2021年02月27日
第15話「江戸動乱」⑯(殿を守れ!)
こんばんは。
「桜田門外の変」はあろうことか、日中に江戸城の門前で起きた大事件でした。
市中での情報は錯綜(さくそう)します。大老・井伊直弼が襲撃された…それは佐賀藩にとって、他人事ではありませんでした。
――江戸。佐賀藩邸に入った衝撃の一報。
この急報は間髪を置かず、佐賀藩の上層部を駆け巡った。
「井伊さまは、ご無事でござろうか!?」
「いや、実のところは…」
渋い表情を浮かべるのは、鍋島夏雲(市佑)。
殿・鍋島直正の側近で、老齢ながら機密情報の集約に長じる。
朝廷への工作活動を咎められた水戸藩。“安政の大獄”で徹底した処罰を受けた。そして、主に水戸の脱藩浪士により、今回の襲撃は実行された。
――保守派・原田小四郎が、険しい顔をする。
「井伊さまのご家来も、さぞや無念だったであろう…」
武骨な原田の、いかにも武士らしい感情移入だ。
井伊直弼を護衛した彦根藩士たちは、ほとんどが急襲に対応できなかった。しかし二刀を抜き放ち、命尽きるまで戦った者もいたという。
「そのうえ、穏やかでない話も流布(るふ)しておる…」
鍋島夏雲は「佐賀藩が余所(よそ)から“どう見られている”か」も探っていた。
――「いま、何とおっしゃったか!」原田が大声を出す。
「原田どの…、声が大きゅうござるぞ。」
年配者の落ち着きか、鍋島夏雲が制止する。
…世間の噂に「次に狙われるのは、佐賀の鍋島直正」とあるらしい。
「殿に万一、かのような狼藉(ろうぜき)を企てる者あらば…」
保守派・原田には、刺激の強すぎる一言だったようだ。
「この原田、先陣を切って迎え撃ちますぞ!!」
殿・直正への忠義第一。こうなると佐賀藩の動きは早い。

――しばし後、早馬が駆け込むや、佐賀城下にも話が広がる。
大隈八太郎(重信)もまた、砂ぼこりを上げて城下を走っていた。
「八太郎さん、また慌ただしかですね…。」
久米丈一郎(邦武)。大隈八太郎(重信)の友達である。
「丈一郎!なんば、のんびり本やら読みよるね!!」
キュッと足を止めたが、大隈八太郎は見るからに気忙しい。
「仲間から腕利きの剣士を江戸に送らんば!」
「一体、何の騒ぎが起きよるですか!?」
――急報にあわせ、城下を駆け巡る指令。
佐賀藩の上層部は「殿の身が危ない」と判断した。双方で屋敷の行き来もあり、鍋島直正が井伊直弼と親交が深かったのは知られている。
水戸藩に近い立場では「桜田門外の変」は早くも快挙として扱われている。「“安政の大獄”の恨み深い、井伊を討った」のだと。この流れは危うい。
「次は、その“仲間”だ」と、殿・直正にも矛先が向く可能性がある。大隈は、城下で「剣の達人を集め、佐賀から江戸に派遣せよ。」と指令が回るのを聞いた。
――ここで、大隈は「江戸に“尊王”の同志を送ろう!」と思い付いた。
殿の身辺警護は、話をする機会にも恵まれるはず。剣の腕だけでは足らない…賢い者を送らねば。
佐賀藩の立場は「幕府を助けて異国に備える」が基本だった。混迷の今こそ「朝廷をお守りする佐賀藩」への転換を図る…のが、大隈の目論見(もくろみ)だ。
「“剣の達人”が要るのでしょう。八太郎さんは、あまり剣ば振りよらんもんね。」
久米からの鋭い指摘。“佐賀ことば”によそ行き口調が混ざるのが気にさわる。
「“砲術の家”の子だから、仕方ないんである。」
カチンと来た、大隈。“演説調”になって、仰々しく自身の家の役目を語る。

――大隈が焦る中、急派される剣士たちが、続々決まっていく。
「私は盾となってでも、殿をお守りする!!」
決意を述べる侍がいる。流儀は新陰流のようだ。
「盾とは志の低かぞ!敵は皆、返り討ちにしてやらんば。」
こちらは、いささか荒っぽい。
「おう、鍋島武士の誇りを見せてやる!」
いずれも各道場を代表するような剣の遣い手。
――こうして“見えない敵”との戦いを始めた、佐賀藩士たち。
「皆、お役目はわかっておるようだな。これより直ちに江戸に向かう!」
剣士の集団を率いるのは、藩の重役たちを補佐する切れ者・中野数馬だ。
任務は殿を守ること。それは侍の誉れだ。集った面々には高揚感も見える。
「おおーっ!!」
30人ほどの剣士たちが気勢を上げ、昼夜兼行での江戸への旅路も始まった。
(第16話「攘夷沸騰」に続く…予定)
「桜田門外の変」はあろうことか、日中に江戸城の門前で起きた大事件でした。
市中での情報は錯綜(さくそう)します。大老・井伊直弼が襲撃された…それは佐賀藩にとって、他人事ではありませんでした。
――江戸。佐賀藩邸に入った衝撃の一報。
この急報は間髪を置かず、佐賀藩の上層部を駆け巡った。
「井伊さまは、ご無事でござろうか!?」
「いや、実のところは…」
渋い表情を浮かべるのは、鍋島夏雲(市佑)。
殿・鍋島直正の側近で、老齢ながら機密情報の集約に長じる。
朝廷への工作活動を咎められた水戸藩。“安政の大獄”で徹底した処罰を受けた。そして、主に水戸の脱藩浪士により、今回の襲撃は実行された。
――保守派・原田小四郎が、険しい顔をする。
「井伊さまのご家来も、さぞや無念だったであろう…」
武骨な原田の、いかにも武士らしい感情移入だ。
井伊直弼を護衛した彦根藩士たちは、ほとんどが急襲に対応できなかった。しかし二刀を抜き放ち、命尽きるまで戦った者もいたという。
「そのうえ、穏やかでない話も流布(るふ)しておる…」
鍋島夏雲は「佐賀藩が余所(よそ)から“どう見られている”か」も探っていた。
――「いま、何とおっしゃったか!」原田が大声を出す。
「原田どの…、声が大きゅうござるぞ。」
年配者の落ち着きか、鍋島夏雲が制止する。
…世間の噂に「次に狙われるのは、佐賀の鍋島直正」とあるらしい。
「殿に万一、かのような狼藉(ろうぜき)を企てる者あらば…」
保守派・原田には、刺激の強すぎる一言だったようだ。
「この原田、先陣を切って迎え撃ちますぞ!!」
殿・直正への忠義第一。こうなると佐賀藩の動きは早い。
――しばし後、早馬が駆け込むや、佐賀城下にも話が広がる。
大隈八太郎(重信)もまた、砂ぼこりを上げて城下を走っていた。
「八太郎さん、また慌ただしかですね…。」
久米丈一郎(邦武)。大隈八太郎(重信)の友達である。
「丈一郎!なんば、のんびり本やら読みよるね!!」
キュッと足を止めたが、大隈八太郎は見るからに気忙しい。
「仲間から腕利きの剣士を江戸に送らんば!」
「一体、何の騒ぎが起きよるですか!?」
――急報にあわせ、城下を駆け巡る指令。
佐賀藩の上層部は「殿の身が危ない」と判断した。双方で屋敷の行き来もあり、鍋島直正が井伊直弼と親交が深かったのは知られている。
水戸藩に近い立場では「桜田門外の変」は早くも快挙として扱われている。「“安政の大獄”の恨み深い、井伊を討った」のだと。この流れは危うい。
「次は、その“仲間”だ」と、殿・直正にも矛先が向く可能性がある。大隈は、城下で「剣の達人を集め、佐賀から江戸に派遣せよ。」と指令が回るのを聞いた。
――ここで、大隈は「江戸に“尊王”の同志を送ろう!」と思い付いた。
殿の身辺警護は、話をする機会にも恵まれるはず。剣の腕だけでは足らない…賢い者を送らねば。
佐賀藩の立場は「幕府を助けて異国に備える」が基本だった。混迷の今こそ「朝廷をお守りする佐賀藩」への転換を図る…のが、大隈の目論見(もくろみ)だ。
「“剣の達人”が要るのでしょう。八太郎さんは、あまり剣ば振りよらんもんね。」
久米からの鋭い指摘。“佐賀ことば”によそ行き口調が混ざるのが気にさわる。
「“砲術の家”の子だから、仕方ないんである。」
カチンと来た、大隈。“演説調”になって、仰々しく自身の家の役目を語る。
――大隈が焦る中、急派される剣士たちが、続々決まっていく。
「私は盾となってでも、殿をお守りする!!」
決意を述べる侍がいる。流儀は新陰流のようだ。
「盾とは志の低かぞ!敵は皆、返り討ちにしてやらんば。」
こちらは、いささか荒っぽい。
「おう、鍋島武士の誇りを見せてやる!」
いずれも各道場を代表するような剣の遣い手。
――こうして“見えない敵”との戦いを始めた、佐賀藩士たち。
「皆、お役目はわかっておるようだな。これより直ちに江戸に向かう!」
剣士の集団を率いるのは、藩の重役たちを補佐する切れ者・中野数馬だ。
任務は殿を守ること。それは侍の誉れだ。集った面々には高揚感も見える。
「おおーっ!!」
30人ほどの剣士たちが気勢を上げ、昼夜兼行での江戸への旅路も始まった。
(第16話「攘夷沸騰」に続く…予定)
Posted by SR at 23:01 | Comments(0) | 第15話「江戸動乱」
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