2020年03月11日
第6話「鉄製大砲」②
こんばんは。
ブログの更新にあたり、毎日のように通勤電車で構想を練っています。今回は佐賀が誇る“天才数学者”が登場しますが…
――鍋島直正から、大砲の鋳造計画を急ぐよう指示があった。
“アヘン戦争”は1842年に終結している。
結果は、近代兵器を備えたイギリスが清国に圧勝した。
清国は、まず香港(ホンコン)をイギリスに取られる。
また主要な港湾をコントロールされ、多額の賠償金も要求された。
あの、東洋の大国・清が、西洋にあっさりと打ち負かされている恐怖。その矛先が日本に向くのは、時間の問題と思われた。
――しかも先年(1844年)にはオランダ国王から開国も勧告されている。さすがに幕府は、危機感を持った。
日本の表玄関・長崎を守る佐賀藩と福岡藩に意見を求める。
佐賀藩主・鍋島直正が声を上げる。
「長崎の湾口で異国船を打ち損じれば、もはや為すすべがない!」
オランダ軍船にも乗ったことのある直正、西洋との差が見えている。
「もっと、沖合で阻止できる台場を築くことが肝要でござる!」
――しかし、交代で長崎を守る“福岡藩”の反応を平たく言うと…
「砲台の予定地の伊王島と神ノ島、佐賀藩の領地ですよね。関わりたくないです。」という態度だった。
幕府も「鍋島の言い分もわかるが、離島への砲台建設は…金がかかる。」と急に消極的になった。
どうやら援護は期待できない様子だ。
直正は「この際、佐賀の力だけで、強い砲台を作り上げて見せる!」と決意した。こうして、本島藤太夫は“プロジェクトチーム”の組成を命じられた。
――佐賀藩“火術方”の演習拠点・岩田(神埼)。
砲術の担当者大隈信保が、本島を見かける。
「本島さま!凄い方を連れて来られましたな!」
信保も八太郎の父だけに、人懐っこいところがある。
“あっち、あっち”とばかりに小屋の方を指し示す。
「はて!?」
本島が小屋を覗き込む。
――すると、凄い勢いで何やら筆記している男がいる。
サッサッサッ…ザッザッ
現代ならば、ペンやチョークの音が似つかわしいかもしれない。筆で書き連ねているので、この効果音。ひたすら数式を書き連ねているのだ。
何やら「構造計算」のようなことをしているらしい。
ちなみに、当時は“和算”である。
――技術への応用で、西洋数学に遅れを取ったが、日本の数学“和算”もハイレベルなものだったという。
「馬場どの!」
本島の声かけに、算術家・“馬場栄作”はまったく反応しない。ひたすら数式を書いている。
大隈信保は、本島にこう言った。
「馬場さまは凄い。あの寝食を忘れている感じが、本物です。」
妙なところに感心する、大隈信保。彼もまた“理系人材”ということだろう。
――仕事にひと区切りが付いて、大隈家に帰る信保。

「今、戻った。ところで、八太郎はどうした。」
大隈三井子は、夕飯の支度中である。
「二階で勉強をしておるはず。様子を見てきてもらえますか。」
――ギシギシ…
階段を上がる、信保。
見ると八太郎が、前後に首を揺らしている。
眠くなって「船を漕いでいる」状態である。
――ゴツン!
「痛っ!」
目を覚ます、八太郎。
八太郎の勉強机には、母・三井子特製の“眠気覚まし”装置が付いていた。わが子の姿勢と居眠りの特性を把握し、必ず頭を打つポジションに出っ張りを仕掛けてある。
「はっはっは!」
八太郎の後で爆笑する、大隈信保。
「あ…父上。」
「八太郎!勉強は面白くないか?」
「父上、八太郎は“葉隠”が好きではありません。」
――藩校に通い出して、少し言葉遣いが“お兄さん”になった八太郎。
佐賀武士の教典“葉隠”。
八太郎は「我慢ばかりの窮屈な教え」と見ているようだ。
「そうか。でも将来のお役目(仕事)に我慢は付き物だぞ。」
「はい…」
信保は、八太郎の目を見て続ける。
「しかし、お前に合った学問もきっとあるだろう。」
「寝食を忘れ、励みたくなる学問に出会えると良いな!」
八太郎の肩をポンポンと叩く信保。
「はい!父上!」
…算術家・馬場栄作、一言も語らずとも大隈父子には、何かを伝えたようである。
(続く)
ブログの更新にあたり、毎日のように通勤電車で構想を練っています。今回は佐賀が誇る“天才数学者”が登場しますが…
――鍋島直正から、大砲の鋳造計画を急ぐよう指示があった。
“アヘン戦争”は1842年に終結している。
結果は、近代兵器を備えたイギリスが清国に圧勝した。
清国は、まず香港(ホンコン)をイギリスに取られる。
また主要な港湾をコントロールされ、多額の賠償金も要求された。
あの、東洋の大国・清が、西洋にあっさりと打ち負かされている恐怖。その矛先が日本に向くのは、時間の問題と思われた。
――しかも先年(1844年)にはオランダ国王から開国も勧告されている。さすがに幕府は、危機感を持った。
日本の表玄関・長崎を守る佐賀藩と福岡藩に意見を求める。
佐賀藩主・鍋島直正が声を上げる。
「長崎の湾口で異国船を打ち損じれば、もはや為すすべがない!」
オランダ軍船にも乗ったことのある直正、西洋との差が見えている。
「もっと、沖合で阻止できる台場を築くことが肝要でござる!」
――しかし、交代で長崎を守る“福岡藩”の反応を平たく言うと…
「砲台の予定地の伊王島と神ノ島、佐賀藩の領地ですよね。関わりたくないです。」という態度だった。
幕府も「鍋島の言い分もわかるが、離島への砲台建設は…金がかかる。」と急に消極的になった。
どうやら援護は期待できない様子だ。
直正は「この際、佐賀の力だけで、強い砲台を作り上げて見せる!」と決意した。こうして、本島藤太夫は“プロジェクトチーム”の組成を命じられた。
――佐賀藩“火術方”の演習拠点・岩田(神埼)。
砲術の担当者大隈信保が、本島を見かける。
「本島さま!凄い方を連れて来られましたな!」
信保も八太郎の父だけに、人懐っこいところがある。
“あっち、あっち”とばかりに小屋の方を指し示す。
「はて!?」
本島が小屋を覗き込む。
――すると、凄い勢いで何やら筆記している男がいる。
サッサッサッ…ザッザッ
現代ならば、ペンやチョークの音が似つかわしいかもしれない。筆で書き連ねているので、この効果音。ひたすら数式を書き連ねているのだ。
何やら「構造計算」のようなことをしているらしい。
ちなみに、当時は“和算”である。
――技術への応用で、西洋数学に遅れを取ったが、日本の数学“和算”もハイレベルなものだったという。
「馬場どの!」
本島の声かけに、算術家・“馬場栄作”はまったく反応しない。ひたすら数式を書いている。
大隈信保は、本島にこう言った。
「馬場さまは凄い。あの寝食を忘れている感じが、本物です。」
妙なところに感心する、大隈信保。彼もまた“理系人材”ということだろう。
――仕事にひと区切りが付いて、大隈家に帰る信保。

「今、戻った。ところで、八太郎はどうした。」
大隈三井子は、夕飯の支度中である。
「二階で勉強をしておるはず。様子を見てきてもらえますか。」
――ギシギシ…
階段を上がる、信保。
見ると八太郎が、前後に首を揺らしている。
眠くなって「船を漕いでいる」状態である。
――ゴツン!
「痛っ!」
目を覚ます、八太郎。
八太郎の勉強机には、母・三井子特製の“眠気覚まし”装置が付いていた。わが子の姿勢と居眠りの特性を把握し、必ず頭を打つポジションに出っ張りを仕掛けてある。
「はっはっは!」
八太郎の後で爆笑する、大隈信保。
「あ…父上。」
「八太郎!勉強は面白くないか?」
「父上、八太郎は“葉隠”が好きではありません。」
――藩校に通い出して、少し言葉遣いが“お兄さん”になった八太郎。
佐賀武士の教典“葉隠”。
八太郎は「我慢ばかりの窮屈な教え」と見ているようだ。
「そうか。でも将来のお役目(仕事)に我慢は付き物だぞ。」
「はい…」
信保は、八太郎の目を見て続ける。
「しかし、お前に合った学問もきっとあるだろう。」
「寝食を忘れ、励みたくなる学問に出会えると良いな!」
八太郎の肩をポンポンと叩く信保。
「はい!父上!」
…算術家・馬場栄作、一言も語らずとも大隈父子には、何かを伝えたようである。
(続く)
Posted by SR at 22:17 | Comments(0) | 第6話「鉄製大砲」
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。