2020年11月20日
「醒覚の剣」(都風)
こんばんは。
概ね1年前。私は限られた時間で駆け回り、郷里・佐賀の取材に猛進しました。ある意味、奇跡的な時間でしたが、そう長くは続きませんでした。
いまや、簡単に佐賀に帰藩できる状況ではありません。
「しまった。あの場所には立ち寄るべきだった!」…と、後悔は、頭を巡ります。
――しかし、私には“切り札”があった。
私より“佐賀藩士”としての純度が高く、地元・佐賀に住む協力者
…平たく言えば、叔父上である。
「私には、小城に関する知識が、ほとんどありません。」
遠き故郷とつながる、電話口。
叔父上は、私のこの“つぶやき”を拾った。
「あ、小城ね。行っても良かよ。」
――そして、あっさりと依頼を聞き入れる。
小城の別名は「佐賀の小京都」とも聞く。
どの辺りが“京都”なのか、それにも興味があった。
「あぁ小城ね。行ってきたとよ。」
しばらく後、電話口の叔父上が語る。
こちらが知らぬ間に、すでに叔父上は小城まで足を運んでいた。

――「法事とかで、わりと忙しかったのでは?」という疑問はさておき…
この場合、ご厚意には甘えておくのが、私の流儀である。
「…して、叔父上。小城はいかがでしたか。」
「屋敷跡の庭園が良かよ。」
手入れが行き届いた庭とは…たしかに“小京都”の趣きだ。
「他には…やはり、小城羊羹(ようかん)ですか。」
「羊羹も買ったばってん、面白かものを見つけたよ。」
――私からの頼みではなく、叔父上の感覚で掴んだ物。
「何か、小城に“新名物”でもあったのですか?」
「珍しかお菓子があったよ。“シベリア”とか言いよっと。」
…“シベリア”。それは、聞き覚えのある名だった。
「そのお菓子。以前、大河ドラマに出てきました!」
大河ドラマ「いだてん」。陸上競技を描いた回に“シベリア”が登場する。女子体育教育の先駆者・二階堂トクヨ(演:寺島しのぶ)が教え子に勧めていた。

――この“シベリア”というお菓子。大正時代には各地に存在したという。
叔父上は無自覚のうちに、私のテーマに合った物を選んでいたのだ。
ふんわりとしたカステラで、ヒンヤリとした食感の羊羹を挟み込む。一説には、この羊羹がシベリアの永久凍土をイメージさせるらしい。
「上品な甘さやけん。食べやすかよ。」
こうして、叔父上も絶賛する“シベリア”が、私の手元にも届いた。
――そして昭和初期。子供が食べたいお菓子№1の座だったとも聞く。
私も丁寧に“シベリア”を開封し、一切れを口元に運ぶ。
「…これは、何と優雅な味わいか!」
軽やかに溶けゆくカステラの風味と、溶け残る小城羊羹の余韻。
この儚(はかな)さと、それでいて強い本物の存在感。
私に小城の実力の一端が示される。佐賀の“小京都”と呼ばれるには、それだけ秘めた力があるのだろう。

――幕末期。小城にも京都と同じ“風”が吹いた。
日本中で湧き立つ“尊王攘夷”の思想。今は羊羹の聖地・小城にも広がった。
その地には佐賀藩の支藩の1つ、小城藩があった。幕末期、小城支藩の動きは、いろいろと不可解なのだ。
ある夜、忽然と姿を消して京都に現れた、小城の庄屋の話。
そして佐賀七賢人の1人・江藤新平も、この地と深く関わる。
「何とか小城を、本編に織り込まねば…」
名残り惜しく“シベリア”と別れのひとかけらを口にした私。決意を新たにした。
概ね1年前。私は限られた時間で駆け回り、郷里・佐賀の取材に猛進しました。ある意味、奇跡的な時間でしたが、そう長くは続きませんでした。
いまや、簡単に佐賀に帰藩できる状況ではありません。
「しまった。あの場所には立ち寄るべきだった!」…と、後悔は、頭を巡ります。
――しかし、私には“切り札”があった。
私より“佐賀藩士”としての純度が高く、地元・佐賀に住む協力者
…平たく言えば、叔父上である。
「私には、小城に関する知識が、ほとんどありません。」
遠き故郷とつながる、電話口。
叔父上は、私のこの“つぶやき”を拾った。
「あ、小城ね。行っても良かよ。」
――そして、あっさりと依頼を聞き入れる。
小城の別名は「佐賀の小京都」とも聞く。
どの辺りが“京都”なのか、それにも興味があった。
「あぁ小城ね。行ってきたとよ。」
しばらく後、電話口の叔父上が語る。
こちらが知らぬ間に、すでに叔父上は小城まで足を運んでいた。
――「法事とかで、わりと忙しかったのでは?」という疑問はさておき…
この場合、ご厚意には甘えておくのが、私の流儀である。
「…して、叔父上。小城はいかがでしたか。」
「屋敷跡の庭園が良かよ。」
手入れが行き届いた庭とは…たしかに“小京都”の趣きだ。
「他には…やはり、小城羊羹(ようかん)ですか。」
「羊羹も買ったばってん、面白かものを見つけたよ。」
――私からの頼みではなく、叔父上の感覚で掴んだ物。
「何か、小城に“新名物”でもあったのですか?」
「珍しかお菓子があったよ。“シベリア”とか言いよっと。」
…“シベリア”。それは、聞き覚えのある名だった。
「そのお菓子。以前、大河ドラマに出てきました!」
大河ドラマ「いだてん」。陸上競技を描いた回に“シベリア”が登場する。女子体育教育の先駆者・二階堂トクヨ(演:寺島しのぶ)が教え子に勧めていた。
――この“シベリア”というお菓子。大正時代には各地に存在したという。
叔父上は無自覚のうちに、私のテーマに合った物を選んでいたのだ。
ふんわりとしたカステラで、ヒンヤリとした食感の羊羹を挟み込む。一説には、この羊羹がシベリアの永久凍土をイメージさせるらしい。
「上品な甘さやけん。食べやすかよ。」
こうして、叔父上も絶賛する“シベリア”が、私の手元にも届いた。
――そして昭和初期。子供が食べたいお菓子№1の座だったとも聞く。
私も丁寧に“シベリア”を開封し、一切れを口元に運ぶ。
「…これは、何と優雅な味わいか!」
軽やかに溶けゆくカステラの風味と、溶け残る小城羊羹の余韻。
この儚(はかな)さと、それでいて強い本物の存在感。
私に小城の実力の一端が示される。佐賀の“小京都”と呼ばれるには、それだけ秘めた力があるのだろう。
――幕末期。小城にも京都と同じ“風”が吹いた。
日本中で湧き立つ“尊王攘夷”の思想。今は羊羹の聖地・小城にも広がった。
その地には佐賀藩の支藩の1つ、小城藩があった。幕末期、小城支藩の動きは、いろいろと不可解なのだ。
ある夜、忽然と姿を消して京都に現れた、小城の庄屋の話。
そして佐賀七賢人の1人・江藤新平も、この地と深く関わる。
「何とか小城を、本編に織り込まねば…」
名残り惜しく“シベリア”と別れのひとかけらを口にした私。決意を新たにした。
Posted by SR at 22:23 | Comments(0) | 「望郷の剣」シリーズ
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