2020年11月10日

連続ブログ小説「旅立の剣」(7)時を超える“双眼鏡”

こんばんは。
昨秋に実行した、佐賀での調査活動を綴るシリーズを続けています。

時刻は、正午を回り12:10頃。

が止んだ“早津江”の地。世界文化遺産三重津海軍所跡”の見学が可能になった。記念館の外に出ると、湿気を含んだ風を感じる


――見学のスタートに立つ。私には“みえつスコープ”が貸与された。

これが「見えない世界遺産」を見るための道具
いわば“時を超える双眼鏡”を手に取り、施設スタッフの方と話す。

「あれほどの雨が止むとは…ここまで来た甲斐がありました。」
「わざわざ海軍所の見学に、佐賀まで?」

佐賀の出身なので、気になってましてね。」
スタッフの方も“あぁ、なるほど”と言った表情を見せた。



――利用者の来所のきっかけは、施設が抑えておきたいところ。

経過は失念したが、私が“佐賀に戻る可能性”についての話となる。
「そう簡単には戻れませんね。あるいは…」

私の想いから出た言葉は伏せておく。それは、施設の方にも予想外の一言だったはずだ。

生活の基盤が定まれば、拠点となる土地からは離れがたい私の来歴では、郷里に帰ることは容易ではない。今までは、そこに思い至ることすら無かった。


――大都市圏には、様々な経緯で地方から人が集まる。

巻き取っていく”と形容しても良いかもしれない。もちろん都会生活に馴染み、帰りたくない人が多数いるのは事実だろう。

逆に“望郷の想い”を抱く者にも、郷里に帰る道は険しいようだ。そんな記憶が過(よ)ぎる中、スタッフの方から“みえつスコープ”の使い方の説明を受けた。

この時を超える双眼鏡で、本当に強かった佐賀姿は見えるのだろうか。

(続く)

〔関連記事:「発心の剣」