2021年01月26日
第15話「江戸動乱」⑦(“あるべき姿”へ)
こんばんは。
歴史の視点で見ると“大政奉還”まで、あと10年を切りました。
1858年(安政5年)の佐賀城下をイメージしたお話です。
――佐賀城下の北、ある禅寺にて。
寺の堂内には“義祭同盟”の面々が集まる。
大木喬任、江藤新平、大隈八太郎(重信)…、中野方蔵もいる。
枝吉神陽が姿を現した。座の空気が一気に引き締まる。
「皆、揃ったようだな。一堂に会するのは、久方ぶりか。」
堂内を見遣る、強い眼差し。静かに語っても、腹の底に響く声。
皆が、神陽の姿を一斉に見つめる。
――神陽の実弟、副島種臣が傍らに控える。
「このたび次郎が、京の都から佐賀に帰ってきた。」
枝吉神陽が、弟・副島種臣(幼名は枝吉次郎)の帰還を一同に告げる。
「おおっ…して、京の様子は如何(いか)に!」
神陽が発した言葉から、波紋が広がるように周囲がざわつく。
「次郎。見聞したところを、皆に語って差し上げようぞ。」
「はい、兄上!」
既に副島種臣は一角の“学者”だが、どうにも神陽の前では“弟”が抜けない。

――副島種臣(次郎)が語る、京の動き。
「将軍のお傍に仕える方々も、京の都に参じており申す。」
この頃の幕府は、つねに朝廷の顔色を気にする状況に陥っていた。
大老・井伊直弼の“前任者”で、条約締結の推進派だった老中・堀田正睦は、朝廷からの“お墨付き”で反対派を抑えようとした。
――これは、幕府にとって“悪手”だった。
これまで幕府は、独断で外交方針を決定できたが、“朝廷の承認が要る”という空気が出来てしまった。
“異国嫌い”…いや異国の情報が無い朝廷が、すんなり許可を出すはずもない。
水戸藩を筆頭とする“攘夷派”は、この状況を利用していた。
「聞いての通り。いまや公儀(幕府)は、朝廷のお許し無くば物事が進められぬ。」
――神陽の言葉に、再びざわつく一同。
「京では、そがんことが!!」
大隈八太郎(重信)は唖然とした。幕府のイメージは“強大な権威”だったのだ。
「…うむ。」
ほぼ黙して話を聞く大木喬任。その隣、今にも言葉を発するか…の江藤新平。
行きがかり上、話の内容を知る中野方蔵は、周囲を何やら楽しげに見回す。

――ざわめきを制するように、神陽は言葉を続ける。
「皆、何ら問題は無いぞ!“あるべき姿”へ戻りゆくのは、好ましい事である。」
「おおっ!」
幾人かが、声を揃えて感嘆した。
「これで、理に適った…」
江藤は得心した様子だ。今までの神陽の主張どおりだからだ。
――枝吉神陽が、提唱していたのは“日本一君論”。
神陽の論によれば、本来、天皇家以外に“主君”はいない。大名家は、武士集団の“まとめ役”に過ぎない…という考え方だ。
「今こそ帝のもとに、諸侯が集うべき時である!」
枝吉神陽が、一同に語ったのは“幕府廃止論”。朝廷には、弟・副島種臣を通じて、将軍宣下(任命)の見直しを働きかける。
徳川家も朝廷のもとに集い、他の大名とともに異国から日本を守るべき。早くも佐賀城下では、のちの「大政奉還」と同質の議論が進んでいた。
(続く)
歴史の視点で見ると“大政奉還”まで、あと10年を切りました。
1858年(安政5年)の佐賀城下をイメージしたお話です。
――佐賀城下の北、ある禅寺にて。
寺の堂内には“義祭同盟”の面々が集まる。
大木喬任、江藤新平、大隈八太郎(重信)…、中野方蔵もいる。
枝吉神陽が姿を現した。座の空気が一気に引き締まる。
「皆、揃ったようだな。一堂に会するのは、久方ぶりか。」
堂内を見遣る、強い眼差し。静かに語っても、腹の底に響く声。
皆が、神陽の姿を一斉に見つめる。
――神陽の実弟、副島種臣が傍らに控える。
「このたび次郎が、京の都から佐賀に帰ってきた。」
枝吉神陽が、弟・副島種臣(幼名は枝吉次郎)の帰還を一同に告げる。
「おおっ…して、京の様子は如何(いか)に!」
神陽が発した言葉から、波紋が広がるように周囲がざわつく。
「次郎。見聞したところを、皆に語って差し上げようぞ。」
「はい、兄上!」
既に副島種臣は一角の“学者”だが、どうにも神陽の前では“弟”が抜けない。
――副島種臣(次郎)が語る、京の動き。
「将軍のお傍に仕える方々も、京の都に参じており申す。」
この頃の幕府は、つねに朝廷の顔色を気にする状況に陥っていた。
大老・井伊直弼の“前任者”で、条約締結の推進派だった老中・堀田正睦は、朝廷からの“お墨付き”で反対派を抑えようとした。
――これは、幕府にとって“悪手”だった。
これまで幕府は、独断で外交方針を決定できたが、“朝廷の承認が要る”という空気が出来てしまった。
“異国嫌い”…いや異国の情報が無い朝廷が、すんなり許可を出すはずもない。
水戸藩を筆頭とする“攘夷派”は、この状況を利用していた。
「聞いての通り。いまや公儀(幕府)は、朝廷のお許し無くば物事が進められぬ。」
――神陽の言葉に、再びざわつく一同。
「京では、そがんことが!!」
大隈八太郎(重信)は唖然とした。幕府のイメージは“強大な権威”だったのだ。
「…うむ。」
ほぼ黙して話を聞く大木喬任。その隣、今にも言葉を発するか…の江藤新平。
行きがかり上、話の内容を知る中野方蔵は、周囲を何やら楽しげに見回す。
――ざわめきを制するように、神陽は言葉を続ける。
「皆、何ら問題は無いぞ!“あるべき姿”へ戻りゆくのは、好ましい事である。」
「おおっ!」
幾人かが、声を揃えて感嘆した。
「これで、理に適った…」
江藤は得心した様子だ。今までの神陽の主張どおりだからだ。
――枝吉神陽が、提唱していたのは“日本一君論”。
神陽の論によれば、本来、天皇家以外に“主君”はいない。大名家は、武士集団の“まとめ役”に過ぎない…という考え方だ。
「今こそ帝のもとに、諸侯が集うべき時である!」
枝吉神陽が、一同に語ったのは“幕府廃止論”。朝廷には、弟・副島種臣を通じて、将軍宣下(任命)の見直しを働きかける。
徳川家も朝廷のもとに集い、他の大名とともに異国から日本を守るべき。早くも佐賀城下では、のちの「大政奉還」と同質の議論が進んでいた。
(続く)
Posted by SR at 20:58 | Comments(0) | 第15話「江戸動乱」
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