2020年09月18日

「醒覚の剣」(秘窯)

こんばんは。
各話終了後に息抜きとして、お送りしています「望郷の剣シリーズです。
現代の何気ない日常の風景を、なるべく幕末っぽく描きます。


――今回の舞台になるのは、佐賀県の伊万里。

大都市圏から容易に帰郷することができない…ある佐賀藩士(?)。たとえ一時の帰藩が叶っても、動ける時間は限られます。

現地取材は思うに任せず、まずは写真素材の調達が急務となりました。そして、叔父上助太刀(すけだち)を頼む仕儀となったのです。


――“電話”が鳴る。いきなり雰囲気を壊すが、これは現代なので、やむを得ない。

日本情報通信は、電信石丸安世や、電話石井忠亮らの努力で近代に進んだのだ。言うまでもなく、2人とも佐賀藩士である。

…ひとまず“電話”を取る。

叔父上いかがなさいました。」
「今、時間はよかね?」



――“幕末風”の設定が崩れ気味だが、叔父上は飄々としたものだ。

「いや~すごかよ!」
「何やら、良き物目にしたのですか。」

叔父上は遥か西方の郷里・佐賀に居るが、その高揚ぶりは伝わってくる。これが、文明の利器“電話”の力である。

叔父上、たしか…本日は、伊万里に。」
「そうたい。奥まで進んだことがなかったけん。にゃ~行ってみたら、すごかった。」


――叔父上は熱っぽく、伊万里の“深奥”について語る。

今までは“表面”しか見て来なかったことに気付いたのである。

「“”がすごか!!」
鍋島焼…、それも聞いたことがありますね。」

有名な鍋島青磁自然な青色だが、本場伊万里で見ると感動が違うようだ。



――伊万里は佐賀藩が誇る、至高の贈答品・鍋島焼が生産される場所。

秘窯”と称されるのは技法が“門外不出の奥義”であることも示すのであろう。

歩を進めるごとに、眼前に現れる“非日常”の景色は、叔父上を魅了したらしい。
2時間歩いたとよ。」

叔父上の言葉に想う。
「やはり佐賀の魅力は、求めねば知り得ないのだ…」と。

そして叔父上は、佐賀の“秘めた力”の1つを見つけたようだ。


――かつての佐賀藩士たちも、東北や蝦夷地(北海道)を歩き回った。

知らない土地を見て、新たな知識を得る。これは遠方に限ったことではない。
私の我儘(わがまま)は思わぬ方向に作用したのである。

次の依頼があれば、待っとるばい。」

こうして叔父上は、醒覚(せいかく)を得たようだ。平たく言えば、目覚めたということである。

…これも1つの旅の始まりであるのかもしれない。

  
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Posted by SR at 22:51 | Comments(0) | 「望郷の剣」シリーズ