらない、怒涛の佐賀アピール。別のアニメですが、これも“全集中”とか形容すべきか。畳みかけるような、佐賀への集中ぶり。
――いや、それは良いとして
問題は、その動画の公開期間。例えば1本目は2020年9月23日からの1年間とあります。
「何と!このように佐賀の魅力を発信できる映像が、期間限定の公開だとは…」
一応、私は滑り込みで視聴できましたが、この落胆は大きいものがあります。
ちなみに出演は“フランシュシュ”2号(サキ役)と5号(ゆうぎり役)の声優さん。平成のヤンキーと、明治の花魁(おいらん)というキャラの組み合わせですね。
――という事情で。今日のテーマは、
普段から当ブログをお読みで、かつ『ゾンビランドサガ』に好意的、そして動画をご存知なかった貴方に届いてほしい…というかなり対象を絞った記事でした。
以下の佐賀県PR動画のページより、ご案内を試みます。
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00377034/index.html(佐賀県庁)※外部サイト
ご興味を持たれた方。昨年9月23日より連日配信された各動画はそれぞれ1年限りで、見られなくなるようですのでお早目に。
タグ :佐賀
2021年09月18日
「新キャストを考える⑤」(奥様も出演します)
こんばんは。
異様な進路を取った台風14号でしたが、佐賀は晴天を取り戻せたでしょうか。
さて先週、大河ドラマ『青天を衝け』の江藤新平のキャスト発表を語りました。
〔参照:「新キャストを考える④」(“絶望”を越えて行け)〕
しかも、どうやら次回(第27回)からは、待望の大隈重信の登場もあるようです。これは楽しみになってきました。

――「四万両の利ば、蓄えた!?」
先週の次回予告で聞こえた大隈重信〔演:大倉孝二〕のものと思われるセリフ。
通貨を“円”と定めるなど、明治新政府の会計、財務などお金の算段が絡めば大隈の姿あり…という状況ですから、この辺り『青天を衝け』でも期待できそう。
渋沢栄一〔演:吉沢亮〕をどう新政府に引っ張り込むか、『青天を衝け』での大隈の動向から目が離せそうにありません。
――8月の新キャスト発表では…
発表済だった大隈重信役に続き、その奥様役のキャスティングが判明しました。
https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/2000/453042.html(外部サイト)
その名は大隈綾子〔演:朝倉あき〕。NHK公式サイトにも、この二人は再婚同士だとか、かなり細かく情報が出ています。
演じる朝倉あきさんのイメージですが、「勤勉だが秘密を抱えている」ような役で見かけることがあり、演技力の高い女優さんだと考えています。

――大隈重信の妻として、明治を生きた女性。
大隈の母・三井子は、“女丈夫”とも言われた元気な女性でしたが、妻・綾子も、まさに“新時代を生きる女性”でした。大隈を支えながら、明治期に活躍します。
当時、強まる“西洋かぶれ”の空気感。皆が無難に洋装で出席する行事でも、堂々と和装で振る舞うこともできる。自ら考えて、行動する女性だったようです。
また、大隈が大臣への就任を渋った時に、家の奥で一瞬で説得して戻ってきた事もあるとか。「いったい何を言ったんだろうか…?」と、興味のあるところです。
――政治家・大隈重信を語るとき。
大隈の私宅には様々な人が集まり、議論を交わして、政策を形作っていきます。家を仕切る妻・綾子の力量。その存在が、大隈重信の力の源泉となります。
この辺りの活躍は『青天を衝け』の脚本家・大森美香さんが、同じく担当したNHKの朝ドラ『あさが来た』でも、少し描かれたようですね。
同番組では、たしか松坂慶子さんが“大隈綾子”を演じていました。ある場面で、大隈家が女子の学校を作るための活動拠点のようになっていたと記憶します。
〔参照(③):「“女性の活躍”をどう描くか?」(関係性①)〕

――そして『青天を衝け』版・大隈綾子役への期待。
キャストの女優・朝倉あきさんですが、2017年大河ドラマ『おんな城主直虎』にも“高瀬”という役で出演されていました。
この“高瀬姫”が複雑な役で、もともと主人公・井伊直虎〔演:柴咲コウ〕の許婚だった、井伊直親〔演:三浦春馬〕の隠し子の立場。
〔参考(同作の関連):「心に引っかかること」〕
生まれ故郷の信濃(長野)で、武田氏からスパイの役目を背負わされた過去があるが、明るく働き者の娘として生きていく。
しかも、少女時代は別の女優さんが演じていて強い印象を残している…という状況。それを途中から引き継ぐという難しい役回りでした。
――その“朝倉あき”さんが、今回の役で背負う設定。
大隈綾子は幕府旗本の娘で、実は小栗忠順の従妹(いとこ)にあたります。
小栗〔上野介〕といえば、幕府の遣米使節に抜擢されて、海外への見聞を広め、外国奉行や勘定奉行を歴任。『青天を衝け』では武田真治さんが演じました。
新キャスト発表時に特集しましたが、近代化の功績に再評価が進む人物です。
〔参照:「新キャストを考える①」(“明治の父”の1人)〕
大隈綾子は「大隈重信の奥様」というだけでなく、幕府側から“近代化の志”を受け継ぐ1人という描き方もあるかもしれません。注目しています。
異様な進路を取った台風14号でしたが、佐賀は晴天を取り戻せたでしょうか。
さて先週、大河ドラマ『青天を衝け』の江藤新平のキャスト発表を語りました。
〔参照:
しかも、どうやら次回(第27回)からは、待望の大隈重信の登場もあるようです。これは楽しみになってきました。
――「四万両の利ば、蓄えた!?」
先週の次回予告で聞こえた大隈重信〔演:大倉孝二〕のものと思われるセリフ。
通貨を“円”と定めるなど、明治新政府の会計、財務などお金の算段が絡めば大隈の姿あり…という状況ですから、この辺り『青天を衝け』でも期待できそう。
渋沢栄一〔演:吉沢亮〕をどう新政府に引っ張り込むか、『青天を衝け』での大隈の動向から目が離せそうにありません。
――8月の新キャスト発表では…
発表済だった大隈重信役に続き、その奥様役のキャスティングが判明しました。
https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/2000/453042.html(外部サイト)
その名は大隈綾子〔演:朝倉あき〕。NHK公式サイトにも、この二人は再婚同士だとか、かなり細かく情報が出ています。
演じる朝倉あきさんのイメージですが、「勤勉だが秘密を抱えている」ような役で見かけることがあり、演技力の高い女優さんだと考えています。
――大隈重信の妻として、明治を生きた女性。
大隈の母・三井子は、“女丈夫”とも言われた元気な女性でしたが、妻・綾子も、まさに“新時代を生きる女性”でした。大隈を支えながら、明治期に活躍します。
当時、強まる“西洋かぶれ”の空気感。皆が無難に洋装で出席する行事でも、堂々と和装で振る舞うこともできる。自ら考えて、行動する女性だったようです。
また、大隈が大臣への就任を渋った時に、家の奥で一瞬で説得して戻ってきた事もあるとか。「いったい何を言ったんだろうか…?」と、興味のあるところです。
――政治家・大隈重信を語るとき。
大隈の私宅には様々な人が集まり、議論を交わして、政策を形作っていきます。家を仕切る妻・綾子の力量。その存在が、大隈重信の力の源泉となります。
この辺りの活躍は『青天を衝け』の脚本家・大森美香さんが、同じく担当したNHKの朝ドラ『あさが来た』でも、少し描かれたようですね。
同番組では、たしか松坂慶子さんが“大隈綾子”を演じていました。ある場面で、大隈家が女子の学校を作るための活動拠点のようになっていたと記憶します。
〔参照(③):
――そして『青天を衝け』版・大隈綾子役への期待。
キャストの女優・朝倉あきさんですが、2017年大河ドラマ『おんな城主直虎』にも“高瀬”という役で出演されていました。
この“高瀬姫”が複雑な役で、もともと主人公・井伊直虎〔演:柴咲コウ〕の許婚だった、井伊直親〔演:三浦春馬〕の隠し子の立場。
〔参考(同作の関連):
生まれ故郷の信濃(長野)で、武田氏からスパイの役目を背負わされた過去があるが、明るく働き者の娘として生きていく。
しかも、少女時代は別の女優さんが演じていて強い印象を残している…という状況。それを途中から引き継ぐという難しい役回りでした。
――その“朝倉あき”さんが、今回の役で背負う設定。
大隈綾子は幕府旗本の娘で、実は小栗忠順の従妹(いとこ)にあたります。
小栗〔上野介〕といえば、幕府の遣米使節に抜擢されて、海外への見聞を広め、外国奉行や勘定奉行を歴任。『青天を衝け』では武田真治さんが演じました。
新キャスト発表時に特集しましたが、近代化の功績に再評価が進む人物です。
〔参照:
大隈綾子は「大隈重信の奥様」というだけでなく、幕府側から“近代化の志”を受け継ぐ1人という描き方もあるかもしれません。注目しています。
2021年09月16日
第16話「攘夷沸騰」⑯(露西亜〔ロシア〕の牙)
こんばんは。
前回、「幕末佐賀藩の大河ドラマ」イメージに急遽、登場した“対馬藩士”たち。
本当は鳥栖の“中冨記念くすり博物館”なども訪問してから書きたいのですが、現況では佐賀に帰れず、地元での取材はできないため、勢いで突き進みます。
第16話で対馬藩士を軸に描く話。「攘夷沸騰」というテーマを“佐賀”で語るために、その背景も含めて物語化を試みるものです。
〔参照(後半):「佐賀の西から佐賀の東まで(第16話・メインテーマ)」
――対馬藩の田代代官所(現・佐賀県鳥栖市)。
「平田さまは、居られるか…」
対馬本藩からの使者が、息切れ気味に語る。
「いま、領内の巡視に出ておられる。」
留守を預かる副代官も、対馬から派遣された人物。使者とは顔見知りだ。
「とにかく、急ぎの用向きだ!」
「まぁ、一息入れよ。茶でも飲むとよい。」
大体の察しは付く、異国船に絡む話だろう。まずは使者を落ち着かせねば。
「どうした、騒がしいな。」

――姿を見せた田代領の代官は、平田大江という名だ。
「平田さま…お戻りか。」
副代官は、できれば自分で対処したかった。代官の平田は“攘夷派”。この手の話だと“勇断”をしかねない。
「ああ、何事があったとね?」
平田でなくとも使者の様子を見ればわかる、これは“凶事”が起きている…と。
こうして対馬からの一報が伝えられる。発端は、対馬藩にあてて、あるロシア船が停泊許可を求めてきたところからだ。
――1861年(万延二年・文久元年)2月。
対馬沖に現れた、ロシア軍艦ポサドニック号。船体の修理という名目で、島の湾内に入りたいと打診があった。
「長崎に回航するための一時的な補修」の許可が、対馬藩の判断だった。ところが軍艦を停泊させてから1か月ほど、ロシア側は小屋など施設を築き始めた。
――当然、対馬藩は抗議した。
ロシア船の艦長・ビリリョフは、撤収に応じないどころか「対馬藩主・宗義和との会見」を要求してきたのである。
ここで先年、イギリス船が対馬海峡を測量したことを引き合いに出す。
〔参照(後半):第16話「攘夷沸騰」⑩(英国船の行方)〕

――「ロシアがイギリスから守ってやる」というが、
続く言葉が、陣取っている「“芋崎”の地を借り受けたい」である。ロシアには“凍らない港”を確保したい事情もある。占領の野心は誰の目にも明らかだった。
「これは、容易ならざる事。ただ、手をこまねいているわけにはいくまい。」
平田大江は、“攘夷”の志を持つ者。早々と対馬に渡る覚悟を決めた。
その受けとめ方は冷静だった。田代領には「支援体制を整えてほしい」というのが、対馬本藩の指示。まずは“戦支度”(いくさじたく)をせねばなるまい。
――事情は、田代領内の若者たちにも伝わった。
「いよいよだ。ついに、おいも立つべき時が来た!」
“基山の若侍”は鍛錬の傍らで手入れしていた、家伝の武具を引っ張り出した。
「人員に応じた兵糧、薬もいるな。あとはこれか…」
不測の事態に備えよと、代官所からの指示。“田代の書生”も算段をし始めた。
忙しく往来する侍、有力な町人も巻き込んで、“戦支度”は進む。薬の街・田代には強い風が吹き、砂ぼこりが立っていた。
(続く)
前回、「幕末佐賀藩の大河ドラマ」イメージに急遽、登場した“対馬藩士”たち。
本当は鳥栖の“中冨記念くすり博物館”なども訪問してから書きたいのですが、現況では佐賀に帰れず、地元での取材はできないため、勢いで突き進みます。
第16話で対馬藩士を軸に描く話。「攘夷沸騰」というテーマを“佐賀”で語るために、その背景も含めて物語化を試みるものです。
〔参照(後半):
――対馬藩の田代代官所(現・佐賀県鳥栖市)。
「平田さまは、居られるか…」
対馬本藩からの使者が、息切れ気味に語る。
「いま、領内の巡視に出ておられる。」
留守を預かる副代官も、対馬から派遣された人物。使者とは顔見知りだ。
「とにかく、急ぎの用向きだ!」
「まぁ、一息入れよ。茶でも飲むとよい。」
大体の察しは付く、異国船に絡む話だろう。まずは使者を落ち着かせねば。
「どうした、騒がしいな。」
――姿を見せた田代領の代官は、平田大江という名だ。
「平田さま…お戻りか。」
副代官は、できれば自分で対処したかった。代官の平田は“攘夷派”。この手の話だと“勇断”をしかねない。
「ああ、何事があったとね?」
平田でなくとも使者の様子を見ればわかる、これは“凶事”が起きている…と。
こうして対馬からの一報が伝えられる。発端は、対馬藩にあてて、あるロシア船が停泊許可を求めてきたところからだ。
――1861年(万延二年・文久元年)2月。
対馬沖に現れた、ロシア軍艦ポサドニック号。船体の修理という名目で、島の湾内に入りたいと打診があった。
「長崎に回航するための一時的な補修」の許可が、対馬藩の判断だった。ところが軍艦を停泊させてから1か月ほど、ロシア側は小屋など施設を築き始めた。
――当然、対馬藩は抗議した。
ロシア船の艦長・ビリリョフは、撤収に応じないどころか「対馬藩主・宗義和との会見」を要求してきたのである。
ここで先年、イギリス船が対馬海峡を測量したことを引き合いに出す。
〔参照(後半):
――「ロシアがイギリスから守ってやる」というが、
続く言葉が、陣取っている「“芋崎”の地を借り受けたい」である。ロシアには“凍らない港”を確保したい事情もある。占領の野心は誰の目にも明らかだった。
「これは、容易ならざる事。ただ、手をこまねいているわけにはいくまい。」
平田大江は、“攘夷”の志を持つ者。早々と対馬に渡る覚悟を決めた。
その受けとめ方は冷静だった。田代領には「支援体制を整えてほしい」というのが、対馬本藩の指示。まずは“戦支度”(いくさじたく)をせねばなるまい。
――事情は、田代領内の若者たちにも伝わった。
「いよいよだ。ついに、おいも立つべき時が来た!」
“基山の若侍”は鍛錬の傍らで手入れしていた、家伝の武具を引っ張り出した。
「人員に応じた兵糧、薬もいるな。あとはこれか…」
不測の事態に備えよと、代官所からの指示。“田代の書生”も算段をし始めた。
忙しく往来する侍、有力な町人も巻き込んで、“戦支度”は進む。薬の街・田代には強い風が吹き、砂ぼこりが立っていた。
(続く)
2021年09月14日
第16話「攘夷沸騰」⑮(“薬の街”に吹く風)
こんばんは。
今回から“本編”です。幕末期のドラマで、英米仏蘭の4か国はよく登場します。
一方で当時のロシア(露)の動きは、あまり紹介されないように思います。佐賀藩では長崎警備などを通じて、とりわけロシアへの警戒感が強くありました。
今回から“対馬事件”を軸に物語を展開します。1861年(万延二年・文久元年)2月に、ロシア船“ポサドニック号”が対馬に上陸。混乱は各地に広がります。
なお前回、長崎に英学修業に向かっていた、佐賀藩士(海軍伝習の経験者)に乗艦命令が出たのも、この事件への対応のためです。
〔参照(後半):第16話「攘夷沸騰」⑭(多良海道の往還)〕
…事件の当事者だった“対馬藩士”たちも、実は“佐賀”で暮らしていました。
――佐賀藩の東隣にある、対馬藩の田代(たじろ)領。
現在の鳥栖市東部・基山町にあたる地域である。
「よう、“薬屋”。また、本草(薬物)のお勉強か。」
「相変わらず、物を考えぬ男だ。もう少し書物に親しんではどうか。」
若者2人が、田代(現・佐賀県鳥栖市)の代官所の近くで軽口を叩き合う。
薬学に熱心な書生を“薬屋”と揶揄(やゆ)した若侍は、木刀を引っ提げ、武芸の鍛錬に余念が無い様子。
一方、もっと本を読め…と返答した書生は、すらりと色白。若侍の言によれば、薬学の勉強に熱心なようで、理系学生の印象。彼を“田代の書生”と呼んでおく。

――対馬藩の飛び地。田代領では、“製薬業”が盛んだった。
対馬本藩は離島のため農産には不利で、田代領はそれを補う役割があった。かつては農業の生産が落ちる心配から薬用作物の栽培が抑制されたともいう。
しかし、全国で著名な“富山の薬売り”にも比すほど頑張った、田代領の薬売りは、次第にその地位を高めた。現代風にいえば、“ブランド力”を得ていたのだ。
「かくいうお主は、侍など辞めて、薬売りの婿(むこ)に収まらんね。」
「思慮の浅かこと。もはや田代の侍が薬の事ば知らん…では通らんばい。」
書生の方は、田代領の“経済”を思慮するようだ。だんだん感情的になる2人。次第に“佐賀ことば”が強まっていく。
――当時、日本における「四大売薬」の一角となっていた、田代。
もはや製薬は、この地の産業の柱。現代の佐賀県も人口10万人あたりの薬局数が日本一というが、それには“田代売薬”の伝統が関係するという。
「学問ならばしておるぞ。もっと大きか話たい!」
「知っておる…お主が何かと“攘夷”を叫んでおるのは。」
「国ば守るのは、おいの地元の誇りやけんな。」
先ほどから書生と言い合っている若侍。武芸の鍛錬に攘夷思想。まさに典型的な幕末の志士。そして、彼の地元は基山。
古代から国を守る最前線だった“防人”(さきもり)の城だった山を眺めて育った。彼は“基山の若侍”と呼称しよう。

――小競り合いを続ける2人。
田代領にあった藩校・東明館でともに学んだ“田代の書生”と“基山の若侍”。この対馬藩の学校には藩士や役人だけでなく、庄屋などの子弟も通ったという。
「“攘夷”も良いが、命を粗末にするなよ。」
薬学の徒である“田代の書生”に身を案じられ“基山の若侍”は拍子抜けした。
「なんね、こん(の)臆病もんが…!?」
若侍は、こう言い放ったが、内心では同窓の者からの心配は受けとめたのか、今までより声がフワッとしている。
――ドドドッ…と、通りに響く足音。
突然、現れた幾人かの侍。羽織もバサバサとはためかせて、代官所の門前に駆け込むのが見えた。軽く砂ぼこりがたって、明らかに急ぎの用件と見える。
「何ね!?」
「…府中(対馬)の御城からの使者では無いか?」
“書生”の見立ては正しかった。その頃、彼らの本藩・対馬では一大事が起きていたのである。
(続く)
今回から“本編”です。幕末期のドラマで、英米仏蘭の4か国はよく登場します。
一方で当時のロシア(露)の動きは、あまり紹介されないように思います。佐賀藩では長崎警備などを通じて、とりわけロシアへの警戒感が強くありました。
今回から“対馬事件”を軸に物語を展開します。1861年(万延二年・文久元年)2月に、ロシア船“ポサドニック号”が対馬に上陸。混乱は各地に広がります。
なお前回、長崎に英学修業に向かっていた、佐賀藩士(海軍伝習の経験者)に乗艦命令が出たのも、この事件への対応のためです。
〔参照(後半):
…事件の当事者だった“対馬藩士”たちも、実は“佐賀”で暮らしていました。
――佐賀藩の東隣にある、対馬藩の田代(たじろ)領。
現在の鳥栖市東部・基山町にあたる地域である。
「よう、“薬屋”。また、本草(薬物)のお勉強か。」
「相変わらず、物を考えぬ男だ。もう少し書物に親しんではどうか。」
若者2人が、田代(現・佐賀県鳥栖市)の代官所の近くで軽口を叩き合う。
薬学に熱心な書生を“薬屋”と揶揄(やゆ)した若侍は、木刀を引っ提げ、武芸の鍛錬に余念が無い様子。
一方、もっと本を読め…と返答した書生は、すらりと色白。若侍の言によれば、薬学の勉強に熱心なようで、理系学生の印象。彼を“田代の書生”と呼んでおく。
――対馬藩の飛び地。田代領では、“製薬業”が盛んだった。
対馬本藩は離島のため農産には不利で、田代領はそれを補う役割があった。かつては農業の生産が落ちる心配から薬用作物の栽培が抑制されたともいう。
しかし、全国で著名な“富山の薬売り”にも比すほど頑張った、田代領の薬売りは、次第にその地位を高めた。現代風にいえば、“ブランド力”を得ていたのだ。
「かくいうお主は、侍など辞めて、薬売りの婿(むこ)に収まらんね。」
「思慮の浅かこと。もはや田代の侍が薬の事ば知らん…では通らんばい。」
書生の方は、田代領の“経済”を思慮するようだ。だんだん感情的になる2人。次第に“佐賀ことば”が強まっていく。
――当時、日本における「四大売薬」の一角となっていた、田代。
もはや製薬は、この地の産業の柱。現代の佐賀県も人口10万人あたりの薬局数が日本一というが、それには“田代売薬”の伝統が関係するという。
「学問ならばしておるぞ。もっと大きか話たい!」
「知っておる…お主が何かと“攘夷”を叫んでおるのは。」
「国ば守るのは、おいの地元の誇りやけんな。」
先ほどから書生と言い合っている若侍。武芸の鍛錬に攘夷思想。まさに典型的な幕末の志士。そして、彼の地元は基山。
古代から国を守る最前線だった“防人”(さきもり)の城だった山を眺めて育った。彼は“基山の若侍”と呼称しよう。
――小競り合いを続ける2人。
田代領にあった藩校・東明館でともに学んだ“田代の書生”と“基山の若侍”。この対馬藩の学校には藩士や役人だけでなく、庄屋などの子弟も通ったという。
「“攘夷”も良いが、命を粗末にするなよ。」
薬学の徒である“田代の書生”に身を案じられ“基山の若侍”は拍子抜けした。
「なんね、こん(の)臆病もんが…!?」
若侍は、こう言い放ったが、内心では同窓の者からの心配は受けとめたのか、今までより声がフワッとしている。
――ドドドッ…と、通りに響く足音。
突然、現れた幾人かの侍。羽織もバサバサとはためかせて、代官所の門前に駆け込むのが見えた。軽く砂ぼこりがたって、明らかに急ぎの用件と見える。
「何ね!?」
「…府中(対馬)の御城からの使者では無いか?」
“書生”の見立ては正しかった。その頃、彼らの本藩・対馬では一大事が起きていたのである。
(続く)