2021年11月22日

第17話「佐賀脱藩」⑤(若き“将軍”への視線)

こんばんは。
突然、佐賀城下から江戸城内へと場面が転換した前回。

その“展開”を支える方が、唐津藩から来た小笠原長行藩主名代となってから3年ほどは、地元・唐津で藩政の改革を試みました。

この頃は30代後半です。1861年(万延二年・文久元年)4月から、参勤交代江戸に来たと言います。

現在では、唐津藩も佐賀県内にあります。県内全域にわたる“佐賀の物語”を描くことを目指して、その視点も取り入れます。
〔参照(終盤):「主に唐津市民の方を対象にしたつぶやき」


――「小笠原どのか。励んでおるようじゃな。」

老中安藤信正より声がかかる。江戸に来るや、幕府の中枢へ引き寄せられる唐津藩小笠原長行(ながみち)。

小笠原長崎出身の砲術家高島秋帆にも学び、“海防”について幕府に意見を送れば、水戸の烈公・徳川斉昭をも唸(うな)らせたという見識の持ち主。

そのうえ、幕府の信頼厚い名家が配置される、唐津藩。それに外国の技術にも通じる開明派人材となれば、期待されるのが当然だった。

第17話「佐賀脱藩」⑤(若き“将軍”への視線)

――「ははっ、ありがたきお言葉。」

少し痩せた体躯だが、頭脳明晰な印象が漂う唐津の藩主名代・小笠原長行

「本日は、上様がお成りだ。心されよ。」
激務の最中にも、いろいろと気を配る老中安藤信正が、江戸に来たばかりの小笠原に一声をかける。

最近では“尊王攘夷”の志士が、むやみに外国人襲撃するので、国政を主導する安藤の悩みは深い。

前年(旧暦で万延元年)の年の瀬にも、薩摩藩士がアメリカの通訳ヒュースケンを襲撃し、外交問題となった。


――ロシア船による“対馬事件”も、ようやく決着したところ。

現状は外国への対処で手一杯だ。まず国内混乱要因である“尊攘志士”は抑えねばならない。

幕府にとって、朝廷の権威を借りる「公武合体策」は、暴れる志士たちを鎮めるための、わかりやすい“近道”だった。

「心得ました。上様ご尊顔を拝せるとは、恐悦にござります。」
小笠原長行は、気を引き締めた。国元・唐津の藩政が中途になったのが心残りだが、小笠原は幕府の重職に就く予定だ。

どれほど困難な状況が待ち受けるかは、老中安藤の表情にうかがえる。そこには強い苦悩が見えた。


――ほどなく、江戸城内の書院にて。

上様お成りである!」そう告げる声が届く。

第14代将軍徳川家茂が、その姿を見せた。まだ10代後半の若者。幕府の中で、信頼できそうな少数の者と話がしたい…という用向きだ。

井伊直弼をはじめとする“南紀派”が将軍候補として擁立したとき、幼年ながら紀州藩主(和歌山)で、徳川慶福と名乗った。いまは徳川家茂に改名している。

第17話「佐賀脱藩」⑤(若き“将軍”への視線)

この少年将軍と決まるまでには、一橋慶喜を候補に推す水戸薩摩福井などの“一橋派”との激しい対立があった。

幕府の官僚たちを率いた井伊大老の豪腕をもって決着が付いたのだが、双方に悲劇が生じている。


――こうして第14代将軍に就いた、徳川家茂。

小笠原か。唐津から、よくぞ参った。そなたの智恵を頼りとするぞ。」

その声には、立場の重さを自覚し「将軍ふさわしくありたい」という意気込みが感じられる。この爽やかで、凜々しい少年が“上様”だ。

そんな若き将軍の姿を見るや、小笠原長行は嬉しくなった。
「ははっ!勿体(もったいなき、お言葉。この身に余れど、励みといたします!」


――甘い物が好きで、小動物を愛する…

心優しい子供だったという徳川家茂。幼児期から紀州藩主だったが、実のところ、ずっと江戸紀州藩邸に居た“都会っ子”である。

責任感の強い少年は、立派な将軍として振る舞おうと務めた。その想いが伝わるのか、「この上様をお守りしたい!」と、頑張る幕臣たちがいた。

唐津から来た小笠原長行も、その一人となっていく。


(続く)

〔関連記事(徳川家茂):「将軍継嗣問題をどう描くか?(後編)」
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Posted by SR at 21:56 | Comments(0) | 第17話「佐賀脱藩」
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