2021年05月05日

連続ブログ小説「旅立の剣」(38)肥前の品格

こんにちは。
佐賀城の西の堀端。前回は歴史寸劇「さがんもん」に衝撃を受けた私。青空のもと、道路を封鎖してのイベントは続きます。

ちなみに2019年10月の話です。現状では、同じ形でのイベント開催は難しいでしょう。この時、私の心を打ったのは、佐賀人混みに感じる“品性”でした。


――13:50。私が、この場に居られる残り時間は30分。

再び、幕末の風が漂うBGM。気になる方は、前回記事から参照してほしい。

さが維新まつり」と白地に墨書した大旗がはためき、進んで来る。その隊列を出迎える、来場者たちが青い小旗を振る。

私は“お祭り男”の類では無いが、この盛り上がりには心が躍るものがある。
「こういう祭りには、もう少し早く出会いたかった…」


※公道でのイベントで当時の映像も公開されていますが、掲載写真はなるべく加工しています。

――この祭りのパレードを一言でいえば、幕末・明治期の仮装行列である。

演劇を中心に活動する「幕末・維新 佐賀の八賢人おもてなし隊」の方々だけでなく、一般で公募された方も佐賀の偉人に扮している。

その数分前には「おもてなし隊」のキャストの方は、全員集結していた。舞台上には前回のメンバー5人。加えて“別動隊”だった3人も到着したようだ。


注)2019年10月時点のキャストの皆様。私は「おもてなし隊」の関係者ではないため、一ファンとして紹介しています。説明の文章などは、歴史上の人物に対しての私個人の見解です。

――合流した3人は、舞台の下側。

右から順に、マイクの前に居る洋装の方、日本赤十字社創設・佐野常民
横顔のお侍が、人道的な外交で近代国家としての日本を示した副島種臣

左端早稲田大学を創った人。初の政党内閣での総理大臣大隈重信
発した言葉は「令和に生きる“後輩”を見ている」旨のメッセージだ。

大隈先生、確かに受け取りましたよ。」と言葉を返す気分。但し、受け取った私には、それなりに険しい道が待っているような気もする。


――そんな折、突然に明治政府の“外交官”が近くを通りがかる。

殿鍋島直正のご子息鍋島直大さまだ。

佐賀県内では、幼少期に“種痘”を施される絵図で有名。
のちにイタリア公使としても活躍。海外駐在の長い国際派だ。

…というプロフィールだが、直大さまに扮した方を見た。
「この人、佐賀県知事だ!」



――県民各位には、“賛否両論”あろうが…

私は県知事の姿に気付く。密かに舞台へ進む様子。一方で沿道は、その外交官鍋島直大の夫人、鍋島榮子(ながこ)さまの登場に大盛り上がりを見せる。

扮するのは、女優中越典子さん。当時のドレスを纏い、貴婦人の出で立ち。佐賀出身とは聞いていたが、さすが芸能人オーラが違うし、とても小顔だ。

…昔は、佐賀駅ミスタードーナツにも来ていたとか聞くが、信じ難い。


――14:00。山口知事と、中越さんが登壇している。

あまりの展開に入ってくる情報量が多過ぎて、少々混乱気味の私。舞台上ではMCの女性が華のある高い声で、テキパキと話を整理している。

ふと、冷静になる。もう、私は帰路に付かねば。会場では“餅まき”のような行事が始まっていた。

おそらく飛び交うのは袋入りの“佐賀銘菓”。キャッキャと楽しそうな子供たち



――“この会場”との、別れの寂しさが過(よ)ぎる。

のためか自分のためか、頭上の青空に向けて高く手を伸ばす大人たち。皆が「この青天に向かって、“”を突き上げている!」のだ。

「“いつも”とは何かが、違う…」
私は考えた。もし、大都市圏で同じように人が集まれば、ゴチャゴチャと無秩序になるのが常だ。この会場に集う佐賀の人たちからは、そんな気配を感じない。

「これも肥前の…、佐賀品格か。」
旅の終わりにも、私は奇妙な気付きを得ていた。


(続く)