2021年08月20日
第16話「攘夷沸騰」⑨(玉石、相混じる)
こんばんは。
豪雨の影響が気になる中で、佐賀も例外ではない新型コロナの感染拡大。
いろいろと心が折れそうなことも多いですが、“本編”を再開します。先は見えずとも、一途に、頑固に続ける…これも「“佐賀の者”の誇り」なのかもしれません。
さて、殿様は佐賀に戻りましたが、江戸では“勤王”を志す佐賀藩士・中野方蔵が活動します。大木喬任・江藤新平の親友で、頭の回転の速い“優等生”です。
――ある江戸の“私塾”の庭先。
そこに佐賀藩士の姿があった。江戸にいた中野方蔵が、儒学者で尊王思想家・大橋訥庵(とつあん)の塾を訪れたのだ。
庭先では、若者たちの威勢の良い声が響く。
「“水戸烈公”を崇めよ!“尊王”の御心は、我らが果たす!」
「そうじゃ、英明なる一橋さまを押し立て、我らは“攘夷”に突き進むのじゃ!」

――もはや“神格化”されている水戸藩の徳川斉昭。
その水戸烈公の子・一橋慶喜への熱すぎる期待の声も高まる。集う若者たちは血気盛んである。
「…己の頭にて、考えておらぬ者も、かなり居そうだな。」
辺りの様子を伺う中野は、佐賀の親友たちと彼らを対比する。
大木にせよ、江藤にせよ…自分の頭で考える。時に持論を曲げないほどに。
「佐賀の者は、頑固だからな…」
人から聞いた言葉に素直に流される若者たち。とても“純粋”なのかもしれぬ。頑固な友達2人を思い、中野は少し可笑しく感じた。
――しばし月日は流れ、江戸の佐賀藩邸にて。
「副島先生!お越しになったのですか。」
中野方蔵は大木・江藤だけでなく“義祭同盟”の先輩・副島種臣とも親しい。
「中野くんも息災である様子。どうだね、お望みだった江戸は。」
「まず、人の多かところにございますね。」
しかし、その言葉を述べた中野は、すっかり江戸に馴染んでいる風だ。
――地方から都会に出て来た若者…の姿ではない。
まず佐賀藩で重要な地位に就き、全国に広げた人脈で「朝廷に皆が集う日本」へと変えていく…中野にとって、江戸での動きはその一歩に過ぎない。
江戸詰めの藩士たちに学問を教えるため、佐賀から出てきた副島種臣。実兄・枝吉神陽と一緒だと弟・次郎に戻ってしまうが、堂々たる学者の風格がある。
京都で公家から佐賀藩への出兵工作に関わって謹慎となったが、何とか許されて江戸まで来た。
〔参照(前半):第15話「江戸動乱」⑪(親心に似たるもの)〕

――佐賀の「義祭同盟」には、“秘密結社”の側面もある。
「中野くん、江戸市中の“私塾”はどのような具合か。」
「尊王の機運、大いに盛り上がっております。有為の者を見つけて、つなぎを取っていくのが良策かと。」
「私は先だっての一件もあって、あまり目立った動きは出来ぬ。」
「副島先生、そこはお任せください。」
今まで、親友たちが呆れるほどの行動力と積極性を見せてきた、中野方蔵。1年ばかりも時間があれば、充分に人脈は作っている。
――交流のある、儒学者・大橋訥庵の私塾の様子も語った。
そこに集まる者には思想も深めずに“尊王”を唱え、異国を考えずに“攘夷”を叫ぶ。そんな志士も数多くいる。
…ただ、その熱量は侮れない。“破壊”には、思慮深さは要らないのだ。
「志と知を兼ね備える者も、“時折は”居りますゆえ。」
中野方蔵は先輩・副島とも親しい。いつも友達に見せるような表情を浮かべる。
――江藤新平を副島に紹介したのも、中野だった。
こうやって人と人をつないでいく。しかも要領の良い、中野のことだ。何か算段があるような、少し含みのある笑顔だ。
〔参照(前半):第7話「尊王義祭」③〕
「“玉石、相混じる”…といったところか。」
副島は、軽挙に走りそうな“志士たち”の存在を少し憂慮した。その時、中野に“警句”を発しなかったことは、後に悔いとなっていく。
(続く)
豪雨の影響が気になる中で、佐賀も例外ではない新型コロナの感染拡大。
いろいろと心が折れそうなことも多いですが、“本編”を再開します。先は見えずとも、一途に、頑固に続ける…これも「“佐賀の者”の誇り」なのかもしれません。
さて、殿様は佐賀に戻りましたが、江戸では“勤王”を志す佐賀藩士・中野方蔵が活動します。大木喬任・江藤新平の親友で、頭の回転の速い“優等生”です。
――ある江戸の“私塾”の庭先。
そこに佐賀藩士の姿があった。江戸にいた中野方蔵が、儒学者で尊王思想家・大橋訥庵(とつあん)の塾を訪れたのだ。
庭先では、若者たちの威勢の良い声が響く。
「“水戸烈公”を崇めよ!“尊王”の御心は、我らが果たす!」
「そうじゃ、英明なる一橋さまを押し立て、我らは“攘夷”に突き進むのじゃ!」
――もはや“神格化”されている水戸藩の徳川斉昭。
その水戸烈公の子・一橋慶喜への熱すぎる期待の声も高まる。集う若者たちは血気盛んである。
「…己の頭にて、考えておらぬ者も、かなり居そうだな。」
辺りの様子を伺う中野は、佐賀の親友たちと彼らを対比する。
大木にせよ、江藤にせよ…自分の頭で考える。時に持論を曲げないほどに。
「佐賀の者は、頑固だからな…」
人から聞いた言葉に素直に流される若者たち。とても“純粋”なのかもしれぬ。頑固な友達2人を思い、中野は少し可笑しく感じた。
――しばし月日は流れ、江戸の佐賀藩邸にて。
「副島先生!お越しになったのですか。」
中野方蔵は大木・江藤だけでなく“義祭同盟”の先輩・副島種臣とも親しい。
「中野くんも息災である様子。どうだね、お望みだった江戸は。」
「まず、人の多かところにございますね。」
しかし、その言葉を述べた中野は、すっかり江戸に馴染んでいる風だ。
――地方から都会に出て来た若者…の姿ではない。
まず佐賀藩で重要な地位に就き、全国に広げた人脈で「朝廷に皆が集う日本」へと変えていく…中野にとって、江戸での動きはその一歩に過ぎない。
江戸詰めの藩士たちに学問を教えるため、佐賀から出てきた副島種臣。実兄・枝吉神陽と一緒だと弟・次郎に戻ってしまうが、堂々たる学者の風格がある。
京都で公家から佐賀藩への出兵工作に関わって謹慎となったが、何とか許されて江戸まで来た。
〔参照(前半):
――佐賀の「義祭同盟」には、“秘密結社”の側面もある。
「中野くん、江戸市中の“私塾”はどのような具合か。」
「尊王の機運、大いに盛り上がっております。有為の者を見つけて、つなぎを取っていくのが良策かと。」
「私は先だっての一件もあって、あまり目立った動きは出来ぬ。」
「副島先生、そこはお任せください。」
今まで、親友たちが呆れるほどの行動力と積極性を見せてきた、中野方蔵。1年ばかりも時間があれば、充分に人脈は作っている。
――交流のある、儒学者・大橋訥庵の私塾の様子も語った。
そこに集まる者には思想も深めずに“尊王”を唱え、異国を考えずに“攘夷”を叫ぶ。そんな志士も数多くいる。
…ただ、その熱量は侮れない。“破壊”には、思慮深さは要らないのだ。
「志と知を兼ね備える者も、“時折は”居りますゆえ。」
中野方蔵は先輩・副島とも親しい。いつも友達に見せるような表情を浮かべる。
――江藤新平を副島に紹介したのも、中野だった。
こうやって人と人をつないでいく。しかも要領の良い、中野のことだ。何か算段があるような、少し含みのある笑顔だ。
〔参照(前半):
「“玉石、相混じる”…といったところか。」
副島は、軽挙に走りそうな“志士たち”の存在を少し憂慮した。その時、中野に“警句”を発しなかったことは、後に悔いとなっていく。
(続く)
Posted by SR at 22:40 | Comments(0) | 第16話「攘夷沸騰」
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