2021年05月23日
「鞍馬天狗は、長崎の人?」〔新大村駅〕
こんにちは。
来年秋に開業予定の西九州新幹線。沿線の魅力を“先取り”して語るシリーズ。今回から舞台が佐賀県から長崎県に移り、新たな視点を加えていきます。
幕末を舞台とした時代劇として知られる「鞍馬天狗」。もともとは、幕末期に興味が薄かった私は、“古い物語”だと思っていました。
――まず語りたいのは、NHKの木曜時代劇「鞍馬天狗」。
たしか十年以上前の作品だったと思いますが、狂言師・野村萬斎さんが主演。満月の高く上がる夜、白馬にまたがり駆け付ける覆面の剣士・鞍馬天狗。
愛馬の背に立ち、高く見下ろす目前に抜刀した侍たちが十数名ばかりか。揃いの羽織は、彼らが新選組の隊士であることを示しています。
野村萬斎版の「鞍馬天狗」は、公家の出身ながら幼少期から鞍馬の山に隠れ、剣の達人になっています。この辺りは映像化作品ごとに設定が異なるようです。
――新選組は不審な若侍(女性剣士)を追い、斬ろうとします。
頭巾で正体を隠した鞍馬天狗。馬上から新選組隊士たちに言い放ちます。
「その者に手を出すな…と言っても、聞く耳を持つまい。」
いきなり現れた覆面の剣士の言うことに、新選組が応じるわけはありません。
「…ならば、お相手するしかあるまい。」
覆面を通じて発する声は低くこもって、それでいて周囲から響くような演出。

――「問答無用!」と、天狗の足元へ斬りかかる新選組隊士。
ひょうと白馬から飛ぶ鞍馬天狗。取り囲む新選組と適度に間合いを取り、地上に降り立ちます。ここまでの雰囲気が、なんだかハリウッド映画っぽい。
…実は『バットマン』を意識したダークヒーローとして表現されたとか。
ドラマの構成で新選組はかなり横暴ですが、この辺は市中警備の仕事。しかも逃げる側(京野ことみさん演じる、白菊姫)が追われて当然の行動をしてたり…
――多数で襲い掛かる、新選組に応じて
あざやかな剣さばきを見せ、次々に返り討ちにする鞍馬天狗。すごくカッコいいけど、冷静に見ると…幕末の“正義”を語るのは難しい。
長い前振りでしたが、このドラマをベースに「鞍馬天狗」の条件を考えてみます。
※なお、原作小説の鞍馬天狗のモデルは諸説あるようで、以下はドラマ版への個人的な考察です。
①長州藩士・桂小五郎と親しく、活動の手助けをする遊撃の剣士。
②新選組局長・近藤勇と敵対するが、互いの力を認める絆がある。
➂もとは第三者的な立場だが、自身の判断で志士たちに味方する。
…そして、幕末期に上記の3つの条件を満たす剣士がいたようです。

――肥前 大村藩(現・長崎県大村市)の剣士・渡邉昇(わたなべ のぼり)。
大村藩士の渡邉昇は江戸に来た時に、神道無念流・練兵館道場で剣の修業を行ったといいます。
・渡邉は腕が立ち、当時の塾頭・桂小五郎とは双璧と呼ばれたそうです(①)
・桂から塾頭を引き継ぐ渡邉昇。天然理心流・近藤勇とも知り合います(②)
近藤の運営する“試衛館”に道場破りが来た時、渡邉昇が加勢したという話も。「重い木刀で鍛える」近藤の流派。竹刀の試合は苦手だった?…と想像します。
――幕末の動乱は進み、京の都では斬り合いが多発。
渡邉昇は尊攘志士側で倒幕派のために刀を振るうことに(③) 義理堅い人なのか新選組・近藤勇は、敵側で過激な行動に走る渡邉に忠告を試みたようです。
幕府方から凄腕の剣客と恐れられた、渡邉昇。後年「正面から戦った相手には思うところは無いが、不意打ちを行った際の悔恨が残る」ように語ったそうです。
しかし渡邉らが突き進んだことで、大村藩は倒幕に積極的な立場となりました。
もともとの石高は2万7千石で大きい藩ではありませんが、存在感を示します。

――時代の転換点には、様々な人が関わっています。
土佐の脱藩浪士・坂本龍馬を長州藩に紹介したのは、この渡邉昇だと言われます。言い換えれば“薩長同盟”への線路をつないだ人なのかもしれません。
そして、この渡邉昇の兄・渡邉清も、鳥羽伏見の戦いの時に、幕府方からの挟み撃ちを封じる活躍をして、江戸開城前の西郷隆盛・勝海舟の会談に同席。
“明治維新”への主導権争いに、地味ながら決定的な役割のあった渡邉兄弟。ちなみに兄・渡邉清は、佐賀市内にも銅像がある“石井筆子”の父親です。
〔参照:「私の失策とイルミネーションのご夫婦(後編)」〕
――とても熱く幕末に関わった、大村藩。
明治新政府でも要職に就く渡邉昇。のちに“剣道”の普及に情熱を注ぎます。
渡邉昇が試合をした中に、明治期の佐賀(小城)の剣士・辻真平という人物がいたようです。“本編”第2部につながる、佐賀の剣術を語るのは次の機会に。
…新大村駅。長崎空港に近い立地の新駅。キリシタン大名からの文化、花の名所である海の城(玖島城)もあり、ぜひ市街地にも足を延ばしたいところです。
来年秋に開業予定の西九州新幹線。沿線の魅力を“先取り”して語るシリーズ。今回から舞台が佐賀県から長崎県に移り、新たな視点を加えていきます。
幕末を舞台とした時代劇として知られる「鞍馬天狗」。もともとは、幕末期に興味が薄かった私は、“古い物語”だと思っていました。
――まず語りたいのは、NHKの木曜時代劇「鞍馬天狗」。
たしか十年以上前の作品だったと思いますが、狂言師・野村萬斎さんが主演。満月の高く上がる夜、白馬にまたがり駆け付ける覆面の剣士・鞍馬天狗。
愛馬の背に立ち、高く見下ろす目前に抜刀した侍たちが十数名ばかりか。揃いの羽織は、彼らが新選組の隊士であることを示しています。
野村萬斎版の「鞍馬天狗」は、公家の出身ながら幼少期から鞍馬の山に隠れ、剣の達人になっています。この辺りは映像化作品ごとに設定が異なるようです。
――新選組は不審な若侍(女性剣士)を追い、斬ろうとします。
頭巾で正体を隠した鞍馬天狗。馬上から新選組隊士たちに言い放ちます。
「その者に手を出すな…と言っても、聞く耳を持つまい。」
いきなり現れた覆面の剣士の言うことに、新選組が応じるわけはありません。
「…ならば、お相手するしかあるまい。」
覆面を通じて発する声は低くこもって、それでいて周囲から響くような演出。
――「問答無用!」と、天狗の足元へ斬りかかる新選組隊士。
ひょうと白馬から飛ぶ鞍馬天狗。取り囲む新選組と適度に間合いを取り、地上に降り立ちます。ここまでの雰囲気が、なんだかハリウッド映画っぽい。
…実は『バットマン』を意識したダークヒーローとして表現されたとか。
ドラマの構成で新選組はかなり横暴ですが、この辺は市中警備の仕事。しかも逃げる側(京野ことみさん演じる、白菊姫)が追われて当然の行動をしてたり…
――多数で襲い掛かる、新選組に応じて
あざやかな剣さばきを見せ、次々に返り討ちにする鞍馬天狗。すごくカッコいいけど、冷静に見ると…幕末の“正義”を語るのは難しい。
長い前振りでしたが、このドラマをベースに「鞍馬天狗」の条件を考えてみます。
※なお、原作小説の鞍馬天狗のモデルは諸説あるようで、以下はドラマ版への個人的な考察です。
①長州藩士・桂小五郎と親しく、活動の手助けをする遊撃の剣士。
②新選組局長・近藤勇と敵対するが、互いの力を認める絆がある。
➂もとは第三者的な立場だが、自身の判断で志士たちに味方する。
…そして、幕末期に上記の3つの条件を満たす剣士がいたようです。
――肥前 大村藩(現・長崎県大村市)の剣士・渡邉昇(わたなべ のぼり)。
大村藩士の渡邉昇は江戸に来た時に、神道無念流・練兵館道場で剣の修業を行ったといいます。
・渡邉は腕が立ち、当時の塾頭・桂小五郎とは双璧と呼ばれたそうです(①)
・桂から塾頭を引き継ぐ渡邉昇。天然理心流・近藤勇とも知り合います(②)
近藤の運営する“試衛館”に道場破りが来た時、渡邉昇が加勢したという話も。「重い木刀で鍛える」近藤の流派。竹刀の試合は苦手だった?…と想像します。
――幕末の動乱は進み、京の都では斬り合いが多発。
渡邉昇は尊攘志士側で倒幕派のために刀を振るうことに(③) 義理堅い人なのか新選組・近藤勇は、敵側で過激な行動に走る渡邉に忠告を試みたようです。
幕府方から凄腕の剣客と恐れられた、渡邉昇。後年「正面から戦った相手には思うところは無いが、不意打ちを行った際の悔恨が残る」ように語ったそうです。
しかし渡邉らが突き進んだことで、大村藩は倒幕に積極的な立場となりました。
もともとの石高は2万7千石で大きい藩ではありませんが、存在感を示します。
――時代の転換点には、様々な人が関わっています。
土佐の脱藩浪士・坂本龍馬を長州藩に紹介したのは、この渡邉昇だと言われます。言い換えれば“薩長同盟”への線路をつないだ人なのかもしれません。
そして、この渡邉昇の兄・渡邉清も、鳥羽伏見の戦いの時に、幕府方からの挟み撃ちを封じる活躍をして、江戸開城前の西郷隆盛・勝海舟の会談に同席。
“明治維新”への主導権争いに、地味ながら決定的な役割のあった渡邉兄弟。ちなみに兄・渡邉清は、佐賀市内にも銅像がある“石井筆子”の父親です。
〔参照:
――とても熱く幕末に関わった、大村藩。
明治新政府でも要職に就く渡邉昇。のちに“剣道”の普及に情熱を注ぎます。
渡邉昇が試合をした中に、明治期の佐賀(小城)の剣士・辻真平という人物がいたようです。“本編”第2部につながる、佐賀の剣術を語るのは次の機会に。
…新大村駅。長崎空港に近い立地の新駅。キリシタン大名からの文化、花の名所である海の城(玖島城)もあり、ぜひ市街地にも足を延ばしたいところです。