2021年09月30日
第16話「攘夷沸騰」⑳(基山の誇り、田代の想い)
こんばんは。
幕府の外国奉行・小栗忠順が挑んだ、対馬からのロシア船退去交渉は不調に終わりました。
1861年(文久元年)夏。事態は長期化。佐賀藩が蒸気船で警戒を続ける中、幕府は、“禁断の一手”を遣って、事件の解決を狙います。
「佐賀藩の大河ドラマ」ならば、ナレーションや大河ドラマ紀行で語る場面かもしれませんが、あえて“本編”で描きました。
第16話で展開した“特別編”のまとめ。対馬藩側の“もう1つのエンディング”。田代領(現・佐賀県基山町・鳥栖市東部)の物語としてご覧ください。
〔参照①:第16話「攘夷沸騰」⑮(“薬の街”に吹く風)〕
〔参照②:第16話「攘夷沸騰」⑯(露西亜〔ロシア〕の牙)〕
――対馬に居座るロシア船。藩士や領民の我慢は限界に近づく。
「もう、堪忍ならんばい!今度こそ、打払ってやる!」
攘夷を志す“基山の若侍”が、対馬の海に吠える。
とうに季節は春を過ぎ、田代領の侍も初夏には海を渡り、対馬に陣取っている。
「…落ち着け。異人を追い払うにも、その短気では仕損じる。」

――“田代の書生”が謎の丸薬を、若侍の口に放り込む。
「ん…ぐぐっ。」
「田代が誇る“置き薬”の一つだ。気が鎮まるぞ。」
「苦い…っ!」
「“良薬は口に苦し”だ!我慢しろ。」
ロシア側の陣地と睨み合うこと数か月。田代領の藩士を率いて、対馬に渡った代官・平田大江の指揮のもと砲台を敷設し始めていた。
――警備にあたる農民と、ロシア兵が衝突している。
「今度こそ、夷狄(いてき)を斬ってやる。」
死角から奇襲をかける狙い。“基山の若侍”が走り込む構えを見せた。
「待て、先ずこれで撃つ。」
全面衝突は、代官・平田大江から止められている。平田もまた攘夷派ではあったが、冷静さを保っていた。
“田代の書生”は物影へと回り込み、密かに入手していた“新式銃”で、ロシア兵の足元を狙う。
キュン!…
――絶妙の地点にはじける、銃弾。
どこから飛んできたか、弾の出所はわかりづらい。“第三者の影”に、ロシア兵、地元の農民の双方とも、ひとまず退いた。こうして延々と小競り合いが続く。
「…お主、結構やるんだな。」
対馬に来てからの“田代の書生”の思わぬ頑張りに感心する“基山の若侍”。
その時、“若侍”の方が、沖合を見つめた。
「おい、あれを見らんね。」

――そこには、複数の蒸気軍艦の船影。
「今度は、何ね…?」
それらの船影は、イギリスの軍艦だった。
「先行きのわからんな…」
“田代の書生”も、状況が飲み込めていない。
実はイギリスの総領事・オールコックが、幕府に充てて“対馬事件”への介入を提案していた。
――ほどなく、ロシア側が撤収を始める。
幕府はイギリスの力を借りる決断をした。「毒を以て、毒を制す」作戦に賭けたのだが、これはロシア側としては、避けたい筋書きだったようだ。
あれほど居座ったロシア軍艦・ポサドニック号が、あっさり対馬を離れていく。
「ここ数か月は、何だったのか…」
いつになく気抜けする“田代の書生”に、“基山の若侍”が語り始めた。
「おいには、わかった事がある。」
田代領代官・平田大江は、対馬藩の上層部から勝手に兵を出したと叱責されたが、その行動力は若い藩士に存在感を示していた。
――“基山の若侍”が、語った決意。
「平田さまのもとで長州(山口)と結び、今度こそ“攘夷”を進めんばならん。」
「お主に手は貸そう。ただ、命は粗末にするなよ。」
田代の薬は、健やかに生きるためのものだ。しかし、そんな“書生”の想いとは裏腹に、ここから対馬藩は泥沼の内紛へと突入していく。
幕末期。外交危機に直面した対馬藩。2人の若い藩士は、現在で言えば“佐賀の若者”だった。その姿を“佐賀の物語”の1つとして記す。
(第16話 完)
幕府の外国奉行・小栗忠順が挑んだ、対馬からのロシア船退去交渉は不調に終わりました。
1861年(文久元年)夏。事態は長期化。佐賀藩が蒸気船で警戒を続ける中、幕府は、“禁断の一手”を遣って、事件の解決を狙います。
「佐賀藩の大河ドラマ」ならば、ナレーションや大河ドラマ紀行で語る場面かもしれませんが、あえて“本編”で描きました。
第16話で展開した“特別編”のまとめ。対馬藩側の“もう1つのエンディング”。田代領(現・佐賀県基山町・鳥栖市東部)の物語としてご覧ください。
〔参照①:
〔参照②:
――対馬に居座るロシア船。藩士や領民の我慢は限界に近づく。
「もう、堪忍ならんばい!今度こそ、打払ってやる!」
攘夷を志す“基山の若侍”が、対馬の海に吠える。
とうに季節は春を過ぎ、田代領の侍も初夏には海を渡り、対馬に陣取っている。
「…落ち着け。異人を追い払うにも、その短気では仕損じる。」
――“田代の書生”が謎の丸薬を、若侍の口に放り込む。
「ん…ぐぐっ。」
「田代が誇る“置き薬”の一つだ。気が鎮まるぞ。」
「苦い…っ!」
「“良薬は口に苦し”だ!我慢しろ。」
ロシア側の陣地と睨み合うこと数か月。田代領の藩士を率いて、対馬に渡った代官・平田大江の指揮のもと砲台を敷設し始めていた。
――警備にあたる農民と、ロシア兵が衝突している。
「今度こそ、夷狄(いてき)を斬ってやる。」
死角から奇襲をかける狙い。“基山の若侍”が走り込む構えを見せた。
「待て、先ずこれで撃つ。」
全面衝突は、代官・平田大江から止められている。平田もまた攘夷派ではあったが、冷静さを保っていた。
“田代の書生”は物影へと回り込み、密かに入手していた“新式銃”で、ロシア兵の足元を狙う。
キュン!…
――絶妙の地点にはじける、銃弾。
どこから飛んできたか、弾の出所はわかりづらい。“第三者の影”に、ロシア兵、地元の農民の双方とも、ひとまず退いた。こうして延々と小競り合いが続く。
「…お主、結構やるんだな。」
対馬に来てからの“田代の書生”の思わぬ頑張りに感心する“基山の若侍”。
その時、“若侍”の方が、沖合を見つめた。
「おい、あれを見らんね。」
――そこには、複数の蒸気軍艦の船影。
「今度は、何ね…?」
それらの船影は、イギリスの軍艦だった。
「先行きのわからんな…」
“田代の書生”も、状況が飲み込めていない。
実はイギリスの総領事・オールコックが、幕府に充てて“対馬事件”への介入を提案していた。
――ほどなく、ロシア側が撤収を始める。
幕府はイギリスの力を借りる決断をした。「毒を以て、毒を制す」作戦に賭けたのだが、これはロシア側としては、避けたい筋書きだったようだ。
あれほど居座ったロシア軍艦・ポサドニック号が、あっさり対馬を離れていく。
「ここ数か月は、何だったのか…」
いつになく気抜けする“田代の書生”に、“基山の若侍”が語り始めた。
「おいには、わかった事がある。」
田代領代官・平田大江は、対馬藩の上層部から勝手に兵を出したと叱責されたが、その行動力は若い藩士に存在感を示していた。
――“基山の若侍”が、語った決意。
「平田さまのもとで長州(山口)と結び、今度こそ“攘夷”を進めんばならん。」
「お主に手は貸そう。ただ、命は粗末にするなよ。」
田代の薬は、健やかに生きるためのものだ。しかし、そんな“書生”の想いとは裏腹に、ここから対馬藩は泥沼の内紛へと突入していく。
幕末期。外交危機に直面した対馬藩。2人の若い藩士は、現在で言えば“佐賀の若者”だった。その姿を“佐賀の物語”の1つとして記す。
(第16話 完)