2021年01月05日

第15話「江戸動乱」②(写真館の娘)

こんばんは。
第15話は1860年の早春。アメリカを舞台にした話から始めています。

幕府遣米使節団が、サンフランシスコに到着。たまたま“ニューズぺーバー(新聞)”を題材に、話が盛り上がる青年たち。

使節団の医者として、ポーハタン号でアメリカに来た、佐賀藩医・川崎道民
幕府の随行員として咸臨丸に乗船した、福沢諭吉

…のちにヨーロッパへの使節派遣では、ルームメイトとなる2人を描きます。


――引き続き、アメリカ西海岸のホテルロビーにて。

「メリケンの“写真”は良いな。格段に進んでおる!」
佐賀藩医・川崎道民が、ロビーで見かけた写真について熱く語る。

「おや、川崎どのは“フォトグラフィー”(写真)にも、ご興味がおありですか。」
福沢が、少し気取って語る。


――やや勿体(もったい)ぶって、一枚の写真を取り出す、福沢。

「まだ、咸臨丸仲間には、見せておりませぬ!内緒の一枚にござる!」
写真には、椅子に腰かけた福沢。隣に立つアメリカ人少女が一緒に映る。

おおっ!
大きい反応を返す、川崎。清々しいほどの丸坊主が光る。

「いや…、異国女子(おなご)と写真に収まるなど、稀(まれ)なることゆえ。」
得意気な福沢。真似されるのは嫌なので、“咸臨丸”の連中には伏せておく…



――実は“写真館の娘”に頼んで、隣に映ってもらったのだ。

メリケンの業(わざ)は良かね!こいが“銀板写真”ったい!」
しかし、川崎感嘆の対象は、アメリカ写真技術だった。

「そうそう、異国の娘さんですが、可愛い子でしょう…えっ!銀板写真!?」
満面の笑顔だった福沢川崎の反応は予測と違っていた…気まずい

一方の川崎。「うむうむ…この業(わざ)ば、学んで帰りたかね…」と上機嫌だ。


――当時、日本では珍しい「写真を撮る側の人」だった、川崎道民。

少し冷静になって、また“よそ行き”の言葉に戻る、川崎

「そうだ!福沢さんと言ったか。“手術”を見聞する機会を得られそうだ。」
手術!でございますか!?」

「膀胱(ぼうこう)をだな、切り開く。詰まった石を取り除くのだ!」
川崎は目を輝かせた。アメリカでは、進んだ外科手術を見る機会もある。

またと無い話だぞ。福沢さん、貴君もどうかな!」


――いきなりの川崎からの誘い。福沢は口ごもった。

「拙者…、また“咸臨丸”で、太平洋を戻らねばなりませぬ。」

福沢が、辞退の言葉を発する。
咸臨丸でアメリカに来た者は船の修繕が終われば、概ね日本に帰る予定だ。

「…そうか、良い話なのだが。」


――川崎は、目を丸くして“絶好の機会なのに…”という残念そうな表情。

川崎どのは、しかとご見聞を!まことに、残念なことにござる!」
福沢は、なぜか明るい表情で言葉を返した。

福沢諭吉は、居合(抜刀術)の修練を欠かさず、免許持ちの腕前だった。しかし、実は血を見るのが苦手。手術見学も嫌がった…という説もある。


(続く)

  


Posted by SR at 21:13 | Comments(0) | 第15話「江戸動乱」