2020年08月31日
第13話「通商条約」⑩(扇の要が外れるとき…)
こんばんは。
話が複雑になりがちなので、細かく掲載します。
今回の投稿では淡々と語りますが、その後の幕末の展開、ひいては日本の歴史に大きい影響のあったと思われる出来事です。
――1857年。強い陽射しの中、佐賀城下を早馬が駆ける…
「火急の用向きにござる!」
早馬の使者が大声を出す。
ほどなく本丸御殿に向かって、50代ほどの年配の武士が急ぐ。
使者から手紙を受け取っている様子だ。
「夏雲さま…いかがなされました。」
古川与一(松根)が声をかけた。
殿・鍋島直正の“執事役”として、忙しい殿の生活をサポートしている人物。
――駆け足だった年配の武士が、古川を見つけて足を止める。
殿・直正の側近、鍋島夏雲(市佑)である。息切れしながらも言葉を発する。
「…殿は何処に居られるか!?」
「何か、大事が御座いましたか!」
古川与一は、夏雲(市佑)の様子に、只事ではない気配を察する。
最近では、黒船来航、異国との条約締結など“一大事”続きである。。
そんな中“フェートン号”事件よりも以前の生まれ、側近の中でも大ベテランの鍋島夏雲が動じている。

――夏雲は、殿・直正の“書記官”とでも言おうか、様々な情報に通じる。
「落ち着いて聞かれよ!阿部伊勢守さまが…」
「…!殿は、書院に居られる、すぐにお知らせなされませ!」
一報を受けた、古川も動揺が隠せない。
“火急の知らせ”とは、10年以上も、幕府政治の中心に居た人物の訃報だった。老中・阿部正弘が急逝したのである。
――そして季節は進む。江戸の佐賀藩邸。
長崎警護を担当する、佐賀藩の参勤交代での江戸滞在は、他の大名より短い期間で認められている。
例によって、慌ただしく江戸での用事をこなす、鍋島直正。
江戸城に登る支度中である。
「伊勢守(阿部)さまが居られぬだけで、随分と騒がしくなったのう…」
安定感抜群、その調整能力で、黒船来航の危機すら乗り切った阿部正弘。にわかに政権の柱を失ったことで、幕政は混乱していた。
「はい、全くでございます。殿は巻き込まれませぬよう、ご用心なされませ。」
古川与一(松根)、支度ついでに忠告をしている。
――江戸城内。様々な大名が、鍋島直正に接触を試みる。
それだけ不穏な時勢に、佐賀の軍事技術は魅力的なのであろう。
殿・直正は、ややこしい話に深入りせぬよう、当たり障りのない対応を心がける。
「鍋島肥前!久しいな。」
薩摩の殿様・島津斉彬である。
「おおっ、薩摩さま。これはお久しゅうござる。」
ここまで周囲を警戒する場面の多かった、殿・直正。
幼少期から付き合いのある島津斉彬の登場に、少し安堵した様子にも見えた。
(続く)
話が複雑になりがちなので、細かく掲載します。
今回の投稿では淡々と語りますが、その後の幕末の展開、ひいては日本の歴史に大きい影響のあったと思われる出来事です。
――1857年。強い陽射しの中、佐賀城下を早馬が駆ける…
「火急の用向きにござる!」
早馬の使者が大声を出す。
ほどなく本丸御殿に向かって、50代ほどの年配の武士が急ぐ。
使者から手紙を受け取っている様子だ。
「夏雲さま…いかがなされました。」
古川与一(松根)が声をかけた。
殿・鍋島直正の“執事役”として、忙しい殿の生活をサポートしている人物。
――駆け足だった年配の武士が、古川を見つけて足を止める。
殿・直正の側近、鍋島夏雲(市佑)である。息切れしながらも言葉を発する。
「…殿は何処に居られるか!?」
「何か、大事が御座いましたか!」
古川与一は、夏雲(市佑)の様子に、只事ではない気配を察する。
最近では、黒船来航、異国との条約締結など“一大事”続きである。。
そんな中“フェートン号”事件よりも以前の生まれ、側近の中でも大ベテランの鍋島夏雲が動じている。

――夏雲は、殿・直正の“書記官”とでも言おうか、様々な情報に通じる。
「落ち着いて聞かれよ!阿部伊勢守さまが…」
「…!殿は、書院に居られる、すぐにお知らせなされませ!」
一報を受けた、古川も動揺が隠せない。
“火急の知らせ”とは、10年以上も、幕府政治の中心に居た人物の訃報だった。老中・阿部正弘が急逝したのである。
――そして季節は進む。江戸の佐賀藩邸。
長崎警護を担当する、佐賀藩の参勤交代での江戸滞在は、他の大名より短い期間で認められている。
例によって、慌ただしく江戸での用事をこなす、鍋島直正。
江戸城に登る支度中である。
「伊勢守(阿部)さまが居られぬだけで、随分と騒がしくなったのう…」
安定感抜群、その調整能力で、黒船来航の危機すら乗り切った阿部正弘。にわかに政権の柱を失ったことで、幕政は混乱していた。
「はい、全くでございます。殿は巻き込まれませぬよう、ご用心なされませ。」
古川与一(松根)、支度ついでに忠告をしている。
――江戸城内。様々な大名が、鍋島直正に接触を試みる。
それだけ不穏な時勢に、佐賀の軍事技術は魅力的なのであろう。
殿・直正は、ややこしい話に深入りせぬよう、当たり障りのない対応を心がける。
「鍋島肥前!久しいな。」
薩摩の殿様・島津斉彬である。
「おおっ、薩摩さま。これはお久しゅうござる。」
ここまで周囲を警戒する場面の多かった、殿・直正。
幼少期から付き合いのある島津斉彬の登場に、少し安堵した様子にも見えた。
(続く)