2023年12月29日
「遠路の剣Ⅱ(金波)」
こんばんは。
すでに年の瀬ですが、気にせず続けます。当ブログでは佐賀県に行くことを“帰藩”として語ることが多いですが、私は今年も帰れませんでした。
ところで、江戸期に佐賀藩ではなかった、佐賀県内の唐津(唐津藩)や、基山(対馬藩田代領)に行くことがあったなら、それは“帰藩”に数えて良いのか?
…という課題は、実際に行くことができてから考えます。

そして、私が佐賀に行く代わり…でもないのですが、叔父上がこちらに来た時の話を、長い日記のように綴るシリーズ、2回目も書くことにしました。
――叔父上と会ったのは、その旅の終盤。
次の予定も入っているらしく、なかなか慌ただしいスケジュールになっている。
ゆっくり話が出来たのは、移動中の電車内。ここで私は、大都市圏で習得してきた技能を使った。あらゆる予測をたてて、混雑する電車を避けたのだ。

結果、その車内が、一番落ち着いて話ができた。
向かい合った座席。叔父上が私の顔を見て、ふいに言葉を発する。
「“SR”くん。自分だけが、仕事をしよると思うてはならんばい。」
――その時、私は言葉の意味を、うまく拾えなかった。
かつて叔父上が、仕事で相当に苦労していた事は知っている。
たしかに皆、忙しく働いているわけだから疲れているのは、私だけではない。「もうちょっと、頑張ろうよ」という励ましなのかとも考えた。
そういえば、私が崇敬する“佐賀の大先輩”たちは、働き者ぞろいだ。

今年は「憧れるのをやめましょう」という言葉も流行った。だが、私には“大先輩”の背中を追えるほどの能力は無いので、憧れを持つぐらいにしておく。
――話を戻す。乗車した路線は、海に沿って進むようだ。
流れゆく空を眺める、叔父上。会話の内容はさておき、車窓から見えるのは、師走の好天である。光る海も見えてきた。
普段は「無理ば、せんごと…」と気遣ってくれることが多いので、先ほどの言葉も、単なる叱咤激励とは考えにくい。
ただ、今は「よかとね~」という雰囲気で海辺を見つめるものだから、それ以上は私からも、仕事の話をするのは差し控えた。
――まもなく、電車は目的地へと到着する。
「次の駅で、降ります。」
「そうね、思うたより早かったとね。」
次の予定は、郊外に出た海沿いの町にあると聞いていた。私は、その案内役のような役回りをしている。
あわせて、1時間ばかりは走ったか。電車は降車駅のホームへと入線した。

――私も来たことがない、海沿いの町。
下車してからも離れた海が見える。陽光をはじいて、波が金色に彩られる。
「にゃ~、あいつ。良かところに住んどるばい…」
意外だったが、叔父上は、この町に旧知の友がいるのだという。
もとは九州で作った友達のはずが、いろいろな場所に居るものだと感心する。
――友人との待ち合わせまでには、まだ時間があるという。
見た感じ、夏が似合いそうな海辺の町。だが、季節は師走。そこまで、寒くはなくとも12月である。
「珈琲でも、飲みますか。」
「よかごたよ。」
ある店のテラスで、サクサクと美味いがボロボロと崩れるパイをかじりながら、珈琲を飲む。
「身体の疲れは寝たらよかけど、気ば遣こうたら、ざっといかんばい。」
やはり、叔父上の言葉は心配の気持ちの表れだったらしい。今の私からは、疲労感という名の“波動”でも出ているのか…と驚く。
――ゆっくりと珈琲を飲み終えると…
いつの間にか、向こう側の道路に一台の車が止まっている。
「…んにゃ、あいつ、もう来とるばい。」
「あの車ですか。」
「そのうち来ると思うとったけんが、意外と早かったとね。」
この辺り、叔父上は、県内と同じ感覚でゆっつらと構えていたらしい。

その叔父上も、地元では佐賀の者のたしなみなのか、土いじりをする。
優れた注意力は、空を舞い果実を狙いに来る鳥や、地を這って野菜を奪いに来る小動物に向けられるから、旅先の都市圏ではのんびりしてしまっている。
――さて、ここで豪快にして、陽気な感じの年配の方が現れた。
「お前は、もう、来とったんかい。」
「予定よりちょっと、早う着いたとよ。」
叔父上は、その年配の男性に親しげに言葉を返す。これは、学生時代の友人と感動の再会の場面であろうか。
「それにしても、海の近くで、よかところに住んどるとね~。」
「ここに住んどるわけじゃないぞ。車に乗らんと、家には着かん。」
海沿いの景色を讃える叔父上。「家はもっと先だ!」と言葉を返す旧知の友。

「…んにゃ、こがん、きれいか海が見られるだけでよかごた。」
「おう、そんなにいいか?」
冬でも光る海は絵画的というか、詩的というか、上手く形容できないが美しい。
――叔父上があまりにも、自宅の近所を褒めまくるので、
旧知の友人さんも、やはり悪い気はしないらしい。この辺で、後ろに立っていた私の存在に気付いたようだ。
「ところで、一緒にいるのは誰ね?紹介ば、せんね。」
「あぁ、この辺りに住んどる甥っ子ばい。ここまで付いてきてもらったとよ。」
私は案内だけのつもりで行動していたが、期せず叔父上の学生時代の姿を見たような気がした。
長い歳月を経たはずだが、それを“解凍”するように、元の時間に戻っていく。景色だけでなく、この海辺の町で良いものを見た…と、私はそう思った。
(…おそらく、あと1回ぐらいは続きます)
すでに年の瀬ですが、気にせず続けます。当ブログでは佐賀県に行くことを“帰藩”として語ることが多いですが、私は今年も帰れませんでした。
ところで、江戸期に佐賀藩ではなかった、佐賀県内の唐津(唐津藩)や、基山(対馬藩田代領)に行くことがあったなら、それは“帰藩”に数えて良いのか?
…という課題は、実際に行くことができてから考えます。
そして、私が佐賀に行く代わり…でもないのですが、叔父上がこちらに来た時の話を、長い日記のように綴るシリーズ、2回目も書くことにしました。
――叔父上と会ったのは、その旅の終盤。
次の予定も入っているらしく、なかなか慌ただしいスケジュールになっている。
ゆっくり話が出来たのは、移動中の電車内。ここで私は、大都市圏で習得してきた技能を使った。あらゆる予測をたてて、混雑する電車を避けたのだ。
結果、その車内が、一番落ち着いて話ができた。
向かい合った座席。叔父上が私の顔を見て、ふいに言葉を発する。
「“SR”くん。自分だけが、仕事をしよると思うてはならんばい。」
――その時、私は言葉の意味を、うまく拾えなかった。
かつて叔父上が、仕事で相当に苦労していた事は知っている。
たしかに皆、忙しく働いているわけだから疲れているのは、私だけではない。「もうちょっと、頑張ろうよ」という励ましなのかとも考えた。
そういえば、私が崇敬する“佐賀の大先輩”たちは、働き者ぞろいだ。
今年は「憧れるのをやめましょう」という言葉も流行った。だが、私には“大先輩”の背中を追えるほどの能力は無いので、憧れを持つぐらいにしておく。
――話を戻す。乗車した路線は、海に沿って進むようだ。
流れゆく空を眺める、叔父上。会話の内容はさておき、車窓から見えるのは、師走の好天である。光る海も見えてきた。
普段は「無理ば、せんごと…」と気遣ってくれることが多いので、先ほどの言葉も、単なる叱咤激励とは考えにくい。
ただ、今は「よかとね~」という雰囲気で海辺を見つめるものだから、それ以上は私からも、仕事の話をするのは差し控えた。
――まもなく、電車は目的地へと到着する。
「次の駅で、降ります。」
「そうね、思うたより早かったとね。」
次の予定は、郊外に出た海沿いの町にあると聞いていた。私は、その案内役のような役回りをしている。
あわせて、1時間ばかりは走ったか。電車は降車駅のホームへと入線した。
――私も来たことがない、海沿いの町。
下車してからも離れた海が見える。陽光をはじいて、波が金色に彩られる。
「にゃ~、あいつ。良かところに住んどるばい…」
意外だったが、叔父上は、この町に旧知の友がいるのだという。
もとは九州で作った友達のはずが、いろいろな場所に居るものだと感心する。
――友人との待ち合わせまでには、まだ時間があるという。
見た感じ、夏が似合いそうな海辺の町。だが、季節は師走。そこまで、寒くはなくとも12月である。
「珈琲でも、飲みますか。」
「よかごたよ。」
ある店のテラスで、サクサクと美味いがボロボロと崩れるパイをかじりながら、珈琲を飲む。
「身体の疲れは寝たらよかけど、気ば遣こうたら、ざっといかんばい。」
やはり、叔父上の言葉は心配の気持ちの表れだったらしい。今の私からは、疲労感という名の“波動”でも出ているのか…と驚く。
――ゆっくりと珈琲を飲み終えると…
いつの間にか、向こう側の道路に一台の車が止まっている。
「…んにゃ、あいつ、もう来とるばい。」
「あの車ですか。」
「そのうち来ると思うとったけんが、意外と早かったとね。」
この辺り、叔父上は、県内と同じ感覚でゆっつらと構えていたらしい。
その叔父上も、地元では佐賀の者のたしなみなのか、土いじりをする。
優れた注意力は、空を舞い果実を狙いに来る鳥や、地を這って野菜を奪いに来る小動物に向けられるから、旅先の都市圏ではのんびりしてしまっている。
――さて、ここで豪快にして、陽気な感じの年配の方が現れた。
「お前は、もう、来とったんかい。」
「予定よりちょっと、早う着いたとよ。」
叔父上は、その年配の男性に親しげに言葉を返す。これは、学生時代の友人と感動の再会の場面であろうか。
「それにしても、海の近くで、よかところに住んどるとね~。」
「ここに住んどるわけじゃないぞ。車に乗らんと、家には着かん。」
海沿いの景色を讃える叔父上。「家はもっと先だ!」と言葉を返す旧知の友。
「…んにゃ、こがん、きれいか海が見られるだけでよかごた。」
「おう、そんなにいいか?」
冬でも光る海は絵画的というか、詩的というか、上手く形容できないが美しい。
――叔父上があまりにも、自宅の近所を褒めまくるので、
旧知の友人さんも、やはり悪い気はしないらしい。この辺で、後ろに立っていた私の存在に気付いたようだ。
「ところで、一緒にいるのは誰ね?紹介ば、せんね。」
「あぁ、この辺りに住んどる甥っ子ばい。ここまで付いてきてもらったとよ。」
私は案内だけのつもりで行動していたが、期せず叔父上の学生時代の姿を見たような気がした。
長い歳月を経たはずだが、それを“解凍”するように、元の時間に戻っていく。景色だけでなく、この海辺の町で良いものを見た…と、私はそう思った。
(…おそらく、あと1回ぐらいは続きます)
Posted by SR at 22:43 | Comments(0) | 「望郷の剣」シリーズ
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