2020年06月27日
「発心の剣」
こんにちは。
お読みいただいている皆様、第11話「蝦夷探検」はいかがだったでしょうか。
今年も大雨への心配が尽きないシーズンですね。あらためて自然の大きさを感じるのは、こういう時なのかもしれません。
――さて、本日は息抜きに投稿しております「望郷の剣」シリーズです。
帰るに帰れない郷里・佐賀を想いながら、現代の大都市圏で生きる…ある佐賀藩士(?)の物語。
同シリーズのエピソード・ゼロ(前日譚)にあたる“出会い”を描いてみます。たぶん2~3年前の出来事です。
――「今日の仕事も終わった。いや、終わらせた…」夜の帰路を急ぐ。電車には乗り遅れ、途中からの最終バスも逃した。
日中の強い日差しが、余韻を残している。
アスファルトで固められたような街に、乾いた砂ぼこりが舞う。
大都市圏であれば、人の数は居る。物は集まる。むろん情報やお金の流れもある。
但し、そこで暮らす人生が、“豊か”であるかは、別の問題だ。

――早く帰って眠りたい。私は時間をかけて歩くのをあきらめ、タクシーを選ぶことが増えていた。
広い道である。何台かのタクシーが直進し、通り過ぎていった。
運転手と目の合った1台が、手前まで寄ってくれる。
「こんばんは。」
簡単な挨拶を交わすと、私は目的地を告げた。
「この道を左に曲がってください。」
とりあえず、少しは早く帰れそうだ。私はホッと一息をついた。
――しばしの沈黙のあと、運転手が口を開く。ドライバーによって個性が出る“タクシー車内の雑談”である。
しかし、今日はいつもと勝手が違う。
急に、ぶしつけな質問が飛んできたのだ。
「兄さん、どこの人ね。」
私の疲れた頭はこう考えた。
「タクシーの呼び止め方が…当地の作法と違ったのか?」と。
おそらくは“出身地”に関する問いだ。まず、こう答えよう。
「生まれは、九州です。」
すると想定以上のトーン(声量)で、さらに質問が来る。
「九州のどこね!?」
――ここで「佐賀県です」と答えればよいのだが、私には躊躇があった。
それまでの私の人生で、佐賀出身と伝えたときの経験によるが、
「え、何県だって?」→「佐賀県です!」
「どこにあるんだ?」→「九州にあります!」
…という展開が多い。あまり芳しくない傾向がある。
この運転手さんの質問だと、その展開に陥る心配はない。
「…出身は、佐賀です。」
「そうね!やっぱり、そうね!佐賀のどこね!?」
――タクシーの運転手さんは、佐賀の出身者だった。そして故郷を離れてから、かなりの歳月が流れていると想像できた。
私に“さがんもん”の気配を感じ取り、積極的な質問に至ったようだ。
彼は「望郷の念」を強く持つ者であったらしい。私が佐賀の出身と知るや、嬉々としている。
「特急“かもめ”号のシートは、よかたい!」
…それが、佐賀の自慢になるのかは定かではない。しかし、喜んで語っている気持ちは良く伝わった。
――日中と違い、夜は空いた道である。目的地にはアッという間に辿り着いた。
私は、タクシーの運転手さんに料金を支払い、礼を述べる。
佐賀の話が、楽しかったと申し添えて。
…家まで少し歩く間に、色々なことを考えた。
私は、わずか二言を発しただけで“佐賀出身”と見抜かれている。
――当時の私に、“佐賀”を意識する機会は、ほとんど無かった。
だが、見る人が見れば、一瞬で“さがんもん”と判るという事実が突き付けられたのである。
これが、運転手さんの能力によるものなのか、よほど私が“佐賀”っぽい雰囲気を纏(まと)って生きているのか…これは、今のところ分からない。
ある年配のタクシードライバーの「望郷の想い」。おそらくは、私の現在の行動につながっているのである。
お読みいただいている皆様、第11話「蝦夷探検」はいかがだったでしょうか。
今年も大雨への心配が尽きないシーズンですね。あらためて自然の大きさを感じるのは、こういう時なのかもしれません。
――さて、本日は息抜きに投稿しております「望郷の剣」シリーズです。
帰るに帰れない郷里・佐賀を想いながら、現代の大都市圏で生きる…ある佐賀藩士(?)の物語。
同シリーズのエピソード・ゼロ(前日譚)にあたる“出会い”を描いてみます。たぶん2~3年前の出来事です。
――「今日の仕事も終わった。いや、終わらせた…」夜の帰路を急ぐ。電車には乗り遅れ、途中からの最終バスも逃した。
日中の強い日差しが、余韻を残している。
アスファルトで固められたような街に、乾いた砂ぼこりが舞う。
大都市圏であれば、人の数は居る。物は集まる。むろん情報やお金の流れもある。
但し、そこで暮らす人生が、“豊か”であるかは、別の問題だ。

――早く帰って眠りたい。私は時間をかけて歩くのをあきらめ、タクシーを選ぶことが増えていた。
広い道である。何台かのタクシーが直進し、通り過ぎていった。
運転手と目の合った1台が、手前まで寄ってくれる。
「こんばんは。」
簡単な挨拶を交わすと、私は目的地を告げた。
「この道を左に曲がってください。」
とりあえず、少しは早く帰れそうだ。私はホッと一息をついた。
――しばしの沈黙のあと、運転手が口を開く。ドライバーによって個性が出る“タクシー車内の雑談”である。
しかし、今日はいつもと勝手が違う。
急に、ぶしつけな質問が飛んできたのだ。
「兄さん、どこの人ね。」
私の疲れた頭はこう考えた。
「タクシーの呼び止め方が…当地の作法と違ったのか?」と。
おそらくは“出身地”に関する問いだ。まず、こう答えよう。
「生まれは、九州です。」
すると想定以上のトーン(声量)で、さらに質問が来る。
「九州のどこね!?」
――ここで「佐賀県です」と答えればよいのだが、私には躊躇があった。
それまでの私の人生で、佐賀出身と伝えたときの経験によるが、
「え、何県だって?」→「佐賀県です!」
「どこにあるんだ?」→「九州にあります!」
…という展開が多い。あまり芳しくない傾向がある。
この運転手さんの質問だと、その展開に陥る心配はない。
「…出身は、佐賀です。」
「そうね!やっぱり、そうね!佐賀のどこね!?」
――タクシーの運転手さんは、佐賀の出身者だった。そして故郷を離れてから、かなりの歳月が流れていると想像できた。
私に“さがんもん”の気配を感じ取り、積極的な質問に至ったようだ。
彼は「望郷の念」を強く持つ者であったらしい。私が佐賀の出身と知るや、嬉々としている。
「特急“かもめ”号のシートは、よかたい!」
…それが、佐賀の自慢になるのかは定かではない。しかし、喜んで語っている気持ちは良く伝わった。
――日中と違い、夜は空いた道である。目的地にはアッという間に辿り着いた。
私は、タクシーの運転手さんに料金を支払い、礼を述べる。
佐賀の話が、楽しかったと申し添えて。
…家まで少し歩く間に、色々なことを考えた。
私は、わずか二言を発しただけで“佐賀出身”と見抜かれている。
――当時の私に、“佐賀”を意識する機会は、ほとんど無かった。
だが、見る人が見れば、一瞬で“さがんもん”と判るという事実が突き付けられたのである。
これが、運転手さんの能力によるものなのか、よほど私が“佐賀”っぽい雰囲気を纏(まと)って生きているのか…これは、今のところ分からない。
ある年配のタクシードライバーの「望郷の想い」。おそらくは、私の現在の行動につながっているのである。