2020年07月17日
第12話「海軍伝習」⑥(数学の子)
こんばんは。
前回の続きです。
“義祭同盟”に参加し、志士としての自分に目覚めた大隈八太郎(重信)。優秀な先輩たちを見るにつけ、同年代の仲間とも活動したい!とか考え始めます…
構成の都合により、“本編”第11話「蝦夷探検」と第12話「海軍伝習」は同時期(1854年~)の話を描いています。
翌年(1855年)には、大隈八太郎は乱闘騒ぎを起こして、藩校を退学になっています。〔参考:第11話「蝦夷探検」⑥(南北騒動始末)〕
ここから2回ほど「なぜ八太郎くんは騒ぎを起こしたのか」という視点でもご覧ください。まだ、大隈が藩校「弘道館」に在籍していた1854年の設定です。
――藩校「弘道館」の昼飯どきである。
ドドド…ッ!
押し寄せる足音。
「お昼の時間ばい!」
「早よぅ、行かんば~!」
藩校の昼は“戦いの場”である。昼飯を求める寮生たちの雄叫びがこだまする…
「相変わらず“イナゴの群れ”がごた…」
少し冷めた目で、食堂に殺到する寮生たちを見つめる少年。
「中牟田(なかむた)ではなかね!」
「大隈か。久しいな。」

――大隈八太郎(重信)が通りがかる。同年代の理系少年・中牟田倉之助(なかむた くらのすけ)を見かけた。
中牟田は、藩校“弘道館”から“蘭学寮”へと進んでいる優等生。
大隈は、“志士”に目覚めた一日の感動を中牟田にも伝えようと試みる。
「“義祭同盟”は、よかごたぁ!あの議論こそ生きた学びばい!」
そして、中牟田からの共感を期待する…
昼は“尊王”の忠臣・楠木正成父子を讃える、厳粛な式典。
夜は“国事”を憂い、古今東西の学問の広い視野で、議論を交わす会合。
「あの日以来、志が高ぶって止まらないんである!」
「そがんね。よか学びを得られて、何よりばい。」
――“尊王”の志は通じるはず…なのだが、あっさりした反応の中牟田。考え事をしている様子だ。
「何があっとね!?」
大隈、妙に中牟田の反応が冷ややかなので、怪訝(けげん)な表情をする。
「いま“イナゴの群れ”を数えとるばい…」
中牟田は、食堂に向かう寮生の動きを見ていた。
「…参(さん)、弐(に)、壱(いち)…今ばい!」
突如、“カウントダウン”を行った中牟田。
――その瞬間、食堂から寮生の絶叫が響いた。
「にゃーっ!飯櫃(めしびつ)にコメがなかごたぁーーっ!!」
中牟田が、得心がいったという表情をする。概ね予測どおりの時間に、食堂の飯櫃が空になった様子だ。
「“算術”はやはり面白かね。」
食堂に向かう寮生の数と“飯びつ”が空になることには因果関係がある。しかし、寮生たちが米を食べ尽くす時間を算出するのは容易ではない。
大隈も数字には強い方だが、中牟田の好奇心には呆然とした。
「やはり“蘭学寮”の者は変わっとるばい…」

――その頃、佐賀藩“火術方”の所管する学びの場、蘭学寮では…
蘭学寮の教師・杉谷雍助が人を探している。
「あれっ、中牟田の姿が見えんな…!?」
…この教師・杉谷にお気づきの方は佐賀の歴史にお詳しいか、記憶の良い方とお見受けする。
――杉谷は佐賀藩の大砲製造チーム「鋳立方の七人」の翻訳担当だった人物である。
「おおっ、江藤よ。中牟田を知らんか?」
教師・杉谷が、“蘭学寮”の学生、江藤新平を見かけて尋ねた。
「中牟田なら“弘道館”に、イナゴを数えに行くと申しておりました。」
「あの者も、よくわからぬ事を申すな…」
――個人的な調べ物で、藩校“弘道館”に足を運んでいるらしい、中牟田倉之助。
「あの子は賢いが、変わり者でございますからな。」
江藤がさらっと述べる。
“蘭学”にはお金がかかる。そのためか、江藤の服装への無頓着には磨きがかかっている。
「“変わり者”か…江藤よ…、中牟田もお主には言われたくあるまい…」
「杉谷先生。何か?」
「いや、何でもない。中牟田を見かけたら、私まで声をかけるよう伝えてくれ。」
「承知しました。」
杉谷に軽く礼をする江藤。
20歳を過ぎたが、相変わらず見かけに気を遣わない。やはり髪はバサバサしているのであった。
――昼飯時の寮生の動きを“イナゴの群れ”に例えた中牟田。得意な科目は“数学”である。
食堂に向かう寮生の動きと、飯櫃(めしびつ)が空になる時間。
数学的にシミュレーションしていたのか…は、定かではない。
杉谷の用件は、長崎で開始される海軍伝習の候補者を探すこと。
「中牟田は“算術”が得手。伝習に適す。」
殿・鍋島直正の意向により、佐賀藩内では幕府の海軍伝習に派遣する人材選びが進んでいたのである。
――その一方、大隈八太郎は「もっと“義祭同盟”について、語りたい!」と同年代の“志士”候補を探していた。
そして、見慣れない顔に出くわした。
「この子は、たぶん賢かね!」
大隈八太郎が見かけたのは、品の良さそうな少年だった。
(続く)
前回の続きです。
“義祭同盟”に参加し、志士としての自分に目覚めた大隈八太郎(重信)。優秀な先輩たちを見るにつけ、同年代の仲間とも活動したい!とか考え始めます…
構成の都合により、“本編”第11話「蝦夷探検」と第12話「海軍伝習」は同時期(1854年~)の話を描いています。
翌年(1855年)には、大隈八太郎は乱闘騒ぎを起こして、藩校を退学になっています。〔参考:
ここから2回ほど「なぜ八太郎くんは騒ぎを起こしたのか」という視点でもご覧ください。まだ、大隈が藩校「弘道館」に在籍していた1854年の設定です。
――藩校「弘道館」の昼飯どきである。
ドドド…ッ!
押し寄せる足音。
「お昼の時間ばい!」
「早よぅ、行かんば~!」
藩校の昼は“戦いの場”である。昼飯を求める寮生たちの雄叫びがこだまする…
「相変わらず“イナゴの群れ”がごた…」
少し冷めた目で、食堂に殺到する寮生たちを見つめる少年。
「中牟田(なかむた)ではなかね!」
「大隈か。久しいな。」

――大隈八太郎(重信)が通りがかる。同年代の理系少年・中牟田倉之助(なかむた くらのすけ)を見かけた。
中牟田は、藩校“弘道館”から“蘭学寮”へと進んでいる優等生。
大隈は、“志士”に目覚めた一日の感動を中牟田にも伝えようと試みる。
「“義祭同盟”は、よかごたぁ!あの議論こそ生きた学びばい!」
そして、中牟田からの共感を期待する…
昼は“尊王”の忠臣・楠木正成父子を讃える、厳粛な式典。
夜は“国事”を憂い、古今東西の学問の広い視野で、議論を交わす会合。
「あの日以来、志が高ぶって止まらないんである!」
「そがんね。よか学びを得られて、何よりばい。」
――“尊王”の志は通じるはず…なのだが、あっさりした反応の中牟田。考え事をしている様子だ。
「何があっとね!?」
大隈、妙に中牟田の反応が冷ややかなので、怪訝(けげん)な表情をする。
「いま“イナゴの群れ”を数えとるばい…」
中牟田は、食堂に向かう寮生の動きを見ていた。
「…参(さん)、弐(に)、壱(いち)…今ばい!」
突如、“カウントダウン”を行った中牟田。
――その瞬間、食堂から寮生の絶叫が響いた。
「にゃーっ!飯櫃(めしびつ)にコメがなかごたぁーーっ!!」
中牟田が、得心がいったという表情をする。概ね予測どおりの時間に、食堂の飯櫃が空になった様子だ。
「“算術”はやはり面白かね。」
食堂に向かう寮生の数と“飯びつ”が空になることには因果関係がある。しかし、寮生たちが米を食べ尽くす時間を算出するのは容易ではない。
大隈も数字には強い方だが、中牟田の好奇心には呆然とした。
「やはり“蘭学寮”の者は変わっとるばい…」

――その頃、佐賀藩“火術方”の所管する学びの場、蘭学寮では…
蘭学寮の教師・杉谷雍助が人を探している。
「あれっ、中牟田の姿が見えんな…!?」
…この教師・杉谷にお気づきの方は佐賀の歴史にお詳しいか、記憶の良い方とお見受けする。
――杉谷は佐賀藩の大砲製造チーム「鋳立方の七人」の翻訳担当だった人物である。
「おおっ、江藤よ。中牟田を知らんか?」
教師・杉谷が、“蘭学寮”の学生、江藤新平を見かけて尋ねた。
「中牟田なら“弘道館”に、イナゴを数えに行くと申しておりました。」
「あの者も、よくわからぬ事を申すな…」
――個人的な調べ物で、藩校“弘道館”に足を運んでいるらしい、中牟田倉之助。
「あの子は賢いが、変わり者でございますからな。」
江藤がさらっと述べる。
“蘭学”にはお金がかかる。そのためか、江藤の服装への無頓着には磨きがかかっている。
「“変わり者”か…江藤よ…、中牟田もお主には言われたくあるまい…」
「杉谷先生。何か?」
「いや、何でもない。中牟田を見かけたら、私まで声をかけるよう伝えてくれ。」
「承知しました。」
杉谷に軽く礼をする江藤。
20歳を過ぎたが、相変わらず見かけに気を遣わない。やはり髪はバサバサしているのであった。
――昼飯時の寮生の動きを“イナゴの群れ”に例えた中牟田。得意な科目は“数学”である。
食堂に向かう寮生の動きと、飯櫃(めしびつ)が空になる時間。
数学的にシミュレーションしていたのか…は、定かではない。
杉谷の用件は、長崎で開始される海軍伝習の候補者を探すこと。
「中牟田は“算術”が得手。伝習に適す。」
殿・鍋島直正の意向により、佐賀藩内では幕府の海軍伝習に派遣する人材選びが進んでいたのである。
――その一方、大隈八太郎は「もっと“義祭同盟”について、語りたい!」と同年代の“志士”候補を探していた。
そして、見慣れない顔に出くわした。
「この子は、たぶん賢かね!」
大隈八太郎が見かけたのは、品の良さそうな少年だった。
(続く)