2021年01月20日
第15話「江戸動乱」⑥(尊王に奔〔はし〕る)
こんばんは。
昨夜は『どうする家康』の発表に動揺しましたが、気を取り直して。
佐賀に舞台を移し、幕末の安政年間(1858年頃)を描いています。
模範的な“生徒会長”とは別の、もう1つの顔を持つ中野方蔵。
熱い想いで、佐賀城下を駆けます。
――いつも走っている、中野方蔵。

中野は、佐賀城の南堀端にある“鬼丸”まで早足を進める。
「御免(ごめん)!神陽先生はご在宅でしょうか!」
――戸を開けて出たのは、なぜか枝吉神陽の実弟・副島種臣。
「おお、中野くんか!久しいな。」
「次郎先生!…いや、副島先生とお呼びした方がよろしいでしょうか。」
「ははは…どちらでも良い。それに兄上の前では“先生”とは呼ばんでくれ。」
副島は、実兄・枝吉神陽と同列に扱われると、気後れするようだ。
「いつ、京の都からこちらへ?」
「つい、今し方戻った。ぜひ兄上のお耳に入れたいことがあってな。」
長崎街道を行く旅姿のまま、現れた副島種臣。さすがに埃(ほこり)まみれだ。
この頃、日米修好通商条約の調印をめぐり、朝廷の存在感は増すばかりだ。
幕末の政局。その駆け引きの舞台は、江戸から京の都に移りつつあった。
――部屋の奥から、枝吉神陽の声が響く。
「表に居るのは、中野くんだな。遠慮はいらん!入りたまえ!」
「兄上のお許しも出たようだ。中野くん、来たまえ。」
副島が、中野を伴って邸内へと戻る。
「次郎は旅から帰るなり、こちらに駆け付けたのだ。」
「“国の大事”ゆえ、ゆるりとして居る暇(いとま)などございませぬ。」
――枝吉神陽が、笑って答える。
「その心掛けは誠に貴い。しかしだな、風呂ぐらいは入っておけ。」
副島は顔立ち整い、目もと涼し気な美男だが、京の都から駆け通しで、いまは丸ごと洗濯が必要そうな風体である。
「先生方が“国事”を語る場に居合わせるとは、何たる僥倖(ぎょうこう)か!」
中野は、かなり興奮気味。その表情から高揚が見てとれる。
神陽は、中野を大きい目で見つめ言葉をかける。
「同座を許そう。但し、ここで語る事柄はくれぐれも内密にな。」
「はい!」
(続く)
昨夜は『どうする家康』の発表に動揺しましたが、気を取り直して。
佐賀に舞台を移し、幕末の安政年間(1858年頃)を描いています。
模範的な“生徒会長”とは別の、もう1つの顔を持つ中野方蔵。
熱い想いで、佐賀城下を駆けます。
――いつも走っている、中野方蔵。
中野は、佐賀城の南堀端にある“鬼丸”まで早足を進める。
「御免(ごめん)!神陽先生はご在宅でしょうか!」
――戸を開けて出たのは、なぜか枝吉神陽の実弟・副島種臣。
「おお、中野くんか!久しいな。」
「次郎先生!…いや、副島先生とお呼びした方がよろしいでしょうか。」
「ははは…どちらでも良い。それに兄上の前では“先生”とは呼ばんでくれ。」
副島は、実兄・枝吉神陽と同列に扱われると、気後れするようだ。
「いつ、京の都からこちらへ?」
「つい、今し方戻った。ぜひ兄上のお耳に入れたいことがあってな。」
長崎街道を行く旅姿のまま、現れた副島種臣。さすがに埃(ほこり)まみれだ。
この頃、日米修好通商条約の調印をめぐり、朝廷の存在感は増すばかりだ。
幕末の政局。その駆け引きの舞台は、江戸から京の都に移りつつあった。
――部屋の奥から、枝吉神陽の声が響く。
「表に居るのは、中野くんだな。遠慮はいらん!入りたまえ!」
「兄上のお許しも出たようだ。中野くん、来たまえ。」
副島が、中野を伴って邸内へと戻る。
「次郎は旅から帰るなり、こちらに駆け付けたのだ。」
「“国の大事”ゆえ、ゆるりとして居る暇(いとま)などございませぬ。」
――枝吉神陽が、笑って答える。
「その心掛けは誠に貴い。しかしだな、風呂ぐらいは入っておけ。」
副島は顔立ち整い、目もと涼し気な美男だが、京の都から駆け通しで、いまは丸ごと洗濯が必要そうな風体である。
「先生方が“国事”を語る場に居合わせるとは、何たる僥倖(ぎょうこう)か!」
中野は、かなり興奮気味。その表情から高揚が見てとれる。
神陽は、中野を大きい目で見つめ言葉をかける。
「同座を許そう。但し、ここで語る事柄はくれぐれも内密にな。」
「はい!」
(続く)