2020年02月15日
第3話「西洋砲術」④-2
こんにちは。
以前、鍋島直正の師匠、古賀穀堂は「人を妬み、決断をせず、負け惜しみばかり」を佐賀に蔓延する“三つの病”と例えていました。
人間の心の暗い部分は、何処にもあるようで、この頃、幕府では1つ目の病「人を妬む」の権化のような人物が暗躍を続けていました。
――1840年。アヘン戦争で清国がイギリスに大敗する。
「あの…清国が、エゲレスに負けた…」
東洋の大国、清でもイギリスには全く敵わなかった。
この事実は、日本中の知識人に衝撃を与え、“西洋の脅威”への危機感はさらに強まった。
水野忠邦を中心として、江川英龍の“西洋砲術”への期待も大きくなっていく。
混沌とする政局の中、“妖怪”の異名を持つ、鳥居耀蔵が主導権争いを仕掛ける。
――ここからは、長崎に密偵を差し向けるまでの、鳥居の“独り言”が続く。
まず、江川英龍が西洋砲術を身に着け、上役である水野忠邦に重用されるのが許せない。
「西洋の砲術か…たしかに長崎でしか学べぬのう。」
「しかし長崎は豪奢で気に入らん。町衆どもの力は削いでおく必要がある。」
実際、長崎の町役人には貿易に関わる特権があり、並みの大名より潤っている。
天保の改革は「贅沢の禁止」だけでなく「商人の力を抑える」ことも重視していた。
――そして、江戸北町奉行・遠山金四郎も気にくわない。
「江戸では、こしゃくな遠山が庶民と慣れ合って、こそこそ小細工をしておる。」
「そういえば、あやつの父(実父)も長崎奉行であったな。」
遠山の実父・遠山景晋は、長崎奉行の経験者である。
“フェートン号事件”に遭った奉行・松平康英の後、数年経ってから奉行を務めた。
次第に“気に入らない者”と“攻撃すべき対象”は一致してくる。
当時、西洋との貿易を独占する長崎は、都市の規模でも江戸・大坂・京都に継ぎ、日本随一の国際都市だった。
――結論は、“蛮社の獄”と同様になった。
「蘭学には用いるべき点もあるが、使っている者どもが気にくわん。」
「新しい知識を鼻にかけ、公儀(幕府)を軽んじるなど言語同断!」
天保の改革は「経済を犠牲にしてでも、幕府の権威を回復する」ことが目標。
鳥居耀蔵の次の狙いは長崎の町役人・高島秋帆と決まった。
当時、江戸南町奉行だった“マムシの耀蔵”。
“西洋砲術”への注目で、力を持ち過ぎた高島を陥れる工作に動き出す。
老中・水野忠邦は、商人たちの勢いを抑えるのに苦心している。
許可を得られる確信を持った鳥居。水野に面会するため江戸城に向かう。

――数か月後、高島秋帆邸の門前。ものものしく幕府の役人が詰めかける。
高島秋帆は実質的に、10万石の大名並みの力を持っている。
「御用の向きである。高島どのは居るか!」
足を運んでいるのも、普通の役人ではない。現代で言えば、検察の特捜部が来ている。
「高島!そちは、長崎会所で不正な会計を行っていたであろう!」
「いえ、粗相(そそう)があれば、お示しください!お定めの通りのはずでござる!」
「問答無用じゃ!不届き者、高島をひっ捕らえよ!」
こうして、武雄領の鍋島茂義や平山醇左衛門の師匠、高島秋帆は捕らえられた。
――古今、所属する組織の権力を、自分の力と考えてしまう者は多い。
鳥居は自分を重く用いることが幕府のためである…と信じて疑わない。
「高島の取り調べは、この儂が直々に行ってやろう。」
クックックッ…と含み笑いをする、鳥居。
「蘭学で図に乗っている外様(大名)も、いま一度、公儀にひれ伏させてやろう。」
いまや佐賀藩全体の砲術の師匠である高島秋帆。
その捕縛は、武雄領、そして佐賀藩でも大問題となっていく。
(続く)
以前、鍋島直正の師匠、古賀穀堂は「人を妬み、決断をせず、負け惜しみばかり」を佐賀に蔓延する“三つの病”と例えていました。
人間の心の暗い部分は、何処にもあるようで、この頃、幕府では1つ目の病「人を妬む」の権化のような人物が暗躍を続けていました。
――1840年。アヘン戦争で清国がイギリスに大敗する。
「あの…清国が、エゲレスに負けた…」
東洋の大国、清でもイギリスには全く敵わなかった。
この事実は、日本中の知識人に衝撃を与え、“西洋の脅威”への危機感はさらに強まった。
水野忠邦を中心として、江川英龍の“西洋砲術”への期待も大きくなっていく。
混沌とする政局の中、“妖怪”の異名を持つ、鳥居耀蔵が主導権争いを仕掛ける。
――ここからは、長崎に密偵を差し向けるまでの、鳥居の“独り言”が続く。
まず、江川英龍が西洋砲術を身に着け、上役である水野忠邦に重用されるのが許せない。
「西洋の砲術か…たしかに長崎でしか学べぬのう。」
「しかし長崎は豪奢で気に入らん。町衆どもの力は削いでおく必要がある。」
実際、長崎の町役人には貿易に関わる特権があり、並みの大名より潤っている。
天保の改革は「贅沢の禁止」だけでなく「商人の力を抑える」ことも重視していた。
――そして、江戸北町奉行・遠山金四郎も気にくわない。
「江戸では、こしゃくな遠山が庶民と慣れ合って、こそこそ小細工をしておる。」
「そういえば、あやつの父(実父)も長崎奉行であったな。」
遠山の実父・遠山景晋は、長崎奉行の経験者である。
“フェートン号事件”に遭った奉行・松平康英の後、数年経ってから奉行を務めた。
次第に“気に入らない者”と“攻撃すべき対象”は一致してくる。
当時、西洋との貿易を独占する長崎は、都市の規模でも江戸・大坂・京都に継ぎ、日本随一の国際都市だった。
――結論は、“蛮社の獄”と同様になった。
「蘭学には用いるべき点もあるが、使っている者どもが気にくわん。」
「新しい知識を鼻にかけ、公儀(幕府)を軽んじるなど言語同断!」
天保の改革は「経済を犠牲にしてでも、幕府の権威を回復する」ことが目標。
鳥居耀蔵の次の狙いは長崎の町役人・高島秋帆と決まった。
当時、江戸南町奉行だった“マムシの耀蔵”。
“西洋砲術”への注目で、力を持ち過ぎた高島を陥れる工作に動き出す。
老中・水野忠邦は、商人たちの勢いを抑えるのに苦心している。
許可を得られる確信を持った鳥居。水野に面会するため江戸城に向かう。

――数か月後、高島秋帆邸の門前。ものものしく幕府の役人が詰めかける。
高島秋帆は実質的に、10万石の大名並みの力を持っている。
「御用の向きである。高島どのは居るか!」
足を運んでいるのも、普通の役人ではない。現代で言えば、検察の特捜部が来ている。
「高島!そちは、長崎会所で不正な会計を行っていたであろう!」
「いえ、粗相(そそう)があれば、お示しください!お定めの通りのはずでござる!」
「問答無用じゃ!不届き者、高島をひっ捕らえよ!」
こうして、武雄領の鍋島茂義や平山醇左衛門の師匠、高島秋帆は捕らえられた。
――古今、所属する組織の権力を、自分の力と考えてしまう者は多い。
鳥居は自分を重く用いることが幕府のためである…と信じて疑わない。
「高島の取り調べは、この儂が直々に行ってやろう。」
クックックッ…と含み笑いをする、鳥居。
「蘭学で図に乗っている外様(大名)も、いま一度、公儀にひれ伏させてやろう。」
いまや佐賀藩全体の砲術の師匠である高島秋帆。
その捕縛は、武雄領、そして佐賀藩でも大問題となっていく。
(続く)
Posted by SR at 14:17 | Comments(0) | 第3話「西洋砲術」
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。