2020年06月25日
第11話「蝦夷探検」⑩(“開拓神”の降臨)
こんばんは。
のちに大都市・札幌の基礎を築く島義勇。
佐賀で調べを進めると“団にょん”さんと親しまれ、やや“面白い人”扱いに感じます。
しかし、北海道では同じ人が“判官さま”と敬愛されている様子。そのためか佐賀の島義勇像は等身大ですが、“北海道神宮”の銅像は4メートルと巨大…のようです。
今回で、その偉大さの片鱗が描ければ良いのですが…
――安政4年(1857年)旧暦5月。
松浦武四郎の手引きで、箱館奉行所の“蝦夷調査”に加わった島義勇(団右衛門)。
箱館(函館)から北に向かい、“石狩”地域に足を踏み入れる。
フゥー、フゥー♪
何やら楽し気な歌舞音曲が聞こえる。
寒い“蝦夷地”にも初夏の気配がする。
自然とともに生きる土地の民。“アイヌ”の者たちの祈りの舞いである。
「松浦どの!ワシも踊りたくなっておる♪」
島義勇は愉快な気分で、松浦武四郎に話しかける。
「アイヌの者たちは、自然の全てに感謝を捧げておる。俺は人間はそうあるべきだと思う。」
陽気な“団にょん”に対して、松浦は深いことを語る。
――松浦は幾度もの“蝦夷探検”を経て、アイヌの暮らしに敬意を持っている。
「我々は自然への畏敬の念を捨て、思い上がっているだけではないか…」
「ほうほう…」
丸い目をさらに丸くして、松浦の話に聞き入る“団にょん”。
「島どの。お主は、やはり変わった男だ。」
「何がじゃ。ワシは至って真面目じゃぞ!」
「真っ直ぐな奴め…」
松浦は愉快そうに笑う。

――さらに、石狩周辺の調査は進む。湖のほとり、美しい景色と出会う。
「おおっ、“ピリカ”であるな。」
松浦、清々しい水辺に感銘を受ける。
「ピリカ…!?ピリカとは、なんじゃ?」
島義勇、いろいろな話に反応する。
殿・鍋島直正の「目となり、足となって“蝦夷地”を知る!」がスローガンなのだ。
「ピリカとはな…美しい!とか素晴らしい!という、アイヌの言葉だ。」
「そうか、このような風情を“ピリカ”と呼ぶのだな!」
こうして“団にょん”は、ピリカという言葉を胸に刻み込む。
――箱館奉行所の一行は、小高い丘に差し掛かった。
ガイドとして同行していた、アイヌの村の者が緊迫した表情をする。
「向こうにヒグマがいる…、皆、近くに揃っているか!」
島と松浦が列にいない。
「いかん…、先を行く者は、おそらく気づいておらん。」
奉行所の役人が、先行していた2人に気づく。
――その頃、“団にょん”は丘のてっぺんに差し掛かっていた。
「おおっ、これは美しい!このような時には、あの言葉じゃ!」
陽の光の加減で、広い大地の色が移ろう。

「ピ-リカ~っ!」
思い切り“ピリカ”を叫んだ“団にょん”。
その刹那、丘の袂(たもと)でビクッと震えた、黒い影があった。ヒグマである。
――島義勇、壮大な心持ちで、右手に大鑓(やり)を携え、左手の掌を高く掲げている。むろんクマには気づいていない。
「ここで走って逃げるのは、命取りじゃ…」
うっかりとした動きはできない。遠目に“団にょん”の様子を見守る奉行所の一同。
アイヌの者は、短刀を構えている。
「クマが動けば…隙を見て、死角から突く!」
厳しい環境である“蝦夷地”での暮らし。
自然への畏敬は、自然との苦闘の中で育まれているのだ。
――そして、移ろう陽の光が、島義勇の背を照らし始めた。
クマにとっては逆光になる。
浮かびあがるシルエット(影)は、長く伸びる。
「…島どのが大きく見えませぬか!?」
奉行所の役人が、不思議なことを言う。
クマの反応も不自然だ。
島を見上げるや、ビクン!としたかと思うと、ゆっくりと背を向けた。
そして、帰るべき場所へと引き返していったのである。
「“団にょん”…何やら神々しいな…」
途中からクマの存在に気づき、事の一部始終を見守っていた、松浦がつぶやく。
「おぉ、松浦どの!何が、あったとね!?」
しかし、丘から戻ってきたのは、いつもの“団にょん”だった。

――島義勇は、石狩を調査中に病を得た。“千歳(ちとせ)”のベースキャンプ(拠点)にて一時療養する。
すでに佐賀を発ってから9か月が過ぎようとしていた。
極寒の東北を経て、蝦夷地に至り、探検を開始するスケジュールでは、さすがに体に負担も来る。
全身の痛みに、痒み…夜も熟睡できない。
――ふと、眼前に浮かぶ景色があった。
碁盤の目のような通りに、整然と石造りの建屋が並ぶ巨大な街である。
祭礼の日であろうか、集う人々の様子は佐賀と大差は感じられない。但し、西洋風の衣服を纏っている。皆、道なりに飾られた、大きな雪像を眺めて、楽し気である。
「何と豊かなことじゃ!」
「これこそ…五州(世界)第一の都ではないか!」
夢うつつに“団にょん”は大声を張り上げた。
――そこに今回の小調査を完了した、箱館奉行所の面々が戻ってくる。
「おおっ!島どの。加減は良いのか。」
奉行所の役人が、島を気遣って声をかけた。
「“団にょん”!こう言うのを、鬼の霍乱(おにのかくらん)とでも言うのかのぅ。」
松浦武四郎が、ちょっとした皮肉を言う。
「…まぁ、そがん言われたら、面目なかばい!」
島義勇、苦笑する。
「良き場所であったぞ、土地の者は“サッ・ポロ”とか呼んでおった。」
箱館奉行所の調査では、開拓に向いた土地であるらしい。
「サッ・ポロ…」
島は、夢うつつの中で見た街の姿を思い浮かべていた。
(第12話「海軍伝習」に続く)
のちに大都市・札幌の基礎を築く島義勇。
佐賀で調べを進めると“団にょん”さんと親しまれ、やや“面白い人”扱いに感じます。
しかし、北海道では同じ人が“判官さま”と敬愛されている様子。そのためか佐賀の島義勇像は等身大ですが、“北海道神宮”の銅像は4メートルと巨大…のようです。
今回で、その偉大さの片鱗が描ければ良いのですが…
――安政4年(1857年)旧暦5月。
松浦武四郎の手引きで、箱館奉行所の“蝦夷調査”に加わった島義勇(団右衛門)。
箱館(函館)から北に向かい、“石狩”地域に足を踏み入れる。
フゥー、フゥー♪
何やら楽し気な歌舞音曲が聞こえる。
寒い“蝦夷地”にも初夏の気配がする。
自然とともに生きる土地の民。“アイヌ”の者たちの祈りの舞いである。
「松浦どの!ワシも踊りたくなっておる♪」
島義勇は愉快な気分で、松浦武四郎に話しかける。
「アイヌの者たちは、自然の全てに感謝を捧げておる。俺は人間はそうあるべきだと思う。」
陽気な“団にょん”に対して、松浦は深いことを語る。
――松浦は幾度もの“蝦夷探検”を経て、アイヌの暮らしに敬意を持っている。
「我々は自然への畏敬の念を捨て、思い上がっているだけではないか…」
「ほうほう…」
丸い目をさらに丸くして、松浦の話に聞き入る“団にょん”。
「島どの。お主は、やはり変わった男だ。」
「何がじゃ。ワシは至って真面目じゃぞ!」
「真っ直ぐな奴め…」
松浦は愉快そうに笑う。
――さらに、石狩周辺の調査は進む。湖のほとり、美しい景色と出会う。
「おおっ、“ピリカ”であるな。」
松浦、清々しい水辺に感銘を受ける。
「ピリカ…!?ピリカとは、なんじゃ?」
島義勇、いろいろな話に反応する。
殿・鍋島直正の「目となり、足となって“蝦夷地”を知る!」がスローガンなのだ。
「ピリカとはな…美しい!とか素晴らしい!という、アイヌの言葉だ。」
「そうか、このような風情を“ピリカ”と呼ぶのだな!」
こうして“団にょん”は、ピリカという言葉を胸に刻み込む。
――箱館奉行所の一行は、小高い丘に差し掛かった。
ガイドとして同行していた、アイヌの村の者が緊迫した表情をする。
「向こうにヒグマがいる…、皆、近くに揃っているか!」
島と松浦が列にいない。
「いかん…、先を行く者は、おそらく気づいておらん。」
奉行所の役人が、先行していた2人に気づく。
――その頃、“団にょん”は丘のてっぺんに差し掛かっていた。
「おおっ、これは美しい!このような時には、あの言葉じゃ!」
陽の光の加減で、広い大地の色が移ろう。
「ピ-リカ~っ!」
思い切り“ピリカ”を叫んだ“団にょん”。
その刹那、丘の袂(たもと)でビクッと震えた、黒い影があった。ヒグマである。
――島義勇、壮大な心持ちで、右手に大鑓(やり)を携え、左手の掌を高く掲げている。むろんクマには気づいていない。
「ここで走って逃げるのは、命取りじゃ…」
うっかりとした動きはできない。遠目に“団にょん”の様子を見守る奉行所の一同。
アイヌの者は、短刀を構えている。
「クマが動けば…隙を見て、死角から突く!」
厳しい環境である“蝦夷地”での暮らし。
自然への畏敬は、自然との苦闘の中で育まれているのだ。
――そして、移ろう陽の光が、島義勇の背を照らし始めた。
クマにとっては逆光になる。
浮かびあがるシルエット(影)は、長く伸びる。
「…島どのが大きく見えませぬか!?」
奉行所の役人が、不思議なことを言う。
クマの反応も不自然だ。
島を見上げるや、ビクン!としたかと思うと、ゆっくりと背を向けた。
そして、帰るべき場所へと引き返していったのである。
「“団にょん”…何やら神々しいな…」
途中からクマの存在に気づき、事の一部始終を見守っていた、松浦がつぶやく。
「おぉ、松浦どの!何が、あったとね!?」
しかし、丘から戻ってきたのは、いつもの“団にょん”だった。

――島義勇は、石狩を調査中に病を得た。“千歳(ちとせ)”のベースキャンプ(拠点)にて一時療養する。
すでに佐賀を発ってから9か月が過ぎようとしていた。
極寒の東北を経て、蝦夷地に至り、探検を開始するスケジュールでは、さすがに体に負担も来る。
全身の痛みに、痒み…夜も熟睡できない。
――ふと、眼前に浮かぶ景色があった。
碁盤の目のような通りに、整然と石造りの建屋が並ぶ巨大な街である。
祭礼の日であろうか、集う人々の様子は佐賀と大差は感じられない。但し、西洋風の衣服を纏っている。皆、道なりに飾られた、大きな雪像を眺めて、楽し気である。
「何と豊かなことじゃ!」
「これこそ…五州(世界)第一の都ではないか!」
夢うつつに“団にょん”は大声を張り上げた。
――そこに今回の小調査を完了した、箱館奉行所の面々が戻ってくる。
「おおっ!島どの。加減は良いのか。」
奉行所の役人が、島を気遣って声をかけた。
「“団にょん”!こう言うのを、鬼の霍乱(おにのかくらん)とでも言うのかのぅ。」
松浦武四郎が、ちょっとした皮肉を言う。
「…まぁ、そがん言われたら、面目なかばい!」
島義勇、苦笑する。
「良き場所であったぞ、土地の者は“サッ・ポロ”とか呼んでおった。」
箱館奉行所の調査では、開拓に向いた土地であるらしい。
「サッ・ポロ…」
島は、夢うつつの中で見た街の姿を思い浮かべていた。
(第12話「海軍伝習」に続く)