2020年09月06日
第13話「通商条約」⑫(禁断の一手)
こんばんは。
台風10号…遠方からモヤモヤした気持ちで、九州各地の映像を見ています。
皆様のブログを拝見すると、最大級の警戒と準備をなさっているご様子。もはや「人事を尽くして天命を待つ」という心境なのでしょうか。
今夜から明朝、台風がどう影響するか…非常に心配なところです。明日以降に皆様が、この投稿をゆっくりご覧いただける状況であることを切に願います。
――老中・阿部正弘の抑えがなくなり、水戸藩・徳川斉昭が動き出した。
「通商など論外じゃ!富が異国に持ち去られるだけよ!」
“水戸さま”は、次々に歯切れのよい攘夷論を繰り出す。
大名から下級武士まで、熱狂する者は多数。
海外事情に通じる幕政のトップ・堀田正睦から見れば、異国に攻撃的な“水戸さま”の意見は危険極まりない。
「この国は取り残されるばかり…かくなるうえは!」
――堀田は、老中首座の強権を発動し、徳川斉昭を幕政から遠ざける。
「おのれ!堀田。」
“逆襲”を画策する徳川斉昭。
水戸藩はかねてから、尊王論の中心でもある。
“攘夷”を期待する、京都の公家たちとの連携を強めていく。

――その頃、堀田は、アメリカ総領事・ハリスと交渉を進めている、幕府の役人・岩瀬を呼び出した。
「条約の骨子は固まったか。」
「はい、幾度も手直しを経て、概ねは決まり申した。」
交渉役の岩瀬忠震(ただなり)は、ハリスの提示した条約案に、真っ黒になるまで書き込みを入れ、修正した。
“和親条約”のときと同様、アメリカと真っ当な外交交渉が出来ていたのである。
ハリスは、このように語ったそうだ。
「日本の国民は、岩瀬のような“外交官”を持って幸せである」と。
――幕府が締結した“不平等条約”と語られる、日米修好通商条約だが、諸外国との力の差を考慮すると健闘したとの見方もある。
不平等な部分と言えば「領事裁判権を認め、関税自主権が無い」のだが、これは幕府が交渉を失敗したというより、当時の日本が“近代国家”として体を成していなかったことに起因するようである。
江戸時代の刑罰で裁かれたくない外国人の心情、200年以上続いた“鎖国”による貿易体制の不備…なども考慮すべきかもしれない。
のちの明治期には、“外交”では副島種臣、“法律”では江藤新平、“財政”では大隈重信、“教育”では大木喬任など…佐賀藩士たちは、近代国家を築き、欧米との差を埋めるべく奮闘することになる。
――交渉役・岩瀬の報告を受け、老中首座・堀田は「うむ!よくやってくれた。」と頷(うなづ)く。
「早急に、調印の手筈(てはず)を整えねばならぬ。」
「水戸さまが“否”と仰せになるかと。説き伏せるには、いかがなさいますか。」
「岩瀬よ。儂は、ある“手立て”に思い至った。」
堀田の考える“秘策”。それは朝廷から条約締結の勅許を得ることである。
“尊王”の志が高い、水戸藩。
水戸が崇敬する「朝廷の承諾」があれば、徳川斉昭も説得できる…はずというのが、堀田の考えである。

――江戸時代を通じて、静かだった京の都。
幕府や諸藩は、「朝廷の権威」を政治的に利用しようと動き始めていた。朝廷に仕える公家たちにも、接触を試みるようになったのである。
「枝吉はん。近頃、公儀(幕府)の者をよく見かけますのや。」
「漸く(ようやく)、時節が参ったということですね…」
ここ数年、副島種臣(枝吉次郎)は、京で国学を学んできた。
国学は日本古来の思想を探求することから、“尊王論”と強く結び付くのである。
――公家たちも、俄(にわ)かに騒がしくなる京(みやこ)に戸惑いを見せる。
「もはや動くべき時が近い。兄上にも、ご相談をせねば…」
副島種臣(枝吉次郎)は、佐賀にいる兄・枝吉神陽に手紙を書き送る。
副島の想いは「朝廷の政治利用」ではない。天皇のもとに徳川を含めた諸大名が集う「新しい国の形」にまで進んでいる。
アメリカとの通商条約の交渉が大詰めを迎える中、京都の朝廷は急激に存在感を増していた。
そして、老中首座・堀田が朝廷への工作を試みたことは、幕府にとって“禁断の一手”だったのである。
(続く)
台風10号…遠方からモヤモヤした気持ちで、九州各地の映像を見ています。
皆様のブログを拝見すると、最大級の警戒と準備をなさっているご様子。もはや「人事を尽くして天命を待つ」という心境なのでしょうか。
今夜から明朝、台風がどう影響するか…非常に心配なところです。明日以降に皆様が、この投稿をゆっくりご覧いただける状況であることを切に願います。
――老中・阿部正弘の抑えがなくなり、水戸藩・徳川斉昭が動き出した。
「通商など論外じゃ!富が異国に持ち去られるだけよ!」
“水戸さま”は、次々に歯切れのよい攘夷論を繰り出す。
大名から下級武士まで、熱狂する者は多数。
海外事情に通じる幕政のトップ・堀田正睦から見れば、異国に攻撃的な“水戸さま”の意見は危険極まりない。
「この国は取り残されるばかり…かくなるうえは!」
――堀田は、老中首座の強権を発動し、徳川斉昭を幕政から遠ざける。
「おのれ!堀田。」
“逆襲”を画策する徳川斉昭。
水戸藩はかねてから、尊王論の中心でもある。
“攘夷”を期待する、京都の公家たちとの連携を強めていく。
――その頃、堀田は、アメリカ総領事・ハリスと交渉を進めている、幕府の役人・岩瀬を呼び出した。
「条約の骨子は固まったか。」
「はい、幾度も手直しを経て、概ねは決まり申した。」
交渉役の岩瀬忠震(ただなり)は、ハリスの提示した条約案に、真っ黒になるまで書き込みを入れ、修正した。
“和親条約”のときと同様、アメリカと真っ当な外交交渉が出来ていたのである。
ハリスは、このように語ったそうだ。
「日本の国民は、岩瀬のような“外交官”を持って幸せである」と。
――幕府が締結した“不平等条約”と語られる、日米修好通商条約だが、諸外国との力の差を考慮すると健闘したとの見方もある。
不平等な部分と言えば「領事裁判権を認め、関税自主権が無い」のだが、これは幕府が交渉を失敗したというより、当時の日本が“近代国家”として体を成していなかったことに起因するようである。
江戸時代の刑罰で裁かれたくない外国人の心情、200年以上続いた“鎖国”による貿易体制の不備…なども考慮すべきかもしれない。
のちの明治期には、“外交”では副島種臣、“法律”では江藤新平、“財政”では大隈重信、“教育”では大木喬任など…佐賀藩士たちは、近代国家を築き、欧米との差を埋めるべく奮闘することになる。
――交渉役・岩瀬の報告を受け、老中首座・堀田は「うむ!よくやってくれた。」と頷(うなづ)く。
「早急に、調印の手筈(てはず)を整えねばならぬ。」
「水戸さまが“否”と仰せになるかと。説き伏せるには、いかがなさいますか。」
「岩瀬よ。儂は、ある“手立て”に思い至った。」
堀田の考える“秘策”。それは朝廷から条約締結の勅許を得ることである。
“尊王”の志が高い、水戸藩。
水戸が崇敬する「朝廷の承諾」があれば、徳川斉昭も説得できる…はずというのが、堀田の考えである。
――江戸時代を通じて、静かだった京の都。
幕府や諸藩は、「朝廷の権威」を政治的に利用しようと動き始めていた。朝廷に仕える公家たちにも、接触を試みるようになったのである。
「枝吉はん。近頃、公儀(幕府)の者をよく見かけますのや。」
「漸く(ようやく)、時節が参ったということですね…」
ここ数年、副島種臣(枝吉次郎)は、京で国学を学んできた。
国学は日本古来の思想を探求することから、“尊王論”と強く結び付くのである。
――公家たちも、俄(にわ)かに騒がしくなる京(みやこ)に戸惑いを見せる。
「もはや動くべき時が近い。兄上にも、ご相談をせねば…」
副島種臣(枝吉次郎)は、佐賀にいる兄・枝吉神陽に手紙を書き送る。
副島の想いは「朝廷の政治利用」ではない。天皇のもとに徳川を含めた諸大名が集う「新しい国の形」にまで進んでいる。
アメリカとの通商条約の交渉が大詰めを迎える中、京都の朝廷は急激に存在感を増していた。
そして、老中首座・堀田が朝廷への工作を試みたことは、幕府にとって“禁断の一手”だったのである。
(続く)
Posted by SR at 20:32 | Comments(0) | 第13話「通商条約」
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