2021年09月16日
第16話「攘夷沸騰」⑯(露西亜〔ロシア〕の牙)
こんばんは。
前回、「幕末佐賀藩の大河ドラマ」イメージに急遽、登場した“対馬藩士”たち。
本当は鳥栖の“中冨記念くすり博物館”なども訪問してから書きたいのですが、現況では佐賀に帰れず、地元での取材はできないため、勢いで突き進みます。
第16話で対馬藩士を軸に描く話。「攘夷沸騰」というテーマを“佐賀”で語るために、その背景も含めて物語化を試みるものです。
〔参照(後半):「佐賀の西から佐賀の東まで(第16話・メインテーマ)」
――対馬藩の田代代官所(現・佐賀県鳥栖市)。
「平田さまは、居られるか…」
対馬本藩からの使者が、息切れ気味に語る。
「いま、領内の巡視に出ておられる。」
留守を預かる副代官も、対馬から派遣された人物。使者とは顔見知りだ。
「とにかく、急ぎの用向きだ!」
「まぁ、一息入れよ。茶でも飲むとよい。」
大体の察しは付く、異国船に絡む話だろう。まずは使者を落ち着かせねば。
「どうした、騒がしいな。」

――姿を見せた田代領の代官は、平田大江という名だ。
「平田さま…お戻りか。」
副代官は、できれば自分で対処したかった。代官の平田は“攘夷派”。この手の話だと“勇断”をしかねない。
「ああ、何事があったとね?」
平田でなくとも使者の様子を見ればわかる、これは“凶事”が起きている…と。
こうして対馬からの一報が伝えられる。発端は、対馬藩にあてて、あるロシア船が停泊許可を求めてきたところからだ。
――1861年(万延二年・文久元年)2月。
対馬沖に現れた、ロシア軍艦ポサドニック号。船体の修理という名目で、島の湾内に入りたいと打診があった。
「長崎に回航するための一時的な補修」の許可が、対馬藩の判断だった。ところが軍艦を停泊させてから1か月ほど、ロシア側は小屋など施設を築き始めた。
――当然、対馬藩は抗議した。
ロシア船の艦長・ビリリョフは、撤収に応じないどころか「対馬藩主・宗義和との会見」を要求してきたのである。
ここで先年、イギリス船が対馬海峡を測量したことを引き合いに出す。
〔参照(後半):第16話「攘夷沸騰」⑩(英国船の行方)〕

――「ロシアがイギリスから守ってやる」というが、
続く言葉が、陣取っている「“芋崎”の地を借り受けたい」である。ロシアには“凍らない港”を確保したい事情もある。占領の野心は誰の目にも明らかだった。
「これは、容易ならざる事。ただ、手をこまねいているわけにはいくまい。」
平田大江は、“攘夷”の志を持つ者。早々と対馬に渡る覚悟を決めた。
その受けとめ方は冷静だった。田代領には「支援体制を整えてほしい」というのが、対馬本藩の指示。まずは“戦支度”(いくさじたく)をせねばなるまい。
――事情は、田代領内の若者たちにも伝わった。
「いよいよだ。ついに、おいも立つべき時が来た!」
“基山の若侍”は鍛錬の傍らで手入れしていた、家伝の武具を引っ張り出した。
「人員に応じた兵糧、薬もいるな。あとはこれか…」
不測の事態に備えよと、代官所からの指示。“田代の書生”も算段をし始めた。
忙しく往来する侍、有力な町人も巻き込んで、“戦支度”は進む。薬の街・田代には強い風が吹き、砂ぼこりが立っていた。
(続く)
前回、「幕末佐賀藩の大河ドラマ」イメージに急遽、登場した“対馬藩士”たち。
本当は鳥栖の“中冨記念くすり博物館”なども訪問してから書きたいのですが、現況では佐賀に帰れず、地元での取材はできないため、勢いで突き進みます。
第16話で対馬藩士を軸に描く話。「攘夷沸騰」というテーマを“佐賀”で語るために、その背景も含めて物語化を試みるものです。
〔参照(後半):
――対馬藩の田代代官所(現・佐賀県鳥栖市)。
「平田さまは、居られるか…」
対馬本藩からの使者が、息切れ気味に語る。
「いま、領内の巡視に出ておられる。」
留守を預かる副代官も、対馬から派遣された人物。使者とは顔見知りだ。
「とにかく、急ぎの用向きだ!」
「まぁ、一息入れよ。茶でも飲むとよい。」
大体の察しは付く、異国船に絡む話だろう。まずは使者を落ち着かせねば。
「どうした、騒がしいな。」
――姿を見せた田代領の代官は、平田大江という名だ。
「平田さま…お戻りか。」
副代官は、できれば自分で対処したかった。代官の平田は“攘夷派”。この手の話だと“勇断”をしかねない。
「ああ、何事があったとね?」
平田でなくとも使者の様子を見ればわかる、これは“凶事”が起きている…と。
こうして対馬からの一報が伝えられる。発端は、対馬藩にあてて、あるロシア船が停泊許可を求めてきたところからだ。
――1861年(万延二年・文久元年)2月。
対馬沖に現れた、ロシア軍艦ポサドニック号。船体の修理という名目で、島の湾内に入りたいと打診があった。
「長崎に回航するための一時的な補修」の許可が、対馬藩の判断だった。ところが軍艦を停泊させてから1か月ほど、ロシア側は小屋など施設を築き始めた。
――当然、対馬藩は抗議した。
ロシア船の艦長・ビリリョフは、撤収に応じないどころか「対馬藩主・宗義和との会見」を要求してきたのである。
ここで先年、イギリス船が対馬海峡を測量したことを引き合いに出す。
〔参照(後半):
――「ロシアがイギリスから守ってやる」というが、
続く言葉が、陣取っている「“芋崎”の地を借り受けたい」である。ロシアには“凍らない港”を確保したい事情もある。占領の野心は誰の目にも明らかだった。
「これは、容易ならざる事。ただ、手をこまねいているわけにはいくまい。」
平田大江は、“攘夷”の志を持つ者。早々と対馬に渡る覚悟を決めた。
その受けとめ方は冷静だった。田代領には「支援体制を整えてほしい」というのが、対馬本藩の指示。まずは“戦支度”(いくさじたく)をせねばなるまい。
――事情は、田代領内の若者たちにも伝わった。
「いよいよだ。ついに、おいも立つべき時が来た!」
“基山の若侍”は鍛錬の傍らで手入れしていた、家伝の武具を引っ張り出した。
「人員に応じた兵糧、薬もいるな。あとはこれか…」
不測の事態に備えよと、代官所からの指示。“田代の書生”も算段をし始めた。
忙しく往来する侍、有力な町人も巻き込んで、“戦支度”は進む。薬の街・田代には強い風が吹き、砂ぼこりが立っていた。
(続く)
Posted by SR at 20:36 | Comments(0) | 第16話「攘夷沸騰」
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