2020年07月30日
第12話「海軍伝習」⑩-2(負けんばい!・後編)
こんばんは。
新型コロナの感染拡大が収まる気配がありません。私はいわゆる大都市圏に居るので、佐賀への帰藩を控えております。
ここ最近のサブタイトル「悔しかごたぁ!」とか「負けんばい!」というのは、私の気持ちでもあります。
では、第12話「海軍伝習」。ラストの投稿です。
佐賀藩はオランダから帆船“飛雲丸”を購入。佐野栄寿(常民)が船長となります。そして、ここから佐賀藩士たちは、さらに頑張ります。
――佐賀の伝習生たちは、自前でも洋式帆船を製作することにした。
幕府の生徒たちも、オランダの教官たちの力を借りて帆船を建造している。たしかに海軍伝習は幕府の主宰だが、佐賀藩士たちには“対抗心”があった。
「ご公儀(幕府)の伝習生に遅れを取ってはならんばい!」
佐野が皆の前で、帆船を造る旨の宣言をする。
「お-っ!!」
「船ば造るったい!!」
盛り上がる佐賀の伝習生たち。中牟田や石丸など…若手は特に張り切る。
――皆からあふれる“熱気”にオランダ人の教官も呆気に取られる。
「佐野はんの周りはいつも、こうなるよな…」
科学者・中村奇輔も苦笑いである。少し前、国産では初と伝わる“蒸気機関”を完成させてから、海軍伝習に参加している。
かくいう中村も、佐野の誘いでわざわざ京都から佐賀に来た。佐野の情熱に引き込まれている人の代表格である。
その結果、いまや“佐賀藩士”として海軍伝習に参加する。
「佐野はん!また、力を貸すで!」
「中村さんが居ると心強かです!」

――トントン、カンカン…工具と木材の音が響く。
鋼線(ワイヤー)を張る。石丸虎五郎(安世)。
「これは…楽しかですね。」
「石丸、危なかよ!気ば付けてかからんね!」
のちに海軍伝習の地・長崎から“東京”まで電信線を架けることになる、石丸安世。この時はまだ、20歳そこそこの若手伝習生である。
――オランダ人の技師の助力も得て、佐賀藩製の洋式帆船“晨風丸”が仕上がった。
「てえした(大した)もんですな。本島さん。」
当時の標準語というより、訛りの強い江戸ことば。
幕府の伝習生・勝麟太郎(海舟)である。
若手の活躍を見て、一休みしていた本島藤太夫。勝からの声掛けに応じる。
殿の側近なので、幕府との交流も気遣いのできる本島の役割のようだ。
「おおっ、勝どの。見てやってください。佐賀も船を造り申した。」
――勝麟太郎(海舟)は、老中・阿部正弘に見出された“開明派”。
幕府海軍の創設のため、長崎の伝習に派遣されている。
「これで佐賀の者も、一手に稽古ができるってぇもんだ。」
勝は浅黒い肌に白い歯を見せる。
持ち前の“べらんめえ“口調といい、あまり堅苦しい侍では無いようだ。
「ええ、公儀(幕府)の伝習に後れぬよう励みます。」
本島、言葉は控えめだが、幕府の生徒にアッと言う間に追いつく伝習生たちが誇らしい。
――主宰者の特権がなくても、佐賀藩士の“蘭学”の習熟度は高い。学習効果がすぐに現れるのだ。
「ご公儀の伝習生だが、各々の向きがバラバラと…纏(まと)まんねぇ。」
勝は、自ら幕府伝習生を非難するような口ぶりだ。
佐賀の伝習生たちは“団体戦”のつもりで頑張っている。
しかし、幕府の生徒たちは“個人戦”の出世競争に目が向いている様子だ。
「それも、あの男だ…佐野の振舞いが大きいな。」
勝麟太郎は、研究所の奇才や若い伝習生たちを引っ張る佐野の存在に注目していた。
――いまも積極的に伝習生に声を掛けて回る、佐野の背中が見える。
「それも貴方(あんた)らの殿様のお力なのかも知れねぇが…」
「然り。殿はいつも我らのことを気にかけてくださる。」
本島は、命懸けで鉄製大砲の製造にあたった日々を想い出す。
殿・鍋島直正は、失敗の責任を取ろうと切腹を申し出る本島を、こう諭した。
「死ぬことは許さん。生きて成し遂げよ。」と。
この命令は、本島を救い、十数回の失敗を乗り越える力となった。
――本島に、ひとしきり語ってから、勝麟太郎(海舟)が退出する。
「おいらは言葉遣いが雑でいけねぇ。江戸っ子なもんでね。ご勘弁を。」
「いや、何のお構いもできず。ご丁寧に恐れ入る。」
本島は、歩き去る勝麟太郎を見て思う。
「何やら“食えぬ男”という気配か。しかし、才気があるのは間違いあるまい…」
“賢い人物”が気になって仕方がない、本島藤太夫。
やはり殿・直正の傍に仕える人物である。

――さらに、佐賀の伝習生たちに極めつけの“贈り物”があった。乱反射する陽射しの中、ある“黒船”が姿を見せた。
佐賀藩がオランダより購入した蒸気軍艦が、長崎に入港したのである。そして、艦上に殿・鍋島直正が姿を見せる。
「おおっ、殿のお成りだ!」
「皆、控えよう。」
旧来の作法を取ろうとする伝習生を、本島藤太夫が諭す。
「礼法は、伝習で学んだ“海軍”の流儀で行うべし…との殿の仰せである。」
――西洋の海軍にならった礼法で殿を迎えるのだ。号令を掛ける佐野の声が響く。
「整列!」
港に向かって隊列を組み、居並ぶ佐賀の伝習生たち。
「敬礼!」
本島など殿の側近、中村など“精錬方”の面々、石丸など“蘭学寮”の若手…入港してきた“蒸気船”に、西洋式の儀礼を行う。
「しばらく見ぬうちに立派になりおって…」
鍋島直正。念願の蒸気軍艦“電流丸”から、海軍伝習で鍛えられた家来たちを見る。
この“電流丸”が、佐賀海軍の不動のエースとなる蒸気軍艦。
殿・直正とともに幕末の荒波を乗り越えていくのである。
(第13話「通商条約」に続く)
新型コロナの感染拡大が収まる気配がありません。私はいわゆる大都市圏に居るので、佐賀への帰藩を控えております。
ここ最近のサブタイトル「悔しかごたぁ!」とか「負けんばい!」というのは、私の気持ちでもあります。
では、第12話「海軍伝習」。ラストの投稿です。
佐賀藩はオランダから帆船“飛雲丸”を購入。佐野栄寿(常民)が船長となります。そして、ここから佐賀藩士たちは、さらに頑張ります。
――佐賀の伝習生たちは、自前でも洋式帆船を製作することにした。
幕府の生徒たちも、オランダの教官たちの力を借りて帆船を建造している。たしかに海軍伝習は幕府の主宰だが、佐賀藩士たちには“対抗心”があった。
「ご公儀(幕府)の伝習生に遅れを取ってはならんばい!」
佐野が皆の前で、帆船を造る旨の宣言をする。
「お-っ!!」
「船ば造るったい!!」
盛り上がる佐賀の伝習生たち。中牟田や石丸など…若手は特に張り切る。
――皆からあふれる“熱気”にオランダ人の教官も呆気に取られる。
「佐野はんの周りはいつも、こうなるよな…」
科学者・中村奇輔も苦笑いである。少し前、国産では初と伝わる“蒸気機関”を完成させてから、海軍伝習に参加している。
かくいう中村も、佐野の誘いでわざわざ京都から佐賀に来た。佐野の情熱に引き込まれている人の代表格である。
その結果、いまや“佐賀藩士”として海軍伝習に参加する。
「佐野はん!また、力を貸すで!」
「中村さんが居ると心強かです!」
――トントン、カンカン…工具と木材の音が響く。
鋼線(ワイヤー)を張る。石丸虎五郎(安世)。
「これは…楽しかですね。」
「石丸、危なかよ!気ば付けてかからんね!」
のちに海軍伝習の地・長崎から“東京”まで電信線を架けることになる、石丸安世。この時はまだ、20歳そこそこの若手伝習生である。
――オランダ人の技師の助力も得て、佐賀藩製の洋式帆船“晨風丸”が仕上がった。
「てえした(大した)もんですな。本島さん。」
当時の標準語というより、訛りの強い江戸ことば。
幕府の伝習生・勝麟太郎(海舟)である。
若手の活躍を見て、一休みしていた本島藤太夫。勝からの声掛けに応じる。
殿の側近なので、幕府との交流も気遣いのできる本島の役割のようだ。
「おおっ、勝どの。見てやってください。佐賀も船を造り申した。」
――勝麟太郎(海舟)は、老中・阿部正弘に見出された“開明派”。
幕府海軍の創設のため、長崎の伝習に派遣されている。
「これで佐賀の者も、一手に稽古ができるってぇもんだ。」
勝は浅黒い肌に白い歯を見せる。
持ち前の“べらんめえ“口調といい、あまり堅苦しい侍では無いようだ。
「ええ、公儀(幕府)の伝習に後れぬよう励みます。」
本島、言葉は控えめだが、幕府の生徒にアッと言う間に追いつく伝習生たちが誇らしい。
――主宰者の特権がなくても、佐賀藩士の“蘭学”の習熟度は高い。学習効果がすぐに現れるのだ。
「ご公儀の伝習生だが、各々の向きがバラバラと…纏(まと)まんねぇ。」
勝は、自ら幕府伝習生を非難するような口ぶりだ。
佐賀の伝習生たちは“団体戦”のつもりで頑張っている。
しかし、幕府の生徒たちは“個人戦”の出世競争に目が向いている様子だ。
「それも、あの男だ…佐野の振舞いが大きいな。」
勝麟太郎は、研究所の奇才や若い伝習生たちを引っ張る佐野の存在に注目していた。
――いまも積極的に伝習生に声を掛けて回る、佐野の背中が見える。
「それも貴方(あんた)らの殿様のお力なのかも知れねぇが…」
「然り。殿はいつも我らのことを気にかけてくださる。」
本島は、命懸けで鉄製大砲の製造にあたった日々を想い出す。
殿・鍋島直正は、失敗の責任を取ろうと切腹を申し出る本島を、こう諭した。
「死ぬことは許さん。生きて成し遂げよ。」と。
この命令は、本島を救い、十数回の失敗を乗り越える力となった。
――本島に、ひとしきり語ってから、勝麟太郎(海舟)が退出する。
「おいらは言葉遣いが雑でいけねぇ。江戸っ子なもんでね。ご勘弁を。」
「いや、何のお構いもできず。ご丁寧に恐れ入る。」
本島は、歩き去る勝麟太郎を見て思う。
「何やら“食えぬ男”という気配か。しかし、才気があるのは間違いあるまい…」
“賢い人物”が気になって仕方がない、本島藤太夫。
やはり殿・直正の傍に仕える人物である。

――さらに、佐賀の伝習生たちに極めつけの“贈り物”があった。乱反射する陽射しの中、ある“黒船”が姿を見せた。
佐賀藩がオランダより購入した蒸気軍艦が、長崎に入港したのである。そして、艦上に殿・鍋島直正が姿を見せる。
「おおっ、殿のお成りだ!」
「皆、控えよう。」
旧来の作法を取ろうとする伝習生を、本島藤太夫が諭す。
「礼法は、伝習で学んだ“海軍”の流儀で行うべし…との殿の仰せである。」
――西洋の海軍にならった礼法で殿を迎えるのだ。号令を掛ける佐野の声が響く。
「整列!」
港に向かって隊列を組み、居並ぶ佐賀の伝習生たち。
「敬礼!」
本島など殿の側近、中村など“精錬方”の面々、石丸など“蘭学寮”の若手…入港してきた“蒸気船”に、西洋式の儀礼を行う。
「しばらく見ぬうちに立派になりおって…」
鍋島直正。念願の蒸気軍艦“電流丸”から、海軍伝習で鍛えられた家来たちを見る。
この“電流丸”が、佐賀海軍の不動のエースとなる蒸気軍艦。
殿・直正とともに幕末の荒波を乗り越えていくのである。
(第13話「通商条約」に続く)
Posted by SR at 21:33 | Comments(0) | 第12話「海軍伝習」
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。