2023年01月16日
第18話「京都見聞」⑱(秋風の吹く頃に)
こんばんは。
『どうする家康』第2回も面白かったのですが、「大河ドラマの感想を書くブログ」になってしまいそうなので、まず第18話の完結に向けて“本編”を再開します。
文久二年(1862年)夏に佐賀を脱藩した江藤新平。わずかな期間とはいえ、幕末の京都で活動したことで、明治の新時代につながる人脈を築きました。
ところが、当時の江藤の報告からは失望の方が強く伝わると言います。各藩が政局の中での立場を確保しようと、続々と上洛(京都入り)した時期でした。
〔参照(前回):第18話「京都見聞」⑰(湖畔の道を駆ける)〕

諸藩の思惑が交錯して混乱が強まっていたこと、また、江藤がこれぞと思える人物に出会うこともほとんど無かったことが、その失望の理由と聞きます。
江藤は「朝廷に英明な者が見当たらず、志士は激情に任せて動く…」という旨の感想を残したようです。
そんな折に「佐賀藩の大殿(前藩主)・鍋島直正が、京を目指す」という一報を得て、期待する江藤の気持ちは急いています。
――京。有力公家・姉小路公知の屋敷。
この日も、各地から集まった志士たちの威勢の良い大声が響く。
「徳川は弱腰、夷狄(いてき)はただちに打ち払え!」
「そうじゃ、攘夷の決行じゃ。すぐに、やるんじゃ!。」
「通商条約など、破り捨ててしまえ。」
「神州にはびこる異人どもは…斬るべし!」
議論はどんどん熱を帯びるが、そんな声を聞きながら、あまり寝ていない江藤は、縁側であくびをしていた。

このところ、江藤は佐賀に向けて、京都で見聞きした情勢を、夜通しで書面に綴っているのだ。
事は急を要する。どうにかして上洛の前に、佐賀の大殿・鍋島直正(閑叟)に最新の情報を届けねば…そのような焦りもあった。
――今日も「尊王攘夷」に熱狂する志士たちが集う。
ところが、志士たちの熱弁も日々繰り返されれば…聞き飽きるのか。話を聞かせたいはずの公家・姉小路公知の姿がそこには無い。
白熱した志士たちは気づかぬ様子だが、座の主役であるべき姉小路は、その場から抜け出し、庭を散策中である。
「ほっほ…江藤よ。眠うおじゃるか。」
「いえ、人智は空腹より生じます。不眠とて、新しき知恵をもたらすと存ずる。」
縁側に控える江藤に、声をかける姉小路。江藤からは、気を張った返事だ。
「また…強情なことや。佐賀の者は、そなたのような者ばかりなんか?」
二十歳そこそこで、かなり若い公家・姉小路。少しおどけたように言った。

――そして姉小路は、フッとため息を付くようにこぼした。
「あの威勢のええ者たちは、まろが居ようが居まいが関わりないらしい。」
来る日も来る日も、各地から似た感じの勢い込んだ志士が送り込まれてくる。
「何処かで聞いた言葉を叫ぶ者は、実のところ、何も考えておらぬゆえ。」
江藤は、議論の場で加熱する志士たちをこう評価した。
「なかなか手厳しい物言いや。そんなんは、疎(うと)まれるで。」
「論があるなら、いかに形に成すかを示さねばなりませぬ。」
以前とは違い、姉小路からの柔らかい忠告だが、江藤はぴしゃりと言い放つ。
〔参照:第18話「京都見聞」⑭(若き公家の星)〕
――ふと、秋の気配を感じさせる風が通る。
江藤の弁舌は、時に攻撃的でもあった。
「何も考えずわめく者には、それなりの言い方をするまで。」
「まず手筈(てはず)を整えろ…か。そなたなら、そう言うやろうな。」
わずか2か月ほどの付き合いになるが、姉小路にも江藤の気性がわかってきたようだ。だが身分の差もあり、このように親しく語らう事は、そう多くない。
熱気のこもった京都の夏も、過ぎゆこうとしている。庭先に下りてきた姉小路には、まだ江藤に聞きたいことがある様子だった。
(続く)
『どうする家康』第2回も面白かったのですが、「大河ドラマの感想を書くブログ」になってしまいそうなので、まず第18話の完結に向けて“本編”を再開します。
文久二年(1862年)夏に佐賀を脱藩した江藤新平。わずかな期間とはいえ、幕末の京都で活動したことで、明治の新時代につながる人脈を築きました。
ところが、当時の江藤の報告からは失望の方が強く伝わると言います。各藩が政局の中での立場を確保しようと、続々と上洛(京都入り)した時期でした。
〔参照(前回):
諸藩の思惑が交錯して混乱が強まっていたこと、また、江藤がこれぞと思える人物に出会うこともほとんど無かったことが、その失望の理由と聞きます。
江藤は「朝廷に英明な者が見当たらず、志士は激情に任せて動く…」という旨の感想を残したようです。
そんな折に「佐賀藩の大殿(前藩主)・鍋島直正が、京を目指す」という一報を得て、期待する江藤の気持ちは急いています。
――京。有力公家・姉小路公知の屋敷。
この日も、各地から集まった志士たちの威勢の良い大声が響く。
「徳川は弱腰、夷狄(いてき)はただちに打ち払え!」
「そうじゃ、攘夷の決行じゃ。すぐに、やるんじゃ!。」
「通商条約など、破り捨ててしまえ。」
「神州にはびこる異人どもは…斬るべし!」
議論はどんどん熱を帯びるが、そんな声を聞きながら、あまり寝ていない江藤は、縁側であくびをしていた。
このところ、江藤は佐賀に向けて、京都で見聞きした情勢を、夜通しで書面に綴っているのだ。
事は急を要する。どうにかして上洛の前に、佐賀の大殿・鍋島直正(閑叟)に最新の情報を届けねば…そのような焦りもあった。
――今日も「尊王攘夷」に熱狂する志士たちが集う。
ところが、志士たちの熱弁も日々繰り返されれば…聞き飽きるのか。話を聞かせたいはずの公家・姉小路公知の姿がそこには無い。
白熱した志士たちは気づかぬ様子だが、座の主役であるべき姉小路は、その場から抜け出し、庭を散策中である。
「ほっほ…江藤よ。眠うおじゃるか。」
「いえ、人智は空腹より生じます。不眠とて、新しき知恵をもたらすと存ずる。」
縁側に控える江藤に、声をかける姉小路。江藤からは、気を張った返事だ。
「また…強情なことや。佐賀の者は、そなたのような者ばかりなんか?」
二十歳そこそこで、かなり若い公家・姉小路。少しおどけたように言った。
――そして姉小路は、フッとため息を付くようにこぼした。
「あの威勢のええ者たちは、まろが居ようが居まいが関わりないらしい。」
来る日も来る日も、各地から似た感じの勢い込んだ志士が送り込まれてくる。
「何処かで聞いた言葉を叫ぶ者は、実のところ、何も考えておらぬゆえ。」
江藤は、議論の場で加熱する志士たちをこう評価した。
「なかなか手厳しい物言いや。そんなんは、疎(うと)まれるで。」
「論があるなら、いかに形に成すかを示さねばなりませぬ。」
以前とは違い、姉小路からの柔らかい忠告だが、江藤はぴしゃりと言い放つ。
〔参照:
――ふと、秋の気配を感じさせる風が通る。
江藤の弁舌は、時に攻撃的でもあった。
「何も考えずわめく者には、それなりの言い方をするまで。」
「まず手筈(てはず)を整えろ…か。そなたなら、そう言うやろうな。」
わずか2か月ほどの付き合いになるが、姉小路にも江藤の気性がわかってきたようだ。だが身分の差もあり、このように親しく語らう事は、そう多くない。
熱気のこもった京都の夏も、過ぎゆこうとしている。庭先に下りてきた姉小路には、まだ江藤に聞きたいことがある様子だった。
(続く)
Posted by SR at 21:49 | Comments(0) | 第18話「京都見聞」
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