2020年02月21日
第4話「諸国遊学」⑤
こんばんは。
今回の投稿から、“佐賀の七賢人”(その2)佐野常民が本編に登場します。
――鍋島直正は、月に一度ほど藩校「弘道館」を見て回っていた。
「お主は佐野であるな。励んでおるか。」
直正の目に留まったのは、佐野常民である。
佐野常民は幼少期からの秀才で、藩医を務める佐野家に養子に入った。
但し、この頃は“栄寿”という名である。
「お主には才があるゆえ、蘭学の修業にでも出るか。」
「ありがたきお言葉!」
…佐賀藩では勉強ができると、殿に突然、話しかけられる。
そして、全国に留学ができる特典もあった。
――直正が、佐野を招き寄せる。
「佐野よ、もう少し近こう寄れ。」
「恐れ多いことでございます!」
“せっかち”なところがある直正。佐野を急かす。
「なんの差し障りもないぞ!まぁ、良いから寄れ!」
「はっ!」
直正が何やら佐野に耳打ちをする。
「詳しくは“本島”より伝える。必ず屋敷を訪ねるのだぞ。」
「ははっ。」
――佐野は、直正の側近“本島藤太夫”に教えられた屋敷を訪ねた。
「御免ください。佐野と申します。」
屋敷から出てきたのは、なぜか道を教えた“本島”だった。
「佐野どの。ささっ、中にお入りなさい。」

――チュン、チュン。小雀が鳴く、穏やかな午後。
「お初にお目にかかります。佐野でござる。」
「佐野どのか、よく参られた。」
挨拶をする佐野。
人の良さそうな老人が座っている。
老人は、第1話の長崎御番の若侍である。
長崎の砲台を“本島藤太夫”に任せ、ようやく隠居できた。
「なにゆえ呼ばれたのか、測りかねている様子だな。」
「…はい、正直なところ。おっしゃられる通りです。」
「実はな、お主と話をするのは儂ではない。」
殿が会いに行くよう勧めたのは、この老人のはず…佐野は困惑した。
――襖の向こうに人の気配がある。
「もう、出て来ても良いか!」
「よろしゅうございますよ、“ご隠居”さま」
奥から出てきたのは、武雄領のご隠居・鍋島茂義である。
「お主が佐野であるか。良き面構えじゃ。」
「…ははっ!」
何やら偉い人である気配を感じ、佐野は反射的に座礼をした。
凄く気迫を感じる。歳も四十過ぎぐらいで若く見える。
佐野は「一体、どこが“ご隠居”なのか」と思った。
「驚かせてすまぬな。殿よりお主の評判を聞き及んでな。」
しかも、殿とつながりがある様子である。
幕末期に“二重鎖国”とまで言われた佐賀藩で、秘密研究プロジェクトが既に動き出していた。
そのメンバーのスカウト役として注目されたのが、佐野常民だったのである。
佐賀から江戸・京都・大坂など各地に留学(蘭学修業)に出た、佐野の行動には色々と謎が多い。
(続く)
今回の投稿から、“佐賀の七賢人”(その2)佐野常民が本編に登場します。
――鍋島直正は、月に一度ほど藩校「弘道館」を見て回っていた。
「お主は佐野であるな。励んでおるか。」
直正の目に留まったのは、佐野常民である。
佐野常民は幼少期からの秀才で、藩医を務める佐野家に養子に入った。
但し、この頃は“栄寿”という名である。
「お主には才があるゆえ、蘭学の修業にでも出るか。」
「ありがたきお言葉!」
…佐賀藩では勉強ができると、殿に突然、話しかけられる。
そして、全国に留学ができる特典もあった。
――直正が、佐野を招き寄せる。
「佐野よ、もう少し近こう寄れ。」
「恐れ多いことでございます!」
“せっかち”なところがある直正。佐野を急かす。
「なんの差し障りもないぞ!まぁ、良いから寄れ!」
「はっ!」
直正が何やら佐野に耳打ちをする。
「詳しくは“本島”より伝える。必ず屋敷を訪ねるのだぞ。」
「ははっ。」
――佐野は、直正の側近“本島藤太夫”に教えられた屋敷を訪ねた。
「御免ください。佐野と申します。」
屋敷から出てきたのは、なぜか道を教えた“本島”だった。
「佐野どの。ささっ、中にお入りなさい。」

――チュン、チュン。小雀が鳴く、穏やかな午後。
「お初にお目にかかります。佐野でござる。」
「佐野どのか、よく参られた。」
挨拶をする佐野。
人の良さそうな老人が座っている。
老人は、第1話の長崎御番の若侍である。
長崎の砲台を“本島藤太夫”に任せ、ようやく隠居できた。
「なにゆえ呼ばれたのか、測りかねている様子だな。」
「…はい、正直なところ。おっしゃられる通りです。」
「実はな、お主と話をするのは儂ではない。」
殿が会いに行くよう勧めたのは、この老人のはず…佐野は困惑した。
――襖の向こうに人の気配がある。
「もう、出て来ても良いか!」
「よろしゅうございますよ、“ご隠居”さま」
奥から出てきたのは、武雄領のご隠居・鍋島茂義である。
「お主が佐野であるか。良き面構えじゃ。」
「…ははっ!」
何やら偉い人である気配を感じ、佐野は反射的に座礼をした。
凄く気迫を感じる。歳も四十過ぎぐらいで若く見える。
佐野は「一体、どこが“ご隠居”なのか」と思った。
「驚かせてすまぬな。殿よりお主の評判を聞き及んでな。」
しかも、殿とつながりがある様子である。
幕末期に“二重鎖国”とまで言われた佐賀藩で、秘密研究プロジェクトが既に動き出していた。
そのメンバーのスカウト役として注目されたのが、佐野常民だったのである。
佐賀から江戸・京都・大坂など各地に留学(蘭学修業)に出た、佐野の行動には色々と謎が多い。
(続く)
Posted by SR at 22:54 | Comments(0) | 第4話「諸国遊学」
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。