2022年06月12日
第18話「京都見聞」⑪(佐賀より来たる者なり)
こんばんは。前回の続きです。
江藤新平が、佐賀から京都に脱藩した際の“物語”を綴っています。京の“川の港”伏見から、同郷の脱藩者・祇園太郎に案内される設定で描きました。
〔参照(後半):第18話「京都見聞」⑥(もう1人の脱藩者)〕
協力者が居たのでは…と推測から構成したため、史実寄りのお話ではないのですが、江藤より前に脱藩し、共通の人物と接点があったのが、祇園太郎。
佐賀城下の「義祭同盟」と小城支藩の志士とは、藩内で連携があったと聞き、本編では小城での人脈が、江藤の活動を後押しする展開で表現しています。
〔参照(前半):第18話「京都見聞」⑤(清水の滝、何処…)〕

――京の都。鴨川にも近く、御池通に位置する長州藩邸。
「京を去る」とは言ったが、まだ祇園太郎は“見聞”を続けているのか、屋敷の門前を見つめる。
この江藤という男。少々危なっかしく、同郷の者として気になって仕方が無い。少し遠くから見守ると、門前のやり取りが耳に入った。
「この屋敷で立場ある方に、お目通り願いたい。」
「…何者じゃ。」
身なりはともかく、江藤は堂々とした態度。長州藩の門番は不審がっている。何の前触れもなく、藩の要職にある桂小五郎への面談を求めてきたのだ。
「佐賀から来た者だ。お会いできるか。」
「…何と、佐賀じゃと!?」
――追い返そうとしていた門番に、困惑の様子が見られる。
「西洋の技術に長じる」が、「二重鎖国で得体が知れない」ことでも知られる…佐賀藩士が、ここに1人で来ている事自体が、不自然だ。
江藤が発する声は相変わらず、よく通る。しかも、脱藩者を名乗るわりには、佐賀藩から来たことを強く示している。

「…あん男。やっぱり、何(なん)もわかっとらんばい…」
半ば呆気にとられた感じで、祇園太郎が“佐賀ことば”で独りつぶやく。やはり「危うい動きは避けた方が良い…」という忠告は、江藤には響かないようだ。
一方で痛快に感じるところもあった。どちらかと言えば「“佐賀”を表に出さず」に活動してきた自分とは違う。
――きっと、このような者が時代を回すのだ…
長州藩邸の門前には、何らかの信念を持って立つ、佐賀からの脱藩者。
追い返す判断に自信が持てないか、慌てて屋敷内と連絡を取る門番。遠目に江藤の立ち姿を見て、祇園太郎は一つ大きく頷いた。
もう信じるしかあるまい、どう見ても普通ではない、この男を。
「おいは、もう長崎に行くけん。“武運”を祈っとるばい…。」

小城から出て来た“もう1人の脱藩者”は、志士たちとの交流で、各藩の動向をよく知っていた。
志士でありながら、“密偵”の任務も背負うらしい祇園太郎。この間の活動で、収集した情報を、佐賀への“手土産”に携えて九州への道を歩み始めた。
――長州藩邸では、門番から応対を引き継がれた者が出る。
上級武士の手下らしい風体の人物が、江藤にあらためて問う。
「貴方は間違えなく、佐賀から来られたので…?」
「六月の末に佐賀を抜けた。桂さまは、屋敷に居られるか。」
出てきた男は、じっと江藤を見つめる。旅の埃にまみれた衣服が目に付く。
「…お召し物は、取り替えられた方がよろしいのでは。」
「佐賀では、質素倹約を旨としておるゆえ。」
「これからは、見栄えも大事にございますよ。」
とにかく、じろじろと相手をよく見る男だった。そのうえで、ふと表情を緩めた。
(続く)
江藤新平が、佐賀から京都に脱藩した際の“物語”を綴っています。京の“川の港”伏見から、同郷の脱藩者・祇園太郎に案内される設定で描きました。
〔参照(後半):
協力者が居たのでは…と推測から構成したため、史実寄りのお話ではないのですが、江藤より前に脱藩し、共通の人物と接点があったのが、祇園太郎。
佐賀城下の「義祭同盟」と小城支藩の志士とは、藩内で連携があったと聞き、本編では小城での人脈が、江藤の活動を後押しする展開で表現しています。
〔参照(前半):
――京の都。鴨川にも近く、御池通に位置する長州藩邸。
「京を去る」とは言ったが、まだ祇園太郎は“見聞”を続けているのか、屋敷の門前を見つめる。
この江藤という男。少々危なっかしく、同郷の者として気になって仕方が無い。少し遠くから見守ると、門前のやり取りが耳に入った。
「この屋敷で立場ある方に、お目通り願いたい。」
「…何者じゃ。」
身なりはともかく、江藤は堂々とした態度。長州藩の門番は不審がっている。何の前触れもなく、藩の要職にある桂小五郎への面談を求めてきたのだ。
「佐賀から来た者だ。お会いできるか。」
「…何と、佐賀じゃと!?」
――追い返そうとしていた門番に、困惑の様子が見られる。
「西洋の技術に長じる」が、「二重鎖国で得体が知れない」ことでも知られる…佐賀藩士が、ここに1人で来ている事自体が、不自然だ。
江藤が発する声は相変わらず、よく通る。しかも、脱藩者を名乗るわりには、佐賀藩から来たことを強く示している。

「…あん男。やっぱり、何(なん)もわかっとらんばい…」
半ば呆気にとられた感じで、祇園太郎が“佐賀ことば”で独りつぶやく。やはり「危うい動きは避けた方が良い…」という忠告は、江藤には響かないようだ。
一方で痛快に感じるところもあった。どちらかと言えば「“佐賀”を表に出さず」に活動してきた自分とは違う。
――きっと、このような者が時代を回すのだ…
長州藩邸の門前には、何らかの信念を持って立つ、佐賀からの脱藩者。
追い返す判断に自信が持てないか、慌てて屋敷内と連絡を取る門番。遠目に江藤の立ち姿を見て、祇園太郎は一つ大きく頷いた。
もう信じるしかあるまい、どう見ても普通ではない、この男を。
「おいは、もう長崎に行くけん。“武運”を祈っとるばい…。」
小城から出て来た“もう1人の脱藩者”は、志士たちとの交流で、各藩の動向をよく知っていた。
志士でありながら、“密偵”の任務も背負うらしい祇園太郎。この間の活動で、収集した情報を、佐賀への“手土産”に携えて九州への道を歩み始めた。
――長州藩邸では、門番から応対を引き継がれた者が出る。
上級武士の手下らしい風体の人物が、江藤にあらためて問う。
「貴方は間違えなく、佐賀から来られたので…?」
「六月の末に佐賀を抜けた。桂さまは、屋敷に居られるか。」
出てきた男は、じっと江藤を見つめる。旅の埃にまみれた衣服が目に付く。
「…お召し物は、取り替えられた方がよろしいのでは。」
「佐賀では、質素倹約を旨としておるゆえ。」
「これからは、見栄えも大事にございますよ。」
とにかく、じろじろと相手をよく見る男だった。そのうえで、ふと表情を緩めた。
(続く)
Posted by SR at 17:38 | Comments(0) | 第18話「京都見聞」
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。