2020年09月28日

第14話「遣米使節」③(嬉野から来た忍び)

こんばんは。

佐賀藩には「蓮池藩」という“支藩”があります。藩の領地は、県内各地に分散しますが、現在の嬉野市あたりに大きい所領があります。

佐賀は本藩だけでなく、支藩自治領なども長崎警備に携わりました。幕末期の脅威であった欧米列強も、佐賀藩情報収集の対象になっています。


――1856年、長崎。イギリスの軍船が停泊中である。

下田箱館(函館)が開港した当時でも、海外への表玄関は依然として国際都市・長崎であった。

長崎の街が賑わう宵のうち、穏やかな風景である。しかし、イギリス人にとっては不慣れな土地であるため、船外でも油断のない警備が続いていた。

フー イズ ゼア!!
じわじわと語気を強めた、1人の若いイギリス水兵。何かの気配を察したか、突如として前方に銃口を向ける。

ニ゛ャーン!?
そこにいるのは誰だ!”と問われ、驚いて飛び上がる。尻尾の短いネコ


――水兵の威嚇に、毛を逆立て硬直したネコ。次の瞬間には逃げ去った。

ハッハッハ…ジャスト ア キャット…」
他のイギリス水兵たちが、失笑する

勇敢な兵士くん!!大した敵襲だったな…」
そんな目線が注がれていた。

「チッ…」
きまりが悪そうな若い水兵。軽く舌打ちをする。



――ベテランの水兵たちが、“心配性”の新人をからかっている間…

音も無く、その傍らを人影がすり抜けていた。
佐賀藩の支藩の1つである、蓮池藩士古賀という人物である。

「さすがはエゲレス(イギリス)…立派な拵(こしらばい。」
夜闇に紛れて、英国船大砲装備、兵員の数などを見聞して回る。

調査に先んじて、船外の警備は把握していた。
古賀は、佐賀蓮池藩が放った“忍者”である。


――1854年の日米和親条約以降、次々に西洋諸国が条約締結に動く。

日英和親条約が締結されてから、長崎にはイギリス船も入港した。

佐賀藩悲劇でもあった、イギリス船“フェートン号”の長崎港への侵入事件。半世紀近くが経過し、海外との関わり方は激変していたのである。

「静かなもんたい。今のところ、暴れる気配は無かね…」


――ひと通りの調査を終えた、佐賀の蓮池藩士・古賀。

ご苦労さんやったね。」
イギリス船から離れた蓮池藩士・古賀。先ほどのネコを撫でて、小魚を与える。

ニャーン…」
尻尾の短いネコが、満足気にひと鳴きする。その間に古賀夜闇に消えた。

佐賀藩長崎を通じた探索に有利で、当時、異国からの情報には格段の強みを持っていたのである。


(続く)

  


Posted by SR at 20:35 | Comments(0) | 第14話「遣米使節」