2020年04月28日
第9話「和親条約」②
こんばんは。
枝吉神陽が運営する「義祭同盟」の祭典には、佐賀藩の重役も列席しました。
また、鍋島安房は式典に参加するだけでなく、“蘭学”への人材確保のために目配りをしています。
これは、殿・鍋島直正の指示によるものです。
優秀な人材を“蘭学”に引き込み、尊王活動が過激化しないようコントロールする目的もあったようです。

――「蘭学寮」で学ぶ内諾を得た、江藤新平。喜びの報告に一時帰宅する。
江藤は、まっすぐ自宅の炊事場に向かう
「母上!“蘭学”を学ぶお許しが出ました!」
台所にいたのは、母・浅子ではない。従姉の江口千代子である。
「あらっ!“恒ちゃん”…じゃなくて、“新平さん”。お帰りなさい。」
名前を言い直す、千代子。
先だって、江藤から“子供のときの名”で呼ばないでほしいと言われている。
「千代子どのであったか。」
「浅子おばさまは、お出かけですので、炊事のお手伝いを…」
「いや、千代子どの。私は何も問うてはおらぬ…」
そもそも江藤は、千代子が家にいる理由の説明は求めていなかった。
――いとこの江口千代子。わりと江藤家に来ている。
「そうじゃ、千代子どの!私は“蘭学”を学ぶお許しをいただいたぞ!」
いつもの江藤らしくない態度。藩に能力を認められたようで、よほど嬉しいらしい。
「異国の者に負けぬよう、たくさん学んでくださいませ!」
ハキハキと激励する、千代子。
「おおっ、千代子どの!よくわかっておるな!」
江藤の表情も明るい。
――そんな2人を物影から、見ている人物が2人。
「浅子よ!存外、いい感じではないか!」
1人は、江藤の父・助右衛門である。
「しっ、旦那様!声が大きゅうございます。」
もう1人は、江藤の母・浅子。
「いろいろ喜ばしいな。」
「はい。」
江藤の両親は、当面隠れているつもりのようだ。
この翌年から、江藤新平は、藩校の“蘭学寮”で学ぶことになる。

――“例の3人組”の話の続きなので、大木喬任、中野方蔵にも触れておく。
「ありがたきことなれど、お断り申す。」
大木喬任である。
「またとない好機であるぞ。大木、考え直さぬか?」
藩校の教諭から、大木も“蘭学”を学ぶよう勧められた。
大木、何と“蘭学”を学ぶことを拒否している。
「風雲、急を告げておるゆえ、己の頭にて考えたきことがござる!」
我が道を行く、大木。
足の踏み場もないほど、床を本で埋め尽くす。
そして、夜明けまで歴史書を読み込んで、何やら考え込む…何とも奇人である。
――そして、中野方蔵。“蘭学”よりも、早く“都会”に出たい様子である。
「草場先生!詩を詠みました。手直しをお願いできないでしょうか。」
中野は、藩校でも著名な教師に近づいていた。
実は、詩文の添削を依頼している教師・草場佩川のことはあまり好きではない。中野の思考は、文人というより活動家なのである。
しかし、中野には思惑があった。
「草場先生のお力を借りれば、江戸や京で勉学ができるに相違ない…」
なるべく早期に“政治の中心地”で活動したい。
中野は「留学の決定権を持つ教師に近づく」戦略を取っていた。
――中野方蔵は、コミュニケーション能力が高いうえに、わりと「したたかな子」なのである。
こうして、三者三様に学問を進める3人。佐賀城下での青春の日々が過ぎていく。
(続く)
枝吉神陽が運営する「義祭同盟」の祭典には、佐賀藩の重役も列席しました。
また、鍋島安房は式典に参加するだけでなく、“蘭学”への人材確保のために目配りをしています。
これは、殿・鍋島直正の指示によるものです。
優秀な人材を“蘭学”に引き込み、尊王活動が過激化しないようコントロールする目的もあったようです。
――「蘭学寮」で学ぶ内諾を得た、江藤新平。喜びの報告に一時帰宅する。
江藤は、まっすぐ自宅の炊事場に向かう
「母上!“蘭学”を学ぶお許しが出ました!」
台所にいたのは、母・浅子ではない。従姉の江口千代子である。
「あらっ!“恒ちゃん”…じゃなくて、“新平さん”。お帰りなさい。」
名前を言い直す、千代子。
先だって、江藤から“子供のときの名”で呼ばないでほしいと言われている。
「千代子どのであったか。」
「浅子おばさまは、お出かけですので、炊事のお手伝いを…」
「いや、千代子どの。私は何も問うてはおらぬ…」
そもそも江藤は、千代子が家にいる理由の説明は求めていなかった。
――いとこの江口千代子。わりと江藤家に来ている。
「そうじゃ、千代子どの!私は“蘭学”を学ぶお許しをいただいたぞ!」
いつもの江藤らしくない態度。藩に能力を認められたようで、よほど嬉しいらしい。
「異国の者に負けぬよう、たくさん学んでくださいませ!」
ハキハキと激励する、千代子。
「おおっ、千代子どの!よくわかっておるな!」
江藤の表情も明るい。
――そんな2人を物影から、見ている人物が2人。
「浅子よ!存外、いい感じではないか!」
1人は、江藤の父・助右衛門である。
「しっ、旦那様!声が大きゅうございます。」
もう1人は、江藤の母・浅子。
「いろいろ喜ばしいな。」
「はい。」
江藤の両親は、当面隠れているつもりのようだ。
この翌年から、江藤新平は、藩校の“蘭学寮”で学ぶことになる。

――“例の3人組”の話の続きなので、大木喬任、中野方蔵にも触れておく。
「ありがたきことなれど、お断り申す。」
大木喬任である。
「またとない好機であるぞ。大木、考え直さぬか?」
藩校の教諭から、大木も“蘭学”を学ぶよう勧められた。
大木、何と“蘭学”を学ぶことを拒否している。
「風雲、急を告げておるゆえ、己の頭にて考えたきことがござる!」
我が道を行く、大木。
足の踏み場もないほど、床を本で埋め尽くす。
そして、夜明けまで歴史書を読み込んで、何やら考え込む…何とも奇人である。
――そして、中野方蔵。“蘭学”よりも、早く“都会”に出たい様子である。
「草場先生!詩を詠みました。手直しをお願いできないでしょうか。」
中野は、藩校でも著名な教師に近づいていた。
実は、詩文の添削を依頼している教師・草場佩川のことはあまり好きではない。中野の思考は、文人というより活動家なのである。
しかし、中野には思惑があった。
「草場先生のお力を借りれば、江戸や京で勉学ができるに相違ない…」
なるべく早期に“政治の中心地”で活動したい。
中野は「留学の決定権を持つ教師に近づく」戦略を取っていた。
――中野方蔵は、コミュニケーション能力が高いうえに、わりと「したたかな子」なのである。
こうして、三者三様に学問を進める3人。佐賀城下での青春の日々が過ぎていく。
(続く)