2020年10月02日
第14話「遣米使節」⑤(火術方への“就活”)
こんばんは。
“嬉野の忍者”が長崎~佐賀を行く投稿の3回目です。今回、蓮池藩士・古賀が出会うのは…のちに幕末佐賀藩のヒーローとなるあの人です。
――佐賀城の南東、蓮池支藩の御館。
「エゲレス(イギリス)船の見聞、滞りなく。」
「さすがは古賀じゃ。随分と黒船まで近付いたようだな。」
「ははっ。」
「良き調べであるから、蓮池のみで留めず、本家にもお伝えせよ。」
蓮池藩士・古賀の“殿様”は、蓮池藩主・鍋島直與(なおとも)という。やはり“蘭癖”(西洋かぶれ)大名として知られる。
――本藩の殿・鍋島直正だけでなく、支藩も自治領も、藩主(領主)が、やたらと西洋に詳しいのが佐賀藩の特徴である。
「はっ。」
「“火術方”に夏雲どのが居られるから、この文(ふみ)とともに一走りせよ。」
「承りました。」
信用のある“嬉野の忍者”古賀。今度は機密情報を一手に集める、殿・直正の書記官・鍋島夏雲のもとに向かう。

――蓮池藩士・古賀が、佐賀城下の“火術方”(大砲など火器を扱う部門)に走る。
「やっぱり、人づかいの荒かごたぁ…」
いくら“忍者”と言えども、愚痴は出る。しかし、その足取りは軽妙である。
微かに香る有明の潮風を切りながら、古賀はスイスイと進んでいく。その歩みは人目が無い裏道では、さらに加速した。
――ほどなく佐賀本藩の“火術方”の門前に到着した、古賀。
「ニー、ニー」
塀のたもとで、仔猫が鳴く。
「おお、可愛かばい。母ちゃんはどこね?」
仔猫に話しかける、蓮池藩士・古賀。
――そこで、ネコに話しかける“忍者”に歩み寄る影があった。
「お尋ね申す!“火術方”のお役人でござるか。」
鋭く通る声。
いきなりの大音声に、仔猫がビリビリと震える。へっぴり腰でピタリと止まったあと、一目散に母ネコの元に逃げ去った。

――蓮池藩士・古賀は緩やかに背を丸めた。死角には小刀を隠し持つ。
古賀は背を向けたまま、青年に言葉をかける。
「…よく通るお声で、ございますな。」
「相済まぬ。よく人を驚かせてしまうのだ。」
この青年、江藤新平である。人だけでなくネコも驚かせている。
古賀はひとまず安堵した。江藤を佐賀藩士と認識したのである。
「儂は“火術方”の者では無かばってん…所用がございましてな。」
――学費の不足で、“蘭学寮”を退学した江藤新平。
身なりは粗末なままだが、ボサボサしていた髪は整えた。
いわば佐賀藩で役目を得るための“就職活動中”である。
「失礼した。少々、気負いが過ぎたようだ。」
「いや…お若いの、頑張らんね。」
先ほどまでの警戒心は解け「なかなか面白そうな青年ではないか」と、古賀はそう感じたのである。
(続く)
“嬉野の忍者”が長崎~佐賀を行く投稿の3回目です。今回、蓮池藩士・古賀が出会うのは…のちに幕末佐賀藩のヒーローとなるあの人です。
――佐賀城の南東、蓮池支藩の御館。
「エゲレス(イギリス)船の見聞、滞りなく。」
「さすがは古賀じゃ。随分と黒船まで近付いたようだな。」
「ははっ。」
「良き調べであるから、蓮池のみで留めず、本家にもお伝えせよ。」
蓮池藩士・古賀の“殿様”は、蓮池藩主・鍋島直與(なおとも)という。やはり“蘭癖”(西洋かぶれ)大名として知られる。
――本藩の殿・鍋島直正だけでなく、支藩も自治領も、藩主(領主)が、やたらと西洋に詳しいのが佐賀藩の特徴である。
「はっ。」
「“火術方”に夏雲どのが居られるから、この文(ふみ)とともに一走りせよ。」
「承りました。」
信用のある“嬉野の忍者”古賀。今度は機密情報を一手に集める、殿・直正の書記官・鍋島夏雲のもとに向かう。
――蓮池藩士・古賀が、佐賀城下の“火術方”(大砲など火器を扱う部門)に走る。
「やっぱり、人づかいの荒かごたぁ…」
いくら“忍者”と言えども、愚痴は出る。しかし、その足取りは軽妙である。
微かに香る有明の潮風を切りながら、古賀はスイスイと進んでいく。その歩みは人目が無い裏道では、さらに加速した。
――ほどなく佐賀本藩の“火術方”の門前に到着した、古賀。
「ニー、ニー」
塀のたもとで、仔猫が鳴く。
「おお、可愛かばい。母ちゃんはどこね?」
仔猫に話しかける、蓮池藩士・古賀。
――そこで、ネコに話しかける“忍者”に歩み寄る影があった。
「お尋ね申す!“火術方”のお役人でござるか。」
鋭く通る声。
いきなりの大音声に、仔猫がビリビリと震える。へっぴり腰でピタリと止まったあと、一目散に母ネコの元に逃げ去った。

――蓮池藩士・古賀は緩やかに背を丸めた。死角には小刀を隠し持つ。
古賀は背を向けたまま、青年に言葉をかける。
「…よく通るお声で、ございますな。」
「相済まぬ。よく人を驚かせてしまうのだ。」
この青年、江藤新平である。人だけでなくネコも驚かせている。
古賀はひとまず安堵した。江藤を佐賀藩士と認識したのである。
「儂は“火術方”の者では無かばってん…所用がございましてな。」
――学費の不足で、“蘭学寮”を退学した江藤新平。
身なりは粗末なままだが、ボサボサしていた髪は整えた。
いわば佐賀藩で役目を得るための“就職活動中”である。
「失礼した。少々、気負いが過ぎたようだ。」
「いや…お若いの、頑張らんね。」
先ほどまでの警戒心は解け「なかなか面白そうな青年ではないか」と、古賀はそう感じたのである。
(続く)