2020年02月14日

第3話「西洋砲術」④-1

こんばんは。
日本史教科書寄りの内容が続きます。「試験に出る佐賀藩」とかで整理した方が良いかもしれません。今回は1839年“蛮社の獄”が中心の内容ですが、一瞬、“遠山の金さん”も登場します。いわゆる「特別出演」です。

④天保の改革と幕閣の“妖怪”

――江川英龍が、長崎で砲術を学び、佐賀での交流を深めていた頃。

幕府ではある人物が暗躍する。
その名は鳥居“甲斐守”耀蔵

江戸町人たちは、名前(ようぞう)と役職(かいのかみ)を略して「妖怪」と呼んだ。

――まだ、2年前の“モリソン号”事件の余波が残る。

高野長英が、蘭学の勉強会にて“鎖国”への意見を披露し、匿名で「戊戌夢物語」を著した。しかし著作の影響は、当人の思惑を超えて広がっていく。

たとえば「夢々物語」などの題名で、2次創作物が出回ったのだが、内容が痛烈な“幕政批判”にすり替わっているものが多かった。

――“大塩平八郎の乱”以来、批判に神経を尖らせる幕府。

「けしからん!身の程をわきまえず、ご政道(幕政)に異を唱えるとは!」
ここで、権威を第一に考える男、鳥居耀蔵が動きだす。

「調子に乗っている“蛮社”どもめ!懲らしめてくれる!」
蛮社”とは「南蛮の学問を学ぶ社中」。すなわち“蘭学勉強グループ”である。

鳥居は“マムシの耀蔵”という異名も持っている。
密偵を使った執念深い追跡を得意とする。ほどなく高野が著者として特定された。

――そして鳥居は“蛮社の獄”を出世競争にも利用する。

渡辺崋山は、幕府内の出世競争が理由で狙われたとの説がある。
三河田原藩の家老である渡辺は、本音では“開国”こそが日本を救うと考えていた人物である。

本来、幕政には関われない立場だが、豊富な蘭学の人脈がある。江戸湾の測量の際、江川英龍渡辺に、測量技術者を紹介してもらい、成果を挙げている。

鳥居は、“鎖国”という政策への意見を準備したことを咎め、渡辺を処罰の対象へと追い込んだ。


――天保の改革が本格化する中、江戸の街中でも鳥居耀蔵の監視が強まる。

老中水野忠邦の改革は“贅沢の禁止”から進められ、鳥居はその急先鋒となっていた。

「“マムシの耀蔵”の手下が、また、芝居小屋を見回ってやがる…」
庶民に対しても、娯楽を廃止し、緻密な監視による統制を行う。

「あれは“妖怪”ってもんだよ!」
江戸町人たちは、鳥居の密偵に怯えながらも陰口をたたいた。


――“妖怪”に立ち向かうのは、江戸・北町奉行である遠山“金四郎”景元

鳥居のやつめ!庶民のささやかな楽しみを奪いやがって。」
桜吹雪が疼くのかどうかは定かではない。

遠山金四郎は、片手で軽く肩を叩いた。
「この遠山が、好きなようにはさせねぇ!」
…しかし“遠山の金さん”は、なにも鳥居の屋敷に乗り込み、チャンバラをするわけではない。

極端な締め付けの政策に対して、現実的な修正案を作り上げ、老中水野忠邦説得する。これが遠山の闘いである。舞うのは“桜吹雪”ではなく、練り上げた“書類”である。
遠山の金さん”は「人情味がある庶民の味方!」…のエリート官僚だった。

――このように老中・水野忠邦は、いかにも出世した人物らしく、さまざまな部下を遣っていた。

監視や統制に有用な鳥居耀蔵
裁判上手で、将軍のお気に入り遠山金四郎
西洋の技術に通じ、人脈もある江川英龍…という具合である。

そして、執念深い鳥居はライバルを出し抜くため、次の一手を思案する。

(続く)
  


Posted by SR at 23:01 | Comments(0) | 第3話「西洋砲術」