2020年02月04日

第2話「算盤大名」⑤-2

こんばんは。
第2話「算盤大名」、最終盤です。


――1835年。鍋島直正の藩主就任から6年ほどが経過。

この年、佐賀城にて火災が発生する。

直正にはおらず、脊振山まで参拝に出かけていた。
近辺に宿をとっていたのだが、未明に早馬が駆け、火災の発生の報を受けた。

の勢いは凄まじく、一木一草を残さず焼き尽くす勢い。
深夜の消火活動は全く追いつかず、建物は次々とに包まれて行った。


――朝、佐賀城に駆け戻る。焼け跡を見て、茫然とする直正

佐賀藩政の中心である二の丸から、建物が消滅している。

百年前の火災で既に本丸・天守は無い。再建できていなかったのである。もはや使えるのは三の丸のみ。直正は困惑した。


――その時、古賀穀堂が現われた。

学問の師はよく通る声で、直正に言葉をかける。
これで道が開けましたな。」

穀堂!何を申すか。」
さすがの直正穀堂を怒鳴りつけた。

若殿の叱責に穀堂は答えない。
それどころか、不敵な笑みを浮かべている。

「…そうか、そういう意味か!」
直正穀堂の真意を察した。

火災は困りますが、これで殿の出番でござる。」
若殿が答えを見つけたと見るや、穀堂が口を開く。

「危急のときに、“学ばない者”は役に立ちませぬぞ。」
やはり穀堂は不敵な笑みを崩さない。

穀堂!お主の期待に応えるぞ。重臣総入れ替えじゃ!」
早速、直正は父・斉直に通告した。

第2話「算盤大名」⑤-2

――但し、通告の要旨はこうである。

「心苦しいのですが、非常時です。今後は全ての判断現場で行います。」

城の再建には費用の支弁、幕府への調整等、とにかく手間がかかる。

今の斉直の取り巻きたちは、周囲には威張るが、やる気も実行力もない。無理にでも面倒な仕事に出向こうとする者は誰もいなかった。


――そして緊急対応を名目に、佐賀藩の人事は刷新された。

藩のナンバー2である“請役”には、直正より1歳年上の兄・鍋島安房が抜擢される。

また、城の再建は、武雄領主・鍋島茂義が受け持つことになった。

前藩主・斉直を取り巻く“学ばない側近”や“考えない重臣”は権力を失っていく。

こうして、穀堂の思惑どおり、佐賀藩は「日本一勉強を尊ぶ藩」へと進んでいくのである。

――直正の胸には、正室・盛姫の言葉が浮かんでいた。

直正が藩主となり、江戸を出るときに「もしも公儀(幕府)の力が必要なときは知らせてほしい」と言った盛姫
将軍家であることを利用すれば良い…との意図だった。

よ。“もしも”の時が来てしもうたわ。頼りにするぞ。」
直正は、少し気が抜けた声で独り言をつぶやいた。

――パチパチ、パチパチパチ!佐賀城の一角で、算盤(そろばん)の珠の音が響いていた。

(次回:第3回「西洋砲術」に続く)




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Posted by SR at 22:23 | Comments(0) | 第2話「算盤大名」
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