2020年11月16日

連続ブログ小説「旅立の剣」(10)雲を掴むことさえも

こんばんは。
連続ブログ小説第1シリーズ佐野常民記念館 編」のラストです。

…気楽な昨秋旅日記のはずが、思いのほか長編になっています。ひとまず、区切りを入れようかと思案しています。


――「何故、幕末佐賀藩が“大河ドラマ”にならないか?」

これは聞かれて困る質問かもしれない。施設スタッフの皆様は、NHKの関係者ではないだろう。

しかし、この話はわりと盛り上がるのである。
「いろいろ試みはありますが、なかなか難しいようですよ。」

最近の大きい“試み”は、2018年の“さが幕末維新博”だろう。一方、草の根での地道な活動もある様子。以前から“”ある方々は走り続けているのだ。


――「雲を掴む」ような話。私に“何ができるか”はわからない。

ここで、やや使い古された感のある言い回しが頭をよぎる。
「大事なのは、できるかどうかではない。やるかやらないか」なのだ。

まず全国的知名度の問題がある。実際の活躍に比べ、佐賀藩士たちの足跡が、テレビの歴史番組で語られることはほとんど無い。

その問題を乗り越えるカギは、やはりあの方だろう。次に“どこを目指すか”は、明確になった。

通貨単位“”を定め、早稲田大学を創設、2度総理大臣大隈重信侯だ。



――バスの到着まで、あと20分ばかり。まだ館内での時間はある。

スタッフの方々に御礼を述べる。そして、私の決意も語った。
期待をするだけでは駄目ですね。私自身でも動いてみます。」

2時間ばかり佐野常民記念館三重津海軍所跡)に滞在していたが、まだ見学していないフロアがある。
「まだ…バスまでの時間があるので、3階を見学してきます!」

私は可笑しな訪問者だったと思うが、話の始終、スタッフの方々は笑顔だった。


――慌ただしい滞在…、だが机上の資料とは違う充実感がある。

残り時間は貴重だ。3階への階段を駆け上がる。全力をもって展示物の見聞を行った。たとえ“速習”でも、佐賀藩躍動を体感しておく必要がある。

タイムリミットが来た。佐野常民記念館1階に降りる。
そこでスタッフの方の1人と、玄関でお会いした。

先ほどの私との会話をふまえて、最後に一声をかけてくれた。
「“大河ドラマ”の実現には10年かかる…と聞くこともありますね。」


――私は、その言葉を「道のりは険しいが、実現はできる」と受け取った。

「ありがとうございます。私なりに進んでみますよ。」
日々思うに任せぬ事が多い。しかし私は“自由”な立場で行動することもできる。

晴れやかな気持ちで、市街地に戻るバス停に向かう。いわば“聖地”である佐賀で、取材を行うことの意味を噛みしめる。だが、この旅は、まだこれからだった。


(“第2シリーズ”に続く)