2023年03月27日
第19話「閑叟上洛」④(誇りある、その仕事)
こんばんは。
3月下旬、桜も見頃の季節は、退職・転勤…といった別れの時期でもあります。仕事も、また最初から“移ろうもの”と考えねばならない…のかもしれません。
大きく言えば、仕事の方法が時代の流れに合わなくなる場合もあるでしょうし、やりがいを持っていた業務から人事異動などで離れる方も多くいるはずです。
なお舞台設定は文久二年(1862年)の晩夏ですが、“本編”のつなぎも兼ねて前・後編で、ある“配置転換”の話を綴ります。
――佐賀藩の重臣、鍋島夏雲(市佑)の役宅。
黒船来航など重大事件のたびに登場する傾向のある、鍋島夏雲という人物。
〔参照(終盤):第8話「黒船来航」⑩〕
1802年に生まれており、第1話の“フェートン号事件”(1808年)の時にすでに誕生していたので、齢はすでに60歳に至る。
現在の上峰町あたりに領地を持つ、納富鍋島家の人で、“年寄”という役職名に違わず、佐賀藩の藩主側近でも長老格ということになる。

あらゆる情報が集まる重鎮だが、縁側で歩けば、年齢を重ねた相応の傷みも来ており、膝の動きもおぼつかない様子も見てとれる。
〔参照(中盤):第13話「通商条約」⑩(扇の要が外れるとき…)〕
しかし、誰かの気配を感じた時など、サッと向き直るような俊敏さを見せる瞬間があり、その中身は老いていないようだ。
「…蓮池(支藩)の古賀か。」
「ご用があると聞きましたけん、参じましたばい。」
――久々に登場、“嬉野の忍者”・古賀である。
傍らにはしっぽをゆらゆらとした猫が座る。これは、“相棒”のようだ。
鍋島夏雲が、年配者の貫禄かゆっくりと語り出す。
「お主に聞かせておきたい事があってな。」
「何(なん)が、あっとですか。」

佐賀の支藩・蓮池藩は、現在の佐賀市内に本拠があるものの、嬉野市あたりに大きい領地を持つ。それゆえ“嬉野の忍者”である。
「今から来る者の話を、よく聞いておくとよか。」
本日の用件は、鍋島夏雲のもとに来る人物の話を聞くことだと告げられた。
「おい(私)は…隠れもせんと、人の話ば聞きよれば、よかですか。」
古賀にすれば意外なこと、普通に話を聞くだけとは“忍者”らしからぬ任務だ。
どのような意図かを図りかねる、嬉野の忍者・古賀。いつものような、異国船の探索などの仕事ではないのか。

――歳は取ったが、積み重ねた異国船の調査には、一家言がある。
傍らの雉(きじ)猫のしっぽが、さらにゆらゆらとする。イヌとは違って、ネコが尻尾を揺らすのは、機嫌が良い時とは限らないという。
これは飼い主…いや“相棒”である古賀と同じく、怪訝(けげん)な気持ちの表れのようだ。
猫とて甘く見てはならない。欧米列強の水兵とて「何者っ!…なんだネコか」と油断さえ誘えば、接近する隙ぐらいは作ることができるだろう。
〔参照:第14話「遣米使節」③(嬉野から来た忍び)〕
“相棒”の異国船調査を支えるため、鍛錬を積んだ事は、誇ってよいはずだ。
〔参照:第16話「攘夷沸騰」⑩(英国船の行方)〕
――ここで屋敷に入ってきた男は、旅姿だった。
藩主側近の筆頭格・鍋島夏雲だが、なぜか旅の男と面識がある様子だ。
「たしか、祇園太郎と呼べば良かったか。無事であったか。」
「京では、危ない目にも遭(お)うたけど、まぁ大丈夫やで。」

“祇園太郎”と呼ばれた男の口調は、上方(京・大坂)に寄った言葉づかいらしいが、それが正しい使い方なのかは、定かではない。
明らかな変名である、“祇園太郎”を名乗る男は、京の都で志士たちと関わる前に、近隣の播磨(兵庫)の学者の門を叩き、当地の言葉になじんだようだ。
「…祇園太郎よ、ここは佐賀だ。おかしな上方ことばは目立つぞ。」
「夏雲さま…これは失礼ば、いたしました。」
今度は、随分と自然な言葉づかいだ。この男、やはり佐賀の者なのだろう。
(続く)
3月下旬、桜も見頃の季節は、退職・転勤…といった別れの時期でもあります。仕事も、また最初から“移ろうもの”と考えねばならない…のかもしれません。
大きく言えば、仕事の方法が時代の流れに合わなくなる場合もあるでしょうし、やりがいを持っていた業務から人事異動などで離れる方も多くいるはずです。
なお舞台設定は文久二年(1862年)の晩夏ですが、“本編”のつなぎも兼ねて前・後編で、ある“配置転換”の話を綴ります。
――佐賀藩の重臣、鍋島夏雲(市佑)の役宅。
黒船来航など重大事件のたびに登場する傾向のある、鍋島夏雲という人物。
〔参照(終盤):
1802年に生まれており、第1話の“フェートン号事件”(1808年)の時にすでに誕生していたので、齢はすでに60歳に至る。
現在の上峰町あたりに領地を持つ、納富鍋島家の人で、“年寄”という役職名に違わず、佐賀藩の藩主側近でも長老格ということになる。

あらゆる情報が集まる重鎮だが、縁側で歩けば、年齢を重ねた相応の傷みも来ており、膝の動きもおぼつかない様子も見てとれる。
〔参照(中盤):
しかし、誰かの気配を感じた時など、サッと向き直るような俊敏さを見せる瞬間があり、その中身は老いていないようだ。
「…蓮池(支藩)の古賀か。」
「ご用があると聞きましたけん、参じましたばい。」
――久々に登場、“嬉野の忍者”・古賀である。
傍らにはしっぽをゆらゆらとした猫が座る。これは、“相棒”のようだ。
鍋島夏雲が、年配者の貫禄かゆっくりと語り出す。
「お主に聞かせておきたい事があってな。」
「何(なん)が、あっとですか。」
佐賀の支藩・蓮池藩は、現在の佐賀市内に本拠があるものの、嬉野市あたりに大きい領地を持つ。それゆえ“嬉野の忍者”である。
「今から来る者の話を、よく聞いておくとよか。」
本日の用件は、鍋島夏雲のもとに来る人物の話を聞くことだと告げられた。
「おい(私)は…隠れもせんと、人の話ば聞きよれば、よかですか。」
古賀にすれば意外なこと、普通に話を聞くだけとは“忍者”らしからぬ任務だ。
どのような意図かを図りかねる、嬉野の忍者・古賀。いつものような、異国船の探索などの仕事ではないのか。

――歳は取ったが、積み重ねた異国船の調査には、一家言がある。
傍らの雉(きじ)猫のしっぽが、さらにゆらゆらとする。イヌとは違って、ネコが尻尾を揺らすのは、機嫌が良い時とは限らないという。
これは飼い主…いや“相棒”である古賀と同じく、怪訝(けげん)な気持ちの表れのようだ。
猫とて甘く見てはならない。欧米列強の水兵とて「何者っ!…なんだネコか」と油断さえ誘えば、接近する隙ぐらいは作ることができるだろう。
〔参照:
“相棒”の異国船調査を支えるため、鍛錬を積んだ事は、誇ってよいはずだ。
〔参照:
――ここで屋敷に入ってきた男は、旅姿だった。
藩主側近の筆頭格・鍋島夏雲だが、なぜか旅の男と面識がある様子だ。
「たしか、祇園太郎と呼べば良かったか。無事であったか。」
「京では、危ない目にも遭(お)うたけど、まぁ大丈夫やで。」

“祇園太郎”と呼ばれた男の口調は、上方(京・大坂)に寄った言葉づかいらしいが、それが正しい使い方なのかは、定かではない。
明らかな変名である、“祇園太郎”を名乗る男は、京の都で志士たちと関わる前に、近隣の播磨(兵庫)の学者の門を叩き、当地の言葉になじんだようだ。
「…祇園太郎よ、ここは佐賀だ。おかしな上方ことばは目立つぞ。」
「夏雲さま…これは失礼ば、いたしました。」
今度は、随分と自然な言葉づかいだ。この男、やはり佐賀の者なのだろう。
(続く)
Posted by SR at 22:37 | Comments(0) | 第19話「閑叟上洛」
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