2021年01月18日

第15話「江戸動乱」⑤(仮面の優等生)

こんばんは。

序盤はアメリカで展開していた第15話ですが、舞台は幕末佐賀に戻りました。藩校“弘道館”の優等生中野方蔵が、いろんな所で噂になっています。


――佐賀城下。大隈家。

友人の久米丈一郎(邦武)が立ち寄り、大隈八太郎重信)と話している。いま、大隈は“蘭学寮”の学生。一方の久米は、そのまま藩校に残っている。

丈一郎!やはり、蘭学はよかばい。」
「そがんね。弘道館もまずまず面白かよ。」
歴史に興味が強い、久米。藩校の伝統教育も、さほど苦にならないようだ。

「いや、弘道館は…窮屈でいかん!」
「そうたいね。まぁ、八太郎さんは追い出されよったもんね。」


――久米に悪気はないが、言い方にトゲがある。

「…こちらから、出てやったようなもんである!」
久米の言葉にカチンと来たのか、大隈のしゃべり方が急に演説調になる。

「いまは弘道館も落ち着いとるよ。」
寮長は?誰が受け持っとる?」

中野さんばい。」
現在、藩校の“生徒会長”は中野方蔵


――藩校「弘道館」にて。佐賀では重役が学校によく視察に来る。

政務に役立ちそうな人材を、事前に把握しておくためだ。
藩内の保守派原田小四郎が、学生代表中野を褒めている。

「昨今の弘道館秩序がしっかりしておるな!」
「はい。心の乱れは風紀に表れます!鍋島武士は、常に心を律すべきと存じます。」

「“寮の長”にふさわしき、心構えだ。この原田、頼もしく思うぞ。」
「過分なるお褒めのお言葉、恐悦の至りにございます!」

第15話「江戸動乱」⑤(仮面の優等生)

――大変仰々しい、やり取り。

組織が強固なのは佐賀藩の特徴でもある。原田小四郎は、保守派の筆頭格。秩序ある藩校の現況を好ましく思うのだ。

そこに弘道館の有力教師草場佩川が通りががる。
「これは、原田様。わざわざのお運び恐れ入る。」

「お久しい。草場先生、息災のご様子で何より。」


――草場佩川(はいせん)は、多久の出身である。

佐賀藩の自治領の1つ・多久には、“儒学”の伝統がある。“儒学”は秩序ある社会の理想を説く。

「先年の騒ぎもあり、弘道館の風紀を案じておりましたが…」
いまや藩の重役・原田小四郎が、藩校の教師・草場佩川に語る。


――数年前、藩校で起きた乱闘事件。

この騒ぎを煽った“主役”が、大隈八太郎処分として、退学になった。

草場先生。寮の長を務める中野方蔵。なかなかの若者でありますな。」
保守派・原田の絶賛である。寮長・中野は、学生規則を発するなど、その統制に気を配っている。

「あぁ、中野ですか。機転も効くし、才覚もある。」


――ひとかどの古武士の風格のある、草場佩川。

草場は、あえて学者らしい難しい顔で、原田にこう告げた。
「たしかに中野は、佐賀から遊学に出すべきであろう。しかし…目は離さぬ方が良いですぞ。」

「…はて、何故でござるか。実に心映えの良い若者ではござらんか。」
原田小四郎は、困惑の色を浮かべる。草場の反応は、意外だったのだ。

若き者巣立つのを止めはせぬが、才に溺れぬよう見張ってくだされ。」
老境の学者・草場は、フッと笑みを浮かべた。


(続く)

〔参照:第11話「蝦夷探検」⑥(南北騒動始末)




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Posted by SR at 21:16 | Comments(0) | 第15話「江戸動乱」
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