2021年02月03日
第15話「江戸動乱」⑨(京の不穏)
こんばんは。
“本編”です。最初に言いますが、今回の話は難しいです。
幕末期に“尊攘の志士”と“新選組”が、斬り合う舞台になる京都。その前日譚(およそ5年前)とお考えください。
なぜ、佐賀藩士たちは“その場”に居なかったか…も、描きたい題材です。
――大老・井伊直弼。実は、条約調印に、朝廷の許可を得たかった。
「紛争時には、日本とヨーロッパの間を大統領が仲裁しましょう!」
幕府にとってアメリカは、まだ話のわかる交渉相手だった。
井伊はヨーロッパ各国がアジアを席巻する中、時間の猶予は無いと判断した。
「“勅許”を待つべきだが、いざとなれば、調印も止む無し。」
「ははっ!“止むを得ぬ”時には、調印をいたします。」
交渉に当たったのは、筋金入りの“開国派”の幕府役人。
…こうして「日米修好通商条約」締結は、井伊の独断と非難された。
――たびたび京に足を運ぶ、副島種臣(枝吉次郎)。
「枝吉はん!井伊は、“天子さま”(天皇)の思し召しを、何と心得るんか。」
尊王攘夷派の公家と関わる、副島種臣には京都での付き合いもある。
学識を磨くための京への留学も、近年は風向きが変わる。いろいろ耳が痛い話が、副島に飛んでくるのだ。
「佐賀はまだ動かんのか!」
「鍋島肥前(直正)は、尊王の働きを為すべきやないのか。」
――江戸幕府の安定期以来、静かだった京の都。
声を上げるのは公家だけではない。各藩の武士も京に集い、気勢を上げた。
水戸藩(茨城)など攘夷派は、条約撤廃を掲げ、朝廷を通じて圧力をかける。
「けしからん!攘夷こそ、天子さまの御心なり!」
「ただちに異国を退けよ!」
福井藩、薩摩藩(鹿児島)は開国派。しかし“次の将軍”には一橋慶喜の就任を狙っている。朝廷の威光を借りるために活動する。
「井伊の専横を許すべきではありません。次の将軍には、ぜひ一橋さまを。」
「英明の誉れ高き、一橋さま。きっと、天子さまの思し召しに適いもす。」

――副島(次郎)は、親しい公家・伊丹重賢と相談をする。
「異国に立ち向かえるんは、佐賀だけや…と聞いとるで。」
公家の伊丹は、副島よりも若年。尊王活動に熱心な公家である。
上方(京・大坂)にも、佐賀藩の存在感は伝わっている。長崎警護で、ロシア船と向き合った実績。幕府の担当者を通じて、評判は広がっていた。
「お望みの佐賀からの警衛でござるな。」
やや、かしこまった感じ。京都での副島だ。
…ここで必要なのは、兵の数よりも、“佐賀藩が朝廷を守る”絵姿だという。
――京都・東山のふもと。初夏の風が盆地に滞っている。
副島の顎ひげを、生温かい京の風が撫でる。
「我らにも、動くべき時節でござろうか。」
静かな会話。大声で叫ぶのは公家の流儀ではない。伊丹もやはり品は良い。
「そうや、佐賀の勤王のはたらき…期待しとるで。」
「…気にされている事が、お有りのようですな。」
「実は、九条卿がな…、帝のご不興をかっておる。」
帝(孝明天皇)は、幕府に好意的な公家を遠ざけていた。朝廷の許しを得られず進んだ、条約の調印に不信感を持ったのだ。
――九条家と言えば、”関白”の家柄。
この時の当主は、幕府と親しい立場にあった。井伊直弼と同じく、次の将軍には紀州藩の徳川慶福(家茂)を推している。
“開国派”と“攘夷派”の駆け引きに続いて、“南紀派”対“一橋派”の次期将軍争いまで加わった。
「京の都には、あちこちに火種が燻(くすぶ)る…という事ですか。」
「佐賀が相手なら、どこも迂闊(うかつ)には動けんやろ。頼みましたで。」
――副島種臣は、急ぎ京を発つ。
山陽道を佐賀へと急ぐ。京の都で、尊王のはたらきを成す好機だ。
「なんとしても、殿のお許しを得ねばならぬ。」
大老・井伊直弼は、決断力に長けていた。海外情勢を見極めて“開国”を判断し、雄藩の介入を許さずに次期将軍選びを進めた。
…この両方で、井伊との対立を深める水戸藩に、朝廷からある命令(密勅)が与えられる。そして、副島らの想像を超える展開へと進んでいくのである。
(続く)
“本編”です。最初に言いますが、今回の話は難しいです。
幕末期に“尊攘の志士”と“新選組”が、斬り合う舞台になる京都。その前日譚(およそ5年前)とお考えください。
なぜ、佐賀藩士たちは“その場”に居なかったか…も、描きたい題材です。
――大老・井伊直弼。実は、条約調印に、朝廷の許可を得たかった。
「紛争時には、日本とヨーロッパの間を大統領が仲裁しましょう!」
幕府にとってアメリカは、まだ話のわかる交渉相手だった。
井伊はヨーロッパ各国がアジアを席巻する中、時間の猶予は無いと判断した。
「“勅許”を待つべきだが、いざとなれば、調印も止む無し。」
「ははっ!“止むを得ぬ”時には、調印をいたします。」
交渉に当たったのは、筋金入りの“開国派”の幕府役人。
…こうして「日米修好通商条約」締結は、井伊の独断と非難された。
――たびたび京に足を運ぶ、副島種臣(枝吉次郎)。
「枝吉はん!井伊は、“天子さま”(天皇)の思し召しを、何と心得るんか。」
尊王攘夷派の公家と関わる、副島種臣には京都での付き合いもある。
学識を磨くための京への留学も、近年は風向きが変わる。いろいろ耳が痛い話が、副島に飛んでくるのだ。
「佐賀はまだ動かんのか!」
「鍋島肥前(直正)は、尊王の働きを為すべきやないのか。」
――江戸幕府の安定期以来、静かだった京の都。
声を上げるのは公家だけではない。各藩の武士も京に集い、気勢を上げた。
水戸藩(茨城)など攘夷派は、条約撤廃を掲げ、朝廷を通じて圧力をかける。
「けしからん!攘夷こそ、天子さまの御心なり!」
「ただちに異国を退けよ!」
福井藩、薩摩藩(鹿児島)は開国派。しかし“次の将軍”には一橋慶喜の就任を狙っている。朝廷の威光を借りるために活動する。
「井伊の専横を許すべきではありません。次の将軍には、ぜひ一橋さまを。」
「英明の誉れ高き、一橋さま。きっと、天子さまの思し召しに適いもす。」
――副島(次郎)は、親しい公家・伊丹重賢と相談をする。
「異国に立ち向かえるんは、佐賀だけや…と聞いとるで。」
公家の伊丹は、副島よりも若年。尊王活動に熱心な公家である。
上方(京・大坂)にも、佐賀藩の存在感は伝わっている。長崎警護で、ロシア船と向き合った実績。幕府の担当者を通じて、評判は広がっていた。
「お望みの佐賀からの警衛でござるな。」
やや、かしこまった感じ。京都での副島だ。
…ここで必要なのは、兵の数よりも、“佐賀藩が朝廷を守る”絵姿だという。
――京都・東山のふもと。初夏の風が盆地に滞っている。
副島の顎ひげを、生温かい京の風が撫でる。
「我らにも、動くべき時節でござろうか。」
静かな会話。大声で叫ぶのは公家の流儀ではない。伊丹もやはり品は良い。
「そうや、佐賀の勤王のはたらき…期待しとるで。」
「…気にされている事が、お有りのようですな。」
「実は、九条卿がな…、帝のご不興をかっておる。」
帝(孝明天皇)は、幕府に好意的な公家を遠ざけていた。朝廷の許しを得られず進んだ、条約の調印に不信感を持ったのだ。
――九条家と言えば、”関白”の家柄。
この時の当主は、幕府と親しい立場にあった。井伊直弼と同じく、次の将軍には紀州藩の徳川慶福(家茂)を推している。
“開国派”と“攘夷派”の駆け引きに続いて、“南紀派”対“一橋派”の次期将軍争いまで加わった。
「京の都には、あちこちに火種が燻(くすぶ)る…という事ですか。」
「佐賀が相手なら、どこも迂闊(うかつ)には動けんやろ。頼みましたで。」
――副島種臣は、急ぎ京を発つ。
山陽道を佐賀へと急ぐ。京の都で、尊王のはたらきを成す好機だ。
「なんとしても、殿のお許しを得ねばならぬ。」
大老・井伊直弼は、決断力に長けていた。海外情勢を見極めて“開国”を判断し、雄藩の介入を許さずに次期将軍選びを進めた。
…この両方で、井伊との対立を深める水戸藩に、朝廷からある命令(密勅)が与えられる。そして、副島らの想像を超える展開へと進んでいくのである。
(続く)
Posted by SR at 21:30 | Comments(0) | 第15話「江戸動乱」
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