2020年03月03日

第5話「藩校立志」⑤

こんばんは。
前回の続きです。“佐賀ことば”の導入テストも兼ねております…

――長崎奉行所に対して、オランダの軍船に乗り込む交渉をしている時。

鍋島直正が、“新・長崎御番の侍”・本島藤太夫を呼び寄せる。
本島よ!“火術方の者”に(くろがね)のを見せておきたいのう…」

直正は、藩の学校大砲の実験場に自ら足を運ぶ。“現場主義”のリーダーである。

鉄製大砲を備えるという“パレンバン号”。
「ぜひ技術者に見せておきたい」というのが、直正の意向である。

直正は、佐賀藩の“火術方”で製造を担当する「刀鍛冶」や「鋳物師」のリーダーを務める2人を同行させるつもりだ。
「はっ、殿の仰せとあらば。私が見守ります。」


――そして当日、技術者(職人)もオランダ軍船に乗り込むことに。

本島が、技術者2人に言葉をかける。
不慣れな場であると思う。まずは振る舞いに気をつけてほしい。」

外交儀礼を重んじる奉行所の手前、行動に気をつけるよう念押しである。
技術第一の“職人モード”はできれば抑えてほしい。

「こん(おか)のごたぁ!」
橋本という。肥前名刀を打つ“刀鍛冶”である。

巨大オランダ軍船安定感に驚いている。



まるで揺るぎない大地からを眺めているようだ。

(くろがね)の大筒、早く見たかですばい。」
こちらは“鋳物師”。名を谷口という。

彼らの“技術”を見る目は本物だが、本島には不安があった。


――そして2人がパレンバン号の“鉄製大砲”を見た瞬間、本島の心配は的中した。

まず、口火を切ったのは谷口の方だった。
「凄かっ!こがん鋳物は見たことなかばい!」

そして、橋本が続く。形は違えど“刀鍛冶”魂が抑えられない。
「どがん(きた)えっとね!」

鉄製大砲”前で大騒ぎしている2人。もはや止まる気配がない。
苦笑するオランダ水兵たち。

本島は頭を抱えた。そして、気づく
「はっ、そういえば、殿はいずこに…」


――そして大騒ぎしているのは、彼らの殿様も一緒だった。

通詞(通訳)へ矢継ぎ早に、言葉を放つ直正
「これは、どう撃つのじゃ。はどのように込めるのじゃ!」

肥前直正)様”の異様な好奇心は、オランダ士官の想定をはるかに超える

オランダ士官が、やや当惑しながら手本を示す。
「…ハイ、コノ小銃ハデスネ。コノヨウニ…」

直正に記録係として付いてきた、古川与一(松根)。
殿には、もう少し落ち着いた姿で描きまする…」

――このとき、古川は“パレンバン号”乗船の記録として多数の絵を残している。

直正意欲に溢れる視察を続ける。
「次は、鉄の大筒を見たいぞ!案内(あない)いたせ!」

とうとうオランダ士官と直接コミュニケーションを取り始めた直正
通訳ヲ入レズトモ、肥前サマガ何ヲ見タイカ、伝ワッテマス…」

直正大砲の前で見学を続ける、鋳物師・谷口と刀鍛冶・橋本と出会う。
「おおっ、殿もお越しじゃ。」
殿!こん大筒がばい凄かです!」

下級藩士とも直接、技術談義を始めてしまう直正
「おお、かように凄いか!」
すごかですばい!」

――本島は、とりあえず長崎奉行所の役人に気を遣っておく。

「このたびは、貴重な乗船をお認めいただき、まことに忝(かたじけな)く存じます!」
「おお、本島どのか。そなたもご苦労であるな…やはり佐賀の者にはついて行けん。」


――幕府の煮え切らない態度にイライラしていた、艦長コープスは、かえって上機嫌になった。

パレンバン号艦長コープス直正の来訪に、盛大な接待の席を設けた。
「はっはっは。この国に、このような領主(大名)がいらっしゃるとは!すごい好奇心だ!」

傍にいた士官が報告する。
大砲水兵の訓練、医務室…家畜小屋から酒蔵まで、全部ご案内しています!」

ふと冷静になった艦長コープス。ポツリと言葉を発する。
肥前様について、本国(オランダ)に報告しておこう。この国を動かす人物かもしれない。」

(続く)  


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