2020年03月30日

第7話「尊王義祭」⑧

こんばんは。

藩校「弘道館」で教鞭をとる枝吉神陽。白熱する佐賀教育現場を見に来た、幕末有名人(になる人)が感銘を受けます。


――佐賀城本丸。殿・鍋島直正と、藩校の責任者・鍋島安房が会議中である。

安房から「義祭同盟」の状況について、報告を受ける直正

枝吉神陽若い者たちを引き付ける力が、秀でておるな。」
直正もよく藩校を見ている。

神陽学問は、常に“いかに用いるか”を見据えておるようです。」
安房は、いわば“校長先生”であり、カリキュラムもある程度は把握している。


――凄まじい暗記力、そして知識を応用する力を持つ神陽。

神陽…、“蘭学”も学んでくれんかのう。」
天才・枝吉神陽の能力を、佐賀科学技術にも転用できないか考える直正

殿、それはさすがに難しいかと。」
安房がやや顔をしかめる。今のままの神陽お気に入りのようだ。

後に、直正待望する“万能の研究主任”の役割は、佐野常民が担う。この頃は、医術の修業のため各地を回っていた。佐賀にはいなかったのである。


――話を戻そう。神陽は“尊王”の志が高い国学者だが、知識は“考える材料”という柔軟さも持っていた。

神陽はとにかく学生たちに考えさせる。

古典で語られる、聖人がなにゆえ“偉大”なのかを考えることだ!」
神陽は学ぶ目的を考えさせ、どう実践するかも考えさせた。


――こうして神陽のもとには“暗記”では物足らない“考える学生”が集まったのである。

古の世に、我が身置いたつもりで考えました。」
大木幡六喬任)である。“思考実験(シミュレーション)”は、大木の得意とするところである。

「ほう…大木の考え方は面白いな。」
神陽が、独特の思考法を興味を持つ。


――続いて江藤新平である。

「この法典の趣旨は“民の安寧”ではございませぬか!」
江藤が古代中国の法典について、神陽からの質問を返す。

「いや、江藤よ。その答えには、お主の“想い”が入り過ぎておる。」
神陽は、書物の内容ではなく自身理想を語ってしまっている、江藤の回答を否定した。

「先ほど、大木が語った前提を、もっと活かさねばならぬ。」
神陽の声は“鐘が鳴る”ように重厚に響いた。

「しかしながら、神陽先生!」
江藤も切り返していく。その声も“電流が走る”ような鋭さである。


――言うなれば神陽の“音響”と、江藤の“電撃”の競演。2人の間で「ゴォーン」と「ビリビリ」が繰り返される。


除夜の鐘も近い年の暮れになっていた。底冷えする空気も熱するような、激しい師弟のやり取りを凝視している、他藩からの見学者がいた。

藩校の案内役が声をかける。
吉田どの!“さがんもん”(佐賀の者)は声が大きいのだ。あまりお気になさるな。」

「いや…あの教師、“奇男子”だ!」
吉田という男、まだ20歳程度の若者である。教育者神陽傑出ぶりに打ち震えた。


――「“奇”という言葉を、またとない優れたもの」と扱うこの人物。

察しの良い方はお気づきかもしれない。長州藩士である。

九州諸国を回る長旅で、体調はボロボロだったようだが、佐賀の藩校を見学に来た。当時280人の寄宿生がいる「弘道館」。その活況を一目見ておきたかったようだ。

この藩校の見学者、7年後に長州(山口県)にある私塾“松下村塾”を引き継ぐことになる。長州藩吉田寅次郎。後の吉田松陰である。

――その“吉田どの”は、すぐに友人に手紙を書き送った。

佐賀枝吉神陽。実は私も良く知らないのだが“奇男子”である。九州に行く機会があれば、必ず会っておくべきだ!」


(続く)
  


Posted by SR at 21:29 | Comments(0) | 第7話「尊王義祭」