2021年08月02日
第16話「攘夷沸騰」⑤(警護者たちの黄昏)
こんばんは。
オリンピックの編成で『青天を衝け』の放送は5週もお休みだとか。幕末の大河ドラマを見ると頭の中が忙しいので、逆に“本編”を進める好機かもしれません。
さて、「桜田門外の変」以降、さらに不穏な空気の強まる江戸の市中。当時は“開国”の影響で、日本に入った外国人を襲撃する事件も起きていました。
尊王攘夷派の過激な行動の“後始末”に追われる幕府。政治体制の弱体化につながっていきます。
次第に殺伐とした幕末の姿が現れますが、佐賀藩は“独自路線”を歩むことに。その理由の1つは、あまり芳しくない事情でした。
――江戸。佐賀藩邸。
「お召しにより、ただいま江戸に参上いたしました。」
藩政のエリート・中野数馬が佐賀から30余人の剣士たちを率いて姿を見せる。
…なお、先行して江戸に出た中野方蔵とは別人物だ。大木・江藤の親友である中野の方は、ごく一般的な佐賀藩士。
剣士の一団を率いる中野は、藩の重役を補佐する名家の者と説明しておく。
一行は、まさに昼夜を問わず駆け続けてきた様子だが、さすがに剣を得手とする者たち。旅の埃(ほこり)で身ぎれいとは程遠いが、息も乱れず、士気も高い。

――殿の護衛のために、集められた精鋭たち。
「これは中野どの。何とも頼もしいことだ。」
幼少期から殿・鍋島直正の傍にいる、側近・古川与一(松根)が出迎える。
「殿は何処(いずこ)に居られますか。」
中野数馬は、遡っては「戦国の世で佐賀藩祖・鍋島直茂公に仕え、西の要衝・伊万里の抑えを任された」という中野清明を先祖に持つエリートだ。
…由緒正しいうえに有能なので、当然のように出世している。
――古川は「まずは殿に、ご挨拶を」という、中野の気持ちを察する。
「中野どの…、これへ。」
公家との交際にも適する文化人・古川は、所作に品位があるのだ。
「はっ…。」
江戸まで駆けてきたので、土埃にまみれているが、名門の出自を持つ中野数馬にも品格がある。
「実のところ、殿はお加減がよろしくない…」
古川が告げたのは、殿・鍋島直正の不調についてである。
――小声で会話する、側近・古川とエリート・中野。
「では、ご挨拶の儀は差し控え、ただちに警固に入りまする。」
いま、為すべきことを察した中野数馬。そのまま藩邸の警備の任にあたる。
30人を数える剣士の一団に対して、中野は声を張った。
「皆、長旅ご苦労である。」
「はっ!」

――剣士たちの幾人かの声が揃う。
ただちに気持ちを転じて“警備隊長”として指揮に入る中野数馬。
「我々は手筈(てはず)通り、殿をお守りする!決して手抜かりをいたすな。」
「はっ!」
さらに大勢の声が揃った。こうして、佐賀藩の屋敷では、腕利きの剣士による厳重な警備が敷かれることになった。
――夕刻。廊下を通りががったのは、佐野常民(栄寿)。
江戸に到着した時は、予想より穏やかな屋敷内だったが、急に物々しくなった。
「俄(にわ)かに、慌ただしかね…」
さっそく日中の警戒を始める者、夜警に備えてか鍛錬の組太刀を始める者も…
「ヤッ!」「トォーツ!」
…こうして四六時中、藩邸の庭には気合に満ちた声が響くことになった。
「勇ましかね。“さがんもん”は、こうでなくては。」
佐野は常々「佐賀の侍は、頑張らねばならない」と考えている。一言つぶやくと、次の任務に取り掛かるのだった。
(続く)
オリンピックの編成で『青天を衝け』の放送は5週もお休みだとか。幕末の大河ドラマを見ると頭の中が忙しいので、逆に“本編”を進める好機かもしれません。
さて、「桜田門外の変」以降、さらに不穏な空気の強まる江戸の市中。当時は“開国”の影響で、日本に入った外国人を襲撃する事件も起きていました。
尊王攘夷派の過激な行動の“後始末”に追われる幕府。政治体制の弱体化につながっていきます。
次第に殺伐とした幕末の姿が現れますが、佐賀藩は“独自路線”を歩むことに。その理由の1つは、あまり芳しくない事情でした。
――江戸。佐賀藩邸。
「お召しにより、ただいま江戸に参上いたしました。」
藩政のエリート・中野数馬が佐賀から30余人の剣士たちを率いて姿を見せる。
…なお、先行して江戸に出た中野方蔵とは別人物だ。大木・江藤の親友である中野の方は、ごく一般的な佐賀藩士。
剣士の一団を率いる中野は、藩の重役を補佐する名家の者と説明しておく。
一行は、まさに昼夜を問わず駆け続けてきた様子だが、さすがに剣を得手とする者たち。旅の埃(ほこり)で身ぎれいとは程遠いが、息も乱れず、士気も高い。

――殿の護衛のために、集められた精鋭たち。
「これは中野どの。何とも頼もしいことだ。」
幼少期から殿・鍋島直正の傍にいる、側近・古川与一(松根)が出迎える。
「殿は何処(いずこ)に居られますか。」
中野数馬は、遡っては「戦国の世で佐賀藩祖・鍋島直茂公に仕え、西の要衝・伊万里の抑えを任された」という中野清明を先祖に持つエリートだ。
…由緒正しいうえに有能なので、当然のように出世している。
――古川は「まずは殿に、ご挨拶を」という、中野の気持ちを察する。
「中野どの…、これへ。」
公家との交際にも適する文化人・古川は、所作に品位があるのだ。
「はっ…。」
江戸まで駆けてきたので、土埃にまみれているが、名門の出自を持つ中野数馬にも品格がある。
「実のところ、殿はお加減がよろしくない…」
古川が告げたのは、殿・鍋島直正の不調についてである。
――小声で会話する、側近・古川とエリート・中野。
「では、ご挨拶の儀は差し控え、ただちに警固に入りまする。」
いま、為すべきことを察した中野数馬。そのまま藩邸の警備の任にあたる。
30人を数える剣士の一団に対して、中野は声を張った。
「皆、長旅ご苦労である。」
「はっ!」

――剣士たちの幾人かの声が揃う。
ただちに気持ちを転じて“警備隊長”として指揮に入る中野数馬。
「我々は手筈(てはず)通り、殿をお守りする!決して手抜かりをいたすな。」
「はっ!」
さらに大勢の声が揃った。こうして、佐賀藩の屋敷では、腕利きの剣士による厳重な警備が敷かれることになった。
――夕刻。廊下を通りががったのは、佐野常民(栄寿)。
江戸に到着した時は、予想より穏やかな屋敷内だったが、急に物々しくなった。
「俄(にわ)かに、慌ただしかね…」
さっそく日中の警戒を始める者、夜警に備えてか鍛錬の組太刀を始める者も…
「ヤッ!」「トォーツ!」
…こうして四六時中、藩邸の庭には気合に満ちた声が響くことになった。
「勇ましかね。“さがんもん”は、こうでなくては。」
佐野は常々「佐賀の侍は、頑張らねばならない」と考えている。一言つぶやくと、次の任務に取り掛かるのだった。
(続く)