2021年09月12日
「新キャストを考える④」(“絶望”を越えて行け)
こんにちは。
先日、告知したNHK総合『シブヤノオト』を視聴しました。『ゾンビランド サガ』のキャストの声優さんが、思っていた以上に“アイドル”として登場。
想定外の直球勝負だったので逆に驚きました。最近の声優さんは、本職以外で歌うだけでなく、踊れんばならんのですね…緊張が伝わってくる気もしました。
テレビ初披露という『徒花ネクロマンシー』の歌唱。未視聴の“第1シリーズ”の主題歌でしたが「絶望の中でどう突き進むか…」その歌詞に考えさせられます。
――こうして、“他事”に気を取られていた私。
本来、優先して追いかけるべき大河ドラマ『青天を衝け』では、さらに新出演者の情報が発表されていました。
かなり前に発表された大倉孝二さんが演じる大隈重信も、今までの放送回では、まだ見かけていません。
〔参照:「新キャストを考える③」(青天に、佐賀藩士がくる)〕
…それだけ大隈侯が重要キャストで、早めに発表したと理解しておきます。

――ポイントは今回、追加で発表された新キャスト。
ついに、あの方の配役が発表されました。私が確認する中では『青天を衝け』で2人目の佐賀藩士。江藤新平のキャストが、ようやく判明したのです。
https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/2000/453042.html(外部サイト)
実務能力が不足していた明治政府。江藤は持ち前の才能で次々と課題を解決。近代国家の制度を設計し、“民のための司法”を築いていきます。
政府高官でもなれ合いは許さず、不正には厳しく対処する“正義の人”だったのですが、あまりに最期が悲劇ゆえ、“ヒーロー”扱いが難しい方でもあります。
――これは並みの俳優さんでは…務まらない?
『西郷どん』で江藤新平を演じた迫田孝也さんには民放のドラマでも演技力に評価が集まっていました。迫田さんの熱い江藤には根強いファンが多い様子。
“難役”と言ってもよい、江藤新平を『青天を衝け』で演じるのは、増田修一郎(ますだ しゅういちろう)さん。
『西郷どん』のキャストにも名を連ね、薩摩藩士・有馬新七役を演じたそうです。
京の伏見で起きた“寺田屋騒動”、薩摩藩内の同士討ちの場面があったはず。増田さんの登場とは意識していませんが、壮絶なシーンだったと記憶します。

――ちなみに「大河ドラマ」以外で、お名前には見覚えがありました。
増田さんは「場面への登場は多いが、セリフは少ない」という役回りだったと思いますが、その鋭い表情と、存在感がある佇(たたず)まいが印象に残りました。
いわゆる強面(こわもて)の枠なのか、刑事や警察官以外では“悪役”での起用が多いそうですが、「大河ドラマ」の出演は、すでに3度目とあります。
NHK公式でのコメントには、江藤新平が明治政府の骨組みを作り上げた功績にも触れ「力強く演じたい」との言葉でした。
――『青天を衝け』では、
渋沢栄一の視点で考えると、江藤はあまり良く描いてもらえないと推測もします。
「“悪役”のような描かれ方をするかも…」と心配もするところ、『青天を衝け』の江藤新平役への期待は、作中に埋没せずに“強い印象”を残すこと。
「大河ドラマ」に慣れていて、存在感のある俳優さんのキャスティング。「この人が主役の物語も見たい!」となるためには、好機ではないかと思います。
――江藤新平に対する人物評で…
たしか、勝海舟だったと思いますが、こんな評価をしていたようです。
「あれは、驚いた才物だよ」と。
その一方で「ビリビリしておって、実に危うい」とも言及したようです。増田修一郎さんの険しい表情を思い返すに、この辺りの表現に期待できそうです。
“悲劇”は変えられませんが、真相を見つめ直し、未来につなげることはできる。江藤の人物像が見直される「反撃の時」は近づきつつある…そう感じます。
先日、告知したNHK総合『シブヤノオト』を視聴しました。『ゾンビランド サガ』のキャストの声優さんが、思っていた以上に“アイドル”として登場。
想定外の直球勝負だったので逆に驚きました。最近の声優さんは、本職以外で歌うだけでなく、踊れんばならんのですね…緊張が伝わってくる気もしました。
テレビ初披露という『徒花ネクロマンシー』の歌唱。未視聴の“第1シリーズ”の主題歌でしたが「絶望の中でどう突き進むか…」その歌詞に考えさせられます。
――こうして、“他事”に気を取られていた私。
本来、優先して追いかけるべき大河ドラマ『青天を衝け』では、さらに新出演者の情報が発表されていました。
かなり前に発表された大倉孝二さんが演じる大隈重信も、今までの放送回では、まだ見かけていません。
〔参照:
…それだけ大隈侯が重要キャストで、早めに発表したと理解しておきます。

――ポイントは今回、追加で発表された新キャスト。
ついに、あの方の配役が発表されました。私が確認する中では『青天を衝け』で2人目の佐賀藩士。江藤新平のキャストが、ようやく判明したのです。
https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/2000/453042.html(外部サイト)
実務能力が不足していた明治政府。江藤は持ち前の才能で次々と課題を解決。近代国家の制度を設計し、“民のための司法”を築いていきます。
政府高官でもなれ合いは許さず、不正には厳しく対処する“正義の人”だったのですが、あまりに最期が悲劇ゆえ、“ヒーロー”扱いが難しい方でもあります。
――これは並みの俳優さんでは…務まらない?
『西郷どん』で江藤新平を演じた迫田孝也さんには民放のドラマでも演技力に評価が集まっていました。迫田さんの熱い江藤には根強いファンが多い様子。
“難役”と言ってもよい、江藤新平を『青天を衝け』で演じるのは、増田修一郎(ますだ しゅういちろう)さん。
『西郷どん』のキャストにも名を連ね、薩摩藩士・有馬新七役を演じたそうです。
京の伏見で起きた“寺田屋騒動”、薩摩藩内の同士討ちの場面があったはず。増田さんの登場とは意識していませんが、壮絶なシーンだったと記憶します。

――ちなみに「大河ドラマ」以外で、お名前には見覚えがありました。
増田さんは「場面への登場は多いが、セリフは少ない」という役回りだったと思いますが、その鋭い表情と、存在感がある佇(たたず)まいが印象に残りました。
いわゆる強面(こわもて)の枠なのか、刑事や警察官以外では“悪役”での起用が多いそうですが、「大河ドラマ」の出演は、すでに3度目とあります。
NHK公式でのコメントには、江藤新平が明治政府の骨組みを作り上げた功績にも触れ「力強く演じたい」との言葉でした。
――『青天を衝け』では、
渋沢栄一の視点で考えると、江藤はあまり良く描いてもらえないと推測もします。
「“悪役”のような描かれ方をするかも…」と心配もするところ、『青天を衝け』の江藤新平役への期待は、作中に埋没せずに“強い印象”を残すこと。
「大河ドラマ」に慣れていて、存在感のある俳優さんのキャスティング。「この人が主役の物語も見たい!」となるためには、好機ではないかと思います。
――江藤新平に対する人物評で…
たしか、勝海舟だったと思いますが、こんな評価をしていたようです。
「あれは、驚いた才物だよ」と。
その一方で「ビリビリしておって、実に危うい」とも言及したようです。増田修一郎さんの険しい表情を思い返すに、この辺りの表現に期待できそうです。
“悲劇”は変えられませんが、真相を見つめ直し、未来につなげることはできる。江藤の人物像が見直される「反撃の時」は近づきつつある…そう感じます。
2021年09月09日
「佐賀の“終わらない”物語…」
こんばんは。
“本編”をお休みして雑談です。当ブログには珍しく“音楽番組”の紹介をします。
NHK総合テレビにて、9月11日(土)23時10分~放送予定「シブヤノオト」。
普段、音楽番組をあまり見ない私ですが、気になる出演者の情報を得ました。
※追記(9月11日):放送時間変更で、11日(土)23:15~と5分遅くなるようです。
――遡ること、2か月ほど前。
私は、あるアニメにどっぷりハマっていました。
もうお気づきの方も多いでしょう。『ゾンビランドサガ リベンジ』。異色のゾンビ系アイドルアニメの第2シリーズです。
作品の舞台・佐賀を“聖地”と呼ぶファンも開拓した同番組。「佐賀が主役」なので強い共感を覚え、よく話題にしますが、未だ“第1シリーズ”を見れていません。
――今年の4~6月期に放送で…
当ブログでも「…第1シリーズから見ておくんだった!」と度々つぶやきました。
〔参照①:清々しいほどの佐賀“推し”〕
〔参照②(後半):「共感の涙」〕
冒頭の音楽番組に、同作の主人公であるアイドルグループ“フランシュシュ”が、登場予定との情報。
…とは言え、元はアニメであるがゆえ、どのような出演の仕方となるか。普通に考えられるのは、キャストである若手の声優さんが、そのまま歌うという姿です。

――結構、実を結びつつある“彼女たち”の努力。
架空のキャラクターであるはずのアイドルグループ(しかもゾンビ)。放送終了後も、地道に“現実”を動かし続ける様子を見かけます。
最近では作品に登場する、佐賀の“聖地”(話の舞台となった場所)を巡るガイドブックまで出版されたと聞きます。
しかも地元・佐賀だけでなく、大都市圏にも、等身大の“フランシュシュ”メンバーがパネルで出張し、キャンペーンが展開されたのだとか。
――「なかなかの働き者(もん)ばい!」
今でも視聴者と同じ時間を歩むかのような、彼女たちの姿。熱心なファンの中には、佐賀の魅力にも気づいてしまい、移住した人まで居るとか。
…どうやら佐賀を“聖地”と想う人々は、全国にも広く分布するようです。
まだ若いキャストの声優さんが、作品を通じて成長しているという声も見かけます。どんな方が演じているかも興味のあるところ。その登場に注目しています。
――ちなみに、歌唱予定曲は…
『徒花ネクロマンシー』という楽曲。“第1シリーズ”の主題歌なのですね。
ちなみに「徒花(あだはな)」は、咲いても実を結ばない花。「ネクロマンシー」は、死者を扱う魔術…という意味合いのようです。
逆説的ですが、彼女たちが“存命”の人物の設定でないところが、かえって作品に“いまを生きている”感じを与えるようにも思います。
生死の壁は越えられない切なさもありつつ、健気で前向きな“不死のアイドル”たちの物語。NHKの音楽番組への登場が、さらに続編を予感させます。

――今後、私が期待する展開を述べます。
今回、“フランシュシュ”出演の反響いかんによっては、“第2シリーズ”の楽曲も歌唱する機会が出来るかもしれません。
そうすれば『大河よ共に泣いてくれ』というテーマ曲とともに「佐賀」が連呼されるわけで、これは痛快事になりそうです。
〔参照:「大河の中心で、佐賀を叫ぶ」〕
まずは今回の放送をチェックしようと思います。これが、佐賀にとって「反撃の時!」となることを願って。
“本編”をお休みして雑談です。当ブログには珍しく“音楽番組”の紹介をします。
NHK総合テレビにて、9月11日(土)23時10分~放送予定「シブヤノオト」。
普段、音楽番組をあまり見ない私ですが、気になる出演者の情報を得ました。
※追記(9月11日):放送時間変更で、11日(土)23:15~と5分遅くなるようです。
――遡ること、2か月ほど前。
私は、あるアニメにどっぷりハマっていました。
もうお気づきの方も多いでしょう。『ゾンビランドサガ リベンジ』。異色のゾンビ系アイドルアニメの第2シリーズです。
作品の舞台・佐賀を“聖地”と呼ぶファンも開拓した同番組。「佐賀が主役」なので強い共感を覚え、よく話題にしますが、未だ“第1シリーズ”を見れていません。
――今年の4~6月期に放送で…
当ブログでも「…第1シリーズから見ておくんだった!」と度々つぶやきました。
〔参照①:
〔参照②(後半):
冒頭の音楽番組に、同作の主人公であるアイドルグループ“フランシュシュ”が、登場予定との情報。
…とは言え、元はアニメであるがゆえ、どのような出演の仕方となるか。普通に考えられるのは、キャストである若手の声優さんが、そのまま歌うという姿です。
――結構、実を結びつつある“彼女たち”の努力。
架空のキャラクターであるはずのアイドルグループ(しかもゾンビ)。放送終了後も、地道に“現実”を動かし続ける様子を見かけます。
最近では作品に登場する、佐賀の“聖地”(話の舞台となった場所)を巡るガイドブックまで出版されたと聞きます。
しかも地元・佐賀だけでなく、大都市圏にも、等身大の“フランシュシュ”メンバーがパネルで出張し、キャンペーンが展開されたのだとか。
――「なかなかの働き者(もん)ばい!」
今でも視聴者と同じ時間を歩むかのような、彼女たちの姿。熱心なファンの中には、佐賀の魅力にも気づいてしまい、移住した人まで居るとか。
…どうやら佐賀を“聖地”と想う人々は、全国にも広く分布するようです。
まだ若いキャストの声優さんが、作品を通じて成長しているという声も見かけます。どんな方が演じているかも興味のあるところ。その登場に注目しています。
――ちなみに、歌唱予定曲は…
『徒花ネクロマンシー』という楽曲。“第1シリーズ”の主題歌なのですね。
ちなみに「徒花(あだはな)」は、咲いても実を結ばない花。「ネクロマンシー」は、死者を扱う魔術…という意味合いのようです。
逆説的ですが、彼女たちが“存命”の人物の設定でないところが、かえって作品に“いまを生きている”感じを与えるようにも思います。
生死の壁は越えられない切なさもありつつ、健気で前向きな“不死のアイドル”たちの物語。NHKの音楽番組への登場が、さらに続編を予感させます。
――今後、私が期待する展開を述べます。
今回、“フランシュシュ”出演の反響いかんによっては、“第2シリーズ”の楽曲も歌唱する機会が出来るかもしれません。
そうすれば『大河よ共に泣いてくれ』というテーマ曲とともに「佐賀」が連呼されるわけで、これは痛快事になりそうです。
〔参照:
まずは今回の放送をチェックしようと思います。これが、佐賀にとって「反撃の時!」となることを願って。
タグ :佐賀
2021年09月07日
第16話「攘夷沸騰」⑭(多良海道の往還)
こんばんは。
体調の不良もあって、この頃、すでに隠居を準備していた殿・鍋島直正。真意は「自由に活動できる身分を求めた」からとも言われます。
直正が指名した佐賀藩士たちは、新しい学問・“英学”への道を突き進みます。しかし、長崎で彼らを待つのは、意外な指示でした。

――長崎街道を西へ。次いで海沿いに進む。
鹿島の肥前浜宿を抜け、現在では佐賀と長崎の県境にまたがる“多良海道”を進む一同。ほどよい有明の潮風が、くすぐったく頬を撫でる。
大隈八太郎(重信)は上機嫌だ。
「小出さん、先生の名は何と言いよったかね?」
「名は“フルベッキ”氏…とお聞きする。」
小出千之助が、先生となる人物について説明を続ける。
「生まれはオランダだが、アメリカで暮らしたゆえ“英語”を遣う。」
「そがんね!それは、楽しみばい。」
大隈のこの表情は、概ね予想どおりだ…小出も微笑んだ。

――少し、空気感が違う者も。同じ道を行く
無言で、ずっと難しい顔をしているのが、秀島藤之助。咸臨丸に乗り、アメリカへの往復を経てから、より忙しい日々を送っている。
〔参照:第14話「遣米使節」⑧(孤高のエンジニア)〕
技術者として“精錬方”と新型大砲の研究を進めるが、切羽詰まった印象だ。
「螺旋(らせん)を掘る“長さ”が問題なのか…」
歩きながらも“砲身”の金属をどう加工・調整するか、思案している様子だ。とても話しかけられる雰囲気ではない。
――他にも2人が同行している。
分岐のある長崎街道だが、接続する“多良海道”も山寄りと海沿いの道がある。佐賀藩内から出ることなく、長崎に向かう事ができる道は…何かと都合が良い。
蘭学寮から、海軍伝習でも一緒だった、石丸虎五郎(安世)と中牟田倉之助が、小声で話している。
「中牟田よ…、いまの秀島さんをどう思う。」
「ずっと“算術”ば、なさってますね。」
「アメリカに渡ってから、この様子と聞く。“洋行”は人を変えるのだろうか。」
「海の向こう側で、何を見られたかですな。」
秀島のやや尋常ではない様子が気になる、石丸の方が年上だ。算術が得意な中牟田は、大隈と同年代だが、淡々と答える様が落ち着いている。

――“多良海道”の西側・諫早を経て、長崎も目前となった時。
身なりのしっかりした乗馬の侍が近寄る。長崎からの伝令だという。
「海軍伝習を経た者は、長崎に着き次第、直ちに仕度をしてほしい。」
伝令役となったのは、現在は長崎県である“諫早領”の佐賀藩士だ。長崎港を守る役目に深い関わりがある。
「ここに秀島、石丸…それに中牟田まで居るとは幸いだ。」
3名の海軍伝習での活躍ぶりを知るのか、伝令役は安堵の表情だ。
「御用(ごよう)の向きは、何と…?」
石丸虎五郎(安世)が、一報を運んできた伝令役に尋ねる。少し年配の伝令役は気が急いたか、下馬から話し続けだったが、ここはひと呼吸おいた。
――伝令役の一言により、がらりと変わる周囲の空気。
石丸の質問への返事は事務的だったが、問題はその中身だ。
「三名は“電流丸”への乗艦を要すゆえ、その心づもりをされたい」と。
ともに勉強するはずの先輩たちに下った、急な“出帆”の命令。大隈は困惑した。
「何ね?また、置き去りになっとね。」
どうやら緊急事態が生じたらしい。海軍伝習に参加していない大隈。まるで、“蚊帳(かや)の外”だ。
「常ならざる事が起きたようだが、大隈だけでも学問を進めねばな。」
この小出の一言。もっと話に絡みたい大隈は、少し釈然としない表情を見せた。
(続く)
参考記事(後半):「佐賀と長崎をつなぐもの」〔諫早駅〕
体調の不良もあって、この頃、すでに隠居を準備していた殿・鍋島直正。真意は「自由に活動できる身分を求めた」からとも言われます。
直正が指名した佐賀藩士たちは、新しい学問・“英学”への道を突き進みます。しかし、長崎で彼らを待つのは、意外な指示でした。
――長崎街道を西へ。次いで海沿いに進む。
鹿島の肥前浜宿を抜け、現在では佐賀と長崎の県境にまたがる“多良海道”を進む一同。ほどよい有明の潮風が、くすぐったく頬を撫でる。
大隈八太郎(重信)は上機嫌だ。
「小出さん、先生の名は何と言いよったかね?」
「名は“フルベッキ”氏…とお聞きする。」
小出千之助が、先生となる人物について説明を続ける。
「生まれはオランダだが、アメリカで暮らしたゆえ“英語”を遣う。」
「そがんね!それは、楽しみばい。」
大隈のこの表情は、概ね予想どおりだ…小出も微笑んだ。
――少し、空気感が違う者も。同じ道を行く
無言で、ずっと難しい顔をしているのが、秀島藤之助。咸臨丸に乗り、アメリカへの往復を経てから、より忙しい日々を送っている。
〔参照:
技術者として“精錬方”と新型大砲の研究を進めるが、切羽詰まった印象だ。
「螺旋(らせん)を掘る“長さ”が問題なのか…」
歩きながらも“砲身”の金属をどう加工・調整するか、思案している様子だ。とても話しかけられる雰囲気ではない。
――他にも2人が同行している。
分岐のある長崎街道だが、接続する“多良海道”も山寄りと海沿いの道がある。佐賀藩内から出ることなく、長崎に向かう事ができる道は…何かと都合が良い。
蘭学寮から、海軍伝習でも一緒だった、石丸虎五郎(安世)と中牟田倉之助が、小声で話している。
「中牟田よ…、いまの秀島さんをどう思う。」
「ずっと“算術”ば、なさってますね。」
「アメリカに渡ってから、この様子と聞く。“洋行”は人を変えるのだろうか。」
「海の向こう側で、何を見られたかですな。」
秀島のやや尋常ではない様子が気になる、石丸の方が年上だ。算術が得意な中牟田は、大隈と同年代だが、淡々と答える様が落ち着いている。
――“多良海道”の西側・諫早を経て、長崎も目前となった時。
身なりのしっかりした乗馬の侍が近寄る。長崎からの伝令だという。
「海軍伝習を経た者は、長崎に着き次第、直ちに仕度をしてほしい。」
伝令役となったのは、現在は長崎県である“諫早領”の佐賀藩士だ。長崎港を守る役目に深い関わりがある。
「ここに秀島、石丸…それに中牟田まで居るとは幸いだ。」
3名の海軍伝習での活躍ぶりを知るのか、伝令役は安堵の表情だ。
「御用(ごよう)の向きは、何と…?」
石丸虎五郎(安世)が、一報を運んできた伝令役に尋ねる。少し年配の伝令役は気が急いたか、下馬から話し続けだったが、ここはひと呼吸おいた。
――伝令役の一言により、がらりと変わる周囲の空気。
石丸の質問への返事は事務的だったが、問題はその中身だ。
「三名は“電流丸”への乗艦を要すゆえ、その心づもりをされたい」と。
ともに勉強するはずの先輩たちに下った、急な“出帆”の命令。大隈は困惑した。
「何ね?また、置き去りになっとね。」
どうやら緊急事態が生じたらしい。海軍伝習に参加していない大隈。まるで、“蚊帳(かや)の外”だ。
「常ならざる事が起きたようだが、大隈だけでも学問を進めねばな。」
この小出の一言。もっと話に絡みたい大隈は、少し釈然としない表情を見せた。
(続く)
参考記事(後半):
2021年09月05日
第16話「攘夷沸騰」⑬(あの者にも英学を)
こんにちは。
ようやく第16話の構成がまとまりました。まずは、前回の続きから。
渡米後、世界を一周して帰国した小出千之助が語る“英学”の価値。
この頃、胃腸の具合が芳しくない佐賀藩主・鍋島直正ですが、眼前に広がる“世界”に、心は動きます。
――佐賀城の本丸御殿。
相変わらず、前かがみに座る殿・鍋島直正。
調子の悪いお腹をかばいがちになり、かえって胃を圧迫する。良くない傾向だ。
「殿…、そこまで“前のめり”にならずとも。」
側近・古川が、いかにも胃に負担のかかる、殿・直正の姿勢を正そうとする。
――直正が夢中なのは、佐賀藩士たちが収集した品。
興味深いアメリカの文物が詰め合わせられた、日本でここにしかない“一箱”だ。
「これは…、医術の道具か。」
「川崎道民が持ち帰ったもののようにございます。」
アメリカで外科手術を見学し、道具(医療器具)も入手してきた佐賀藩の医者・川崎道民も『遣米使節』の同行者の1人だった。
〔参照:第15話「江戸動乱」③(異郷で見た気球〔バルーン〕)〕

――その時、表から「小出千之助が参りました。」と告げる声。
「小出か、近う寄れ。」
「はっ。」
「お主から建言のあった“英学”の伝習だが、幾人かめぼしき者を選んだ。」
「早速のお聞き入れ…恐悦の至り!」
「いや良くぞ、申した。メリケン(アメリカ)に小出を遣わした値打ちがあった。」
直正は、小出の懸命な進言を受け止めていた。
――先だって小出は、佐賀藩内での“英学”伝習を進言した。
殿・直正にも「“蘭学”のみでは世界に後れを取る!」とハッキリと述べたのだ。
ここで、英語を学ぶ者として選ばれた面々を、今までの活躍とともに紹介しよう。以下の3人は、全員が長崎の海軍伝習の経験者である。
〇秀島藤之助
『遣米使節』の“護衛”として太平洋横断した咸臨丸でアメリカに渡った技術者。
〔参照:第14話「遣米使節」⑭(太平洋の嵐)〕
〇石丸安世(虎五郎)
蘭学寮に学び、語学や科学の才能に長じる。電信に興味を持つ。
〔参照(中盤):第12話「海軍伝習」⑩-2(負けんばい!・後編)〕
〇中牟田倉之助
算術が得意で長崎でオランダ海軍の技術に習熟。軍人として期待される。
〔参照(後半):第12話「海軍伝習」⑨-2(悔しかごたぁ・後編)〕
――小出は、“ポン”と膝を打った。
「これは、殿の御前で、ご無礼をいたしました!」
あまりに良い人選だった。小出はつい喜びを表してしまう。
殿・直正が、慌てる小出の姿を見て笑う。
「左様(さよう)に嬉しいか。良き者たちを選んだであろう。」
「はい!ありがたき幸せ。これで佐賀の英学は進みまする!」
「長崎にメリケン(アメリカ)の者が居るな。伝習を受けると良いぞ。」

――小出千之助。殿の力強い後押しに、明るい表情だ。
そこで直正は少しの間、思案する。
「…そうだ、あの者も行かせておくか。」
「…どの者を。」
「大隈だな。大隈八太郎も、長崎に連れて行くとよい。」
「はっ。」
小出は内心では苦笑した。選ばれた大隈の反応が楽しみだったからだ。
これから、佐賀藩では次々と英語学習者を指名していくことになる。
(続く)
ようやく第16話の構成がまとまりました。まずは、前回の続きから。
渡米後、世界を一周して帰国した小出千之助が語る“英学”の価値。
この頃、胃腸の具合が芳しくない佐賀藩主・鍋島直正ですが、眼前に広がる“世界”に、心は動きます。
――佐賀城の本丸御殿。
相変わらず、前かがみに座る殿・鍋島直正。
調子の悪いお腹をかばいがちになり、かえって胃を圧迫する。良くない傾向だ。
「殿…、そこまで“前のめり”にならずとも。」
側近・古川が、いかにも胃に負担のかかる、殿・直正の姿勢を正そうとする。
――直正が夢中なのは、佐賀藩士たちが収集した品。
興味深いアメリカの文物が詰め合わせられた、日本でここにしかない“一箱”だ。
「これは…、医術の道具か。」
「川崎道民が持ち帰ったもののようにございます。」
アメリカで外科手術を見学し、道具(医療器具)も入手してきた佐賀藩の医者・川崎道民も『遣米使節』の同行者の1人だった。
〔参照:
――その時、表から「小出千之助が参りました。」と告げる声。
「小出か、近う寄れ。」
「はっ。」
「お主から建言のあった“英学”の伝習だが、幾人かめぼしき者を選んだ。」
「早速のお聞き入れ…恐悦の至り!」
「いや良くぞ、申した。メリケン(アメリカ)に小出を遣わした値打ちがあった。」
直正は、小出の懸命な進言を受け止めていた。
――先だって小出は、佐賀藩内での“英学”伝習を進言した。
殿・直正にも「“蘭学”のみでは世界に後れを取る!」とハッキリと述べたのだ。
ここで、英語を学ぶ者として選ばれた面々を、今までの活躍とともに紹介しよう。以下の3人は、全員が長崎の海軍伝習の経験者である。
〇秀島藤之助
『遣米使節』の“護衛”として太平洋横断した咸臨丸でアメリカに渡った技術者。
〔参照:
〇石丸安世(虎五郎)
蘭学寮に学び、語学や科学の才能に長じる。電信に興味を持つ。
〔参照(中盤):
〇中牟田倉之助
算術が得意で長崎でオランダ海軍の技術に習熟。軍人として期待される。
〔参照(後半):
――小出は、“ポン”と膝を打った。
「これは、殿の御前で、ご無礼をいたしました!」
あまりに良い人選だった。小出はつい喜びを表してしまう。
殿・直正が、慌てる小出の姿を見て笑う。
「左様(さよう)に嬉しいか。良き者たちを選んだであろう。」
「はい!ありがたき幸せ。これで佐賀の英学は進みまする!」
「長崎にメリケン(アメリカ)の者が居るな。伝習を受けると良いぞ。」

――小出千之助。殿の力強い後押しに、明るい表情だ。
そこで直正は少しの間、思案する。
「…そうだ、あの者も行かせておくか。」
「…どの者を。」
「大隈だな。大隈八太郎も、長崎に連れて行くとよい。」
「はっ。」
小出は内心では苦笑した。選ばれた大隈の反応が楽しみだったからだ。
これから、佐賀藩では次々と英語学習者を指名していくことになる。
(続く)
2021年09月02日
「佐賀の西から佐賀の東まで(第16話・メインテーマ)」
こんばんは。
前回、第16話のカギを握る人物・小栗忠順(おぐり ただまさ)の話題が出ました。もう少し後に、小栗上野介(こうずけのすけ)と名乗る幕府の官僚。
のちに大隈重信は小栗を“近代化”の立役者として絶賛しています。
有能過ぎる人材の運命は…『青天を衝け』で目撃した方も多いはず。武田真治さん、好演でした。
〔参照:「新キャストを考える①」(“明治の父”の1人)〕
――『青天』では“勘定奉行”の時期でしたが…
アメリカの使節派遣から世界一周して帰国。小栗忠順は幕府で“外国奉行”の任に就きます。
1861年(万延二年・文久元年)。現在の長崎県・対馬で起きた“ある事件”の対応に向かうことに。
「この事件を、佐賀からの視点で描く」というのが、実は第16話の主題です。
――それは、幕末期の“佐賀”の話。
もちろん当ブログの主役は“佐賀藩”なのですが、現・佐賀市周辺だけを描くと、何か大事なことが伝わらない気がします。
現在の“佐賀県”には、佐賀藩の各地域だけでなく、唐津藩も対馬藩(田代領)も存在したのだから。
それは、もし「幕末佐賀藩の大河ドラマ」が実現してもナレーションで、場面転換のワンカットで、あるいは地図だけで語られる内容かもしれません。

――でも、あえて“本編”で書いてみたい。
「佐賀の西から、佐賀の東まで」車を走らせても、電車に乗っても。相当、遠い道のりのはず。
今回、イメージするのは「陶磁器の港・伊万里」から「田代売薬で知られた鳥栖」までの話。「佐賀横断 大河ドラマ」のイメージを試みたいとの意図もあります。
いざ描いてみると前半では、そんな“地域性”は充分に表現できていません。
〔参照(後半):「スケジュールの合わんばい!(第16話・場面解説②)」〕
――そして、佐賀県の東端と言えば…
佐賀藩ではなく、対馬藩(田代領)になります。現在では鳥栖市東部や基山町にあたる地域。
この田代領の藩校が、今年の甲子園出場校(佐賀県代表)の高校名の由来にもなった“東明館”だそうです。
…後半の一部記事では、この地にも視点を置いてみたいと思います。
そこで活躍するのは、私の望む『大河ドラマ』が実現したとしても、役名はたぶん“対馬藩士”とか“田代領の侍”などになる人々。

――「攘夷沸騰」というタイトルに込めた意味。
その舞台までも“佐賀”で表現する試み。久しぶりに“架空の人物”が中心の話。一瞬の登場で幕末を生きた、鳥栖や基山の対馬藩士が表現できるか。
一方、伊万里周辺の設定で、いつも通りの佐賀藩士の活躍も描きたいです。
いろいろと欲張っているわりに写真も不足、想像に頼る部分も多い…と、前途多難な“特別編”ですが、気長にご覧ください。
前回、第16話のカギを握る人物・小栗忠順(おぐり ただまさ)の話題が出ました。もう少し後に、小栗上野介(こうずけのすけ)と名乗る幕府の官僚。
のちに大隈重信は小栗を“近代化”の立役者として絶賛しています。
有能過ぎる人材の運命は…『青天を衝け』で目撃した方も多いはず。武田真治さん、好演でした。
〔参照:
――『青天』では“勘定奉行”の時期でしたが…
アメリカの使節派遣から世界一周して帰国。小栗忠順は幕府で“外国奉行”の任に就きます。
1861年(万延二年・文久元年)。現在の長崎県・対馬で起きた“ある事件”の対応に向かうことに。
「この事件を、佐賀からの視点で描く」というのが、実は第16話の主題です。
――それは、幕末期の“佐賀”の話。
もちろん当ブログの主役は“佐賀藩”なのですが、現・佐賀市周辺だけを描くと、何か大事なことが伝わらない気がします。
現在の“佐賀県”には、佐賀藩の各地域だけでなく、唐津藩も対馬藩(田代領)も存在したのだから。
それは、もし「幕末佐賀藩の大河ドラマ」が実現してもナレーションで、場面転換のワンカットで、あるいは地図だけで語られる内容かもしれません。
――でも、あえて“本編”で書いてみたい。
「佐賀の西から、佐賀の東まで」車を走らせても、電車に乗っても。相当、遠い道のりのはず。
今回、イメージするのは「陶磁器の港・伊万里」から「田代売薬で知られた鳥栖」までの話。「佐賀横断 大河ドラマ」のイメージを試みたいとの意図もあります。
いざ描いてみると前半では、そんな“地域性”は充分に表現できていません。
〔参照(後半):
――そして、佐賀県の東端と言えば…
佐賀藩ではなく、対馬藩(田代領)になります。現在では鳥栖市東部や基山町にあたる地域。
この田代領の藩校が、今年の甲子園出場校(佐賀県代表)の高校名の由来にもなった“東明館”だそうです。
…後半の一部記事では、この地にも視点を置いてみたいと思います。
そこで活躍するのは、私の望む『大河ドラマ』が実現したとしても、役名はたぶん“対馬藩士”とか“田代領の侍”などになる人々。

――「攘夷沸騰」というタイトルに込めた意味。
その舞台までも“佐賀”で表現する試み。久しぶりに“架空の人物”が中心の話。一瞬の登場で幕末を生きた、鳥栖や基山の対馬藩士が表現できるか。
一方、伊万里周辺の設定で、いつも通りの佐賀藩士の活躍も描きたいです。
いろいろと欲張っているわりに写真も不足、想像に頼る部分も多い…と、前途多難な“特別編”ですが、気長にご覧ください。