2020年03月17日
第6話「鉄製大砲」⑧
こんばんは。
殿・鍋島直正の気迫が届いたのか、幕府は長崎の沖合に佐賀藩の砲台を築く許可を出しました。
――リーダー本島が、岩田(神埼)の演習場に駆け込む。
「公儀(幕府)からお許しが出た!」
読解の鉄人・田中。落ち着いたまとめ役でもある。
「皆様方!いよいよでござるな。」
「腕が鳴るったい!」
肥前刀鍛冶・橋本である。“鉄を溶かす”担当。
橋本は、この事業の花形の1人と言っていい。
なぜなら“反射炉”は鉄を溶かす設備だからだ。
――砲台には、備え付ける大砲が必要である。そして、佐賀城下の“築地(ついじ)”に日本初の実用反射炉を築くことになった。
「絵図面(設計図)は、こちらにござる。」
算術家・馬場栄作。
まず、高温を出せる炉の設計を行っていた。
「では、手筈(てはず)どおり、煉瓦(レンガ)の支度を!」
会計の田代である。
物品を手配する度に“お金”が要るため、進捗の管理は田代の仕事になっていた。
「炉造りに長けた者は、一通り集めておるばい。」
鋳物師・谷口。
有田や伊万里から、炉の構築に定評のある陶工を選び、打合せを進めている。
――ついに「鋳立方の七人」が集結!…いや1人足りない。

翻訳の達人・杉谷雍助。長崎に来ている。
杉谷は、翻訳した内容が技術的に正しいか、出島まで専門家の意見を聴きにきていた。
「ここに、我らの砲が据え付けられるのだな!」
長崎の海を見遣る。
実は、砲台の建設現場にも足を伸ばしていた。
――ドボン!ドボン!
神ノ島地区の“四郎ケ島”である。
浅瀬に次々と大石が投げ込まれる。
佐賀藩は長崎でも、海に通路を造る大工事に着手していた。
神ノ島と隣接する“四郎ケ島”を地続きにしてしまい防備を固める。
「台場はお任せあれ!目の覚めるような“鉄銃”(大砲)をお届けいただきたい!」
大勢の人足を動員し、工事を仕切る担当者。
ニッ!と笑って、大砲への期待を口にした。
――佐賀城下・築地に拠点を移し、反射炉の建設が進む。

積みあがっていく耐火レンガ。
慌ただしく、現場が動いていく。
「まず、鉄を溶かさねば、話にならぬ…」
リーダー・本島は、伊豆の韮山で実験用反射炉を見学している。
温度が上がらず、あまり鉄が溶けていなかった。
「私が幾度でも計算しなおそう。正しき答えが出るまで。」
算術家・馬場から話しかけてくるのは、珍しい。
「かたじけない。馬場どの、頼りにしておる。」
本島にかかるリーダーの重圧。周囲もそれを分かっている様子だ。
――そこで、会計の田代が走り込んでくる。
「大変です!」
「田代どの!いかがした…」
いつも冷静な田代が慌てている。本島は息を呑んだ。
「大隈どのが…」
大隈信保は大砲が鋳造できた後に、試射を行い実験を担当する役割である。田代の表情から、良くない知らせであることは明らかだった。
(続く)
殿・鍋島直正の気迫が届いたのか、幕府は長崎の沖合に佐賀藩の砲台を築く許可を出しました。
――リーダー本島が、岩田(神埼)の演習場に駆け込む。
「公儀(幕府)からお許しが出た!」
読解の鉄人・田中。落ち着いたまとめ役でもある。
「皆様方!いよいよでござるな。」
「腕が鳴るったい!」
肥前刀鍛冶・橋本である。“鉄を溶かす”担当。
橋本は、この事業の花形の1人と言っていい。
なぜなら“反射炉”は鉄を溶かす設備だからだ。
――砲台には、備え付ける大砲が必要である。そして、佐賀城下の“築地(ついじ)”に日本初の実用反射炉を築くことになった。
「絵図面(設計図)は、こちらにござる。」
算術家・馬場栄作。
まず、高温を出せる炉の設計を行っていた。
「では、手筈(てはず)どおり、煉瓦(レンガ)の支度を!」
会計の田代である。
物品を手配する度に“お金”が要るため、進捗の管理は田代の仕事になっていた。
「炉造りに長けた者は、一通り集めておるばい。」
鋳物師・谷口。
有田や伊万里から、炉の構築に定評のある陶工を選び、打合せを進めている。
――ついに「鋳立方の七人」が集結!…いや1人足りない。

翻訳の達人・杉谷雍助。長崎に来ている。
杉谷は、翻訳した内容が技術的に正しいか、出島まで専門家の意見を聴きにきていた。
「ここに、我らの砲が据え付けられるのだな!」
長崎の海を見遣る。
実は、砲台の建設現場にも足を伸ばしていた。
――ドボン!ドボン!
神ノ島地区の“四郎ケ島”である。
浅瀬に次々と大石が投げ込まれる。
佐賀藩は長崎でも、海に通路を造る大工事に着手していた。
神ノ島と隣接する“四郎ケ島”を地続きにしてしまい防備を固める。
「台場はお任せあれ!目の覚めるような“鉄銃”(大砲)をお届けいただきたい!」
大勢の人足を動員し、工事を仕切る担当者。
ニッ!と笑って、大砲への期待を口にした。
――佐賀城下・築地に拠点を移し、反射炉の建設が進む。

積みあがっていく耐火レンガ。
慌ただしく、現場が動いていく。
「まず、鉄を溶かさねば、話にならぬ…」
リーダー・本島は、伊豆の韮山で実験用反射炉を見学している。
温度が上がらず、あまり鉄が溶けていなかった。
「私が幾度でも計算しなおそう。正しき答えが出るまで。」
算術家・馬場から話しかけてくるのは、珍しい。
「かたじけない。馬場どの、頼りにしておる。」
本島にかかるリーダーの重圧。周囲もそれを分かっている様子だ。
――そこで、会計の田代が走り込んでくる。
「大変です!」
「田代どの!いかがした…」
いつも冷静な田代が慌てている。本島は息を呑んだ。
「大隈どのが…」
大隈信保は大砲が鋳造できた後に、試射を行い実験を担当する役割である。田代の表情から、良くない知らせであることは明らかだった。
(続く)