2021年09月05日
第16話「攘夷沸騰」⑬(あの者にも英学を)
こんにちは。
ようやく第16話の構成がまとまりました。まずは、前回の続きから。
渡米後、世界を一周して帰国した小出千之助が語る“英学”の価値。
この頃、胃腸の具合が芳しくない佐賀藩主・鍋島直正ですが、眼前に広がる“世界”に、心は動きます。
――佐賀城の本丸御殿。
相変わらず、前かがみに座る殿・鍋島直正。
調子の悪いお腹をかばいがちになり、かえって胃を圧迫する。良くない傾向だ。
「殿…、そこまで“前のめり”にならずとも。」
側近・古川が、いかにも胃に負担のかかる、殿・直正の姿勢を正そうとする。
――直正が夢中なのは、佐賀藩士たちが収集した品。
興味深いアメリカの文物が詰め合わせられた、日本でここにしかない“一箱”だ。
「これは…、医術の道具か。」
「川崎道民が持ち帰ったもののようにございます。」
アメリカで外科手術を見学し、道具(医療器具)も入手してきた佐賀藩の医者・川崎道民も『遣米使節』の同行者の1人だった。
〔参照:第15話「江戸動乱」③(異郷で見た気球〔バルーン〕)〕

――その時、表から「小出千之助が参りました。」と告げる声。
「小出か、近う寄れ。」
「はっ。」
「お主から建言のあった“英学”の伝習だが、幾人かめぼしき者を選んだ。」
「早速のお聞き入れ…恐悦の至り!」
「いや良くぞ、申した。メリケン(アメリカ)に小出を遣わした値打ちがあった。」
直正は、小出の懸命な進言を受け止めていた。
――先だって小出は、佐賀藩内での“英学”伝習を進言した。
殿・直正にも「“蘭学”のみでは世界に後れを取る!」とハッキリと述べたのだ。
ここで、英語を学ぶ者として選ばれた面々を、今までの活躍とともに紹介しよう。以下の3人は、全員が長崎の海軍伝習の経験者である。
〇秀島藤之助
『遣米使節』の“護衛”として太平洋横断した咸臨丸でアメリカに渡った技術者。
〔参照:第14話「遣米使節」⑭(太平洋の嵐)〕
〇石丸安世(虎五郎)
蘭学寮に学び、語学や科学の才能に長じる。電信に興味を持つ。
〔参照(中盤):第12話「海軍伝習」⑩-2(負けんばい!・後編)〕
〇中牟田倉之助
算術が得意で長崎でオランダ海軍の技術に習熟。軍人として期待される。
〔参照(後半):第12話「海軍伝習」⑨-2(悔しかごたぁ・後編)〕
――小出は、“ポン”と膝を打った。
「これは、殿の御前で、ご無礼をいたしました!」
あまりに良い人選だった。小出はつい喜びを表してしまう。
殿・直正が、慌てる小出の姿を見て笑う。
「左様(さよう)に嬉しいか。良き者たちを選んだであろう。」
「はい!ありがたき幸せ。これで佐賀の英学は進みまする!」
「長崎にメリケン(アメリカ)の者が居るな。伝習を受けると良いぞ。」

――小出千之助。殿の力強い後押しに、明るい表情だ。
そこで直正は少しの間、思案する。
「…そうだ、あの者も行かせておくか。」
「…どの者を。」
「大隈だな。大隈八太郎も、長崎に連れて行くとよい。」
「はっ。」
小出は内心では苦笑した。選ばれた大隈の反応が楽しみだったからだ。
これから、佐賀藩では次々と英語学習者を指名していくことになる。
(続く)
ようやく第16話の構成がまとまりました。まずは、前回の続きから。
渡米後、世界を一周して帰国した小出千之助が語る“英学”の価値。
この頃、胃腸の具合が芳しくない佐賀藩主・鍋島直正ですが、眼前に広がる“世界”に、心は動きます。
――佐賀城の本丸御殿。
相変わらず、前かがみに座る殿・鍋島直正。
調子の悪いお腹をかばいがちになり、かえって胃を圧迫する。良くない傾向だ。
「殿…、そこまで“前のめり”にならずとも。」
側近・古川が、いかにも胃に負担のかかる、殿・直正の姿勢を正そうとする。
――直正が夢中なのは、佐賀藩士たちが収集した品。
興味深いアメリカの文物が詰め合わせられた、日本でここにしかない“一箱”だ。
「これは…、医術の道具か。」
「川崎道民が持ち帰ったもののようにございます。」
アメリカで外科手術を見学し、道具(医療器具)も入手してきた佐賀藩の医者・川崎道民も『遣米使節』の同行者の1人だった。
〔参照:
――その時、表から「小出千之助が参りました。」と告げる声。
「小出か、近う寄れ。」
「はっ。」
「お主から建言のあった“英学”の伝習だが、幾人かめぼしき者を選んだ。」
「早速のお聞き入れ…恐悦の至り!」
「いや良くぞ、申した。メリケン(アメリカ)に小出を遣わした値打ちがあった。」
直正は、小出の懸命な進言を受け止めていた。
――先だって小出は、佐賀藩内での“英学”伝習を進言した。
殿・直正にも「“蘭学”のみでは世界に後れを取る!」とハッキリと述べたのだ。
ここで、英語を学ぶ者として選ばれた面々を、今までの活躍とともに紹介しよう。以下の3人は、全員が長崎の海軍伝習の経験者である。
〇秀島藤之助
『遣米使節』の“護衛”として太平洋横断した咸臨丸でアメリカに渡った技術者。
〔参照:
〇石丸安世(虎五郎)
蘭学寮に学び、語学や科学の才能に長じる。電信に興味を持つ。
〔参照(中盤):
〇中牟田倉之助
算術が得意で長崎でオランダ海軍の技術に習熟。軍人として期待される。
〔参照(後半):
――小出は、“ポン”と膝を打った。
「これは、殿の御前で、ご無礼をいたしました!」
あまりに良い人選だった。小出はつい喜びを表してしまう。
殿・直正が、慌てる小出の姿を見て笑う。
「左様(さよう)に嬉しいか。良き者たちを選んだであろう。」
「はい!ありがたき幸せ。これで佐賀の英学は進みまする!」
「長崎にメリケン(アメリカ)の者が居るな。伝習を受けると良いぞ。」

――小出千之助。殿の力強い後押しに、明るい表情だ。
そこで直正は少しの間、思案する。
「…そうだ、あの者も行かせておくか。」
「…どの者を。」
「大隈だな。大隈八太郎も、長崎に連れて行くとよい。」
「はっ。」
小出は内心では苦笑した。選ばれた大隈の反応が楽しみだったからだ。
これから、佐賀藩では次々と英語学習者を指名していくことになる。
(続く)
Posted by SR at 15:18 | Comments(0) | 第16話「攘夷沸騰」
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