2021年02月27日
第15話「江戸動乱」⑯(殿を守れ!)
こんばんは。
「桜田門外の変」はあろうことか、日中に江戸城の門前で起きた大事件でした。
市中での情報は錯綜(さくそう)します。大老・井伊直弼が襲撃された…それは佐賀藩にとって、他人事ではありませんでした。
――江戸。佐賀藩邸に入った衝撃の一報。
この急報は間髪を置かず、佐賀藩の上層部を駆け巡った。
「井伊さまは、ご無事でござろうか!?」
「いや、実のところは…」
渋い表情を浮かべるのは、鍋島夏雲(市佑)。
殿・鍋島直正の側近で、老齢ながら機密情報の集約に長じる。
朝廷への工作活動を咎められた水戸藩。“安政の大獄”で徹底した処罰を受けた。そして、主に水戸の脱藩浪士により、今回の襲撃は実行された。
――保守派・原田小四郎が、険しい顔をする。
「井伊さまのご家来も、さぞや無念だったであろう…」
武骨な原田の、いかにも武士らしい感情移入だ。
井伊直弼を護衛した彦根藩士たちは、ほとんどが急襲に対応できなかった。しかし二刀を抜き放ち、命尽きるまで戦った者もいたという。
「そのうえ、穏やかでない話も流布(るふ)しておる…」
鍋島夏雲は「佐賀藩が余所(よそ)から“どう見られている”か」も探っていた。
――「いま、何とおっしゃったか!」原田が大声を出す。
「原田どの…、声が大きゅうござるぞ。」
年配者の落ち着きか、鍋島夏雲が制止する。
…世間の噂に「次に狙われるのは、佐賀の鍋島直正」とあるらしい。
「殿に万一、かのような狼藉(ろうぜき)を企てる者あらば…」
保守派・原田には、刺激の強すぎる一言だったようだ。
「この原田、先陣を切って迎え撃ちますぞ!!」
殿・直正への忠義第一。こうなると佐賀藩の動きは早い。

――しばし後、早馬が駆け込むや、佐賀城下にも話が広がる。
大隈八太郎(重信)もまた、砂ぼこりを上げて城下を走っていた。
「八太郎さん、また慌ただしかですね…。」
久米丈一郎(邦武)。大隈八太郎(重信)の友達である。
「丈一郎!なんば、のんびり本やら読みよるね!!」
キュッと足を止めたが、大隈八太郎は見るからに気忙しい。
「仲間から腕利きの剣士を江戸に送らんば!」
「一体、何の騒ぎが起きよるですか!?」
――急報にあわせ、城下を駆け巡る指令。
佐賀藩の上層部は「殿の身が危ない」と判断した。双方で屋敷の行き来もあり、鍋島直正が井伊直弼と親交が深かったのは知られている。
水戸藩に近い立場では「桜田門外の変」は早くも快挙として扱われている。「“安政の大獄”の恨み深い、井伊を討った」のだと。この流れは危うい。
「次は、その“仲間”だ」と、殿・直正にも矛先が向く可能性がある。大隈は、城下で「剣の達人を集め、佐賀から江戸に派遣せよ。」と指令が回るのを聞いた。
――ここで、大隈は「江戸に“尊王”の同志を送ろう!」と思い付いた。
殿の身辺警護は、話をする機会にも恵まれるはず。剣の腕だけでは足らない…賢い者を送らねば。
佐賀藩の立場は「幕府を助けて異国に備える」が基本だった。混迷の今こそ「朝廷をお守りする佐賀藩」への転換を図る…のが、大隈の目論見(もくろみ)だ。
「“剣の達人”が要るのでしょう。八太郎さんは、あまり剣ば振りよらんもんね。」
久米からの鋭い指摘。“佐賀ことば”によそ行き口調が混ざるのが気にさわる。
「“砲術の家”の子だから、仕方ないんである。」
カチンと来た、大隈。“演説調”になって、仰々しく自身の家の役目を語る。

――大隈が焦る中、急派される剣士たちが、続々決まっていく。
「私は盾となってでも、殿をお守りする!!」
決意を述べる侍がいる。流儀は新陰流のようだ。
「盾とは志の低かぞ!敵は皆、返り討ちにしてやらんば。」
こちらは、いささか荒っぽい。
「おう、鍋島武士の誇りを見せてやる!」
いずれも各道場を代表するような剣の遣い手。
――こうして“見えない敵”との戦いを始めた、佐賀藩士たち。
「皆、お役目はわかっておるようだな。これより直ちに江戸に向かう!」
剣士の集団を率いるのは、藩の重役たちを補佐する切れ者・中野数馬だ。
任務は殿を守ること。それは侍の誉れだ。集った面々には高揚感も見える。
「おおーっ!!」
30人ほどの剣士たちが気勢を上げ、昼夜兼行での江戸への旅路も始まった。
(第16話「攘夷沸騰」に続く…予定)
「桜田門外の変」はあろうことか、日中に江戸城の門前で起きた大事件でした。
市中での情報は錯綜(さくそう)します。大老・井伊直弼が襲撃された…それは佐賀藩にとって、他人事ではありませんでした。
――江戸。佐賀藩邸に入った衝撃の一報。
この急報は間髪を置かず、佐賀藩の上層部を駆け巡った。
「井伊さまは、ご無事でござろうか!?」
「いや、実のところは…」
渋い表情を浮かべるのは、鍋島夏雲(市佑)。
殿・鍋島直正の側近で、老齢ながら機密情報の集約に長じる。
朝廷への工作活動を咎められた水戸藩。“安政の大獄”で徹底した処罰を受けた。そして、主に水戸の脱藩浪士により、今回の襲撃は実行された。
――保守派・原田小四郎が、険しい顔をする。
「井伊さまのご家来も、さぞや無念だったであろう…」
武骨な原田の、いかにも武士らしい感情移入だ。
井伊直弼を護衛した彦根藩士たちは、ほとんどが急襲に対応できなかった。しかし二刀を抜き放ち、命尽きるまで戦った者もいたという。
「そのうえ、穏やかでない話も流布(るふ)しておる…」
鍋島夏雲は「佐賀藩が余所(よそ)から“どう見られている”か」も探っていた。
――「いま、何とおっしゃったか!」原田が大声を出す。
「原田どの…、声が大きゅうござるぞ。」
年配者の落ち着きか、鍋島夏雲が制止する。
…世間の噂に「次に狙われるのは、佐賀の鍋島直正」とあるらしい。
「殿に万一、かのような狼藉(ろうぜき)を企てる者あらば…」
保守派・原田には、刺激の強すぎる一言だったようだ。
「この原田、先陣を切って迎え撃ちますぞ!!」
殿・直正への忠義第一。こうなると佐賀藩の動きは早い。
――しばし後、早馬が駆け込むや、佐賀城下にも話が広がる。
大隈八太郎(重信)もまた、砂ぼこりを上げて城下を走っていた。
「八太郎さん、また慌ただしかですね…。」
久米丈一郎(邦武)。大隈八太郎(重信)の友達である。
「丈一郎!なんば、のんびり本やら読みよるね!!」
キュッと足を止めたが、大隈八太郎は見るからに気忙しい。
「仲間から腕利きの剣士を江戸に送らんば!」
「一体、何の騒ぎが起きよるですか!?」
――急報にあわせ、城下を駆け巡る指令。
佐賀藩の上層部は「殿の身が危ない」と判断した。双方で屋敷の行き来もあり、鍋島直正が井伊直弼と親交が深かったのは知られている。
水戸藩に近い立場では「桜田門外の変」は早くも快挙として扱われている。「“安政の大獄”の恨み深い、井伊を討った」のだと。この流れは危うい。
「次は、その“仲間”だ」と、殿・直正にも矛先が向く可能性がある。大隈は、城下で「剣の達人を集め、佐賀から江戸に派遣せよ。」と指令が回るのを聞いた。
――ここで、大隈は「江戸に“尊王”の同志を送ろう!」と思い付いた。
殿の身辺警護は、話をする機会にも恵まれるはず。剣の腕だけでは足らない…賢い者を送らねば。
佐賀藩の立場は「幕府を助けて異国に備える」が基本だった。混迷の今こそ「朝廷をお守りする佐賀藩」への転換を図る…のが、大隈の目論見(もくろみ)だ。
「“剣の達人”が要るのでしょう。八太郎さんは、あまり剣ば振りよらんもんね。」
久米からの鋭い指摘。“佐賀ことば”によそ行き口調が混ざるのが気にさわる。
「“砲術の家”の子だから、仕方ないんである。」
カチンと来た、大隈。“演説調”になって、仰々しく自身の家の役目を語る。
――大隈が焦る中、急派される剣士たちが、続々決まっていく。
「私は盾となってでも、殿をお守りする!!」
決意を述べる侍がいる。流儀は新陰流のようだ。
「盾とは志の低かぞ!敵は皆、返り討ちにしてやらんば。」
こちらは、いささか荒っぽい。
「おう、鍋島武士の誇りを見せてやる!」
いずれも各道場を代表するような剣の遣い手。
――こうして“見えない敵”との戦いを始めた、佐賀藩士たち。
「皆、お役目はわかっておるようだな。これより直ちに江戸に向かう!」
剣士の集団を率いるのは、藩の重役たちを補佐する切れ者・中野数馬だ。
任務は殿を守ること。それは侍の誉れだ。集った面々には高揚感も見える。
「おおーっ!!」
30人ほどの剣士たちが気勢を上げ、昼夜兼行での江戸への旅路も始まった。
(第16話「攘夷沸騰」に続く…予定)
2021年02月25日
第15話「江戸動乱」⑮(雪の舞う三月)
こんばんは。
1860年「桜田門外の変」。旧暦で言えば三月初旬。春に起きた事件です。
遡ること2か月。一月には、幕府の使節団が条約の手続きのため、冬の太平洋をアメリカへと旅立っています。
大老・井伊直弼が決断した「開国」により、時代は動いていました。
そして二月には、井伊は江戸で、鍋島の屋敷を訪ねたばかりでした。
――春なのに肌寒い、江戸の街。佐賀藩の屋敷。
「季節外れの遅い雪か…」
佐賀藩主・鍋島直正は、曇った空を見ていた。天から、はらはらと落ちる雪。
旧暦の三月は、もう春の陽気が注ぎ、桜が咲いてもおかしくない時節だ。
ダダダダッ…
屋敷の廊下で、佐賀藩士たちの忙しい足音が響く。
「殿!申し上げます。無作法ながらっ…、一大事にて!」

――その日、事件は江戸城・桜田門の手前で起きた。
城に出仕する、大老・井伊直弼。
彦根藩の屋敷から、城門まではさほどの距離ではない。
「申し上げたき儀がございます!」
突如、道端から歩み出た者がいる。進路を遮られて行列は一旦、止まった。
「何事か!無礼であろう!」
行列の先頭にいる侍が、怒声をあげる。次の瞬間。
――パァン!突如として、乾いた銃声が響く。
ヒュン!!
弾道が、井伊直弼の乗る駕籠(かご)に吸い込まれていく。
襲撃を悟った井伊だったが、その銃弾は腰部を貫通していた。
「これは…、いかんようだな。」
井伊は気づいた。すでに下肢の感覚が無い。
発砲の音を合図に抜刀した十数名が斬り込んでくる。雪の降る日の急襲。井伊の供回りは刀が濡れぬよう柄袋を掛けており、一手を出す前に次々と討たれる。
――大混乱に陥る、井伊の一行。
かつて井伊直弼は、居合の流派を立ち上げるほど鍛錬を積んでいた。常人では扱い難い、重い刀も自在に操ったのだ。
しかし先ほどの一瞬で、その腕前は失われた。もう、動くことができないのだ。
「…これも、天命ということか。」
大音声を上げて、殺到する襲撃者たち。井伊は静かに待つ。
「お主らも、儂と“志”は同じなのかも知れぬな…」

――井伊直弼は、もともと攘夷論者だった。
迫りくる列強に、この国を好きにさせてはならない。それは、佐賀の鍋島直正も同じ想いで、2人は意気投合したのだ。
「まず開国して進んだ業(わざ)を学び、その業を磨いて異国に立ち向かう。」
目先で攘夷を叫ぶ者たちとの違いは、相手の力量を理解するかどうかの差だ。
条約の調印後に手続きのため、欧米に使節を派遣することが決まる。幕府は急ぎ優秀な者を集めた。そして、頼りになる佐賀からは多数の同行者を認めた。
――いずれ、世界を廻った者たちが帰ってくる。それからだ。
もはや襲撃者に応戦することはできない、井伊直弼。
「たとえ志は正しくとも、お主らのやり方は間違っておるぞ…」
その駕籠を目掛けて、四方から刃が突きたてられる。
「済まぬ。儂はここまでのようだ。後は…任せたぞ。」
遠のく井伊の意識に、ふたたび故郷・彦根の優しい湖の景色が広がっていた。
(続く)
1860年「桜田門外の変」。旧暦で言えば三月初旬。春に起きた事件です。
遡ること2か月。一月には、幕府の使節団が条約の手続きのため、冬の太平洋をアメリカへと旅立っています。
大老・井伊直弼が決断した「開国」により、時代は動いていました。
そして二月には、井伊は江戸で、鍋島の屋敷を訪ねたばかりでした。
――春なのに肌寒い、江戸の街。佐賀藩の屋敷。
「季節外れの遅い雪か…」
佐賀藩主・鍋島直正は、曇った空を見ていた。天から、はらはらと落ちる雪。
旧暦の三月は、もう春の陽気が注ぎ、桜が咲いてもおかしくない時節だ。
ダダダダッ…
屋敷の廊下で、佐賀藩士たちの忙しい足音が響く。
「殿!申し上げます。無作法ながらっ…、一大事にて!」
――その日、事件は江戸城・桜田門の手前で起きた。
城に出仕する、大老・井伊直弼。
彦根藩の屋敷から、城門まではさほどの距離ではない。
「申し上げたき儀がございます!」
突如、道端から歩み出た者がいる。進路を遮られて行列は一旦、止まった。
「何事か!無礼であろう!」
行列の先頭にいる侍が、怒声をあげる。次の瞬間。
――パァン!突如として、乾いた銃声が響く。
ヒュン!!
弾道が、井伊直弼の乗る駕籠(かご)に吸い込まれていく。
襲撃を悟った井伊だったが、その銃弾は腰部を貫通していた。
「これは…、いかんようだな。」
井伊は気づいた。すでに下肢の感覚が無い。
発砲の音を合図に抜刀した十数名が斬り込んでくる。雪の降る日の急襲。井伊の供回りは刀が濡れぬよう柄袋を掛けており、一手を出す前に次々と討たれる。
――大混乱に陥る、井伊の一行。
かつて井伊直弼は、居合の流派を立ち上げるほど鍛錬を積んでいた。常人では扱い難い、重い刀も自在に操ったのだ。
しかし先ほどの一瞬で、その腕前は失われた。もう、動くことができないのだ。
「…これも、天命ということか。」
大音声を上げて、殺到する襲撃者たち。井伊は静かに待つ。
「お主らも、儂と“志”は同じなのかも知れぬな…」
――井伊直弼は、もともと攘夷論者だった。
迫りくる列強に、この国を好きにさせてはならない。それは、佐賀の鍋島直正も同じ想いで、2人は意気投合したのだ。
「まず開国して進んだ業(わざ)を学び、その業を磨いて異国に立ち向かう。」
目先で攘夷を叫ぶ者たちとの違いは、相手の力量を理解するかどうかの差だ。
条約の調印後に手続きのため、欧米に使節を派遣することが決まる。幕府は急ぎ優秀な者を集めた。そして、頼りになる佐賀からは多数の同行者を認めた。
――いずれ、世界を廻った者たちが帰ってくる。それからだ。
もはや襲撃者に応戦することはできない、井伊直弼。
「たとえ志は正しくとも、お主らのやり方は間違っておるぞ…」
その駕籠を目掛けて、四方から刃が突きたてられる。
「済まぬ。儂はここまでのようだ。後は…任せたぞ。」
遠のく井伊の意識に、ふたたび故郷・彦根の優しい湖の景色が広がっていた。
(続く)
2021年02月23日
第15話「江戸動乱」⑭(“赤鬼”が背負うもの)
こんばんは。
1858年(安政5年)から翌年にかけて続いた「安政の大獄」。
陰で“赤鬼”とも呼ばれた、大老・井伊直弼。行きがかり上、国の命運を背負ってしまった、この人物。それだけの責任感の持ち主でもありました。
――江戸。彦根藩の屋敷。
大老・井伊直弼。激務の合間、僅(わず)かな時に思索をする。
スーッ…、静かな呼吸である。
いまや幕閣の最高位職“大老”として、国の舵取りをする立場だ。かつては彦根(滋賀)の殿様になる事も想像できなかった。正室の子でもなく、兄たちもいた。
まるで埋木(うもれぎ)のようにくすぶる日々。
井伊直弼は学問を高め、武芸に励み、禅の修行にも打ち込んだ。
――薄く開いた目に映るのは、井伊自身の位牌(いはい)。
生きているうちに、戒名(かいみょう)も用意した。
「何やら、支度(したく)が整ったようで落ち着く…か。」
井伊直弼は、仏間で一人苦笑をした。黒船来航後、さらに強まる西洋列強の圧力。外交危機は続き、“大老”に抜擢された井伊は、難局に立ち向かってきた。
「国の安寧(あんねい)のために尽くしたこと…悔いは無い。」
ふと井伊は、故郷・彦根から望む湖を想い起こした。穏やかな“母なる湖”は、陽の当らぬ場所で、燻(くすぶ)っていた頃の心も癒していた。

――開国(通商条約)の断行や、次期将軍・徳川家茂の擁立…
事態を打開するためとは言え、“安政の大獄”では敵を作り過ぎた。その一方で、信頼できる者は数少ない。内政では会津藩、外交では佐賀藩…ぐらいか。
静寂を打ち破るように、屋敷の彦根藩士の声が響く。
「佐賀の屋敷に、出立なさる刻限にございます!」
「もう、そのように時が過ぎておったか!」
静かな思索のひと時を経て、井伊の表情は晴れやかだった。
――1860年・冬(安政7年2月)。井伊直弼には、ある約束があった。
井伊は、参勤交代で江戸にいた佐賀藩主・鍋島直正を訪ねた。
幕府の大老が、他の大名の屋敷に出向くことは異例である。
「井伊さま。わざわざのお運び、忝(かたじけ)ない。」
丁寧に出迎える、佐賀の殿様。
先年、江戸に来たときには鍋島直正が、彦根の屋敷に井伊直弼を訪ねている。幕府中枢と外様大名の垣根を越えた、行き来があった。
――佐賀藩の屋敷。冬の庭先にも、陽射しが差し込む。
この時、佐賀藩には、幕府への「お願い事」があった。
「先だって聞いておった“天草”の件。この井伊が請け負おう。」
井伊の外交政策は、開国して武装を整える…佐賀藩とほぼ同様の方針だ。
「これは、有難い。異国に対する備えも進みまする!」
鍋島直正が身を乗り出した。幕府の領地・天草(熊本)を借り、外海に開けた港を築いて、“蒸気船”を遣うつもりだ。

――直正の反応を見た、井伊が苦笑する。
「はっはっは…鍋島肥前(直正)。喜びが顔に書いておるようじゃぞ。」
「左様(さよう)でございましょうな。これは失敬をいたした。」
「もはや“西海の守り”は、お主だけが頼り。任せたぞ…」
幕府の領地を、外様大名に託す。この内諾は、井伊の期待の表れだった。
当時の日本は、欧米各国と次々に“修好通商条約”を締結した。長崎だけでなく異国船が行き交う、西の海を守る力が要る。
「…井伊さま、御身(おんみ)も大事になさいませ。」
――真剣な面持ちを見せた直正。井伊の身を案じる言葉を発した。
淡々とした井伊の口調は、まるで「自分のいない世界」への布石(ふせき)だ。
部下の彦根藩士からも「警護の者を増やすべき」との訴えはあるようだ。しかし、幕府には“供回りの数”の基準がある。井伊直弼は規則を曲げることを嫌った。
「肥前どの。国を束ねるものは、まず自らの身を律(りっ)せねばならん。」
「井伊さま、見事なお心掛け。されど命あってこそ成し得る事がございますぞ。」
(続く)
1858年(安政5年)から翌年にかけて続いた「安政の大獄」。
陰で“赤鬼”とも呼ばれた、大老・井伊直弼。行きがかり上、国の命運を背負ってしまった、この人物。それだけの責任感の持ち主でもありました。
――江戸。彦根藩の屋敷。
大老・井伊直弼。激務の合間、僅(わず)かな時に思索をする。
スーッ…、静かな呼吸である。
いまや幕閣の最高位職“大老”として、国の舵取りをする立場だ。かつては彦根(滋賀)の殿様になる事も想像できなかった。正室の子でもなく、兄たちもいた。
まるで埋木(うもれぎ)のようにくすぶる日々。
井伊直弼は学問を高め、武芸に励み、禅の修行にも打ち込んだ。
――薄く開いた目に映るのは、井伊自身の位牌(いはい)。
生きているうちに、戒名(かいみょう)も用意した。
「何やら、支度(したく)が整ったようで落ち着く…か。」
井伊直弼は、仏間で一人苦笑をした。黒船来航後、さらに強まる西洋列強の圧力。外交危機は続き、“大老”に抜擢された井伊は、難局に立ち向かってきた。
「国の安寧(あんねい)のために尽くしたこと…悔いは無い。」
ふと井伊は、故郷・彦根から望む湖を想い起こした。穏やかな“母なる湖”は、陽の当らぬ場所で、燻(くすぶ)っていた頃の心も癒していた。
――開国(通商条約)の断行や、次期将軍・徳川家茂の擁立…
事態を打開するためとは言え、“安政の大獄”では敵を作り過ぎた。その一方で、信頼できる者は数少ない。内政では会津藩、外交では佐賀藩…ぐらいか。
静寂を打ち破るように、屋敷の彦根藩士の声が響く。
「佐賀の屋敷に、出立なさる刻限にございます!」
「もう、そのように時が過ぎておったか!」
静かな思索のひと時を経て、井伊の表情は晴れやかだった。
――1860年・冬(安政7年2月)。井伊直弼には、ある約束があった。
井伊は、参勤交代で江戸にいた佐賀藩主・鍋島直正を訪ねた。
幕府の大老が、他の大名の屋敷に出向くことは異例である。
「井伊さま。わざわざのお運び、忝(かたじけ)ない。」
丁寧に出迎える、佐賀の殿様。
先年、江戸に来たときには鍋島直正が、彦根の屋敷に井伊直弼を訪ねている。幕府中枢と外様大名の垣根を越えた、行き来があった。
――佐賀藩の屋敷。冬の庭先にも、陽射しが差し込む。
この時、佐賀藩には、幕府への「お願い事」があった。
「先だって聞いておった“天草”の件。この井伊が請け負おう。」
井伊の外交政策は、開国して武装を整える…佐賀藩とほぼ同様の方針だ。
「これは、有難い。異国に対する備えも進みまする!」
鍋島直正が身を乗り出した。幕府の領地・天草(熊本)を借り、外海に開けた港を築いて、“蒸気船”を遣うつもりだ。

――直正の反応を見た、井伊が苦笑する。
「はっはっは…鍋島肥前(直正)。喜びが顔に書いておるようじゃぞ。」
「左様(さよう)でございましょうな。これは失敬をいたした。」
「もはや“西海の守り”は、お主だけが頼り。任せたぞ…」
幕府の領地を、外様大名に託す。この内諾は、井伊の期待の表れだった。
当時の日本は、欧米各国と次々に“修好通商条約”を締結した。長崎だけでなく異国船が行き交う、西の海を守る力が要る。
「…井伊さま、御身(おんみ)も大事になさいませ。」
――真剣な面持ちを見せた直正。井伊の身を案じる言葉を発した。
淡々とした井伊の口調は、まるで「自分のいない世界」への布石(ふせき)だ。
部下の彦根藩士からも「警護の者を増やすべき」との訴えはあるようだ。しかし、幕府には“供回りの数”の基準がある。井伊直弼は規則を曲げることを嫌った。
「肥前どの。国を束ねるものは、まず自らの身を律(りっ)せねばならん。」
「井伊さま、見事なお心掛け。されど命あってこそ成し得る事がございますぞ。」
(続く)
2021年02月21日
「“安政の大獄”をどう描くか?」
こんばんは。“本編”に戻るために助走をつけます。
明治維新で、際立った“勝者側”となったのは、薩摩藩・長州藩でしょう。同じく“新政府側”でも土佐藩や佐賀藩は、かなり当初の思惑が外れたようです。
――反面、勝者の“敵役”である幕府方は、悪く描かれがち…
こちらの代表格には、会津藩を挙げます。2013年の大河ドラマ「八重の桜」は“敗者側”からの視点で描かれ、かなり斬新な印象でした。
現在、放送中の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公は幕臣・渋沢栄一です。
番組の案内役・徳川家康(演:北大路欣也)が第1話から強い目力で語ります。
「今につながる日本を開いた人物こそ、わが徳川の家臣であったと…ご存じだったかな?」
…今後、どのような立ち位置で、激動の時代を読み解くか注目しています。
――ここから本題に入ります。大弾圧と語られる「安政の大獄」。
刑罰の軽重はありますが、対象(連座)者は100人を超えるそうです。処刑または獄中で亡くなった方も13人を数えると聞きます。1858年からの出来事です。
幕府目線で、ざっくりと各藩における“罪状”のご報告を試みます。
「朝廷に裏工作を仕掛けた、水戸藩!」
「尊王攘夷の過激派がいる、長州藩!」
「次期将軍の選定に口出し、薩摩藩&福井藩!」

――こうして周囲は敵だらけとなった、大老・井伊直弼。
幕府内部の主導権争いもあり、井伊直弼の数少ない“味方”を2藩だけ紹介。
江戸幕府の運営側、徳川に近い大名が集う“溜間詰”の中で信用できるのは…
「幕府に忠節を尽くす、会津藩!」
そして、外様大名など諸侯が集う“大広間”の中で頼りになるのが…
「外交の良き理解者、佐賀藩!」
…私も、調べ始めた当初は「あれっ!?佐賀藩、意外に幕府寄り?」という印象でした。殿・鍋島直正は秩序を大事にするので、良くも悪くも優等生的なのです。
――さて、「安政の大獄」の基準はどうだったか…
「老中を暗殺する計画を話し合っていました!」
(長州藩・吉田松陰)
…尋ねられてもいない計画を、あえて語ったそうです。
吉田松陰が暗殺対象と語ったのは、老中・間部詮勝。意外や井伊直弼の評価は高く「彦根の殿様は、憐(あわ)れみのある名君!」とか語ったようです。
もし吉田松陰の言動が、大老・井伊直弼への期待で「幕府を改革してみな!」という“挑戦状”を叩きつけた…と想像すると、ドラマチックな感じがします。
――いかにも幕府らしい“サムライ”的な基準も…
「殿(松平春嶽)に言われた通りに活動しました!」
(福井藩・橋本左内)
…こう語って「殿様のせいにするとは何事だ!」と責められたそうです。
橋本左内は、真っ直ぐに事実を語ったのかもしれません。福井藩の殿様・松平春嶽は、一橋慶喜を次期将軍に強く推し、左内も熱心に活動していました。
予想を超える厳罰。福井藩の誇る天才、ここで歴史の舞台から姿を消します。

――そもそも「安政の大獄」のきっかけの1つが…
大老・井伊直弼が「朝廷の許可なく開国した!」と、江戸城へ抗議に押し掛ける一橋派の殿様たち。将軍選びの主導権を狙う意図も見えます。
騒ぎの中心は“水戸烈公”こと徳川斉昭。幕府のルールでは、定めの無い日に、江戸城に来るのは禁止。「不時登城」という立派な罪だそうです。
そして朝廷への裏工作を主導した水戸藩は、集中的に処罰されました。これで尊王攘夷運動はさらに“狂熱化”したと語られます。
――以上、“本編”で描くには厳しい情報量ですので、まとめて書きました!
私の調べは、話を進めるためのスピード重視のものですので、独断と偏見による解釈、不確かな出典による誤り等も、かなり含まれる前提でお読みください。
…あと、3回くらいで第15話「江戸動乱」をまとめたいです。今回は難しい!
明治維新で、際立った“勝者側”となったのは、薩摩藩・長州藩でしょう。同じく“新政府側”でも土佐藩や佐賀藩は、かなり当初の思惑が外れたようです。
――反面、勝者の“敵役”である幕府方は、悪く描かれがち…
こちらの代表格には、会津藩を挙げます。2013年の大河ドラマ「八重の桜」は“敗者側”からの視点で描かれ、かなり斬新な印象でした。
現在、放送中の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公は幕臣・渋沢栄一です。
番組の案内役・徳川家康(演:北大路欣也)が第1話から強い目力で語ります。
「今につながる日本を開いた人物こそ、わが徳川の家臣であったと…ご存じだったかな?」
…今後、どのような立ち位置で、激動の時代を読み解くか注目しています。
――ここから本題に入ります。大弾圧と語られる「安政の大獄」。
刑罰の軽重はありますが、対象(連座)者は100人を超えるそうです。処刑または獄中で亡くなった方も13人を数えると聞きます。1858年からの出来事です。
幕府目線で、ざっくりと各藩における“罪状”のご報告を試みます。
「朝廷に裏工作を仕掛けた、水戸藩!」
「尊王攘夷の過激派がいる、長州藩!」
「次期将軍の選定に口出し、薩摩藩&福井藩!」
――こうして周囲は敵だらけとなった、大老・井伊直弼。
幕府内部の主導権争いもあり、井伊直弼の数少ない“味方”を2藩だけ紹介。
江戸幕府の運営側、徳川に近い大名が集う“溜間詰”の中で信用できるのは…
「幕府に忠節を尽くす、会津藩!」
そして、外様大名など諸侯が集う“大広間”の中で頼りになるのが…
「外交の良き理解者、佐賀藩!」
…私も、調べ始めた当初は「あれっ!?佐賀藩、意外に幕府寄り?」という印象でした。殿・鍋島直正は秩序を大事にするので、良くも悪くも優等生的なのです。
――さて、「安政の大獄」の基準はどうだったか…
「老中を暗殺する計画を話し合っていました!」
(長州藩・吉田松陰)
…尋ねられてもいない計画を、あえて語ったそうです。
吉田松陰が暗殺対象と語ったのは、老中・間部詮勝。意外や井伊直弼の評価は高く「彦根の殿様は、憐(あわ)れみのある名君!」とか語ったようです。
もし吉田松陰の言動が、大老・井伊直弼への期待で「幕府を改革してみな!」という“挑戦状”を叩きつけた…と想像すると、ドラマチックな感じがします。
――いかにも幕府らしい“サムライ”的な基準も…
「殿(松平春嶽)に言われた通りに活動しました!」
(福井藩・橋本左内)
…こう語って「殿様のせいにするとは何事だ!」と責められたそうです。
橋本左内は、真っ直ぐに事実を語ったのかもしれません。福井藩の殿様・松平春嶽は、一橋慶喜を次期将軍に強く推し、左内も熱心に活動していました。
予想を超える厳罰。福井藩の誇る天才、ここで歴史の舞台から姿を消します。
――そもそも「安政の大獄」のきっかけの1つが…
大老・井伊直弼が「朝廷の許可なく開国した!」と、江戸城へ抗議に押し掛ける一橋派の殿様たち。将軍選びの主導権を狙う意図も見えます。
騒ぎの中心は“水戸烈公”こと徳川斉昭。幕府のルールでは、定めの無い日に、江戸城に来るのは禁止。「不時登城」という立派な罪だそうです。
そして朝廷への裏工作を主導した水戸藩は、集中的に処罰されました。これで尊王攘夷運動はさらに“狂熱化”したと語られます。
――以上、“本編”で描くには厳しい情報量ですので、まとめて書きました!
私の調べは、話を進めるためのスピード重視のものですので、独断と偏見による解釈、不確かな出典による誤り等も、かなり含まれる前提でお読みください。
…あと、3回くらいで第15話「江戸動乱」をまとめたいです。今回は難しい!
2021年02月19日
「“青天”を追う…」
こんばんは。
「俺は己の力で立っている…青い天に拳を突き上げている!」
顔だけじゃなくて、声も良いですね。吉沢亮さん。
紹介番組で見たシーン。切立った岩場から、右拳を高く掲げて…このセリフ。
今年の大河ドラマ「青天を衝け」。14日(日)からスタートしていますが、明日、土曜の再放送に合わせて、遅ればせながらの感想です。
主人公は「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一。ちなみに幕末期の話から始まるため、大河ドラマを視聴している間ずっと…私は頭の中が忙しいです。

――まずは、その時代と人物を追います。
オープニング近く。成長した渋沢栄一(演:吉沢亮)が、徳川慶喜(演:草彅剛)と出会う場面。まず慶喜たちの馬を止めようとし、駆け抜けられても、走って追う。
1864年の文久年間。場所は京都の設定でした。
「今すでに、徳川の“お命”は尽きてございます!」と叫ぶ、渋沢が印象的でした。
…私が書く“本編”は、いま1859年前後なので、まだ描けていない時期。
知ってはいますが、5年後くらいには江戸幕府…かなり危ういですのですね。
――でも、第1話の主な時代設定は、渋沢栄一の幼少期。
先の場面から20年ほど遡り、1844年頃が中心だったかと思います。子役たちの演技で、養蚕が盛んな農村風景が瑞々しく描かれました。
…少し「青天を衝け」から離れます。
日本史的には、オランダ国王が幕府に開国勧告をしている時期。
「アヘン戦争の結果、見たでしょ。もう危ないから開国しましょうよ。」
…わりと面倒見の良いオランダからの“開国のススメ”。
ここでは幕府は動きませんでしたが、佐賀藩主・鍋島直正はこれを好機とみて、長崎でオランダの軍艦に乗り込んだりしています。
〔参照(終盤):第5話「藩校立志」③〕

――私のブログは、隙あらば佐賀藩の話に引き込みます。ご注意を。
話は「青天を衝け」に寄りますが、また「佐賀の大河ドラマ」のイメージと絡めてみます。“青天”第1話のキャストで、“本編”にも登場されている方を一部紹介。
〇幕府老中・阿部正弘(演:大谷亮平)。
私が“調整の達人”と考える方。押されているようでも、意外と思惑どおり。“やや太め”のイメージを持ちますが、大河ドラマでのスマートな印象に期待です。
〇水戸藩主・徳川斉昭(演:竹中直人)
とても過激な水戸烈公。「イメージどおりだ!」と世間の評判も上々のようです。砲術訓練の場面では、勇猛な水戸藩士たちに気持ちがザワザワします。
…“本編”でもこの2人のやり取りをイメージした話がありました。調整型の老中・阿部正弘と、過激な“水戸烈公”の会話で、佐賀藩がキーワードになります。
〔参照(中盤):第9話「和親条約」③〕
――そして、第1話の後半で護送されていた人物…
〇西洋砲術家・高島秋帆(演:玉木宏)
長崎の有力者・町役人だった高島秋帆ですが、この頃は囚われの身でした。
ちなみに、この直前期までは、佐賀藩の西洋砲術の先生だった方です。
私が描く“本編”では、高島秋帆が捕えられるまでを、こう表現してみました。
〔参照(終盤):第3話「西洋砲術」④-2〕
――「青天を衝け」の高島先生。
そのうちで良いですから、佐賀のことも想い出してください…
また機会があれば語りたいのですが、「青天を衝け」には、私が殿・鍋島直正や、請役・鍋島安房の第1候補にイメージする役者さんも出演されています。
「麒麟がくる」以上に、大河ドラマを追わねばならない1年になりそうです。
「俺は己の力で立っている…青い天に拳を突き上げている!」
顔だけじゃなくて、声も良いですね。吉沢亮さん。
紹介番組で見たシーン。切立った岩場から、右拳を高く掲げて…このセリフ。
今年の大河ドラマ「青天を衝け」。14日(日)からスタートしていますが、明日、土曜の再放送に合わせて、遅ればせながらの感想です。
主人公は「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一。ちなみに幕末期の話から始まるため、大河ドラマを視聴している間ずっと…私は頭の中が忙しいです。

――まずは、その時代と人物を追います。
オープニング近く。成長した渋沢栄一(演:吉沢亮)が、徳川慶喜(演:草彅剛)と出会う場面。まず慶喜たちの馬を止めようとし、駆け抜けられても、走って追う。
1864年の文久年間。場所は京都の設定でした。
「今すでに、徳川の“お命”は尽きてございます!」と叫ぶ、渋沢が印象的でした。
…私が書く“本編”は、いま1859年前後なので、まだ描けていない時期。
知ってはいますが、5年後くらいには江戸幕府…かなり危ういですのですね。
――でも、第1話の主な時代設定は、渋沢栄一の幼少期。
先の場面から20年ほど遡り、1844年頃が中心だったかと思います。子役たちの演技で、養蚕が盛んな農村風景が瑞々しく描かれました。
…少し「青天を衝け」から離れます。
日本史的には、オランダ国王が幕府に開国勧告をしている時期。
「アヘン戦争の結果、見たでしょ。もう危ないから開国しましょうよ。」
…わりと面倒見の良いオランダからの“開国のススメ”。
ここでは幕府は動きませんでしたが、佐賀藩主・鍋島直正はこれを好機とみて、長崎でオランダの軍艦に乗り込んだりしています。
〔参照(終盤):
――私のブログは、隙あらば佐賀藩の話に引き込みます。ご注意を。
話は「青天を衝け」に寄りますが、また「佐賀の大河ドラマ」のイメージと絡めてみます。“青天”第1話のキャストで、“本編”にも登場されている方を一部紹介。
〇幕府老中・阿部正弘(演:大谷亮平)。
私が“調整の達人”と考える方。押されているようでも、意外と思惑どおり。“やや太め”のイメージを持ちますが、大河ドラマでのスマートな印象に期待です。
〇水戸藩主・徳川斉昭(演:竹中直人)
とても過激な水戸烈公。「イメージどおりだ!」と世間の評判も上々のようです。砲術訓練の場面では、勇猛な水戸藩士たちに気持ちがザワザワします。
…“本編”でもこの2人のやり取りをイメージした話がありました。調整型の老中・阿部正弘と、過激な“水戸烈公”の会話で、佐賀藩がキーワードになります。
〔参照(中盤):
――そして、第1話の後半で護送されていた人物…
〇西洋砲術家・高島秋帆(演:玉木宏)
長崎の有力者・町役人だった高島秋帆ですが、この頃は囚われの身でした。
ちなみに、この直前期までは、佐賀藩の西洋砲術の先生だった方です。
私が描く“本編”では、高島秋帆が捕えられるまでを、こう表現してみました。
〔参照(終盤):
――「青天を衝け」の高島先生。
そのうちで良いですから、佐賀のことも想い出してください…
また機会があれば語りたいのですが、「青天を衝け」には、私が殿・鍋島直正や、請役・鍋島安房の第1候補にイメージする役者さんも出演されています。
「麒麟がくる」以上に、大河ドラマを追わねばならない1年になりそうです。
タグ :大河ドラマ
2021年02月17日
「“くまくま日本史”の感想」
こんばんは。
先日、皆様にお知らせした「ねこねこ日本史」をさっそく視聴しました。個人的に「わりと良かった…」ので予定を変更して、今日も語ります。
――私が、幕末期の佐賀に興味を持ち出してから、2年近く
佐賀の戦国時代については相変わらず疎いです。
実際、龍造寺隆信公についても、あまり知識がありません。佐賀の歴史に詳しい方なら“龍造寺四天王”の全員の名前をご存じかもしれません…
――少し前。いとこ(時々、登場する叔父上の長男)との会話で。
「“SR”兄さん、こんな言葉を聞いたことがありますか。」
「自慢じゃないが、佐賀の戦国時代には詳しくない…」
「五人揃って“龍造寺四天王”!」
「何だと…!?四天王なのに、5人組なのか!」
私は驚いた。「…なんと奇妙な。数が合わんぞ!」佐賀の歴史は、天井知らずに高く、底なしに深い…のかもしれない。
――まず、私は初級編から学ばねば…
「今回の放送で、龍造寺隆信がどう語られるのか?」
オープニングから宣教師(これもネコ)が語り始める。織田信長や豊臣秀吉と会っている人物の目線でも「龍造寺隆信はスゴい!」らしい。
――しかも、タイトル画面まで「くまくま日本史」に変化。
「さすがNHK(Eテレ)…芸が細かい!」
全編クマで表現される「肥前の熊」・龍造寺隆信。力は強いけど、臆病なクマ。
そういえば、猜疑心(さいぎしん)は強い人物だったと聞いたことがある。

※龍造寺隆信は隠居してから、この須古城に居たと聞いています。
…ここに来てから、さらに“巨大なクマ”になるのですね。
――そして、私が熱望した、あの方も登場!
佐賀藩の祖・鍋島直茂公も登場!幕末の殿・鍋島直正が尊敬し、模範とされた方です…但し、クマの着ぐるみをかぶったネコとして表現されていました!
何だか、暴走パワフルなクマ・龍造寺隆信。
その影で、知略を巡らせるネコ・鍋島直茂。
…この二者の強力タッグで、九州北部の領土を拡大。作中では「くまくまランド」を築いていました。
――これは、大体合っているのだろうか…
佐賀の歴史に詳しい方ならば、いろいろツッコミどころは、あるかもしれません。
まずクマでもネコでも、全国でその名を知ってもらい、そのうえで「いや、本当の龍造寺隆信はね…」と語れるほど知名度が上がればなお良し!…と考えます。
――何の因果か、佐賀の歴史を強く推し始めた、私。
その道のりは果てしなく遠いようです…
いまは幕末を考えるので手一杯ですが、機会があれば“龍造寺四天王”も調べてみようかと思います。
先日、皆様にお知らせした「ねこねこ日本史」をさっそく視聴しました。個人的に「わりと良かった…」ので予定を変更して、今日も語ります。
――私が、幕末期の佐賀に興味を持ち出してから、2年近く
佐賀の戦国時代については相変わらず疎いです。
実際、龍造寺隆信公についても、あまり知識がありません。佐賀の歴史に詳しい方なら“龍造寺四天王”の全員の名前をご存じかもしれません…
――少し前。いとこ(時々、登場する叔父上の長男)との会話で。
「“SR”兄さん、こんな言葉を聞いたことがありますか。」
「自慢じゃないが、佐賀の戦国時代には詳しくない…」
「五人揃って“龍造寺四天王”!」
「何だと…!?四天王なのに、5人組なのか!」
私は驚いた。「…なんと奇妙な。数が合わんぞ!」佐賀の歴史は、天井知らずに高く、底なしに深い…のかもしれない。
――まず、私は初級編から学ばねば…
「今回の放送で、龍造寺隆信がどう語られるのか?」
オープニングから宣教師(これもネコ)が語り始める。織田信長や豊臣秀吉と会っている人物の目線でも「龍造寺隆信はスゴい!」らしい。
――しかも、タイトル画面まで「くまくま日本史」に変化。
「さすがNHK(Eテレ)…芸が細かい!」
全編クマで表現される「肥前の熊」・龍造寺隆信。力は強いけど、臆病なクマ。
そういえば、猜疑心(さいぎしん)は強い人物だったと聞いたことがある。
※龍造寺隆信は隠居してから、この須古城に居たと聞いています。
…ここに来てから、さらに“巨大なクマ”になるのですね。
――そして、私が熱望した、あの方も登場!
佐賀藩の祖・鍋島直茂公も登場!幕末の殿・鍋島直正が尊敬し、模範とされた方です…但し、クマの着ぐるみをかぶったネコとして表現されていました!
何だか、暴走パワフルなクマ・龍造寺隆信。
その影で、知略を巡らせるネコ・鍋島直茂。
…この二者の強力タッグで、九州北部の領土を拡大。作中では「くまくまランド」を築いていました。
――これは、大体合っているのだろうか…
佐賀の歴史に詳しい方ならば、いろいろツッコミどころは、あるかもしれません。
まずクマでもネコでも、全国でその名を知ってもらい、そのうえで「いや、本当の龍造寺隆信はね…」と語れるほど知名度が上がればなお良し!…と考えます。
――何の因果か、佐賀の歴史を強く推し始めた、私。
その道のりは果てしなく遠いようです…
いまは幕末を考えるので手一杯ですが、機会があれば“龍造寺四天王”も調べてみようかと思います。
2021年02月15日
「“ねこねこ日本史”に注目」
こんばんは。
「戦国に熊出没注意!龍造寺隆信!」
テレビ欄を参照したときに、目に留まったある番組のサブタイトルです。
いつもお読みいただいている皆様なら、私が「大河ドラマ」の感想をつぶやく…と予想されたかもしれません。放送までの時間の都合でこちらを優先いたします。
――今回は、“NHK Eテレ”で放送予定のアニメのお知らせ。
名称:アニメ ねこねこ日本史
日時:2月17日(水)午後6時45分~(夕方)
「もし、歴史上の人物がネコだったら?」という設定で、ゆる~く日本史が学べるという…とてもEテレ(教育テレビ)らしい番組。お話の主役は毎回、変わります。
但し、登場人物(?)が、ほぼネコです。その辺りは割り引いてご覧ください。
小学生にもよく知られていて、幅広い年代でファンが居ると聞きます。
…そして、テレビ好きのネコたちも、気になるに違いありません。

「気になるにゃ~ん。」
――幕末「大河ドラマ」の感想を差し置いて…
私がこの番組をお知らせする理由!もちろん佐賀の戦国大名「龍造寺隆信」公が主役だからです!
しかも“ネコ”が基本のはずが、「龍造寺隆信」はクマとして表現されるとか!
ネコ以外の登場人物も、時々混ざってくる同番組。例えば、豊臣秀吉はサル、斎藤道三はマムシ…とにかく少数派です。
――さすが「肥前の熊」と呼ばれる御仁。
その異名は、伊達(ダテ)ではありません。
「龍造寺隆信」が主役ならば、その参謀格で佐賀藩の祖「鍋島直茂」の登場にも期待しています。まぁ、もし登場できても、たぶんネコなのですけども…
仮に藩祖さまが登場せずとも、私には少し前の、こんな記憶もあります。
龍造寺隆信公が主役なのは、佐賀の歴史を推してゆく好機なのです。
〔参照:「醒覚の剣」(古城)〕
――そして、数年続いた「ねこねこ日本史」ですが…
実は今シーズン(3月まで)でテレビ放映は終了のようなのですね。
「いつか幕末の佐賀藩が題材になるか?」と考える私には、残念なお知らせ。
全国の小学生にも「佐賀藩のすごさ」をわかりやすく伝えられたはずなのに…
「でも…まずは龍造寺隆信公が、どう描かれるか?」
非常に心配ではありますが、楽しみに録画したいと思います。
――たとえテレビ番組の放送は無くとも…
めげずに機会があれば、こんなイメージも練りたいです。
「幕末佐賀藩の“ねこねこ日本史”も見たい!」
~もし、幕末の佐賀藩士たちが猫だったら~
「蘭学を学ぶ!」とか、「今度は英語だ」とか、「大砲を教えて!」とか、「蒸気船ほしい」とか…なんだか長崎辺りで、“ネコ集会”してそうですね。
やや“本編”がシリアスな展開になってきたので、今日は息抜きをしてみました。
ちなみに次の投稿は「青天を衝け」第1話について語りたいです。
「戦国に熊出没注意!龍造寺隆信!」
テレビ欄を参照したときに、目に留まったある番組のサブタイトルです。
いつもお読みいただいている皆様なら、私が「大河ドラマ」の感想をつぶやく…と予想されたかもしれません。放送までの時間の都合でこちらを優先いたします。
――今回は、“NHK Eテレ”で放送予定のアニメのお知らせ。
名称:アニメ ねこねこ日本史
日時:2月17日(水)午後6時45分~(夕方)
「もし、歴史上の人物がネコだったら?」という設定で、ゆる~く日本史が学べるという…とてもEテレ(教育テレビ)らしい番組。お話の主役は毎回、変わります。
但し、登場人物(?)が、ほぼネコです。その辺りは割り引いてご覧ください。
小学生にもよく知られていて、幅広い年代でファンが居ると聞きます。
…そして、テレビ好きのネコたちも、気になるに違いありません。
「気になるにゃ~ん。」
――幕末「大河ドラマ」の感想を差し置いて…
私がこの番組をお知らせする理由!もちろん佐賀の戦国大名「龍造寺隆信」公が主役だからです!
しかも“ネコ”が基本のはずが、「龍造寺隆信」はクマとして表現されるとか!
ネコ以外の登場人物も、時々混ざってくる同番組。例えば、豊臣秀吉はサル、斎藤道三はマムシ…とにかく少数派です。
――さすが「肥前の熊」と呼ばれる御仁。
その異名は、伊達(ダテ)ではありません。
「龍造寺隆信」が主役ならば、その参謀格で佐賀藩の祖「鍋島直茂」の登場にも期待しています。まぁ、もし登場できても、たぶんネコなのですけども…
仮に藩祖さまが登場せずとも、私には少し前の、こんな記憶もあります。
龍造寺隆信公が主役なのは、佐賀の歴史を推してゆく好機なのです。
〔参照:
――そして、数年続いた「ねこねこ日本史」ですが…
実は今シーズン(3月まで)でテレビ放映は終了のようなのですね。
「いつか幕末の佐賀藩が題材になるか?」と考える私には、残念なお知らせ。
全国の小学生にも「佐賀藩のすごさ」をわかりやすく伝えられたはずなのに…
「でも…まずは龍造寺隆信公が、どう描かれるか?」
非常に心配ではありますが、楽しみに録画したいと思います。
――たとえテレビ番組の放送は無くとも…
めげずに機会があれば、こんなイメージも練りたいです。
「幕末佐賀藩の“ねこねこ日本史”も見たい!」
~もし、幕末の佐賀藩士たちが猫だったら~
「蘭学を学ぶ!」とか、「今度は英語だ」とか、「大砲を教えて!」とか、「蒸気船ほしい」とか…なんだか長崎辺りで、“ネコ集会”してそうですね。
やや“本編”がシリアスな展開になってきたので、今日は息抜きをしてみました。
ちなみに次の投稿は「青天を衝け」第1話について語りたいです。
タグ :佐賀
2021年02月13日
第15話「江戸動乱」⑬(海に駆ける)
こんばんは。前回の続きです。
殿・鍋島直正が待ち望んだ蒸気船が長崎に到着。ついに佐賀藩は、蒸気船(黒船※)を保有することになりました。
あらためて“電流丸”と名付けられた蒸気船。幕末期に、日本の海を駆けます。
――1859年(安政6年)春。小倉(福岡)の沖合。
「帆ば、畳(たた)まんね!」
「汽走に切り換えじゃ!!」
甲板上で慌ただしく動き回る、佐賀藩士たち。
長崎の海軍伝習で訓練は積んだが、まだ余裕はない印象だ。しかし、乗務する藩士たちからは、誇らしげな笑みがこぼれる。

――蒸気船(黒船)を運用する、佐賀藩士。
“黒船”に乗せてもらうのではない、自ら動かすのだ。関門海峡を抜け、瀬戸内に向かう手前で、蒸気機関を起動する。
「何やら、楽しかですね!」
「畏(おそ)れ多くも、殿の御前ったい!気ば引き締めんね!」
ボーッ…
忙しく乗員たちがロープを曳いて帆を畳む。ほどなく“電流丸”は、汽走に入る。
ゴゴ…ゴゴッ…
海面の下ではスクリューが回転を始め、白波がザワザワと泡立つ。
――“電流丸”は、力強く煙を吐き、海峡を行く。
甲板上。潮風を受けながら、殿・直正が側近・古川与一(松根)と並んで話す。
「海は良いのう。与一よ!ようやっと、ここまで来たな!」
幼少期から直正と育った世話係・古川。
言葉を返そうと、殿の顔を伺う…あらためて考え事の様子だ。
「…船団を組まねばならぬ。良き港も要るな。」
「港…何処(いずこ)にお考えでございますかな?」
佐賀藩は海に面するが、南の有明海は遠浅で干満差が大きく、扱いは難しい。北の伊万里は陶磁器の積出港として賑わうが、佐賀城との連絡に適さない。
――ここは“幼なじみ”の古川にも、予期せぬ回答があった。
「天草(熊本)に、“蒸気船”の港が欲しいのう。」
「…天草は、“御領”(幕府領)ではありませぬか!?」
「そうじゃ!それを江戸で談判する。」
“電流丸”での参勤交代に不都合は無いようだ。試験運用は上々の出来だ。あとは通常の大名行列で、東海道から江戸に入る。

――外海に開かれた港で、異国船に目を光らせる。
殿・鍋島直正がこの“想い”を届けたい相手は、大老・井伊直弼である。
江戸に到着した直正。ほどなく、井伊が住まう彦根藩邸に招かれた。
「いかがであったか?“黒船”での参勤は。」
他の大名ではめったにお目にかかれない、上機嫌な井伊大老だ。
「“蒸気船”は良きものにござるぞ!井伊さまも、いかがか!」
殿・直正による「“黒船参勤”のススメ」である。
「はっはっは…そのような事を為すのは、鍋島ぐらいなものだ。」
――井伊は、何やら久しぶりに笑ったようだ。
西洋列強の圧力、朝廷や諸侯の批判が一身に集まる。井伊は開国を断行し、次期将軍を紀伊の徳川慶福(家茂)に定めた。大老に心の休まる暇など無い。
「申したき儀(用件)なれば、遠慮は無用。鍋島肥前の言なれば、しかと聞こう。」
多忙を極める井伊直弼だが、佐賀の殿様には真っ直ぐに目を向ける。
誰と手を結び、どう幕府を動揺させるか…最近では権謀術数ばかりを見る。一方で、鍋島は違う。他藩とつるむどころか、幕府に寄りかかる様子も無い。
――「誰に頼らずとも西の海くらいは、自力で守って見せる。」
井伊の視線に応える、直正の目がそう語っていた。
「肥後の天草を…、佐賀が借り受けたい。」
幕府の治める肥後(熊本)の天草地方に、佐賀藩の「海軍基地」を作る。まず異国船が往来する“日本の表玄関”・長崎の周辺に、鉄壁の守りを敷くのだ。
無計画に“攘夷”を叫ぶのは、実際に異国と向き合う佐賀藩にとって絵空事だ。直正は、並みの大名では思いも及ばない計画を切り出した。
(続く)
※“黒船”という呼び名は西洋船の船体の色に由来し、江戸初期からの表現だそうです。そのため、西洋の“帆船”も「黒船」と呼ばれたと思われますが、幕末のドラマによくあるように、作中人物のセリフで「黒船」が“蒸気船”を指している場合があります。
殿・鍋島直正が待ち望んだ蒸気船が長崎に到着。ついに佐賀藩は、蒸気船(黒船※)を保有することになりました。
あらためて“電流丸”と名付けられた蒸気船。幕末期に、日本の海を駆けます。
――1859年(安政6年)春。小倉(福岡)の沖合。
「帆ば、畳(たた)まんね!」
「汽走に切り換えじゃ!!」
甲板上で慌ただしく動き回る、佐賀藩士たち。
長崎の海軍伝習で訓練は積んだが、まだ余裕はない印象だ。しかし、乗務する藩士たちからは、誇らしげな笑みがこぼれる。
――蒸気船(黒船)を運用する、佐賀藩士。
“黒船”に乗せてもらうのではない、自ら動かすのだ。関門海峡を抜け、瀬戸内に向かう手前で、蒸気機関を起動する。
「何やら、楽しかですね!」
「畏(おそ)れ多くも、殿の御前ったい!気ば引き締めんね!」
ボーッ…
忙しく乗員たちがロープを曳いて帆を畳む。ほどなく“電流丸”は、汽走に入る。
ゴゴ…ゴゴッ…
海面の下ではスクリューが回転を始め、白波がザワザワと泡立つ。
――“電流丸”は、力強く煙を吐き、海峡を行く。
甲板上。潮風を受けながら、殿・直正が側近・古川与一(松根)と並んで話す。
「海は良いのう。与一よ!ようやっと、ここまで来たな!」
幼少期から直正と育った世話係・古川。
言葉を返そうと、殿の顔を伺う…あらためて考え事の様子だ。
「…船団を組まねばならぬ。良き港も要るな。」
「港…何処(いずこ)にお考えでございますかな?」
佐賀藩は海に面するが、南の有明海は遠浅で干満差が大きく、扱いは難しい。北の伊万里は陶磁器の積出港として賑わうが、佐賀城との連絡に適さない。
――ここは“幼なじみ”の古川にも、予期せぬ回答があった。
「天草(熊本)に、“蒸気船”の港が欲しいのう。」
「…天草は、“御領”(幕府領)ではありませぬか!?」
「そうじゃ!それを江戸で談判する。」
“電流丸”での参勤交代に不都合は無いようだ。試験運用は上々の出来だ。あとは通常の大名行列で、東海道から江戸に入る。
――外海に開かれた港で、異国船に目を光らせる。
殿・鍋島直正がこの“想い”を届けたい相手は、大老・井伊直弼である。
江戸に到着した直正。ほどなく、井伊が住まう彦根藩邸に招かれた。
「いかがであったか?“黒船”での参勤は。」
他の大名ではめったにお目にかかれない、上機嫌な井伊大老だ。
「“蒸気船”は良きものにござるぞ!井伊さまも、いかがか!」
殿・直正による「“黒船参勤”のススメ」である。
「はっはっは…そのような事を為すのは、鍋島ぐらいなものだ。」
――井伊は、何やら久しぶりに笑ったようだ。
西洋列強の圧力、朝廷や諸侯の批判が一身に集まる。井伊は開国を断行し、次期将軍を紀伊の徳川慶福(家茂)に定めた。大老に心の休まる暇など無い。
「申したき儀(用件)なれば、遠慮は無用。鍋島肥前の言なれば、しかと聞こう。」
多忙を極める井伊直弼だが、佐賀の殿様には真っ直ぐに目を向ける。
誰と手を結び、どう幕府を動揺させるか…最近では権謀術数ばかりを見る。一方で、鍋島は違う。他藩とつるむどころか、幕府に寄りかかる様子も無い。
――「誰に頼らずとも西の海くらいは、自力で守って見せる。」
井伊の視線に応える、直正の目がそう語っていた。
「肥後の天草を…、佐賀が借り受けたい。」
幕府の治める肥後(熊本)の天草地方に、佐賀藩の「海軍基地」を作る。まず異国船が往来する“日本の表玄関”・長崎の周辺に、鉄壁の守りを敷くのだ。
無計画に“攘夷”を叫ぶのは、実際に異国と向き合う佐賀藩にとって絵空事だ。直正は、並みの大名では思いも及ばない計画を切り出した。
(続く)
※“黒船”という呼び名は西洋船の船体の色に由来し、江戸初期からの表現だそうです。そのため、西洋の“帆船”も「黒船」と呼ばれたと思われますが、幕末のドラマによくあるように、作中人物のセリフで「黒船」が“蒸気船”を指している場合があります。
2021年02月11日
第15話「江戸動乱」⑫(その船、電流丸)
こんばんは。
幕末、1858年(安政5年)頃。京都は「安政の大獄」の探索で物騒な雰囲気。佐賀の話に戻ると、“本編”を書く私までホッとするところがあります。
――季節は秋。佐賀の殿様・鍋島直正は長崎に居た。
「いよいよじゃな。」
殿・直正が心待ちにしていたものが到着する日。
「はっ!間もなく“ナガサキ号”が入港します。」
“佐賀の鉄製大砲”を製作した、側近・本島藤太夫が答える。
本島は40代半ばだが、長崎の海軍伝習所で若い藩士たちとともに学ぶ。この日は、長崎の高台から“その船”を待っていた。

――長崎港の入口に、一隻の蒸気船(黒船)の船影が現れる。
「おおっ!あの船か!!」
直正が、少年のように目を輝かせた。
ボッ……
まるで殿・直正が見ていると意識して、“黒船”が返事をしたかのようだ。
「これは良き船であるな!本島。早う近くで見たいぞ!」
「はい、この本島も嬉しゅうございます!」
――どう見ても、はしゃいでいる、殿様と家臣。
船が港に近づけば、もう居てもたってもいられない。
「本島…!参るぞ。皆も続け!」
「ははっ。皆の者、これより“御船”に向かうぞ。」
殿・直正を護衛する、侍の幾人かが急ぎ足で後を追う。
岸壁から見る“ナガサキ号”と呼ばれた黒船。甲板には、オランダ人の艦長と思しき人物。傍らでは、赤毛の若い女性が手を振る。
――オランダ製の蒸気船、仮称は“ナガサキ”号。
最新のスクリュー推進式だ。佐賀藩は、オランダよりこの艦船を購入した。
陶磁器・ハゼ蝋(ろう)・製茶などの殖産興業で、資金力を蓄えた成果である。
ほどなく船に乗り込み、甲板に上がる殿・直正。当時、最も“黒船”に慣れた大名と言ってよいだろう。蒸気船に乗ることに、全く躊躇(ちゅうちょ)がない。
船の甲板から周囲を見回す。張り巡らされたロープが天を覆う。蒸気機関には、馬百頭分の力があるという。直正は、いま一度、腹の底から声を出した。
「良き船じゃ!!」

――佐賀藩士には、オランダ語の遣い手が多いが…
通訳に頼るだけでなく、いつも直接オランダ人に話しかける殿・直正。
変わった大名であるが、異文化コミュニケーションには、勢いも大事のようだ。
「これで余は…、翼を得たかのようじゃ。飛び立つように嬉しいぞ!!」
ついに獲得できた、佐賀藩が所有する蒸気船(黒船)。
オランダ人艦長にも“肥前サマ”(直正)の喜びが伝わる。
「長イ航海で、オ届ケスル甲斐が有リマシタ…」
――艦長も満面の笑み。その隣、赤毛の女性は、艦長の妻である。
「ほう…猫のような目。そして、不思議なる髪色じゃ…」
“肥前サマ”の大注目に、サービス精神を発揮した艦長の妻。
赤毛の美しい髪をクルクルとほどいて見せる。
当時、直正が関わるような日本女性は髪を油でまとめている。サラサラとした髪。西洋美人も、異文化の香りなのだ。
「この者も、また美しい。興味深いのう!!」
――今日は至って、上機嫌な直正である。
蒸気船ならば、佐賀藩の大砲を積み、運用できる。異国に怯えてばかりいなくても良い。一方で、欧米列強の実力も見極めず「攘夷」を叫ぶのは危険に過ぎる。
「…殿。“次を如何(いかが)するか”をお考えでございますな。」
「さすがは本島、察しが良いことだ。」
このとき殿・鍋島直正は、また真剣な面持ちに戻っていた。
――この蒸気船は、“電流丸”と名付けられた。
当時の日本では希少な、最新の蒸気船の一隻。この船をどう用いるか…そして、佐賀がどう動くか。それは国の未来に関わっていた。
(続く)
〔参照記事〕
〇発注時点の話(終盤)
・第11話「蝦夷探検」①(殿、蒸気船に乗る)
〇同時期の話(終盤)
・第12話「海軍伝習」⑩-2(負けんばい!・後編)
幕末、1858年(安政5年)頃。京都は「安政の大獄」の探索で物騒な雰囲気。佐賀の話に戻ると、“本編”を書く私までホッとするところがあります。
――季節は秋。佐賀の殿様・鍋島直正は長崎に居た。
「いよいよじゃな。」
殿・直正が心待ちにしていたものが到着する日。
「はっ!間もなく“ナガサキ号”が入港します。」
“佐賀の鉄製大砲”を製作した、側近・本島藤太夫が答える。
本島は40代半ばだが、長崎の海軍伝習所で若い藩士たちとともに学ぶ。この日は、長崎の高台から“その船”を待っていた。
――長崎港の入口に、一隻の蒸気船(黒船)の船影が現れる。
「おおっ!あの船か!!」
直正が、少年のように目を輝かせた。
ボッ……
まるで殿・直正が見ていると意識して、“黒船”が返事をしたかのようだ。
「これは良き船であるな!本島。早う近くで見たいぞ!」
「はい、この本島も嬉しゅうございます!」
――どう見ても、はしゃいでいる、殿様と家臣。
船が港に近づけば、もう居てもたってもいられない。
「本島…!参るぞ。皆も続け!」
「ははっ。皆の者、これより“御船”に向かうぞ。」
殿・直正を護衛する、侍の幾人かが急ぎ足で後を追う。
岸壁から見る“ナガサキ号”と呼ばれた黒船。甲板には、オランダ人の艦長と思しき人物。傍らでは、赤毛の若い女性が手を振る。
――オランダ製の蒸気船、仮称は“ナガサキ”号。
最新のスクリュー推進式だ。佐賀藩は、オランダよりこの艦船を購入した。
陶磁器・ハゼ蝋(ろう)・製茶などの殖産興業で、資金力を蓄えた成果である。
ほどなく船に乗り込み、甲板に上がる殿・直正。当時、最も“黒船”に慣れた大名と言ってよいだろう。蒸気船に乗ることに、全く躊躇(ちゅうちょ)がない。
船の甲板から周囲を見回す。張り巡らされたロープが天を覆う。蒸気機関には、馬百頭分の力があるという。直正は、いま一度、腹の底から声を出した。
「良き船じゃ!!」
――佐賀藩士には、オランダ語の遣い手が多いが…
通訳に頼るだけでなく、いつも直接オランダ人に話しかける殿・直正。
変わった大名であるが、異文化コミュニケーションには、勢いも大事のようだ。
「これで余は…、翼を得たかのようじゃ。飛び立つように嬉しいぞ!!」
ついに獲得できた、佐賀藩が所有する蒸気船(黒船)。
オランダ人艦長にも“肥前サマ”(直正)の喜びが伝わる。
「長イ航海で、オ届ケスル甲斐が有リマシタ…」
――艦長も満面の笑み。その隣、赤毛の女性は、艦長の妻である。
「ほう…猫のような目。そして、不思議なる髪色じゃ…」
“肥前サマ”の大注目に、サービス精神を発揮した艦長の妻。
赤毛の美しい髪をクルクルとほどいて見せる。
当時、直正が関わるような日本女性は髪を油でまとめている。サラサラとした髪。西洋美人も、異文化の香りなのだ。
「この者も、また美しい。興味深いのう!!」
――今日は至って、上機嫌な直正である。
蒸気船ならば、佐賀藩の大砲を積み、運用できる。異国に怯えてばかりいなくても良い。一方で、欧米列強の実力も見極めず「攘夷」を叫ぶのは危険に過ぎる。
「…殿。“次を如何(いかが)するか”をお考えでございますな。」
「さすがは本島、察しが良いことだ。」
このとき殿・鍋島直正は、また真剣な面持ちに戻っていた。
――この蒸気船は、“電流丸”と名付けられた。
当時の日本では希少な、最新の蒸気船の一隻。この船をどう用いるか…そして、佐賀がどう動くか。それは国の未来に関わっていた。
(続く)
〔参照記事〕
〇発注時点の話(終盤)
・
〇同時期の話(終盤)
・
2021年02月10日
「京の宵闇」
こんばんは。
「麒麟がくる」の最終回の余韻(よいん)に浸っていたくもありますが、今週末には「青天を衝け」も始まるので、また“戦国”から“幕末”に視点を戻します。
――まず、直近の“本編”を振り返ります。
公家・伊丹重賢のもとに、屈強な侍たちが詰めかけていました。
〔参照(終盤):第15話「江戸動乱」⑪(親心に似たるもの)〕
伊丹さまですが、副島種臣(枝吉次郎)と佐賀藩の京都出兵を話していた方。青蓮院宮という身分の高い公家に仕えています。
――この頃、「安政の大獄」が始まっています。
1858年。朝廷から、主に水戸藩を対象とした「戊午の密勅」が下されます。
朝廷が各藩に直接「幕府の改革」と「攘夷の実行」を指示する内容。幕府の頭ごなしに、各藩への命令。大荒れ間違いなしです。
大老・井伊直弼や老中・間部詮勝ら幕府首脳は、探索を指示します。出典は不確かですが「井伊の赤鬼、間部の青鬼」と呼ばれていたという話もあるようです。

――井伊の側近・長野主膳らの捜査で…
首謀者とされた梅田雲浜は、若狭国(福井県南部)の人。元は武士(小浜藩士)でしたが、この時点では尊王攘夷の活動家。
幕府を激しく批判し“密勅”が出るよう暗躍。商才もあり、資金力も備えた様子。「安政の大獄」の逮捕者・第一号扱いとなっているようです。
――“鬼”呼ばわりされた幕府側の捜査は、さらに進展。
芋づる式に関係者が捕縛されています。先ほどの梅田雲浜と関わる人物が、次々と“捜査線上”に浮かびます。
主に捜査に動くのは、井伊直弼の領国(滋賀)の「彦根藩士」。そして、幕府の“京都支店”である「京都所司代」。
――尊攘活動家・梅田雲浜と接点のあった人物。
例えば、長州藩(山口)の吉田松陰も有名ですね。地元・萩で梅田雲浜と会った際に、幕府の重要人物である「老中・間部詮勝の暗殺」を相談していたとか…
攘夷志士たちの相談事…やはり過激です。吉田松陰は、あえて“その計画”を自白したため処刑となったそうです。

――そして、捜査の手は“一橋派”へ…
福井藩の橋本左内、薩摩藩(鹿児島)の西郷吉之助。大河ドラマ「西郷どん」では「次の将軍は、一橋慶喜公に!」と熱心な2人が描かれました。
“安政の大獄”では「幕臣でも無いのに、将軍選びに口出しした者」も追われる展開に。「西郷どん」では、風間俊介さんと鈴木亮平さんが逃走する場面です。
――でも、「佐賀藩の大河ドラマ」なので…
ここは、あえて伊丹重賢という人物に注目しました。佐賀への出兵要請で、副島種臣と関わっています。
副島の「佐賀から兵を出しましょう!」という提案に応じない殿・鍋島直正。この「安政の大獄」の展開を読んでいた…ように考えています。
――では、屈強な侍に囲まれた、伊丹重賢の運命やいかに…
次の時代へ生き延びます。伊丹さまの次男が、伊丹二郎というお名前。実業家として大正・昭和初期に「麒麟麦酒(キリンビール)」の会長を長く務めたとか。
…まだ「麒麟がくる」を引きずっていますが、大河ドラマの中でも“公家”を丁寧に描いた作品と思います。幕末期も、公家同士の派閥争いが政局に影響します。
「京の宵闇」で沸騰する尊攘志士たちの想い、交錯する公家たちの思惑…今日は、たぶん“本編”では描けない話をお送りしました。
「麒麟がくる」の最終回の余韻(よいん)に浸っていたくもありますが、今週末には「青天を衝け」も始まるので、また“戦国”から“幕末”に視点を戻します。
――まず、直近の“本編”を振り返ります。
公家・伊丹重賢のもとに、屈強な侍たちが詰めかけていました。
〔参照(終盤):
伊丹さまですが、副島種臣(枝吉次郎)と佐賀藩の京都出兵を話していた方。青蓮院宮という身分の高い公家に仕えています。
――この頃、「安政の大獄」が始まっています。
1858年。朝廷から、主に水戸藩を対象とした「戊午の密勅」が下されます。
朝廷が各藩に直接「幕府の改革」と「攘夷の実行」を指示する内容。幕府の頭ごなしに、各藩への命令。大荒れ間違いなしです。
大老・井伊直弼や老中・間部詮勝ら幕府首脳は、探索を指示します。出典は不確かですが「井伊の赤鬼、間部の青鬼」と呼ばれていたという話もあるようです。

――井伊の側近・長野主膳らの捜査で…
首謀者とされた梅田雲浜は、若狭国(福井県南部)の人。元は武士(小浜藩士)でしたが、この時点では尊王攘夷の活動家。
幕府を激しく批判し“密勅”が出るよう暗躍。商才もあり、資金力も備えた様子。「安政の大獄」の逮捕者・第一号扱いとなっているようです。
――“鬼”呼ばわりされた幕府側の捜査は、さらに進展。
芋づる式に関係者が捕縛されています。先ほどの梅田雲浜と関わる人物が、次々と“捜査線上”に浮かびます。
主に捜査に動くのは、井伊直弼の領国(滋賀)の「彦根藩士」。そして、幕府の“京都支店”である「京都所司代」。
――尊攘活動家・梅田雲浜と接点のあった人物。
例えば、長州藩(山口)の吉田松陰も有名ですね。地元・萩で梅田雲浜と会った際に、幕府の重要人物である「老中・間部詮勝の暗殺」を相談していたとか…
攘夷志士たちの相談事…やはり過激です。吉田松陰は、あえて“その計画”を自白したため処刑となったそうです。
――そして、捜査の手は“一橋派”へ…
福井藩の橋本左内、薩摩藩(鹿児島)の西郷吉之助。大河ドラマ「西郷どん」では「次の将軍は、一橋慶喜公に!」と熱心な2人が描かれました。
“安政の大獄”では「幕臣でも無いのに、将軍選びに口出しした者」も追われる展開に。「西郷どん」では、風間俊介さんと鈴木亮平さんが逃走する場面です。
――でも、「佐賀藩の大河ドラマ」なので…
ここは、あえて伊丹重賢という人物に注目しました。佐賀への出兵要請で、副島種臣と関わっています。
副島の「佐賀から兵を出しましょう!」という提案に応じない殿・鍋島直正。この「安政の大獄」の展開を読んでいた…ように考えています。
――では、屈強な侍に囲まれた、伊丹重賢の運命やいかに…
次の時代へ生き延びます。伊丹さまの次男が、伊丹二郎というお名前。実業家として大正・昭和初期に「麒麟麦酒(キリンビール)」の会長を長く務めたとか。
…まだ「麒麟がくる」を引きずっていますが、大河ドラマの中でも“公家”を丁寧に描いた作品と思います。幕末期も、公家同士の派閥争いが政局に影響します。
「京の宵闇」で沸騰する尊攘志士たちの想い、交錯する公家たちの思惑…今日は、たぶん“本編”では描けない話をお送りしました。