2021年12月01日

第17話「佐賀脱藩」⑦(蘭学教師・大隈)

こんばんは。
前回、三井子感激の涙で見送られ、蘭学寮に着くなり、顔見知りの重役である鍋島河内から声をかけられたり、何かと忙しい大隈八太郎重信)。

学問に熱心な佐賀殿様鍋島直正は、よく藩の学校を訪れ、もちろん洋学を研究する“蘭学寮”にも訪れたといいます。

大隈にとっては、オランダ語で学んだ西洋の知識を、殿に講義する晴れ舞台が、そこにありました。


――大隈の講義を聞く、殿・鍋島直正

大隈は話が上手いうえ、準備も万端だ。殿の興味を引く話を続ける。
「こうしてオランダでは“憲法”が諸法度(はっと)の上に立つのであります…」

殿直正は“うむ”とばかりにうなずいた。
大隈よ。そなたの話、なかなかに面白い。」

ありがたき、幸せ!」
よし、殿にもご満足いただける講義だっただろう。大隈はそう思った。



――しかし、佐賀の殿様の学習意欲が高い。

次の直正の発言から、大隈想定を超えた事態が起きる。
「いや、興味深いぞ…!もう少し、聞きたいものだ。」
「…

小出千之助石丸安世(虎五郎)といった“達人級”に比べ、語学力では一歩劣る大隈。準備できていない部分を、即興で読み解き、説明するのは困難だ。

「では、続きを訳せ。」
生徒”から教師への言葉としては奇妙だが、これは殿からの指示なのだ。

「…いや、“洋書”は訳せばよいというものではございませぬ。」


――ここは弁舌で“窮地”の脱出を図る、大隈八太郎

西洋の文物は、その背景まで知りてこそ。殿に講ずるならば、なおの事。」

大隈は、言葉を続ける。
「半端なる、お教えはいたしかねます。他日に、機会を賜りたく存じます。」

「…そこまで申すなら、日を改めよう。より一層、励むとよいぞ。」
本日はもっと勉強したかったが…、そんな表情の直正だった。

「はは―っ!」
そして、冷や汗をかく大隈だった。



――大隈が退出した後、城まで戻った直正

殿、お呼びにございますか。」
側近古川松根(与一)が、殿が居る書院に姿を見せる。

「やはり、ゆるりと学問をするのは良いものだな。」
仰せになっていた…隠居の件に、ございますか。」

鍋島直正は、跡継ぎの直大(茂実)に、藩主の座を譲る段取りを進めていた。
「さすが与一だ。語らずともわかってくれるのだな。」

長年の、お付き合いにて。」
古川が屈託なく言葉を返す。幼児期からずっと一緒の主従だ。ここから半年が過ぎた、晩秋鍋島直正佐賀藩主を退き、“隠居”をすることになる。


(続く)





  


Posted by SR at 21:19 | Comments(0) | 第17話「佐賀脱藩」