2021年11月19日
第17話「佐賀脱藩」④(上方からの“花嫁”)
こんばんは。
佐賀城下の一角。月が冴える宵闇に、ある社(やしろ)に集まる若手藩士たち。
「一体、何の企てが…」と言いたいところですが、この時点では「都会に出た友達の手紙に盛り上がっているだけ」という状況です。
少し場面解説ですが、この手紙により、舞台は佐賀から江戸(東京)へと展開。登場人物も、佐賀藩から唐津藩(こちらも、現・佐賀県)へと一時的に移ります。
――江戸にいる、中野方蔵から来た手紙。
代読を続ける江藤新平の声が、月夜の杜(もり)に響く。
「公儀(幕府)には畏れ多くも、皇女さまを江戸にお連れ奉る動きあり…」
老中・安藤信正が計画する、孝明天皇の妹・和宮の江戸への降嫁。まだ若い、第14代将軍・徳川家茂の正室に“皇女”を迎え、朝廷の権威を取り入れる。
そして“公武合体”の名のもとに、幕府が朝廷と一体に動くことができれば、尊王攘夷派から、幕政が非難されにくくなる効果が期待できる。
――中野も、江戸で他藩の志士たちと一緒に憤る。
「これは、ご老中の謀(はかりごと)。姑息(こそく)な振舞いと存じます。」
傍らで、江藤の代読を聞いている仲間たちからも声が上がる。
「おおっ、そうたいっ!けしからんばい!」
「大橋先生、曰(いわ)く!」
少しの間、ざわざわとしたが、再び江藤が手紙を読み始めると、皆がその声に集中する。“大橋”とは、著名な江戸の学者だという。

――その儒学者・大橋訥庵は、この件に怒り心頭。
中野も、大橋が主宰する江戸市中の塾に出入りがあった。そこには「老中の陰謀を打ち砕け」とばかりに、過激な事を口走る“志士”も集まる様子だ。
「そうたい!」
佐賀の志士たちもいちいち合いの手を入れたくなる、熱い“勤王“の話が続く。
「長州の久坂くんなどは、こう語る!」
江藤の代読に、中野が交流している長州藩士の名が登場した。
――長州(山口)の俊才・久坂玄瑞。
吉田松陰の妹・文(ふみ)の夫で、松陰の主宰する塾で最も優秀とされた1人。
1859(安政六)年。“安政の大獄”で捕らえられた、久坂の師匠・吉田松陰は、役人の調べに対して「老中の暗殺を計画していた」と、あえて申し出たらしい。
この自白をしたことで、師は“刑場の露”と消えたが、その教えは数年のうちに、弟子・久坂の手腕により“伝説”を帯びたものとなっていく。
――中野の手紙には、才能ある志士たちが次々と現れる。
「すごか者(もん)が居るな。やはり江戸に、出らんばならんか。」
江藤らの友人・古賀一平が腕組みをしながら、発言をする。
「いや、さすがは中野…と言うべきでは無かね?」
集った仲間の一人・坂井辰之允は、江戸で他藩との人脈を築いていく中野方蔵の行動力に感心している。

――同じ時期に、幕府の中枢・江戸城内では
老中・安藤信正は、志士たちが憤慨する“皇女・和宮の降嫁”の支度に忙しい。前代未聞の大行列が、京から江戸への道を練り歩き、新しい時代を示すのだ。
「皇女さまを江戸にお迎えすること。いまや公儀(幕府)の命運がかかっておる。」
和宮の京からの降嫁には、巨額の費用を計上する。幕府と朝廷が一体と示すための“一大行事”は着々と進んでいた。
――幕政の建て直しに励む、老中・安藤信正。
大老・井伊直弼の亡き後、政権の運営は不安定であり、外国人への襲撃など物騒な事件が相次ぐ。豪腕と呼ばれた井伊大老とは違う、調整型の安藤老中。
苦闘する老中・安藤。これから幕閣の1人となる者がその背中を見つめていた。
唐津藩の若殿(藩主名代)で、名を小笠原長行という。参勤交代により、江戸に来たばかり。小笠原もまた、幕府で期待される“開明派”だった。
(続く)
佐賀城下の一角。月が冴える宵闇に、ある社(やしろ)に集まる若手藩士たち。
「一体、何の企てが…」と言いたいところですが、この時点では「都会に出た友達の手紙に盛り上がっているだけ」という状況です。
少し場面解説ですが、この手紙により、舞台は佐賀から江戸(東京)へと展開。登場人物も、佐賀藩から唐津藩(こちらも、現・佐賀県)へと一時的に移ります。
――江戸にいる、中野方蔵から来た手紙。
代読を続ける江藤新平の声が、月夜の杜(もり)に響く。
「公儀(幕府)には畏れ多くも、皇女さまを江戸にお連れ奉る動きあり…」
老中・安藤信正が計画する、孝明天皇の妹・和宮の江戸への降嫁。まだ若い、第14代将軍・徳川家茂の正室に“皇女”を迎え、朝廷の権威を取り入れる。
そして“公武合体”の名のもとに、幕府が朝廷と一体に動くことができれば、尊王攘夷派から、幕政が非難されにくくなる効果が期待できる。
――中野も、江戸で他藩の志士たちと一緒に憤る。
「これは、ご老中の謀(はかりごと)。姑息(こそく)な振舞いと存じます。」
傍らで、江藤の代読を聞いている仲間たちからも声が上がる。
「おおっ、そうたいっ!けしからんばい!」
「大橋先生、曰(いわ)く!」
少しの間、ざわざわとしたが、再び江藤が手紙を読み始めると、皆がその声に集中する。“大橋”とは、著名な江戸の学者だという。
――その儒学者・大橋訥庵は、この件に怒り心頭。
中野も、大橋が主宰する江戸市中の塾に出入りがあった。そこには「老中の陰謀を打ち砕け」とばかりに、過激な事を口走る“志士”も集まる様子だ。
「そうたい!」
佐賀の志士たちもいちいち合いの手を入れたくなる、熱い“勤王“の話が続く。
「長州の久坂くんなどは、こう語る!」
江藤の代読に、中野が交流している長州藩士の名が登場した。
――長州(山口)の俊才・久坂玄瑞。
吉田松陰の妹・文(ふみ)の夫で、松陰の主宰する塾で最も優秀とされた1人。
1859(安政六)年。“安政の大獄”で捕らえられた、久坂の師匠・吉田松陰は、役人の調べに対して「老中の暗殺を計画していた」と、あえて申し出たらしい。
この自白をしたことで、師は“刑場の露”と消えたが、その教えは数年のうちに、弟子・久坂の手腕により“伝説”を帯びたものとなっていく。
――中野の手紙には、才能ある志士たちが次々と現れる。
「すごか者(もん)が居るな。やはり江戸に、出らんばならんか。」
江藤らの友人・古賀一平が腕組みをしながら、発言をする。
「いや、さすがは中野…と言うべきでは無かね?」
集った仲間の一人・坂井辰之允は、江戸で他藩との人脈を築いていく中野方蔵の行動力に感心している。

――同じ時期に、幕府の中枢・江戸城内では
老中・安藤信正は、志士たちが憤慨する“皇女・和宮の降嫁”の支度に忙しい。前代未聞の大行列が、京から江戸への道を練り歩き、新しい時代を示すのだ。
「皇女さまを江戸にお迎えすること。いまや公儀(幕府)の命運がかかっておる。」
和宮の京からの降嫁には、巨額の費用を計上する。幕府と朝廷が一体と示すための“一大行事”は着々と進んでいた。
――幕政の建て直しに励む、老中・安藤信正。
大老・井伊直弼の亡き後、政権の運営は不安定であり、外国人への襲撃など物騒な事件が相次ぐ。豪腕と呼ばれた井伊大老とは違う、調整型の安藤老中。
苦闘する老中・安藤。これから幕閣の1人となる者がその背中を見つめていた。
唐津藩の若殿(藩主名代)で、名を小笠原長行という。参勤交代により、江戸に来たばかり。小笠原もまた、幕府で期待される“開明派”だった。
(続く)
Posted by SR at 21:49 | Comments(0) | 第17話「佐賀脱藩」
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