2020年09月08日

第13話「通商条約」⑬(豪腕、唸〔うな〕る)

こんばんは。

超大型だった台風10号、さすがに無傷とは行かないようですね。九州の各地で大暴れし、ダメージを残したことが報じられています。

皆様が充分に備えたからこそ、被害は最小限に抑えられたのだと思います。私には、それも“佐賀の強さ”に見えるわけです。

今回が、第13話「通商条約」最終投稿です。“全国の情勢”の描き方は少し工夫せねば…と考えさせられました。


――幕政のトップである老中首座・堀田正睦が、京の都に出向く。

朝廷の意思決定に関わる、有力な公家味方に付けるためである。
異国は嫌どすなぁ。」

最初から拒絶反応を示す公家たち。堀田が自ら、通商の価値を説いた。
「メリケン(アメリカ)は強国にて、文明も進んでおります。」

そして、ハリスとの交渉役岩瀬も言葉を続ける。
交易すれば、我が国にも利益をもたらしましょう。」


――しかし、公家たちの返事は“開明派の2人”の想像を遥かに超えた。

「メリケン(アメリカ)とは何でっしゃろバテレン(宣教師)どすか?」
「交易?…商人(あきんど)のことなど、わからしまへん。」

江戸時代を通じて、政治経済から遠ざけられてきた、京の公家
しっかりと“世界”が見えている、堀田岩瀬の話は通じなかった。

「かくなるうえは、ご助力だけでもいただこう!」
老中首座堀田は方針を転換する。条約締結への朝廷のお墨付き・“勅許”さえあれば、話は進むのである。


――だが、公家たちには“攘夷派”から、手が回っていた。

「“水戸はん”から江戸(幕府)の“口車”には気を付けや…と聞きますもんでな。」
この言葉に驚愕する、堀田正睦

お引き取りあれ。」
冷たい言葉を放つ公家たち
ここで水戸藩徳川斉昭からの“逆襲”が待っていたのである。

いかんぞ!かくなるうえは…」
堀田は“工作資金”を使い、味方を増やす策に出た。
しかし、これも幕府への“不信感”を増大させた。



――慌ただしさを増していく京都。情勢は“国学”で得た人脈で、副島種臣にも伝わっていた。

「もはや公儀(幕府)が国を束ねるより、あるべき姿に戻すべき時節であろう。」

枝吉はん、いかがなさいますのや?」
この頃、副島種臣枝吉次郎)は、公家だけでなく、尊王活動家との付き合いを広げていた。

「一度、佐賀に立ち戻り、建白すべき事柄を整える。」
副島は自身が練った案を枝吉神陽に相談するつもりだった。


――幕府を廃して、天皇が直接政治を行い、諸侯が集う…

副島の案は、将軍から朝廷への政権返上である“大政奉還”の原型とも言える。

のちに明治新政府の組織づくりを先導し、その“方向性”を定める副島種臣
この時、西洋の学問は未習だが“新国家”のあるべき姿は早々と考えていた。

「いざ、佐賀へ戻らん!兄上この次郎に力をお貸しください!」
一方で“枝吉神陽”から抜けきれないのも、当時の副島種臣であった。



――京の都で、打つ手が無くなった、堀田正睦は失脚する。

幕府にとって厳しい局面で、臨時役職である“大老”に就任したのが、彦根藩主・井伊直弼である。

井伊には期するところがあった。
もともと幕府条約を結ぶのに、朝廷許諾不要なのである。

堀田どのは、悪手を打ったのみ…」
手元に置いた囲碁を見つめて、井伊決断する。

「もはや後手に回っては勝てぬのだ!」


――井伊直弼は“朝廷の勅許なし”で「日米修好通商条約」の締結に踏み切った。

大老として“豪腕”を振るい始めた井伊直弼
江戸彦根藩邸に、ある人物を招いた。

「まずは異国に負けぬため、“通商”により国を富ませる!」
「然るのち、異国が横暴をはたらけぬよう、武備をさらに整える!…という事だ。」

ひとしきり熱く想いを語った井伊に、ある人物が言葉を返す。
良きお考えにございますな。」
「随分と惚(とぼ)けた申し様じゃな。鍋島肥前…其方(そなた)が、既に進めておる事ではないか。」


――再び、強い幕府で国を束ねる。それが井伊の決意。頼れる“味方”が必要だった。

「あらためて申す。肥前直正)の“先見の明”には、つねづね感服しておった。」
「勿体(もったい)なきお言葉。井伊さまには、折り入ってお話ししたき儀もござる。」

鍋島直正にも期するところがあった。
開国は良いのだが、異国秩序を乱せば、抑えねばならない。

「相分かった。我らの想いは近いところにある。鍋島肥前、頼りにしておるぞ。」
幕閣のエリートである井伊直弼が信頼した外様大名。それが佐賀鍋島直正だったのである。


(第14話「遣米使節」に続く)

  


Posted by SR at 21:59 | Comments(0) | 第13話「通商条約」