2022年10月01日
連続ブログ小説「聖地の剣」(17)ご尊顔を拝し奉り…
こんばんは。
ほんの数年前、うかつにも今までの人生で気付かなかった、幕末の佐賀藩の存在感を知って、佐賀藩士(?)を自称し、それを心の支えとして生きる私。
暑かった今夏に入る前のある日、「聖地の中の聖地」である場所に至ります。そこは、佐賀城本丸歴史館(本丸御殿)。
コロナ禍の間隙を縫って、概ね2年半ぶりに佐賀へと還り、“帰藩”を果たした記憶を軸に綴るシリーズです。
――佐賀への到着から動き回って、4時間近く。
“ご挨拶”に出向かねばならない場所が、佐賀城の奥にある。ある程度、心も落ち着いたところで、お伺いしたかった。
「誰にお会いするのか?」といえば、佐賀のお殿様である。第10代佐賀藩主・鍋島直正公。
そして、私が歴代の佐賀藩主の中で、最も「大河ドラマで見たい」お殿様だと補足しよう。
――これはまず、幕末期に対象の年代を定めたためであり、
佐賀藩祖・鍋島直茂公や、ご初代・鍋島勝茂公の大河ドラマでの、ご活躍を拝見したい気持ちはもちろんある。
その場合、時代は戦国時代や江戸初期の設定となるはずだ。今のところは、『ねこねこ日本史』でのご登場を見たが、それ以外は記憶に無いのが寂しい。
〔参照①(視聴前):「“ねこねこ日本史”に注目」〕
〔参照②(視聴後):「“くまくま日本史”の感想」〕
この辺り…まだ語りたいことはあるが、ここでは余談になるため、佐賀城内の描写に戻る。

――“本丸御殿”を、奥に進むと次第に…
建材が年季を帯びたものとなっていく。雨模様の一日だったため、灯りはあるものの、外からの光が強くない。
薄暗く障子からの光が差す、畳敷きの廊下をゆく。風もあるのか、ギシギシとどこからともなく音がする。
幕末と呼ばれた江戸末期の激動期に向けて、ゆっくりと時間を遡行していく…そんな感覚もあった。
――しばし時を経て、「御座間(ござのま)」へと至る。
「おおっ…」と一瞬、入室を躊躇(ちゅうちょ)する。光の差し具合と、浮かび上がる建具の陰影に、その時代を感じさせる風格があったためだ。
それもそのはず、殿様の居室である「御座間」は、当時の建物を別の場所に移築していたものを、元の場所に戻したと聞くのだ。
「お主、“SR”と名乗る者だな。そこに居るのはわかっておる。これへ参れ。」
――そんな声も、聞こえてくる気がする。
殿の御前に進み出でて、深々と座礼をする。
「ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます!」
ひとまず、それらしきご挨拶を試みる。私の言葉を、ひらがなで表記すれば、「ごそんがん を はいし たてまつり きょうえつしごくに ぞんじます」となる。
たぶん時代劇の見過ぎである。文法として、正しい言葉遣いかはわからないが、私としては最上級の敬意は込めているつもりだ。

――私が日々にジタバタと綴る内容も、お見通し…と感じる。
「そう固くなるでない。面(おもて)を上げよ。」
「はっ!」
この間、数秒と言う感覚である。
「なにゆえに、お主は“半笑い”なのだ。」
「ようやく佐賀に戻れましたので、いまだ気持ちの整理が付きません!」
「久方ぶりに戻ったのだ。心持ちだけでも、ゆるりとすれば良い。」
「ありがたき幸せに存じます!」
――実際に声を出して、話をしたわけではない。
そのような対話があったような感覚があるだけだ。以前から一礼はしていたと思うが、佐賀を強く想うようになった今、その重みは全く異なる。
現実にかえってスッと立ち上がると、ガタガタ…と外に面した戸が、強い風に揺れ出した。次第に雲行きがあやしくなるのが室内からも窺えた。
「良い感じで、殿に労(ねぎら)っていただいたように思ったのだが…」
殿様の(肖像写真のパネル)の御前から退出した私は、急に荒れ出した天候に、少し困惑を感じていた。
(続く)
ほんの数年前、うかつにも今までの人生で気付かなかった、幕末の佐賀藩の存在感を知って、佐賀藩士(?)を自称し、それを心の支えとして生きる私。
暑かった今夏に入る前のある日、「聖地の中の聖地」である場所に至ります。そこは、佐賀城本丸歴史館(本丸御殿)。
コロナ禍の間隙を縫って、概ね2年半ぶりに佐賀へと還り、“帰藩”を果たした記憶を軸に綴るシリーズです。
――佐賀への到着から動き回って、4時間近く。
“ご挨拶”に出向かねばならない場所が、佐賀城の奥にある。ある程度、心も落ち着いたところで、お伺いしたかった。
「誰にお会いするのか?」といえば、佐賀のお殿様である。第10代佐賀藩主・鍋島直正公。
そして、私が歴代の佐賀藩主の中で、最も「大河ドラマで見たい」お殿様だと補足しよう。
――これはまず、幕末期に対象の年代を定めたためであり、
佐賀藩祖・鍋島直茂公や、ご初代・鍋島勝茂公の大河ドラマでの、ご活躍を拝見したい気持ちはもちろんある。
その場合、時代は戦国時代や江戸初期の設定となるはずだ。今のところは、『ねこねこ日本史』でのご登場を見たが、それ以外は記憶に無いのが寂しい。
〔参照①(視聴前):
〔参照②(視聴後):
この辺り…まだ語りたいことはあるが、ここでは余談になるため、佐賀城内の描写に戻る。
――“本丸御殿”を、奥に進むと次第に…
建材が年季を帯びたものとなっていく。雨模様の一日だったため、灯りはあるものの、外からの光が強くない。
薄暗く障子からの光が差す、畳敷きの廊下をゆく。風もあるのか、ギシギシとどこからともなく音がする。
幕末と呼ばれた江戸末期の激動期に向けて、ゆっくりと時間を遡行していく…そんな感覚もあった。
――しばし時を経て、「御座間(ござのま)」へと至る。
「おおっ…」と一瞬、入室を躊躇(ちゅうちょ)する。光の差し具合と、浮かび上がる建具の陰影に、その時代を感じさせる風格があったためだ。
それもそのはず、殿様の居室である「御座間」は、当時の建物を別の場所に移築していたものを、元の場所に戻したと聞くのだ。
「お主、“SR”と名乗る者だな。そこに居るのはわかっておる。これへ参れ。」
――そんな声も、聞こえてくる気がする。
殿の御前に進み出でて、深々と座礼をする。
「ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます!」
ひとまず、それらしきご挨拶を試みる。私の言葉を、ひらがなで表記すれば、「ごそんがん を はいし たてまつり きょうえつしごくに ぞんじます」となる。
たぶん時代劇の見過ぎである。文法として、正しい言葉遣いかはわからないが、私としては最上級の敬意は込めているつもりだ。
――私が日々にジタバタと綴る内容も、お見通し…と感じる。
「そう固くなるでない。面(おもて)を上げよ。」
「はっ!」
この間、数秒と言う感覚である。
「なにゆえに、お主は“半笑い”なのだ。」
「ようやく佐賀に戻れましたので、いまだ気持ちの整理が付きません!」
「久方ぶりに戻ったのだ。心持ちだけでも、ゆるりとすれば良い。」
「ありがたき幸せに存じます!」
――実際に声を出して、話をしたわけではない。
そのような対話があったような感覚があるだけだ。以前から一礼はしていたと思うが、佐賀を強く想うようになった今、その重みは全く異なる。
現実にかえってスッと立ち上がると、ガタガタ…と外に面した戸が、強い風に揺れ出した。次第に雲行きがあやしくなるのが室内からも窺えた。
「良い感じで、殿に労(ねぎら)っていただいたように思ったのだが…」
殿様の(肖像写真のパネル)の御前から退出した私は、急に荒れ出した天候に、少し困惑を感じていた。
(続く)