2020年02月26日
第5話「藩校立志」①
こんばんは。
今回から第5話「藩校立志」に入ります。
枝吉神陽の影響で、子・八太郎に「太平記」を読み聞かせることにした大隈の母・三井子。次第にヒートアップしていきます。これも幕末の“熱気”なのかもしれません。
――大隈三井子は、子・八太郎に本を読むことをせがまれる。
「ははうえ~ごほんよんで~」
もちろん、八太郎くんのリクエストは「太平記」である。
なお「太平記」は作者がはっきりせず、様々な種類の本があるという。ざっくりした内容なので、細かいところは大目に見てほしい…
――八太郎くんの熱いリクエストに応え、本を手に取る三井子。
「では八太郎!心してお聞きなさい!」
「はい、ははうえさま!」
…大隈八太郎、正座をする。
~太平記より「湊川の戦い」~
――摂津国・湊川(現在の兵庫県神戸市)。
楠木正成は、京の都への防衛線である地に着陣した。
そして、南朝方の大将・新田義貞と合流する。
負け戦続きで士気が落ちていた南朝方。“軍神”楠木正成の到着に沸く。
ほどなく大音声とともに、足利尊氏の軍勢が陸から海から押し寄せてきた。
南朝方には海の戦力が無い。海からの攻撃には新田勢が弓で応戦する。
わずか七百騎であるが、楠木正成の軍は精兵ぞろいである。
陸から攻めてくる尊氏の弟・足利直義の軍勢を迎え撃つ。
――足利直義の軍は、楠木正成の手勢の二十倍以上…
足利軍の中心は、軍事責任者である弟の直義。
「怯むな!直義さえ討ち取れば、足利勢は崩せるぞ!」
「指揮を執る大将どもだけを狙え!馬から叩き落せ!」
荒れる戦場。前が見えぬほどの土煙が舞う。
暴れ馬達の嘶きが反響し、無数の矢が飛び交う。
「直義は、すぐそこじゃ!討ち取れ!」
攻め続ける楠木正成。圧倒的な兵力を持つ足利直義が、陣を捨て逃げ出す。
――楠木軍が突撃を繰り返すこと十六度…
しかし、兵力の差は歴然。
時が経つに連れ、戦の流れは足利勢有利に傾いていく。
次第に削られていく楠木正成の軍勢。
残されたのは、正成の弟・正季を含め七十三騎。
「楠木勢に近づいてはならん!弓を射かけ、数を減らすのじゃ!」
次々に新手の兵を送り込む足利方。伝令の声が響く…
――敵が遠巻きに取り囲む中、楠木正成は覚悟を決めた。
楠木正成・正季の兄弟は粗末な小屋を見つけた。
ここを最期の場所に選んだのである。
「兄上、ここまででござるな。拙者は生まれ変わっても、きっと尊氏を討ちまする。」
「そうだな我ら兄弟、たとえ七度生まれ変わっても、帝をお守りしよう。」
そして、楠木兄弟は互いを短刀で突き、命を断ったのである。
~以上、三井子の朗読の設定は終了~
――再び、自身の朗読で涙を流す、三井子。そして横で号泣する八太郎。
「ははうえ!八太郎は楠公(なんこう)様のように強い武士になりまする!」
涙を流しながら、決意を語る八太郎。
「八太郎!立派です!決して、今日の“志”を忘れてはなりません!」
「はい!ははうえさま。」

――ここで父・大隈信保が帰宅する。
佐賀藩が砲術の研究所“火術方”を立ち上げるので、最近はさらに忙しい。
「いま、戻った…、で…いつもの調子か。」
目に入ってきたのは、泣きながら何やら叫ぶ八太郎を抱きしめる母・三井子。
「父上!今は触れぬ方が…」
「…言わずともわかる。そっとしておくとしよう。」
娘(八太郎の姉)の肩を軽くポンポンと叩き、父・信保は玄関に引き返した。
――そして江戸。枝吉神陽は、幕府の昌平坂学問所でも頭角を現していた。
神陽の一言で「太平記」ブームが到来した大隈家。
しかし、神陽の“引力”は佐賀には留まらない。
「このたび舎長(しゃちょう)は、肥前佐賀の枝吉君に務めてもらうことになった!」
全国の各藩から“必勝”の天才が送り込まれる、幕府の学問所。
――枝吉神陽は、実にあっさりと“天才”たちのリーダーに就いていた。
「枝吉だ。このたび舎長に任じられた。皆、よろしく頼む!」
神陽の声はよく通る。皆が一斉に注目する。
挨拶が終わった後、学問所内の噂話が続く。
「相変わらず…鐘が鳴るような声じゃけ。」
「枝吉さんと言えば、3万冊の本を暗唱しとるらしいぞ。」
「いや、この前な…富士の山を下駄で登って悠然と帰ってきたべ。」
――ここで神陽の噂話をしているのも、並の人物たちではない。
各藩で指導的な存在となるべき者たちも、引き付けてしまう枝吉神陽。
幕末の“指導者”と言えば、ある人物が神陽を訪ねて、衝撃を受けることになる。それは神陽が佐賀に帰ってからなので、もう少し後の話である。
(続く)
今回から第5話「藩校立志」に入ります。
枝吉神陽の影響で、子・八太郎に「太平記」を読み聞かせることにした大隈の母・三井子。次第にヒートアップしていきます。これも幕末の“熱気”なのかもしれません。
――大隈三井子は、子・八太郎に本を読むことをせがまれる。
「ははうえ~ごほんよんで~」
もちろん、八太郎くんのリクエストは「太平記」である。
なお「太平記」は作者がはっきりせず、様々な種類の本があるという。ざっくりした内容なので、細かいところは大目に見てほしい…
――八太郎くんの熱いリクエストに応え、本を手に取る三井子。
「では八太郎!心してお聞きなさい!」
「はい、ははうえさま!」
…大隈八太郎、正座をする。
~太平記より「湊川の戦い」~
――摂津国・湊川(現在の兵庫県神戸市)。
楠木正成は、京の都への防衛線である地に着陣した。
そして、南朝方の大将・新田義貞と合流する。
負け戦続きで士気が落ちていた南朝方。“軍神”楠木正成の到着に沸く。
ほどなく大音声とともに、足利尊氏の軍勢が陸から海から押し寄せてきた。
南朝方には海の戦力が無い。海からの攻撃には新田勢が弓で応戦する。
わずか七百騎であるが、楠木正成の軍は精兵ぞろいである。
陸から攻めてくる尊氏の弟・足利直義の軍勢を迎え撃つ。
――足利直義の軍は、楠木正成の手勢の二十倍以上…
足利軍の中心は、軍事責任者である弟の直義。
「怯むな!直義さえ討ち取れば、足利勢は崩せるぞ!」
「指揮を執る大将どもだけを狙え!馬から叩き落せ!」
荒れる戦場。前が見えぬほどの土煙が舞う。
暴れ馬達の嘶きが反響し、無数の矢が飛び交う。
「直義は、すぐそこじゃ!討ち取れ!」
攻め続ける楠木正成。圧倒的な兵力を持つ足利直義が、陣を捨て逃げ出す。
――楠木軍が突撃を繰り返すこと十六度…
しかし、兵力の差は歴然。
時が経つに連れ、戦の流れは足利勢有利に傾いていく。
次第に削られていく楠木正成の軍勢。
残されたのは、正成の弟・正季を含め七十三騎。
「楠木勢に近づいてはならん!弓を射かけ、数を減らすのじゃ!」
次々に新手の兵を送り込む足利方。伝令の声が響く…
――敵が遠巻きに取り囲む中、楠木正成は覚悟を決めた。
楠木正成・正季の兄弟は粗末な小屋を見つけた。
ここを最期の場所に選んだのである。
「兄上、ここまででござるな。拙者は生まれ変わっても、きっと尊氏を討ちまする。」
「そうだな我ら兄弟、たとえ七度生まれ変わっても、帝をお守りしよう。」
そして、楠木兄弟は互いを短刀で突き、命を断ったのである。
~以上、三井子の朗読の設定は終了~
――再び、自身の朗読で涙を流す、三井子。そして横で号泣する八太郎。
「ははうえ!八太郎は楠公(なんこう)様のように強い武士になりまする!」
涙を流しながら、決意を語る八太郎。
「八太郎!立派です!決して、今日の“志”を忘れてはなりません!」
「はい!ははうえさま。」

――ここで父・大隈信保が帰宅する。
佐賀藩が砲術の研究所“火術方”を立ち上げるので、最近はさらに忙しい。
「いま、戻った…、で…いつもの調子か。」
目に入ってきたのは、泣きながら何やら叫ぶ八太郎を抱きしめる母・三井子。
「父上!今は触れぬ方が…」
「…言わずともわかる。そっとしておくとしよう。」
娘(八太郎の姉)の肩を軽くポンポンと叩き、父・信保は玄関に引き返した。
――そして江戸。枝吉神陽は、幕府の昌平坂学問所でも頭角を現していた。
神陽の一言で「太平記」ブームが到来した大隈家。
しかし、神陽の“引力”は佐賀には留まらない。
「このたび舎長(しゃちょう)は、肥前佐賀の枝吉君に務めてもらうことになった!」
全国の各藩から“必勝”の天才が送り込まれる、幕府の学問所。
――枝吉神陽は、実にあっさりと“天才”たちのリーダーに就いていた。
「枝吉だ。このたび舎長に任じられた。皆、よろしく頼む!」
神陽の声はよく通る。皆が一斉に注目する。
挨拶が終わった後、学問所内の噂話が続く。
「相変わらず…鐘が鳴るような声じゃけ。」
「枝吉さんと言えば、3万冊の本を暗唱しとるらしいぞ。」
「いや、この前な…富士の山を下駄で登って悠然と帰ってきたべ。」
――ここで神陽の噂話をしているのも、並の人物たちではない。
各藩で指導的な存在となるべき者たちも、引き付けてしまう枝吉神陽。
幕末の“指導者”と言えば、ある人物が神陽を訪ねて、衝撃を受けることになる。それは神陽が佐賀に帰ってからなので、もう少し後の話である。
(続く)
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